毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版

「原発被ばくで労災請求 多発性骨髄腫『白血病基準の3倍』」[2003.5.14]

原発内の配管工事やその監督で被ばくし、骨髄がんの一種の多発性骨髄腫になったとして、元プラント建設会社社員、長尾光明さん(77歳)=大阪市西淀川区=が2003年5月13日までに、富岡労働基準監督署(福島県富岡町)に労災認定を請求した。多発性骨髄腫の労災認定例はないが、原爆症では認定例があるうえ、被ばく量は、同じ骨髄のがんである白血病の労災認定基準を超えている。専門医は「労災認定の理由が十分にある」と訴えている。

多発性骨髄腫が進行すると、全身の骨の融解が起こり、突然、骨折したりする。さまざまな臓器に障害も起こる。

長尾さんが所持する放射線管理手帳によると、77年~82年の4年3ヵ月間に、福島第1原発(福島県)、新型転換炉「ふげん」(福井県)、浜岡原発(静岡県)で作業に従事し、70ミリシーベルト被ばくした。年間の被ばく量は電力会社社員の平均に比べ3~8倍、下請け労働者の平均と比較しても1.5~3.5倍だった。86年に退職したが、前歯や首の骨が折れた98年、兵庫医大で多発性骨髄腫と診断された。

旧厚生省原爆医療審議会による原爆症認定基準では「原爆放射線起因性」がある病気として多発性骨髄腫が記載され、過去10年間で17人が認定された。厚生労働省の労災認定基準では、白血病の場合、「5ミリシーベルト×従事年数」以上の被ばくをし、発病は被ばく開始から1年以上という条件がある。多発性骨髄腫はこの基準が適用される病気として明示されていないが、長尾さんの場合を白血病に当てはめると、基準の約3倍の被ばくをしたことになる。長尾さんは「鎖骨が溶けるなどして冷え込む日は上半身が痛くてたまらない。原因は被ばくしか考えられない。認定してもらい、他の被ばく労働者にも道を開きたい」と話している。
原発作業では白血病で過去5人が労災認定されている。

20030514原発被ばくで労災請求多発性骨髄腫「白血病基準の3倍」毎日新聞朝刊大阪

原発被ばく男性「多発性骨髄腫」、労災に。福島の労基署 白血病以外で初認定[2004.1.20]

原発内の配管工事やその監督で被ばくし、骨髄がんの1種の多発性骨髄腫になったとして労災保険支給を請求していた元プラント建設会社社員、長尾光明さん(78歳)=大阪市西淀川区=に対し、富岡労働基準監督署(福島県富岡町)が労災認定したことが2004年1月19日、分かった。原発労災認定基準では多発性骨髄腫は例示されておらず、白血病以外の認定は初めて。認定枠拡大の先例となる可能性がある。多発性骨髄腫が進行すると、全身の骨が劣化し、突然骨折する。さまざまな臓器に弊害も起こる。

長尾さんは77~82年の4年3ヵ月間に、福島第1原発(福島県)、新型転換炉「ふげん」(福井県)、浜岡原発(静岡県)で作業に従事し、計70ミリシーベルト被ばくした。年間の被ばく量は電力会社の社員の平均の3~8倍だった。
厚生労働省の労災認定基準では、白血病の場合、「5ミリシーベルト×従事年数」以上の被ばくをし、被ばく開始から1年以上たって発病との条件がある。この基準に照らすと、長尾さんは約3倍の量の被ばくをしていたが、多発性骨髄腫の例示がなく、富岡労基薯は本省に意見を求めた。厚労省の専門家検討会が、作業内容などや被ばく量の評価などから「被ばくと病気の因果関係あり」との判断を出したという。原発作業では白血病で過去5人が労災認定されている。
原爆症に詳しい村田三郎・阪南中央病院内科部長は「白血病でしか労災認定されなかった原発労働者被ばくで、多発性骨髄腫以外にも、悪性リンパ腫など白血病に関連する疾患の認定の道を開く可能性のある判断だ」と話す。

■多発性骨髄腫 白血病に類似した骨髄のがん。免疫に関与する細胞が分化の最終段階で腫瘍化し、骨髄内に多発する。慢性のまま経過するケースから、腎不全によって急死する例まであり、経過が多彩とされる。初期症状は貧血による全身けん怠感と、骨の変化による痛みなどがある。最も特徴的なのは突然の骨折だ。2000年に明らかにされた米国の原子力関連施設の労働者の調査では、累積被ばく量が50ミリシーベルトを超える人の多発性骨髄腫による死亡率は、同10ミリシーベルト以下の人に比べ約3.5倍高い。広島、長崎の被爆者での発生率が高い。昨年5月までの10年間で17人が原爆症として認定された。労災認定基準に多発性骨髄腫の例示はなく、判断の際は労働基準監督署が厚生労働省に意見を聞くことになっている。

20040120「多発性骨髄腫」労災に 白血病以外で初認定_毎日大阪

17年後の発症、労災を認定 晩発性がんへの対応急げ/村田三郎・阪南中央病院内科部長

原発で放射線に被ばくして多発性骨髄腫になった大阪市西淀川区、元プラント建設会社社員、長尾光明さん(78歳)が2004年1月、労災認定された。この病気は骨髄がんの1種だが、厚労省の労災認定基準では例示がなく、初の認定例となった。原爆症に詳しく、申請に際して意見書を書いた阪南中央病院内科部長の村田三郎さんは、多発性骨髄腫のような晩発性のがんを考慮した被ばく管理体制の不備を指摘した。

■認定の意義は。

ー被ばく労働の労災認定の基準には、慢性放射線障害のがん・悪性腫瘍として、皮膚がんや肺がんなどのいくつかの病気が記されているが、実際の認定は白血病だけだった。それが多発性骨髄腫で初めて認定されました。

■明記されていない病気がなぜ認定を。

ー骨髄には、さまざまな血液の細胞のもとになる幹細胞というものがあります。それが分化して、白血球や赤血球などになります。さらに、白血球の一種で、免疫の働きをするB細胞が成熟したものが、形質細胞です。
 その分化の過程で、白血球が放射線を浴びて異常増殖した白血病も、形質細胞が異常増殖した多発性骨髄腫も同じ系統の病気なのです。だから、白血病の規定を適用するべきだと主張したのです。長尾さんは白血病の労災認定の規定に当てはめると、約3倍に当たる被ばくをしていたのです。

■ほかに認定に必要だった重要な要素は。

ー何よりも長尾さんがきちょうめんで、放射線管理手帳などの自分の記録をしっかり持っていたことです。被ばくの状況も克明にメモされ、病気が仕事に基づいて発症したことを証明する資料もありました。

■今後、多発性骨髄腫になった人が救われるために必要なことは。

ー白血病の発病のピークは被ばく後5~10年ですが、多発性骨髄腫は晩発性といって、約20年とか30年後に発症するといわれています。長尾さんは仕事を離れてから、17年後に発症しました。ところが、当時の被ばくの記録の保存期間は5年です(2001年4月からは法改正で保存期間が30年になった)。もし、長尾さんが自分で記録を持っていなかったら、証明するものが何もないことになります。
 健康管理上は、1回でも5ミリシーベルト程度の被ばくをした人については離職後も「健康管理手帳」を交付して、継続して検診をしていく必要があります。実際、じん肺など仕事に伴いがんや重い病気が発症する可能性がある職業の人はこの健康管理手帳が支給されています。
 また、被ばくの記録は中央登録センターに残っているはずですが、本人が知りたくても事業者が同意しなければ、データが出ないことがあり、問題になりました。

■国内の原発で被ばくした人で多発性骨髄腫が発症した人は?

 放射線影響協会が2000年に報告した原発などの放射線業務従事者の調査によると、累積被ばく量が50~100ミリシーベルトだった人たちの間では多発性骨髄腫による死者の発生率は一般の人々に比べて3.6倍高く、100ミリシーベルト以上だった人たちの間での同じ発生率は7.2倍高かったことが分かり、被ばく量が高いほど発生率が高くなることが示されました。多発性骨髄腫は、被ばく量と死亡率の間に因果関係があることは明らかです。

■米国の原子力労働者の調査では。

ー被ばく量が50ミリシーベルトを超えると、多発性骨髄腫の発生率が高まるとされています。特に45歳以上から被ばく労働に従事すると、放射練に高い感受性を示すと報告されています。

●広島・長崎の犠牲 原発でも生かせ

旧厚生省原爆医療審議会の原爆症の認定基準では多発性骨髄腫が「原爆放射線起因性」がある病気、つまり放射線を浴びれば発症しやすくなる病気として記載されている。このため、この病気で2003年5月以前の10年間で17人が原爆症認定された。
これは広島、長崎の被爆者が長年にわたって背負い続けている被害の大きさを示すものだろう。こうした犠牲が、原発労働者の多発性骨髄腫などの病気の防止や、それを発症した時の補償に十分生かされるよう願いたい。

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