毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版

「これはどう考えても労災だ」と労働者自身や専門家らが考えてきた事案でも労災認定されないことがある。
だが、そうした事案も、支援者の必死の立証活動や司法判断によって、行政判断が覆されたり、新しい認定への道を切り拓くことがある。
ここで取り上げた「腰痛」「化学物質過敏症(CS)」「原発被ばく」「アスベスト(石綿)」などの被災事例と労災認定は、長年にわたって苦しんできた被災労働者を救済する第一歩となる。
今後は、労働の質や労働環境の変化にともなって、従来とは異なった新たな労働災害が増えてくることは明らかだろう。
そうした事態に対しても、新たな労災認定への運動をかたちつくっていくことが大きな力になることは間違いない。

4 労災をめぐる諸問題 (5) 労災認定への新たな動き
・腰痛「通常作業中のぎっくり腰で初の労災認定 ごみ収集職員」最高裁判決

●従来の基準否定-最高裁

ごみ収集の通常作業中に急性腰痛になったとして、千葉県船橋市の職員が、公務災害(労災)認定を求めて地方公務員災害補償基金千葉県支部と争っていた裁判で、最高裁が市職員側勝訴の1、2審判決を支持し、同支部の上告を棄却していたことが分かった。急性腰痛の労災認定は「通常の動作によるものは認定しない」との基準で行われているが、「通常の作業でも、腰痛が生じる危険性があれば労災認定をすべきだ」との初の司法判断が確定した。介護保険導入以後、腰痛に悩む労働者が増えている介護関係などの職場での労災認定に影響を与えそうだ。

市職員は1990年3月、ごみ袋を清掃車に投入しようとした際にぎっくり腰になり、労災認定を同支部に申請した。腰痛が公務によるものかどうかの認定基準は「通常と異なる動作」で「腰部に急激な力」が「突発的に生じた」ことを要件としている。このため、同支部は「ごみ袋投入作業は通常の動作」などとして「公務外」と決定、市職員がこの取り消しを求めて提訴した。

一審の千葉地裁判決(96年8月)は「ごみ収集作業は過重ではなくても、腰を曲げる行為が繰り返され、腰痛を生じさせる危険性を持っている。通常の動作であっても、内在する危険性が現実化した」として職員の主張を認めた。2審の東京高裁判決(98年1月)も同様の判断を示し、2000年7月、最高裁が同支部の上告を棄却した。
腰痛は介護、保育、調理などの労働者に多く、介護関係職場では、労働省の外郭団体の委託調査で、特別養護老人ホームの職員や在宅介護のホームヘルパーのうち腰痛経験者が85%に達するなど、深刻化が指摘されている。

元労働基準監督署長の井上浩・全国労働安全衛生センター連絡会議議長(現・顧問)は、「通常動作で生じた腰痛は労災認定しないという認定基準を実質的に否定した判決だ。一般の労災を扱う労働省も含め対応の変更を迫るもので、介護や保育などの職場の腰痛認定に影響するだろう」と話す。

20001004通常作業中ぎっくり腰 最高裁、初の労災認定 ごみ収集職員 毎日新聞社大阪本社

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