毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版

石綿がん旧国鉄職員に労災認定/加古川の61歳 勤務から30年後[2004.6.11]

旧国鉄時代に車両の整備などを担当した元職員が、アスベスト(石綿)がんと呼ばれる「中皮腫」にかかり、労災認定を受けていたことが分かった。また、この病気で死亡した旧国鉄職員の遺族らが、民間の支援団体に相談に訪れるケースが相次いでいることも判明。中皮腫で旧国鉄職員が労災認定を受けたのは初めてとみられるが、当時の車両の動力部分や客車の断熱材に石綿が多量に使われており、今後、救済対象の患者が拡大する可能性がある。中皮腫は肺などを覆う膜の表面にできる腫瘍で、石綿の吸引が主原因。発症するまで30~50年かかり、多くの人は被害を認識しにくい。労災認定を受けたのは、兵庫県加古川市の立谷勇さん(61歳)。1964年に旧国鉄に入り、68~74年に京都府内の運転所で勤務。ディーゼルカーの点検整備に従事し、マフラーに巻いていた石綿製の断熱材などを扱い、その際、石綿を吸ったとみられる。2002年に胸に水がたまるなどの異常が見つかり、神戸大学病院から「悪性胸膜中皮腫」と診断された。

立谷さんは今年2月、旧国鉄時代の労災補償を担当する国鉄清算事業本部に労災請求し、3月末に認定された。
このほか、旧国鉄職員の4人が中皮腫で死亡し、遺族が支援団体「中皮腫・じん肺・アスベストセンター(03.5627・6007)」などに相談。このうち、東京・品川電車区で長年車両を整備した男性(今年3月に76歳で死亡)の遺族が労災請求している。
厚生労働省によると、1999~2001年度に列車の製造や解体の関係で中皮腫になり、労災認定された民間のケースが7件ある。
立谷さんは「職場にアスベストがあるとは気づかなかった。治らない病気にかかったと知り、『これは悪夢だ』と思った」と話している。

20040611国鉄立谷中皮腫1例目認定_毎日大阪

車両補修で石綿を吸って死亡、旧国鉄職員に労災認定[2004.7.2]

旧国鉄で車両の補修などを担当した元職員の男性が、アスベスト(石綿)の吸引による中皮腫で今年3月に死亡し、労災認定を受けていたことが分かった。旧国鉄の補償業務を引き継いだ国鉄清算事業本部による認定は全国で2例目。厚生労働省は今年10月から石綿の製造、使用を原則禁止にするが、石綿による中皮腫は吸引から数十年後に発症する例が多く、患者が原因に気付かないケースも多い。

労災認定を受けたのは、千葉県の久富義孝さん(当時76歳)。久富さんは1960~83年、東京都内の電車区に勤務し、車両の補修、検査を担当。当時の車両は断熱材や不燃材として石綿を使用しており、床下に積もった石綿を含む粉じんを吹き飛ばしながら作業したという。昨年7月に肺に水がたまるなどの異状が見つかり、10月に国立療養所千葉東病院で手術を受けたが、今年3月に胸膜中皮腫で死亡した。

久富さんは今年2月、旧国鉄の業務災害補償を担当する国鉄清算事業本部に労災申請し、6月に認定された。同事業本部は今年3月、兵庫県内の男性(61歳)を同様に労災認定している。

20040702国鉄久富中皮腫2例目認定_毎日東京

アスベスト禍 労災”発掘”45人認定/国保と医師 レセプト点検で[2004.8.8]

建設業の国民健康保険組合と医師らが連携してレセプト(診療報酬明細書)を点検するなどし、アスベスト(石綿)による病気の患者を掘り起こした結果、過去5年間で45人が石綿関連病で労災認定を受けたことが分かった。病気の原因が石綿と気づかないまま、労災補償されずに苦しんでいた被災者と家族が救済されたうえ、治療費が返還された国保側も財政上プラスとなり、今後の取り組みが注目される。

建設労働者は、石綿を含んだボードや瓦などの建材を切断して知らずに石綿を吸い込み、胸膜や腹膜にできるがんの中皮腫などになる。しかし、吸引してから発症するまで20~50年かかるため、職業病と認識しづらい。悪性胸膜中皮腫による死者は、今後40年間で10万人に上るとされている。 このため、中小企業の労働者や大工らが加入する東京、神奈川、埼玉、千葉の建設国保組合や全国建設労働組合総連合加盟の労組が被災者探しを開始。1999年4月以降、中皮腫12人、肺がん21人、石綿肺などの12人が労災認定された。

東京建設業国民健康保険組合(加入者約1万5700人)では2000年6月から毎月、関係レセプト約7000枚をチェックし、石綿が原因と疑われる肺がんなど8つの病名が書かれたものを抜き出している。その中から専門医の名取雄司医師(東京都江東区・ひらの亀戸ひまわり診療所)が石綿吸引の証拠を調査。10人が中皮腫や肺がん、じん肺と判明し、労災認定された。

10人のうち板金工の男性は、たばこが原因の肺がんとされていたが、肺から石綿繊維が見つかり、労災と認定。本人に休業補償約500万円、治療費自己負担分約160万円が支払われ、同国保に治療費約640万円が返還された。男性が死亡後も毎月約10万円の遺族補償が支給されている。

20040808建設国保アスベスト禍発掘_毎日大阪朝刊

アスベスト吸引の同僚船員、労災2人目「中皮腫」で認定/半世紀前に蒸気船乗務 専門家「多発の恐れも」[2004.10.7]

半世紀前に蒸気貨物船でアスベスト(石綿)を吸引して胸部がんの「中皮腫」になり、今年3月に労災認定された広島市南区、元日本郵船社員、笠原昭雄さん=4月に71歳で死亡=の同僚で兵庫県在住の男性(72)が、同じ病気で社会保険庁から労災認定を受けていたことが7日、分かった。同僚の元船員2人が相次いで認定されるのは異例。当時、船員が濃厚なアスベスト環境にいたことを示すもので、同社関係ではさらに2人の労災請求の動きがある。専門家は発症時期から今後、中皮腫が全国で多発する恐れを指摘している。

男性は笠原さんと同じ1951年に日本郵船に入社。機関士として約6年間、蒸気船のボイラーなどに使われた石綿製の断熱材の補修やメンテナンスなどに従事した。笠原さんとは約3ヵ月、同じ船に乗り込み、その後、石綿とは無関係の外資系貿易会社で働いた。今年1月、突然、体調の不良を感じ、3月に神戸市の医療機関で「悪性胸膜中皮腫」と診断された。笠原さんの認定を新聞報道で知り、労災請求して9月に認定された。

中皮腫の国内での発症率は現在、約14万3000人に1人とされる。男性は「中皮腫の原因が仕事中に吸ったアスベストと知らずに亡くなった人も多いのではないか。これ以上、同僚から(患者が)出ないことを祈りたい」と話している。

日本郵船はOBを対象に石綿労災の相談窓口を設置。現在、新たに元社員と関係会社の計2人が労災請求に必要な在籍証明を求めてきたという。1955年度末の船員保険加入者は16万4831人。

●60~80歳代は注意を

民間相談機関「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」代表の名取雄司医師の話:1950年代と60年代の船舶は閉鎖された空間に多くの石綿含有製品が使われ、関連がんの多発を懸念していた。中皮腫の発症は多くが30~50年後で、現在60~80歳代の人は注意が必要だ。10年以内に中皮腫などで亡くなった人の遺族も補償の可能性がある。

20041007日本郵船船員中皮腫2人目認定_毎日大阪夕刊

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