【特集/精神障害労災認定基準の改正】カスハラ・感染症等を追加専門家意見の効率化等も~心理的負荷評価表の見直し中心の改正
検討会から認定基準改正
2021年12月7日から検討を進めてきた精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会は14回開催した後、2023年7月4日に報告書を公表。これを受けて厚生労働省は7月12日に「心理的負荷による精神障害の認定基準案(概要)」を示して8月10日までパブリックコメントを募集(結果公表は9月1日)、9月1日に心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正した。
具体的には、同日付けで基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準」(新認定基準)及び基補発0901第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準に係る運用上の留意点について」(新留意点通達)を発出した。両通達とも厚生労働省ウエブサイトの「精神障害の労災補償について」に掲載されおり、改正に関するポイントを解説したリーフレットも追加されている。
全国安全センターはメンタルヘルス・ハラスメント対策局として、2022年4月28日、9月15日、10月11日、2023年1月30日、5月17日及び6月13日に意見書を提出し、いずれも検討会において配布され、パブリックコメント手続に対しては主だった地域センターから意見を提出している。
今回は、新認定基準によって改正された内容を確認しておきたい。新留意点通達が、主な改正点について指摘しており(以下で括弧書きで示す)、また、別紙1として「業務による具体的出来事の統合等」を対照表(28頁)として示しているので、合わせて参照していただきたい。
認定基準本文の改正内容
■対象疾病・認定要件は実質的に変更なし
「第1 対象疾病」については、「報告書において、現時点では旧認定基準の内容を維持することが妥当と判断されており、実質的な変更はない」。なお、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類については、第11回改訂版が発効されているが、その日本語訳はまだ確立していないことから、その確立を待って別途検討することが妥当とされている」ものの、新認定基準では言及されていない。
「第2 認定要件」及び「第3 認定要件の基本的な考え方」についても、「報告書において、旧認定基準の内容が現時点でも妥当と判断されており、実質的な変更はない」。
■認定要件の具体的判断も大きな変更はなし
「第4 認定要件の具体的判断」の「1 発病の有無等」については、「実質的な変更はない」とされるものの、タイトルが「発病の有無等の判断」から変更、「(1)発病の有無等(=対象疾病の発病の有無及び発病時期)」と「(2)発病時期」に分けて記述されるようになり、「治療歴がない自殺事案」についての言及が増えた。「特に強い心理的負荷となる出来事を体験した場合」への言及は、「第4」の「出来事の評価の留意事項」の③に記述されていた内容である。新留意点通達には、「請求に係る診療の以前から精神障害による通院がなされている事案」の「鑑別」への言及が追加された。
「第4 認定要件の具体的判断」の「2 業務による心理的負荷の強度の判断」については、「考え方については、実質的な変更はない」とされるものの、見出し建てや構成、記述自体に変更はある。
「評価の基準となる同種の労働者に係る事項は、旧認定基準第3で示されていたものと同旨」であるが、「例えば、新規に採用され、従事する業務に何ら経験を有していなかった労働者が精神障害を発病した場合には、ここでいう『同種の労働者』としては、当該労働者と同様に、業務経験のない新規採用者を想定すること」は、新留意事項通達で新たに示されたものである。
「業務による心理的負荷評価表」の改正は今回の改正最大の眼目であるが、内容については後述する。
「特別な出来事」に該当する出来事がない場合の「出来事の心理的負荷の総合評価」について、旧認定基準では、「類型①[の出来事]」、「類型①以外の出来事」のほかに、「いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるもの」を区別していたが、新認定基準では削除されるとともに、「総合評価の留意事項」が新たに追加されて、「出来事それ自体と…出来事後の状況を十分に検討し、例示されているもの以外であっても…総合的に考慮して、当該出来事の心理的負荷の程度を判断する」、「職場の支援・協力が欠如した状態であることや、仕事の裁量性が欠如した状況であることは、総合評価を強める要素となる」と明記されたことは、抽象的ではあるものの、改善であり、運用が注目される。
また、旧認定基準の「出来事の評価の留意事項」はなくなる(他の場所での記述に移行された)一方で、「ハラスメント等に関する心理的負荷の評価」及び「長時間労働等の心理的負荷の評価」(旧認定基準の「時間外労働時間数の評価」から変更)のもとに「連続勤務」が追加されている。
「複数の出来事の評価」の「枠組みについては、実質的な変更はない。評価に当たっての考慮要素等がより明確化されており」とされているが、具体的には、イの(ア)の最後の段落及びイの(イ)の最初の3段落が新たな記述である。新たな記述は、運用の改善につながる可能性がある。
「評価期間の留意事項」という項目も建てられたが、ア・イともに、旧認定基準の「出来事の評価の留意事項」の記述されていた内容(②・①)である。
「第4 認定要件の具体的判断」の「3 業務以外の心理的負荷及び個体側要因による発病ではないことの判断」については、タイトルが「業務以外の心理的負荷及び個体側要因の判断」から変更されているが、「実質的な変更はない」。「個体側要因について、個体側要因により発病したことが明らかな場合を一律に例示することは困難であることから、当該例示は削除され、あわせて、調査の効率化等の観点から、調査対象となる事項等が明示された」。
「業務以外の心理的負荷評価表」(新認定基準別表2=24頁)に変更はない。
■精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲の拡大
「第5 精神障害の悪化と症状安定後の新たな発病」については、タイトルが「精神障害の悪化の業務起因性」から変更され、その「(1) 精神障害の悪化とその業務起因性」では、「旧認定基準の内容を変更し、特別な出来事に該当する出来事がなくとも、悪化の前に業務による強い心理的負荷が認められる事案について、十分な検討の上で、業務起因性を認める場合があることが示された」。具体的には、旧認定基準が、悪化の前おおむね6か月以内に「特別な出来事」に該当する出来事がなければ業務起因性を認めないとしていたものを、「特別な出来事」がなくとも「業務による強い心理的負荷」により悪化した部分についても業務起因性を認めるものとしたものである。
■症状安定後の新たな発病について指示
「第5 精神障害の悪化と症状安定後の新たな発病」の「(2) 症状安定後の新たな発病」では、「通院・服薬を継続している者であっても、精神障害の発病後の悪化としてではなく、症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな発病として判断すべきものがあることが明示された」。新留意点通達は、「既存の精神障害が悪化したのか…『症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな発病』に当たるのか等については、個別事案ごとに医学専門家による判断が必要であること。当該『一定期間』についても、個々の事案に応じて判断する必要があるが、例えばうつ病については、おおむね6か月程度症状が安定して通常の勤務ができていた場合には、このような症状安定後の発病として、認定基準第2の認定要件に照らして判断できる場合が多いものと考えられること」としている。「新たな発病」とされたうえで、業務起因性が否定される場合もありうるわけであるが、この運用も注目される。
■医学意見の収集方法の効率化
「第6 専門家意見と認定要件の判断」については、「より効率的な審査を行う観点から、旧認定基準の内容を変更し、専門部会意見を求める事案について一律に定めず個別に高度な医学的検討が必要と判断した事案とされ、また、専門医意見を求める事案についても旧認定基準から一部限定がなされた」。主治医意見のみにより「認定要件を満たす者と判断する」場合の記述に変更はない。専門医に意見を求める事案は、①対象疾病の治療歴のない自殺事案、②業務による心理的負荷に係る認定事実の評価について『強』に該当することが明らかでない事案、③署長が主治医意見に補足が必要と判断した事案、に限定された。また、地方労災医員協議会精神障害専門部会に協議して合議による意見を求めるのは、「専門医又は署長が高度な医学的検討が必要と判断した事案」に限定された。専門部会=専門医3名の合議ではなく、専門医1名の意見で決定できる範囲がひろがったわけである。新留意事項通達で、②は、「当該事実の評価が『強』に該当しない(『中』又は『弱』である)事案及び当該事実の評価が『強』に該当するか判断し難い事案をいうものであること」とされている。新留意点通達別紙4として「専門家の意見の聴取・判断の流れ」も示されている(32頁)。運用が注目される点である。
■医学意見の収集方法の効率化
「第7 療養及び治ゆ」については、「考え方については、実質的な変更はないが、治ゆ(症状固定)の状態にある場合等がより明確化された」とされている。しかし、検討会でいろいろ議論のあったところでもあり、監視が必要である。旧認定基準の「『寛解』との診断がなされている場合には、投薬等を継続している場合であっても、通常は治ゆ(症状固定)の状態にあると考えられる」という記述が、新認定基準では「『寛解』との診断がない場合も含め、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、治ゆ(症状固定)の状態にあると考えられるが、その判断は、医学意見を踏まえ慎重かつ適切に行う必要がある」という記述に変更されていることなど、運用に監視が必要である。
■その他・複数業務要因災害は変更なし
「第8 その他」及び「第9 複数業務要因災害」については、「いずれも実質的な変更はない」。
「なお、認定基準第8の3の調査等の留意事項として示されている事項は、旧認定基準第4の2(5)において出来事の評価の留意事項④として示されていたものと同旨である」。「また、認定基準第8の4の本省協議に関し、認定基準第4の2(2)イを踏まえてもなお認定基準別表1に示された『具体的出来事』のいずれにも当てはめることができない出来事の評価については、『本認定基準により判断し難い事案』として協議対象となること」とされている。
また、新留意点通達に、「複数の出来事があり業務による業務による心理的負荷が強いと評価される例(別紙3=31頁)」が示されているので、参照していただきたい。
なお、新留意点通達には、「調査中の事案等の取扱い」、「認定基準の周知等」も示されている。
心理的負荷評価表の改正内容
「業務による心理的負荷評価表」(新認定基準別表1=16~24頁))については、「具体的出来事の統合、追加、表記の修正、平均的な心理的負荷の強度の修正が行われ、あわせて、総合評価の視点及び強度ごとの具体例の拡充等が行われた」とされている。また、新留意点通達に、「業務による具体的出来事の統合等」(別紙1=28頁)、「業務による心理的負荷評価表に基づく心理的負荷の強度の判断に当たっての留意事項(別紙2=27頁)」が示されているので、詳しくは参照していただきたい。
■特別な出来事
「旧認定基準における特別な出来事と同旨であり、特別な出来事に該当しない場合にはそれぞれの関連項目により評価する。なお、極度の長時間労働について、旧認定基準において記載されていた『休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く』との記載が削除されているが、長時間労働等の心理的負荷の評価に共通する事項として認定基準第4の2(2)オに同旨が記載されており、趣旨を変更するものではない」。
■2項目の具体的出来事の追加
具体的出来事として、新たに追加されたのは以下の2項目である。以下、丸数字は「出来事の類型」(①~⑦=内容に変更はない)、ローマ数字は「平均的な心理的負荷の強度」(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)を示す。
新14 感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した(③/Ⅱ)
留意事項:社会情勢の変化等を踏まえ、業務による心理的負荷として感じられる出来事として新設された。新興感染症の感染拡大等に伴い、危険性の高い業務に新たに従事したことの心理的負荷を評価する項目である。
新27 顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた(⑥/Ⅱ)
留意事項:社会情勢の変化等を踏まえ、業務による心理的負荷として感じられる出来事として新設された。顧客や取引先、施設利用者等から、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等の著しい迷惑行為を受けたことの心理的負荷を評価する項目である。
■19項目の具体的出来事を9項目に統合
以下のように、旧評価表の19項目の具体的出来事が新評価表では9項目に統合された。
旧8 達成困難なノルマが課された(①/Ⅱ)
旧9 ノルマが達成できなかった(①/Ⅱ)
→新7 達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった(①/Ⅱ)
留意事項:ノルマが課された時点が評価期間前であり、評価期間中に達成できなかったことが確定していない場合であっても、評価期間において当該ノルマの達成のための対応を行っていた場合にはその心理的負荷を評価することを明らかにする趣旨で、表記が修正された。
旧11 顧客や取引先から無理な注文を受けた(①/Ⅱ)
旧12 顧客や取引先からクレームを受けた(①/Ⅱ)
→新9 顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた(①/Ⅱ)
留意事項:本項目の「対応が困難な注文や要求等」とは、大幅な値下げ、納期の繰り上げ等の注文や、納品物の不適合の指摘等をいう。対人関係における「著しい迷惑行為」に該当する場合には、項目27[顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた]で評価する。
旧14 上司が不在になることにより、その代行を任された(②/Ⅰ)
旧13 大きな説明会や公式の場での発表を強いられた(②/Ⅰ)(新10・新11に統合)
→新10 上司や担当者の不在等により、担当外の業務を行った・責任を負った(②/Ⅰ)
留意事項:表記がより一般化され、発表や上司の代行以外にも担当外の業務・責任を担うことになったことの心理的負荷を評価する項目とされた。なお、旧項目13「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」について、それが当該労働者の本来の業務範囲内における業務内容の変化である場合には、項目11[仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった]で評価する。
旧15 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(②/Ⅱ)
旧6 自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた(①/Ⅱ)(新4も参照)
旧13 大きな説明会や公式の場での発表を強いられた(②/Ⅰ)(新10・新11に統合)
旧26 部下が減った(④/Ⅰ)
→新11 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった(②/Ⅱ)
留意事項:旧項目15と同旨であるが、旧項目6、旧項目13及び旧項目26についても、これらの出来事による仕事内容・仕事量の変化については本項目として評価することが適切であるとして統合された。また、心理的負荷の総合評価の視点において、勤務間インターバルの状況等についても考慮要素となることが明確化されており、これは、項目12[1か月に80時間以上の時間外労働を行った]、項目13[2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った]及び項目15[勤務形態、作業速度、作業環境等の変化や不規則な勤務があった]においても同様である。
旧18 勤務形態に変化があった(③/Ⅰ)
旧19 仕事のペース、活動の変化があった(③/Ⅰ)
→新15 勤務形態、作業速度、作業環境等の変化や不規則な勤務があった(③/Ⅰ)
留意事項:作業環境等の変化や不規則な勤務も評価する項目とされた。なお、旧認定基準における「出来事後の状況の評価に共通の視点」において示されていた「職場環境の悪化。具体的には、騒音、照明、温度(暑熱・寒冷)、湿度(多湿)、換気、臭気の悪化等。」がある場合には、本項目で評価する。
旧20 退職を強要された(④/Ⅲ)
旧27 早期退職制度の対象となった(④/Ⅰ)
→新16 退職を強要された(④/Ⅲ)
留意事項:旧項目20と同旨であるが、旧項目27についても、退職に関わるものであり、本項目として評価することが適切であるとして統合された。
旧21 配置転換があった(④/Ⅱ)
旧22 転勤をした(④/Ⅱ)
→新17 転勤・配置転換等があった(④/Ⅱ)
留意事項:出向についても、本項目で評価する。
旧24 非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた(④/Ⅱ)
旧36 同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された(④/Ⅰ)(新19・新28に統合)
→新19 雇用形態や国籍、性別等を理由に、不利益な処遇等を受けた(④/Ⅱ)
留意事項:旧項目24と同旨であるが、処遇等の理由となった事由をより具体的に記載するとともに、「差別、不利益取扱い」とまではいえない処遇を受けた場合についても本項目で評価する趣旨で表記が修正された。なお、旧項目36について、一般的には項目28[下記]で評価するが、国籍等を理由とした不利益な処遇等に該当する場合には、本項目で評価する。また、性的指向・性自認に関する事案を含むことが明確化されており、これは、項目22[上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた]及び項目23[同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受け]においても同様である。
旧34 理解してくれていた人の異動があった(④/Ⅰ)
旧35 上司が替わった(④/Ⅰ)
旧36 同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された(④/Ⅰ)(新19・新28に統合)
→新28 上司が替わる等、職場の人間関係に変化があった(④/Ⅰ)
留意事項:上司が替わった、同僚等に昇進で先を越された等に伴い、上司・同僚等との関係に問題が生じたときには、項目22~25で評価する。
■9項目の具体的出来事の表記の修正等
以下のように、9項目の具体的出来事について、表記の修正、平均的な心理的負荷の強度の修正等が行われた。
旧1 (重度の)病気やケガをした(①/Ⅲ)
→新1 業務により重度の病気やケガをした(①/Ⅲ)
留意事項:旧項目1と同旨である。入院期間の短期化等の社会情勢の変化等を踏まえ「強」の具体例が一部修正されており、入院期間が2か月に満たない場合でも、医学意見により長期間の入院と判断する場合もあることが示されたものである。また、旧項目1は、「重度の」病気等を前提に平均的な心理的負荷を「Ⅲ」としつつ、重度とはいえない病気やケガの場合にも本項目に当てはめる趣旨で括弧書きがなされていたが、他の具体的出来事の表記との整合性、分かりやすさ等の観点から、括弧が削除された。このことは、項目11[仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった]及び項目23[同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた]についても同様である。
旧2 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした(①/Ⅱ)
→新2 業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした(①/Ⅱ)
留意事項:特に示されていない。
旧4 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした(②/Ⅲ)
→新4 多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした(②/Ⅱ)
留意事項:旧項目4については、令和2年度ストレス評価に関する調査研究の結果や、決定事例において重大なミスの事案よりもこれに至らないミスの事案が多かったこと等を踏まえ、会社の経営に影響するなどの重大なミスに至らないものが具体的出来事として示されるとともに、平均的な心理的負荷の強度が「Ⅱ」に変更された。なお、「強」の具体例は、旧認定基準に準じたものが示されており、旧認定基準において「強」と判断される事実関係があれば、認定基準においても、「強」と判断されるものである。また、旧項目6「自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた」[新項目11に統合]に関し、本人のミスによる損失等について本項目で評価することに変更はなく、その旨も表記の修正により明確にされた。
旧7 業務に関連し、違法行為を強要された(②/Ⅱ)
→新6 業務に関連し、違法な行為や不適切な行為等を強要された(②/Ⅱ)
留意事項:旧項目7と同旨であるが、違法行為に至らない不適切な行為等を強要された場合にも本項目で評価することが明確にされた。
旧10 新規事業の担当になった、会社の建て直しの担当になった(②/Ⅱ)
→新8 新規事業や、大型プロジェクト(情報システム構築等を含む)などの担当になった
留意事項:旧項目10と同旨であるが、社会情勢の変化等を踏まえて表記が修正された。
旧17 2週間以上にわたって連続勤務を行った(③/Ⅱ)
→新13 2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った(③/Ⅱ)
留意事項:旧項目17と同旨であり、業務量が多いこと等から本来取得できるはずの休日が取得できず、連続勤務を行ったことの心理的負荷を評価するものである。なお、「中」及び「強」の具体例について、「手待ち時間が多い等の労働密度が特に低い場合を除く」との記載が削除されているが、認定基準第4の2(2)オ(エ)に同旨が記載されており、趣旨を変更するものではない
旧25 自分の昇格・昇進があった(④/Ⅱ)
→新20 自分の昇格・昇進等の立場・地位の変更があった(④/Ⅱ)
留意事項:旧項目25と同旨であるが、表記がより一般化され、昇格・昇進以外にも立場・地位の変更があったことの心理的負荷を評価する項目とされた。
旧28 非正規社員である自分の契約満了が迫った(④/Ⅰ)
→新21 雇用契約期間の満了が迫った(④/Ⅰ)
留意事項:特に示されていない。
旧30 同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた(⑥/Ⅲ)
→新23 同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた(⑥/Ⅲ)
留意事項:旧項目30と同旨であるが、顧客や取引先、施設利用者等からの暴行等については、項目27[顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた]で評価する。
■9項目の具体的出来事は維持
以下の9項目の具体的出来事については、表記の修正等はない。
旧3→新3 業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした(②/Ⅲ)
旧5→新5 会社で起きた事故、事件について、責任を問われた(②/Ⅱ)
留意事項:上記2項目とも特に示されていない。
旧16→新12 1か月に80時間以上の時間外労働を行った(③/Ⅱ)
留意事項:旧項目16と同旨であり、長時間労働それ自体を「出来事」とみなして評価するものである。項目12では、項目11と異なり、労働時間数がそれ以前と比べて増加している必要はない。また、旧項目16は他の項目で評価されない場合にのみ評価する(本項目で「強」と判断される場合を除く。)こととされていたが、より的確な評価を行うため、評価期間において1か月におおむね80時間以上の時間外労働がみられる場合には、他の項目(項目11の仕事量の変化を除く。)で評価される場合でも、この項目でも評価するよう注が修正された。なお、「強」の具体例について、「その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった」との記載が削除されているが、長時間労働等の心理的負荷の評価に共通する事項として認定基準第4の2(2)オに同旨が記載されており、趣旨を変更するものではない
旧23→新18 複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった(④/Ⅱ)
留意事項:旧項目23と同旨であるが、業務を一人で担当することによる職場の支援の減少等の心理的負荷を評価する項目であることが明確化された。複数名で担当していた業務を一人で担当することにより業務量が増加した場合には、項目11[仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった]でも評価する。
旧29→新22 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた(⑤/Ⅲ)
留意事項:「中」及び「強」の具体例については、指針において職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動の類型として掲げられている、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求及び個の侵害の6類型すべての例に拡充されている。他の記述内容に、実質的な変更はない。
旧31→新24 上司とのトラブルがあった(⑥/Ⅱ)
留意事項:特に示されていない。
旧32→新25 同僚とのトラブルがあった(⑥/Ⅱ)
留意事項:裁判例等を踏まえ「強」の具体例が一部修正されており、大きな対立が頻繁に生じ、その後の業務に大きな支障を来した場合が含まれることが明確化されたものである。項目26「部下とのトラブルがあった」についても同様である。
旧33→新26 部下とのトラブルがあった(⑥/Ⅱ)
留意事項:上記を参照。
旧37→新29 セクシュアルハラスメントを受けた(⑦/Ⅱ)
「セクシュアルハラスメント事案の留意事項」は、認定基準の「第8 その他」の2として記述されているが、「実質的な変更はない」
以上の結果、具体的出来事は、旧評価表の37項目から新評価表では29項目に減少している。
■心理的負荷の総合評価の視点
「具体的出来事ごとの心理的負荷の総合評価の視点について、これを明確化する観点から、当該具体的出来事に特有の視点だけでなく、共通して考慮すべき視点等について改めて整理され、示されたものである」。
■心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例
「旧認定基準においては、平均的な心理的負荷の強度に対応した具体例しか示されていない具体的出来事が多数あったが、認定基準別表1においては、明確化の観点から具体例が拡充され、項目28「[上司が替わる等、職場の人間関係に変化があった]の『中』及び『強』の欄を除き、すべての強度に対応した例が示されたものである」。
■恒常的長時間労働がある場合に「強」となる具体例
「旧認定基準における『恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価』として示されていた事項と同旨であるが、いずれも総合評価を『強』とすることとなるため、『恒常的長時間労働がある場合に「強」となる具体例』として示されたものである」。
予想される改正の影響と今後
以上の改正された点に留意しつつ、新認定基準及び新留意事項通達を確認していただきたい。
現行でも、パワーハラスメントとセクシュアルハラスメントに、「同僚等から、暴行又は(ひどい)嫌がらせを受けた」を合わせて、全労災認定事例の4割を占めるに至っているが、カスタマーハラスメントが追加されてさらに増加することが予想される。
ハラスメント等の深刻さを反映するものでもあるが、他方で、「心理的負荷の強度」ないし「心理社会的ストレス要因」の「客観的評価」を、「突発的事件という意味ではなく、ある変化(緩徐であってもよい)が生じその変化が解決あるいは自己の内部で納得整理されるまでの一連の状態を意味する」(検討会報告書)と言いつつも、「出来事」(ストレスフルイベント)のみに依拠していることも影響しているのではないだろうか。その点の見直しも必要になっているものと考える。