デジタルプラットフォーム労働:労働安全衛生政策とリスク予防・管理のための慣行-2021年10月13日 欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)ポリシーブリーフ

デジタル経済の台頭にともない、デジタル労働プラットフォームが欧州の経済と労働市場の主要なプレイヤーになりつつある。デジタル労働プラットフォームは、顧客とプラットフォーム労働者をつなぐことで、柔軟な働き方で収入を得るとともに、労働市場参入の障壁を低くする、新しい機会を生み出している。デジタルプラットフォーム労働は、プラットフォーム労働者がいつ、どこで、どれだけの時間働き、どのような仕事を引き受けるか選ぶことができるようにして、柔軟性と自律性を約束する。しかし、以下に述べるように、科学者と政策関係者の双方から、労働安全衛生(OSH)分野の条件を含め、デジタルプラットフォーム労働の労働・雇用条件についての懸念が提起されている。COVID-19危機は、プラットフォーム労働におけるOSHリスクを前面に押し出しただけでなく、とくにプロットフォーム労働者のいくつかのグループ、すなわちCOVID-19にさらされるリスクがもっとも高い者、及び/または、収入の減少に直面している者にとって、それらを悪化させるものでもあった。同時に、プラットフォーム労働の主な特徴が、OSHリスクの予防と管理システムの実施を複雑にしている。

プラットフォーム労働の急速な発展を受けて、EUレベル及び加盟諸国の政策立案者は、欧州社会権の柱に規定された原則に沿って、これらの課題のいくつかに対処するためのイニシアティブと行動をとってきた。欧州委員会は、プラットフォーム労働における労働条件の改善をめざすイニシアティブを開始した。このイニシアティブに関する欧州の社会パートナーの第1段階の協議は2021年2月に開始され、第2段階の協議は2021年6月に開始された。このイニシアティブは、雇用形態分類や労働・社会保障権へのアクセスを容易にするための選択肢、プラットフォーム労働者への情報提供を改善する方法、プラットフォームによるプラットフォーム労働者との協議及びとくにアルゴリズムによる管理との関連で問題やミスが生じた場合のプラットフォームへの救済の機会(例えば、苦情申し立ての選択肢やプラットフォーム労働者によって不当とみなされるレビューの変更)、国境を超えるプラットフォーム労働の場合に適用されるルールを明確にする方法、団体交渉と社会対話などの諸問題をカバーしている。これらの諸問題に対処することは、たとえ間接的にではあっても、プロットフォーム労働におけるOSHにも影響を与えるだろう。

加盟諸国の立法者と裁判所も、プラットフォーム労働の課題に直面しているが、プラットフォーム労働を現行の規制の枠組みに当てはめるのに苦労していることが多い。このことが無数のアプローチにつながってきた。例えば、いくつかの加盟国が雇用形態分類の問題に取り組んできた(例えば、スペインのライダー法は、デリバリー部門で活躍するプラットフォーム労働者に、従属雇用の推定を提供する)一方で、他の加盟国はその問題を回避してきた(例えば、フランスのエル・コムリ法は、プラットフォームが、サービス提供の条件と価格を決定するケースの自営プラットフォーム労働者を対象にして、それらのプラットフォーム労働者についてのみ、訓練の受講や労働災害のための保険などの資格を得ることができるようにしている)。

いくつかのEU加盟諸国(例えばベルギー、クロアチア、スペイン、イタリア、ルクセンブルグ、ポーランド)では、労働安全衛生を含め、プラットフォーム労働における労働・雇用条件を評価することを目的に、労働監督など、労働、社会保障及びOSH規則の監視及び執行に責任を有する当局が監督を実施している。しかし、プラットフォーム労働が権限の対象に含まれるかどうかの不確実性、プラットフォームとプラットフォーム労働者の確認の難しさ、自然人の自宅内部の監督に関する規制の欠如などの諸要因のために、それらの作業は複雑になっている。

デジタルプラットフォーム労働とは何か?

デジタルプラットフォーム労働の定義

デジタルプラットフォーム労働とは、特定のタスクの遂行や特定の問題の解決を目的として、プラットフォーム労働者と顧客を結びつける、デジタル労働プラットフォームを通じてまたは上で提供され、もしくは仲介される、すべての有償労働のことをいう。タスクには、手仕事や荷物配達などオンロケーションで行われるものから、リモートプログラミングやオンラインコンテンツのレビューなど完全にオンラインで行われるものまで、様々なものがあり得る。デジタルプラットフォーム労働は、タスクの割り当て、監視及び評価-及び/または、プラットフォーム労働者の行動・パフォーマンスの監視及び評価-にアルゴリズムを使用することに依拠しており、これはアルゴリズム管理としても知られている。アルゴリズム管理は、その対象となる労働者の身体的・精神的健康や福利[ウエルビーイング]に重大な影響を及ぼすかもしれない。第1に、アルゴリズム管理は、デジタル技術を用いた労働者の行動・パフォーマンスの持続的監視・評価をともない、それはデジタルサーベイランスのかたちをとる場合もある。また、人間の介入のない、自動化または半自動化された意思決定は、労働者が人間(例えば管理者)ではなく、システムと対話しなければならないことになる。アルゴリズム管理に関連したもうひとつの問題は、アルゴリズムの機能に関する全体的な透明性の欠如に起因する、権力と情報の非対称性に関連したSものである。この点で、プラットフォームは使用するアルゴリズムの内部機能について労働評議会(すなわちスペインにおける職場で労働者を代表する主要なチャンネル)に知らせなければならないと規定した、最近スペインで採択されたライダー法に言及する価値がある。最後に、デジタル労働プラットフォームは、そのアルゴリズムを通じて、レイティングシステム、ナッジング、ゲーミフィケーションやサージプライシングなど、プラットフォーム労働者の行動に影響を与えるメカニズムを実装していることを強調する必要があろう。そのようなメカニズムは、労働者が特定の方法や特定の時間帯に(例えばいつ及びどれだけ長く)仕事を行うことを促進するために用いられている。これは、プラットフォーム労働者のワークライフバランス、全体的な仕事・生活満足感や精神的・身体的健康に影響を及ぼす。

非標準的な労働編成と自営は、デジタルプラットフォーム労働で一般的な慣行である。デジタル労働プラットフォームは、通常、その施設を利用するプラットフォーム労働者が自営であることをその利用規約で規定するか、または、プラットフォームとプラットフォーム労働者の間には標準的な雇用(使用者-労働者)関係が存在しないことを示している。プラットフォーム労働者を自営業として分類することは、欧州で大きく取り上げられたいくつかの裁判例で証明されているように、とりわけプラットフォームがプラットフォーム労働者に対して大きな管理を行使していて、偽装自営が疑われるケースで、問題となる可能性がある。このようなやりかたで、デジタル労働プラットフォームは-安全衛生リスクとその管理を含め-リスク、責任及び義務を、プラットフォーム労働者に転嫁している。加えて、EUレベル及びほとんどの加盟諸国における雇用保護とOSHに関する重要な法令は、労働者のみに適用される。同時に、プラットフォーム労働は、従来からOSH予防と管理責任に挑戦し、それを拡散させてきた。ゼロ時間契約、オンデマンド契約、パートタイム契約、臨時雇い、派遣会社契約や一時契約などの、数多くの非標準的な労働形態の要素と類似している。

様々なデジタルプラットフォーム労働の分類

デジタルプラットフォーム労働の不均一性が増すにつれて、異なるプラットフォーム労働のタイプを区別するのに役立つ、中核的な特徴をとらえるための様々な分類法が文献で提案されている。もっとも基本的な分類法は、オンロケーションとオンラインのデジタルプラットフォーム労働を区別することだが、より高度な分類法では、実行するタスクの複雑さと規模、タスクの内容、マッチングプロセス、タスクを割り当てるアクターやプラットフォームがその労働者に対して行使する管理のレベルなどの側面も考慮される。

プラットフォーム労働者が遭遇するOSHリスクとそれらリスクの予防・管理に影響を与える次元をとらえるために、3つの次元を組み合わせることによって4つのタイプのプラットフォーム労働を与える分類法が提案されている(表1)

第1の次元は、オンラインかオンロケーションかという、労働提供のフォーマットである。どちらの場合もプラットフォーム労働者とクライアントのマッチングはオンラインで行われるが、労働自体は、オンロケーションで行われるか、いかなる場所であっても電子機器を使ってバーチャルに行うことができるかのいずれかである。OSHの観点からは、労働が行われる物理的環境が、OSHリスクとその管理の双方を大きく左右する。例えば、顧客の自宅での手作業に頼ったタスクを行うのと、労働者の自宅で机上のタスクを行うのとでは、異なるOSHリスクがともなう。

第2の次元は、低いか高いかという、タスクを遂行するために必要なスキルのレベルである。これは、タスクの内容、規模及び複雑さをとらえる。それらは、プラットフォーム労働者が直面するあらゆるOSHリスクに影響を及ぼす。また、プラットフォーム労働者はスキルのミスマッチに直面することが多く、彼らの多く(とくに例えばフードデリバリーやイメージタギングなどの、低スキル・オンロケーションのプラットフォーム労働者)は行うタスクに対してスキル過剰で、フラストレーション、モチベーション不足や知覚的低負荷につながるかもしれない。他方で、プラットフォーム労働者が割り当てられたタスクに対してスキル不足で、ストレスにつながる場合もあり得る。これは、プラットフォーム労働者が、仕事を断ると、今後選ばれなくなるのではないかという不安から、割り当てられた仕事を何でも引き受けるようプレッシャーを感じる場合に、生じる可能性がある。さらに、労働者は、安全で健康的なやり方で仕事をするために必要なOSH訓練や知識がないかもしれない。これもOSHリスクの予防・管理に影響を及ぼし、例えばプラットフォーム労働者は、予防の原則を十分知らないかもしれず、また、適切な管理対策を実施し、適切な機器を選択及び安全に使用するための、特定のタスクまたは一定の環境における労働にともなうリスクを適切に評価するのに必要なスキルを欠いているかもしれない。

第3の次元は、プラットフォームが行使する管理のレベルで、最小から高度の管理までの範囲であり得る。この次元は、デジタルプラットフォームがプラットフォーム労働者との関係において、とくに仕事の割り当て、組織化及び評価に関して展開する階層的パワーと管理上の特権を示すものである。管理のレベルは:

・プラットフォーム労働者がしたがうことになる従属関係、雇用形態及びその結果として適用されるOSH規制の決定に使われる主要な法的基準である従属関係の程度を示し、

・デジタル労働プラットフォームのアルゴリズムによる管理に対する依存を示しており、アルゴリズム管理のレベルの高さが、OSHリスク、とくにデジタルプラットフォーム労働者の福利とメンタルヘルスに対する心理社会的リスクのレベルの高さと関連していることが、研究によって示されている。

デジタルプラットフォーム労働のOSH課題は何か、どのように管理できるか?

OSHリスク及びプラットフォーム労働との関連でそれらリスクの予防・管理に関する証拠は多くないものの、文献上ではいくつかの側面についてコンセンサスがある。

・プラットフォーム労働者が遭遇する、プラットフォーム労働として行われるタスクに直接関連する、ほとんどのOSHリスク・課題は、プラットフォーム経済以外で他の労働者が同じタスクを行う場合に遭遇するOSHリスク・課題と同様である。

・プラットフォーム労働は、一般に相対的に危険性が高いと考えられている業種・職種に集中していることに留意すべきである。伝統的な労働と比較して、プラットフォーム労働は余分なタスク及び/または異なるタスクの組み合わせが関係することが多い。結果的にプラットフォーム労働者は、プラットフォーム経済以外で同等のタスクを行う労働者よりも、リスクまたは相対的に重度のリスクに曝露する可能性が高い。

・また、プラットフォーム労働者が直面するOSHリスク・課題は、プラットフォーム労働が行われる特別な条件によって悪化させられ、そのことがプラットフォーム労働者に対する追加的なOSHリスクにつながる。これには、プラットフォーム労働者の雇用形態や契約形態に付随する諸問題、アルゴリズムによる管理やデジタルサーベイランスの使用、職業上の孤立、ワークライフバランスの悪さ、社会的支援の欠如、仕事の一過性や境界のないキャリアが含まれる。

・さらに、これらの条件は、プラットフォーム労働におけるOSHリスク・課題の予防・管理、とりわけプラットフォーム労働者の雇用状態を判断するうえでの難しさと、OSH規制の適用可能性に関するその結果、を複雑にする

これらを総合すると、プラットフォーム労働は、デジタル労働プラットフォームを通じて働く人々の身体的・心理的な安全、健康及び福利に対して重大な意味をもち、それらは対処することがとくに困難である可能性がある。プラットフォーム労働者は、彼らが曝露するリスクの多様性、及び、しばしばそれらのリスクに対処するのが労働者自身の責任であるという事実のゆえに、とりわけリスクにさらされている…

同様な労働活動には同様なOSH課題・リスクがともなう

プラットフォーム労働として行われるタスクが、プラットフォーム経済以外で行われるタスクと非常に似ている場合(例えば荷物配達、清掃)、OSHリスクも類似している。プラットフォーム労働のタイプに応じて、労働者は、異なるタイプのリスクに、異なる程度曝露する(例えば机上労働対肉体労働に関連した人間工学リスク)。しかし、プラットフォーム労働は、運輸部門など、一般に相対的に危険が高いと考えられている業種・職種に集中する傾向がある。実施する活動のなかには特別なスキルや資格を必要とするものもあるものの、運用国の法的枠組みで要求されない場合もあることから、すべてのプラットフォームが、アカウント作成時にプラットフォーム労働者に資格の証拠の提出を要求しているわけではない。最後に、プラットフォーム労働者は、従来の労働市場における同様の職種の労働者とは異なる追加的タスク及び/または異なるタスクの組み合わせを行う必要があり、それが別のスキルを必要とする場合もある。プラットフォーム労働は、余分な労働、つまりプラットフォーム経済以外の同等の労働では必要とされない労働(例えばアカウントの設定と維持、タスクの検索やクライアントとのコミュニケーション)をともなうことが多く、そのことが他のOSHリスクと健康影響につながる可能性がある。例えば、電気技師としての訓練を受け、使用者のためにそのような労働を行った経験のあるプラットフォーム労働者は、プラットフォーム労働者として電気工事を行う資格が完全にあるかもしれないが、顧客を見つけ、顧客との関係を管理し、収益と管理文書を追跡するなどの経験は欠けているかもしれない。これが、仕事の不安定さや収入の不安定さにつながり、ストレス等を引き起こす可能性がある。

プラットフォーム労働における追加的OSHリスク・課題につながり、及び/または、それらリスクの予防・管理を複雑にする要因

雇用形態と契約形態

プラットフォーム労働に関する文献では、プラットフォーム労働者の雇用形態の判定が、取り組むべき主な課題として確認されてきた。プラットフォーム労働では、雇用形態の判定は、労働関係の三角形(すなわちプラットフォーム労働には少なくとも三者-プラットフォーム、プラットフォーム労働者及び顧客-が関与し、それらの間には異なる種類の契約関係が存在し得る)によって複雑になり得る。ほとんどのデジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働者との関係をサービス契約とし、プラットフォーム労働者自身を独立した契約者/自営業者としている。しかし、これは、プラットフォーム労働者が活動する事実上の状況と一致しない可能性がある。とりわけ、低スキル・オンロケーション労働に従事するプラットフォーム労働者は、欧州中で増えている裁判例で証明されているように、誤って自営業者として分類される危険性がある。

OSHの観点からは、EUレベル及び各加盟国における既存の規制枠組みの適用可能性が中心的な課題である。より具体的には、自営業者は、EUのOSH指令やほとんどの加盟国の国内OSH法令の対象になっておらず、一般的に自らの安全衛生に責任を負っている。自営業者は通常、予防サービスの対象にもなっていない。さらに、自営業者は、効果的なOSHマネジメントシステムの主要要素である労働者参加から除外され、労働監督の対象にもなっていない。要約すると、プラットフォーム労働では、OSHリスクの予防・管理がプラットフォーム労働者に押し付けられているということである。

アルゴリズム管理とデジタルサーベイランス

アルゴリズム管理とは、労働タスクの割り当て、監視及び評価並びに/もしくはプラットフォーム労働者のパフォーマンスの監視及び評価にアルゴリズムを使用することをいう。アルゴリズム管理には5つの中核的な特徴があり、そのすべてがプラットフォーム労働者の安全衛生に影響を与える。

1. 例えばプラットフォーム労働者とプラットフォームを接続するデバイス(電話やコンピュータなど)を通じて、スクリーンショットを撮ったり、GPSを使って労働者を追跡したりすることによる、プラットフォーム労働者の行動の継続的監視または追跡

2. 例えば顧客によるレイティング、タスクの完了または拒否数に関する統計、タスク実行速度に関するデータを通じた、プラットフォーム労働者のパフォーマンスの評価

3. 人の介在しない、(半)自動化された意思決定

4. 交渉の余地またはフィードバックを求める機会を与えない、プラットフォーム労働者とシステムの相互作用

5. アルゴリズムの機能に関する透明性の欠如(「仲介のブラックボックス」)

アルゴリズム管理の利用は、プラットフォーム、クライアント及びプラットフォーム労働者の間に存在するパワーバランスを、プラットフォームに有利にする(または顧客に有利にする場合もある)。プラットフォームは、プラットフォーム労働者をランク付けし、パフォーマンスに基づいて報酬やペナルティを発することができる。常にリアルタイムでよいレイティングを維持しなければならず、レイティングが悪かった場合にはその結果に対処しなければならないことは、プラットフォーム労働者にとってきわめてストレスフルであり得る。アルゴリズム管理は、プラットフォーム労働者の自律性、仕事に対する管理や柔軟性を損ない、それが疲労、不安やストレスを引き起こして、プラットフォーム労働者の健康や福利に悪影響を及ぼす。プラットフォームは、例えば荷物を配達する住所や同じタスクを競い合うプラットフォーム労働者の数などの情報を意図的に隠しており、そのことはプラットフォーム労働者がプレッシャーを感じることにつながるかもしれず、また、身体的・精神的な安全衛生リスクをもたらす可能性がある。アルゴリズム管理はまた、プラットフォームの指示のもと、またはプラットフォームに従属するかたちで、プラットフォーム労働者が働く程度に関する疑問も生じさせるが、それは多くのEU加盟国においてある者の雇用形態を判定するために用いられる主な法的基準でもある。最後に、アルゴリズム管理は、仕事量を調節し、最大化するために用いられ、したがって労働者があまりにも多くのタスク(量的過負荷)やスキルの合わないタスク(質的過負荷)を割り当てられて職業的過負荷につながる可能性があり、そのことがストレスや不安を引き起こす(与えられたタスクに必要なスキルレベルのマッチングの重要性に関する前述の議論参照)。他方で、アルゴリズム管理はまた、OSHリスクを管理する機会をもたらすかもしれない。理論的には、例えば労働時間の義務を調整することによるなど、OSH予防措置をその設計に統合することによって、アルゴリズム管理を適応させることは可能である。さらに、執行の観点からは、「スマート」監視ツールは、労働監督の効率性を高めるかもしれない。

職業上の孤立、ワークライフバランスと社会的支援

プラットフォーム労働におけるOSHリスクを悪化させ、OSHリスクの予防・管理を複雑にする要因の第3のセットは、労働の個人化職業上の孤立(身体的・社会的孤立の両方)、ワークライフコンフリクト社会的支援の全体的欠如に関係している。プラットフォーム労働力は匿名で、世界に散在し、高い転職率によって特徴づけられる。また、プラットフォーム労働は、孤立し、慣例にとらわれない作業場所(例えばプラットフォーム労働者または顧客の自宅)で主に行われるが、それはプラットフォーム労働者のニーズに適応していないかもしれない。同僚や管理者からの支援なしに、孤立して働かなければならないことは、ストレスフルであり、仕事の満足度や在職期間に悪影響を与える。同僚または管理者からの支援のある従来型の作業場所で働くことの(ポジティブな)影響は失われる。これに関連して、労働時間と家族の時間の境界はもちろん、仕事及び家庭の環境の境界があいまいになり、ワークライフコンフリクトが悪化するかもしれない。この点に関してよく報告される問題は、プラットフォーム労働が無給の時間、予測不可能で不規則な労働スケジュールなどをともなうことである。また、多くのプラットフォーム労働者が、職業上のアイデンティティを欠き、自らの労働を意味のあるものだと思えていない。これらの問題はすべて、睡眠障害、疲労、仕事からの回復困難、ストレス、抑うつ、バーンアウト、孤独感や労働及び個人生活への全体的不満に関連している。また、これらの要因は、OSHリスクの予防・管理を複雑にしている。例えば、プラットフォーム労働者が他のプラットフォーム労働者と直接関わる機会がわずかしか、またはまったくないという考え方は、労働者の組織化(及び団体交渉)を制限し、またその意味で、OSHマネジメントシステムの開発への効果的な労働者参加を実現する道にも立ちはだかる。プラットフォーム労働者を確認及び連絡することの難しさも、例えば情報キャンペーン、訓練またはOSH専門家によって提供されるOSHサービスへのアクセスを通じたものなど、予防措置の実施も複雑にする。

労働の一過性と境界のないキャリア

最後に、プラットフォーム労働は、境界のないキャリア労働の一過性によって特徴づけられ、それはプラットフォーム労働者が(慢性的な)仕事・収入の不安定さに直面すること意味している可能性がある。より具体的には、プラットフォーム労働は、一時的で短期的な業務の連続であり、単一の使用者との長期的関係を保証するものではない。タスクはプラットフォームか顧客によって割り当てられることがもっとも一般的であることから、ほとんどのプラットフォーム労働者は自らが行うタスクの数に対してわずかしか、またはまったく管理できず、したがってプラットフォーム労働を行ううえでプラットフォーム労働者が知覚する自律性をある程度相殺する。同様に、プラットフォーム労働者は通常、1タスク当たりいくら稼ぐかに対する管理がわずかしかないか、またはまったくない。タスクごとの報酬は、一般的にプラットフォームまたは顧客によって決定され、プラットフォーム労働者が報酬を設定できる場合には、労働者間の激しい競争が非常に低いレートを設定することにつながるかもしれない。結果的に、プラットフォーム労働を通じて稼いだ収入は、予測不可能で不安定な傾向がある。にもかかわらず、研究は、プラットフォーム労働が収入源の唯一の選択肢ではない場合であっても、生計を立てるためにプラットフォーム労働で稼いだ収入に依存するプラットフォーム労働者のグループが増加していることを示している。プラットフォーム労働者間の競争はまた、プラットフォーム労働者がよいレイティングを維持する必要があることを意味し、それは大きな感情的要求に対処することをともなう。プラットフォーム労働はまた、訓練やキャリアアップを通じたスキルアップの機会もわずかしか、またはまったく提供しない。これはストレスフルであり、精神的・身体的健康の悪化につながる可能性がある。

政策立案者・意思決定者のための主なポイント

ポイント① プラットフォーム労働の性質及びそれが行われる条件のために、作業タスクに関連するOSHリスクが、同様の作業タスクを行う者が遭遇するOSHリスクよりも大きい。

プラットフォーム労働として行われるタスクに関連する安全衛生リスクのほとんどは、そのようなタスクが行われる他の形態の労働で確認されるものと同様である。しかし、これらのリスクは、プラットフォーム労働の性質及びそれが行われる条件に独特かつ直接関係した、以下の理由から悪化させられる。

不明確な雇用形態と標準的でない就労形態:これらはプラットフォーム労働で共通しており、EUレベル及び加盟諸国における既存のOSH規制枠組みの適用可能性を複雑にしている。

アルゴリズムによる管理とデジタルサーベイランスの使用:アルゴリズム管理とデジタルサーベイランスは透明性がなく、労働者が不当な扱いを受けていると感じたときに、プラットフォームに対して懸念や苦情を訴える余地をなくしている。アルゴリズム管理の使用は、プラットフォーム労働者の自律性、仕事の管理と柔軟性を損ない、疲労、不安やストレスなどの問題を引き起こし、プラットフォーム労働者の健康・福利に対し概して悪影響を与える。プラットフォームは、利用者から提供され、生成され、アルゴリズムによって処理されたデータを収益化及び利用する。どのようなデータが収集され、それがどのように利用されているのかプラットフォーム労働者が知らない可能性があることから、このことは、データ保護をプラットフォーム労働における中心的問題のひとつにしている。

職業上の孤立、ワークライフコンフリクト及び社会史的支援の不足:これらは、睡眠障害、疲労、仕事からの回復の困難、ストレス、抑うつ、バーンアウト、孤独や仕事と個人生活への全体的な不満と関連している。

境界のないキャリアと労働の一過性:これらは、(慢性的な)仕事の不安定性と収入の不安定性、及びプラットフォーム労働者の劣悪な精神的・身体的健康につながる。

プラットフォーム労働のこれらの特徴はすべて改善が必要な領域であり、とりわけプラットフォーム労働が、伝統的により危険な傾向にあり、しばしば追加的な労働、つまり従来の経済における同等の労働では必要とされない、したがって追加的な努力・スキルを必要とするかもしれない業種・職種に集中していることから、欧州中の政策決定者の注意を引くに値するものである。

政策立案者・意思決定者は、(i)プラットフォーム労働者の雇用形態の判定を促進し、(ii)プラットフォームのアルゴリズムの機能と、アルゴリズム管理がプラットフォーム労働者に及ぼす影響に光を当てるためにアルゴリズムの「ブラックボックス」を開き、(iii)プラットフォーム労働者間及びプラットフォーム労働者、プラットフォームと他の関係者の間の対話の機会を創出し、(iv)労働時間と不透明で予測できない労働条件に関連した諸問題に対処し、(v)可能な限り、既存のOSH規制枠組みの効果的執行を確保する、諸措置を策定することに力を注ぐべきである。

デジタル労働プラットフォームとプラットフォーム

労働者の間の情報の非対称性と力の不均衡を軽減または排除するのに役立つ措置は、この点で非常に重要である。

ポイント② プラットフォーム労働の性質及びそれが行われる条件のために、OSHリスク(悪化)の予防・管理がより複雑になる。

プラットフォーム労働の性質と条件が、以下のように、OSHリスクの予防・管理を複雑にしている。

不明確な雇用形態と(ほとんどデフォルト設定の)自営業としてのデジタルプラットフォーム労働者の分類は、実際には、デジタルプラットフォームが伝統的な労使関係に基づいて使用者が負っていると歴史的にみなされていた義務を外部化することを意味している。これは主に、プラットフォームがオンライン仲介のみを行い、根本的なサービス(例えば運送)は行っていないと主張しているためであり、これが、プラットフォーム労働者が自営業と分類されることにつながっている。しかし、このことは、OSH規制枠組みが(完全には)プラットフォーム労働者に適用されないことをほのめかしている。また、OSH当局が、プラットフォーム労働が彼らの権限の対象に入るかどうか確信がもてないでいるかもしれないことも意味している。これが、(OSH規制の監視・執行を含め)リスクの予防・管理を複雑にしている。

デジタルプラットフォーム労働の根本的性質が、リスクアセスメント、予防・保護的措置、訓練、労働者の参加と労働監督に関して、様々な領域でOSHマネジメントシステムの基本的要素の実施を複雑にしている。この点に関する例はたくさんあり、(労働者の匿名性と労働力の地理的拡散及びその離職率の高さのゆえの)プラットフォーム労働の確認・連絡の困難さ、共通の固定された作業場所の欠如や契約関係の一時的性質などがある。

政策立案者・意思決定者は、雇用形態の判定、アルゴリズムの機能に関する透明性の欠如や、OSHリスクの予防・管理に対するそれらの意味合いという観点からの対話・協議の欠如などの主要な問題を検討すべきである。ここで対策は、デジタル労働プラットフォームとプラットフォーム労働者だけでなく、政府機関、労働・OSH当局、訓練提供者、社会パートナーその他の関係者も対象とすべきである。

ポイント③ プラットフォーム労働に関する研究、政策及び慣行がOSH、とりわけリスクの予防・管理をやや見過ごしてきたため、OSH関連問題に関する知識のギャップと認識不足がある。

OSHとプラットフォーム労働に関する文献レビューは、プラットフォーム労働がかかわるOSHリスクとそれらリスクの予防・管理のための課題に対するよりよい洞察を提供することのできる、あらなる研究とデータ収集努力のための潜在的領域も明らかにしている。このような方法で、かかる研究は、政策立案のためのよりひろいエビデンスベースに情報を提供することに貢献するだろう。とりわけ、プラットフォーム労働におけるリスクの予防・管理について、さらなる研究と的を絞ったデータ収集の努力が必要である(例えばデジタルプラットフォームの登録・報告義務を通じて)。これらのトピックは文献ではほとんど見落とされてきたが、政府、社会パートナー、労働監督官やOSH当局の現場での行動を支援するためにきわめて重要である。一般的に、プラットフォーム労働におけるOSHの理解を深めることは、ある文脈から別の文脈に移行することのできるグッドプラクティスを明らかにするのに役立ち、様々な利害関係者が教訓を学ぶことにつながる可能性がある。そうした理由から、OSHとプラットフォーム労働に関するこのEU-OSHAの研究プロジェクトの一環として実施される他のタスクはすでに、例えばOSHリスクの予防、OSH規則・規制の監視・執行のための政策・慣行にどのようなアプローチが使われてきたかを検証することによって、こうしたデータ・知識のギャップに対処することを目的としている(アルゴリズムによる管理の透明性の欠如に対処するアプローチを示したスペインの「ライダー法」の政策事例、いくつかのEU加盟国における労働監督官の活動を示した政策事例など)。

最後に、そして重要なこととして、プラットフォーム労働に関連するOSHリスクと、これらのOSHリスクを予防・管理できる方法に関する認識が不足していることは明らかである。これは、上述したように、政策立案者・意思決定者の仕事に影響を与えるだけでなく、デジタル労働プラットフォームとプラットフォーム労働者にも影響を与える。この点で、OSHリスクと、それを予防・管理することのできる方法、それを支援するために利用できるアクター、関係者の責任などに関して、プラットフォームとプラットフォーム労働者によりよく知らせるための措置が講じられるべきである。こうした点のいくつかは、プラットフォーム労働者の雇用形態についての議論と関連しているものの、このことが、全体として透明性と支援を増強するうえでの障害となってはならない。

https://osha.europa.eu/en/publications/digital-platform-work-and-occupational-safety-and-health-policy-brief

安全センター情報2022年4月号