毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版
4 労災をめぐる諸問題 (5) 労災認定への新たな動き・化学物質過敏症「化学物質被害 過敏症、初の労災認定」
●愛媛の20代 救済拡大に期待
極微量の化学物質で体調が崩れる化学物質過敏症(CS)と労災病院や国立療養所内で診断された愛媛県内の20代の男性会社員が、労災認定を受けていたことが分かった。CSと診断された人の労災認定は厚生労働省に報告がなく、初の労災認定事例とみられる。日常生活が困難となるCSは「シックハウス症候群」の重症例とも指摘され、今回の認定で、化学物質による深刻な健康被害の全体に光が当たるきっかけになりそうだ。
男性会社員は2002年5月以降、職場で塗料に含まれる化学物質を直接吸ったことが原因で高熱と頭痛、気管支ぜんそくが出て、愛媛県内の労災病院に緊急入院。この後、紹介された岡山県の国立療養所南岡山病院で、化学物質が遮断された「クリーンルーム」で厳密に検査をしたところ、塗料に含まれていた微量のトルエン、キシレンで体調の変化が現れた。このため、両病院は、非常に微量で多種類の化学物質に反応するなどの米国のCS診断基準に当てはまるとしてCSと診断した。
労基署はCSではなく、トルエンとキシレンによる健康被害で2003年4月に労災認定した。厚労省は「CSは法令上規定された疾病ではないが、明らかに業務上の原因で発症したと認められる部分があるならば、労災認定されることになる」と説明している。
国立公衆衛生院(現.国立保健医療科学院)によると、CSの可能性の高い成人は国内で約70万人いると推定されている。「シックハウス症候群」になったと訴えた大阪府堺市のアルバイト保育士4人は2003年5月に労災認定された。
この会社員は、自宅近くで新築や改装工事があってペンキのにおいなどが漂うため、現在避難生活を送っている。コ番つらいのは周囲の理解を得にくいこと。労災認定されてひと安心だが、同じ病気になった人も救済されるような行政であってほしい」と話している。
NPO法人「東京労働安全衛生センター」の飯田勝泰事務局長は「仕事上、化学物質を吸ったことをきっかけにCSになったのならば、CSの病名で認定されるべきだ。その方が認定手続きも容易になり、多くの患者が救済される」と話す。
■化学物質過敏症 生活環境中の極微量の化学物質によってめまい、頭痛、のどや鼻の痛み、皮膚炎など多様な症状が表れる病気。新築家屋や化学物質を扱う職場などで短期でも大量の有機溶剤や農薬、消毒薬などの化学物質を浴びることがきっかけになる。発症以降は、多種類で微量の化学物質に反応するため、精神疾患とも誤解されることなどから、社会的な理解が課題になっている。
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