毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版

国会質疑から

国会でも労災隠しの問題が取り上げられた。
国会議員が注目したのは、事故を起こせば保険料が高くなり、起こさなければ安くなる労災保険の「メリット制」だった。
この労災保険の保険料の”割り増しの率”や”割り引きの率”の度合いを大きくする改定が行われる直前だったからだ。
保険料をあまり払わなくてもいいように労災隠しをする事業者が増えるのではないかという追及が相次いだ。
労災保険扱いすべきなのに、健康保険扱いにされた大量の「隠れ労災」の問題を私たち取材班が記事にしたのはそんなタイミングで、国会での論議を呼んだ。

●メリット制とは

労災事故の発生と労災保険の使用の頻度によって、保険料が増減される制度。
自動車の損害保険で事故を多く起こすドライバーほど保険料が高く、事故を起こしたことのないドライバーの保険料が安くなるのと同様の制度だ。従来は、労災保険の適用頻度によって保険料がプラス・マイナスそれぞれ30%だった。ところが、2002年度からは、建設業などの短期現場作業ではプラス・マイナス35%、事務作業などの継続事業ではプラス・マイナス40%となった。建設業での現場作業はそもそも人件費に対する保険料率が高く、メリット制の変更によって大きな影響を受けたと言われている。

メリット制の率の幅を大きくすることは、それだけ労災の発生を防こうとする企業側の意図が働くことになる。しかし、実際に労災が発生してしまった時に、企業側はなんとか隠して、メリット制が適用されて、保険料が高くならないようにする意思が働くとされる。このことから、メリット制の強化が「労災隠し」を助長することになると指摘されている。

◎第150国会 参議院労働・社会政策委員会(2000年11月11日)

●前川忠夫君

(中略)メリット制(上記)についてお伺いをしたいと思います。
建設業の1部でメリット制の拡大をして、30%から35%にという内容でありますが、メリット制を拡大する根拠になった災害の実態が今どうなのか。(中略)
私も労働省の方からいただいた資料を持っておりますが、これは労働省も監修をしているんでしょうか、労働時報ですね、この中に、これはつい先日いただいたんですが、例えば平成10年と平成11年度の比較が出ておりますが、いわゆるその他の産業との比較ではないですよ、建設業における災害はむしろ平成10年から平成11年にかけてはふえているんですね。こういう実態の中でメリット制を拡大するということの意義はどういうことなのか。
念のため申し上げます。建設業、これは職別は設備工事業をとっておられますが、平成10年度の度数率(著者注”労働時間当たりの労災発生頻度の指標)は○・84、これが11年には○・74、これは減っています。ところが、強度率(著者注”労働時間当たりの労災発生頻度に休業日数を乗じて災害の重大さを加味した指標)の方は○・17から○・24に増えています。それから、死者1人当たり平均労働損失日数は、平成10年が199・3日であったのが、327・2日という形で、倍近く増えているわけです。
こういう実態を考えますと、ここでメリット制を拡大することによって労働災害の防止をする、努力をしてもらうということは、確かにねらいとしては私は間違いではないと思いますが、結果として、後ほどもお聞きをしたいと思います労災隠しをむしろ誘発するんじゃないかという懸念があるんですが、いかがですか。

●政府参考人(野寺康幸君)

まず、建設業の災害の状況だけお答え申し上げたいと思うんですが、建設業におきます強度率、度数率の関係は先生のおっしゃったとおりです。
ただ、休業4日以上の死傷者数、つまり労災の対象になる死傷者数ですね、53年以降一貫して減少傾向にあるのは事実でございます。平成11年にはこれが3万5310人という数でございます。死亡災害の方は、昭和60年代から一貫して年間1000人前後で推移しておりましたが、平成9年以降1000人を下回っておりまして、平成11年は794人でございます。
したがって、多少年によって上下があるところもないではないわけですけれども、建設業全体として、傾向的に見ますと災害は減っているというのは事実であろうと思います。

●前川忠夫君

災害の度数率としては確かに減っていまして、むしろ一般産業とそう遜色のない数字になっていると私も思います。ただ、強度率という点では問題ありますね、はっきり申し上げまして。この点だけは1つ指摘をしておきたい。
そこで、平成3年に労働省が局長通達を出して、労災隠しについて指導されていますが、その後、実際に労災隠しと言われるような実態についてこの通達が効果があったか、労働省はどんな検証をしておられますか。

●政府参考人(野寺康幸君)

なかなか数字的に検証するというのは難しい問題だと思います。というのは、労災隠しというのは基本的に隠すものでございますので、労災隠し、改めて言うまでもないのですけれども、労働災害の発生事案を故意に隠蔽するという目的で安全衛生法100条に基づきます労働者の死傷病報告を出さないといったように定義をさせていただきますと、労災隠しが横行することは、労働災害の防止という観点から見ますと非常に基準行政の根幹を揺るがす問題であるというふうに考えておりまして、そういう意味で、先生御指摘の平成3年の労災隠しの排除についての通達を局長名で出させていただいたわけでございます。
この労災隠しにつきましては、司法処分も含めて厳正に対処するということで全国の監督署に通達いたしておりますし、またこれによってメリット制をいわば悪用して負担を免れているといったような場合には、当然ながら再計算をして厳正に還付金を回収するといったような措置も繰り込んでございます。
数字はなかなか今難しいというふうに申し上げておりますが、ただ安全衛生法100条及び関連する120条の違反という形式的な観点からとらえますと、平成元年に1171件総件数があったものが、その後ピーク時が平成8年の1411件、そしてその後、平成9年、10年、11年と若干ずつながら減少して現在に至っております。

●前川忠夫君

ここに平成3年12月に出された局長通達、課長通達の文書を私も持っておりますが、その後も実は各地の医師会、日本医師会や大阪、広島の医師会の調査等で、依然として労災隠しはある、あるいはそういう経験があるという病院の数は後を絶たないんですね。
さらには、つい先日、10月に入ってからのようですが、全国安全センターの方でいわゆるホットラインで調査をしましたところ、これはある寄せられた内容ですが、中堅ゼネコンの下請工務店で大工として作業中に左手親指、人さし指を切断して1週間の入院をした、工務店の社長の頼みで健康保険で治療中に会社が倒産をして社長が行方不明になってしまったと。もう労災の申請も何もしようがないわけですね、こうなってまいりますと。こういう事例が寄せられているわけですよ。
さらには、さまざまな要望の中に、これは社会保険庁が調べた資料の中でも、1旦は健康保険で給付を行ったけれども後で調べてみたら労働災害という形で判明したのは、98年だけでも5万1000件に上るというふうに言われているんですね。全く減っていないんです。
そういう中で、例えばメリット制を拡大するということ、それからもう1つ私は提起をしておきたいと思うんですが、例えば今でも労働省は、無災害記録についての、無災害記録時間というんでしょうか、達成競争をやっていますね。100万時間、200万時間、中には1000万を超えるような時間に到達をしますと局長表彰があったりあるいは大臣表彰があったりという制度がありますね。
私も実は職場で経験があるんですけれども、こういう制度があるがために、例えば本来は休まなければいけないんだけれども休まずに、休業災害にはしない、不休災害で処理をしてしまう。あるいは、近くに知り合いの病院、その工場の近くに病院がある。私の経験では自分のところの工場の附属の病院でしたが、病院へ行って結果的には健康診断、健康保険で処理をしてしまうというケースが実はあるんです、現実に。まだ消えていません、そういう事実は。
私は、メリット制を拡大することによっていわゆる当該業種、産業にさらに労働災害防止の努力をしてもらうというものと、それからいわゆるゼロ災害達成のためのさまざまな努力というものは、常にもろ刃のやいば、裏腹の関係にあるというふうに考えるんです。したがって、この種の問題をやる場合に、それを防止するための手だてを何らかの形で歯どめをかけておかないといけないというふうに私は考えるんですが、その点について、今回の改正に伴って労働省はどんなことを考えておられるか。ぜひこれについては、最初に局長の方からお答えをいただいて、トータル的な労働災害防止のための仕組みについては大臣の方から所見をきちっとお伺いしておきたいと思います。

●政府参考人(野寺康幸君)

メリット制、確かにマイナスの点だけを挙げると先生おっしやったとおりでございますが、先生ももろ刃のやいばというふうにおっしゃいましたように、メリットの方もあるわけでございまして、性善説に立てば事業主が災害防止に努力する、無災害を目指して努力するというふうにあらわれるわけでございますので、これは確かにもろ刃のやいばの面があると思います。
そういう意味では、デメリットの方をできるだけ少なくする、先生御指摘の例えば労災隠しの面をできるだけ減らすといったようなことも今後考えていかなきゃいけないというふうに考えております。

●国務大臣(吉川芳男君)

いわゆる労災隠しの防止につきましては、これまでも労働基準監督機関において、臨検監督、集団指導等あらゆる機会を通じまして、事業者に対しこのようなことが行われることのないように指導を徹底したところでありますが、仮に労災隠しの存在が明らかとなった場合には司法処分も含めて厳正に対処してきているところであります。
今後とも、あらゆる機会を通じまして事業者に対し指導を徹底するとともに、新たに建設業等の関係団体に対する指導文書の発出、医療機関用ポスター等の作成、配付、安全パトロール等を活用した啓発等の労災隠し防止の取り組みを積極的に行うこととしております。さらに、労災隠しの対策について行政と労使がともに検討を行う場を設けることも考えていきたいと思っております。

●前川忠夫君

私は、メリット制というのはある意味では努力をすればこうなるよということですから、それぞれの業界ごとの事情の違いはありますし、できるだけそれは事業者が努力をして保険料が安く済むという表現でいいんでしょうか、これはある意味では必要なことなのかもしれません。しかし、その裏に今申し上げたような労災隠しという事態が依然として根を絶たないということであるならば、今大臣からお答えをいただいたようにしっかりとその業界の中で防止策について話し合う、と同時に、第3者も入れたきちっとした協議会をつくって常に点検を怠らない、こういう仕組みはきちっとつくっておいていただきたい。
それから、この席であえて申し上げておきますが、私は労働災害の無災害記録競争をやめてほしい。まあ大臣の表彰状を出したいのかもしれませんけれども、そのためにさまざまなむしろ弊害の方が大きいと私は職場で実感をしてきています。これについては、今回の法案との関係はないのかもしれませんけれども、見直しをひとつぜひお願いしたいということを最後に申し上げて、先ほどお願いをしましたように、委員長、ぜひ関連の質問を木俣議員にお許しをいただきたいと思います。
終わります。

◎衆議院・労働委員会(2000年11月15日)

●五島正規委員

(中略)このたび労災保険法の改正案が出されております。その大きな問題は2点。1つは、いわゆる建設産業におけるメリット制の拡大であり、もう1つは、いわゆる過労死問題であろうと思います。
このメリット制を拡大することによって労災隠しがふえるのではないかという心配があるわけでございますが、たまたま先週の土曜日、これは大阪の毎日新聞ですが、1面トップで、「”隠れ労災”58万件 過去10年健保扱いで処理」、また社会面では非常に大きく半ページを使いまして、「結局泣くのは労働者 仕事にも事業所にも傷つけられ」「家でけがしたことにしろ」「別の仕事探したらどうや」「『救急車は呼ぶな』の鉄則も」というようなことが書かれています。
このニュースの出どころは、恐らくことしの3月の労災審に社会保険庁からの報告を労働省がお出しになった、このデータに基づいた内容だろうと思います。社会保険庁の報告によりますと、昨年は6万7000件の、いわゆるレセプト審査の中で、社会保険では支払えない、これは労災保険だろうということで摘発された数がございます。これは過去10年間についての数字を出されたわけでございますが、昨年が6万7000件、23億、その前年は5万1000件、16億というふうに年々増えてきています。

しかも、(中略)この社会保険庁の調査は政管健保に限って調べた内容でございます。国保あるいは組合健保においてどのような労災隠しがあるかというのは、この数字には含まれておりません。
なぜそのようなことを問題視するかと言いますと、実は、建設業と言われている人たちは基本的に国保のはずです。例えば、大手、準大手のゼネコンから、それぞれ各県の10番目ぐらいまでの建築会社の職員、これは事務の人たちも含めて全部いわゆる全国土木の国保に入っておられます。すなわち、政管健保や組合健保ではございません。建設関係は国保であります。そして、中小の1人親方の皆さん方はいわゆる建設国保という、2つの国保団体でございます。
大手のゼネコン、元請け、この労災に責任を持つその人たちは、実は医療保険の方においては全国土木という国保組合に入っている。あるいは、災害の罹災率が非常に高い林業関係、この方々はほとんどが、ほとんどというよりもまず100%近い方が市町村国保に入っている。すなわち、国保の中にも当然このような労災隠しがたくさんあるだろうというふうなことが想定されます。

労働省は(中略)こうした労災隠しをなくするためにどのような措置をとられたのか。昨年、6万7000件もの政管健保だけでも発覚した件数がありながら、労働省が虚偽報告として摘発されたのは74件、その前の年が79件、その前が72件。本当に1000分の1のオーダーでしか摘発していません。
これについて現在どのようにお考えなのか、労災隠しという問題についてどのように対応されようとしているのか。また、土木国保や市町村国保の中における労災隠しの問題、こうしたものをどのように点検される予定があるのか、大臣、お答えいただきたいと思います。

●国務大臣(吉川芳男君)

お答えいたします。
いわゆる労災隠しの防止につきましては、これまでも労働基準監督機関において臨検監督、集団指導等あらゆる機会を通じまして、事業者に対し、そのようなことが行われることがないよう指導を徹底してきたところでありますが、仮に労災隠しの存在が明らかになった場合には、司法処分も含めて厳正に対処していくということでございます。
今後とも、あらゆる機会を通じまして事業主に対する指導を徹底するとともに、新たに、建設業等の関係団体に対する指導文書の発出、医療機関用ポスター等の作成、配布、安全パトロール等を活用した啓発等の労災隠しの防止の取り組みを積極的に行うこととしております。さらに、労災隠し対策につきましては、行政と労使がともに検討を行う場を設けることも考えております。

●五島正規委員

あらかじめ提出いたしました質問内容に沿うて原稿を読まれることも結構ですけれども、やはり私の質問を聞いてほしいと思います。
昨年度、6万7000件もの政管健保に関する労災隠しがありながら、おっしやった摘発というのは74件しかないのです。6万7000で74件やって、それで努力していると言えますか。
そして、新聞にも書いてありますが、また、今私は申し上げませんでしたが、大臣自身が建設業ということを意識してお答えになったと思うのです。確かに、さまざまなところで建設関係での労災隠しが、後ほど指摘しますが、ございます。ところが、この6万7000件の中には、これが入っているはずがない。なぜなら、その方々は、大手のゼネコンを含めて、準大手ゼネコンの1社を除きますと全部が国保です。国保の数字はここへ入っていない。そういうふうな状態を考えたら、その中においてどのような労災隠しがあるか、どのように点検されるかということをお伺いしている。どうですか。

●政府参考人(野寺康幸君)

労災隠しというものの定義はなかなか難しいと思っておりますが、私どもが労災隠しとして摘発する場合というのは、これは安全衛生法第100条で、労働者が死亡または傷害、死傷病、そういったことにつきまして報告を提出する義務を負わせております。これにつきまして、その提出を行わなかった、あるいはその中で虚偽を記載して報告したといったような場合をいわば労災隠しと呼んで、先ほど先生御指摘のような数字、平成11年で、送検件数全体では1262件ですが、問題となりました100条、120条の件では74件といったような数字になっているわけでございます。したがいまして、もともと労災を隠すという状況にあるわけですから、外にあらわれてきてこれを摘発する、法違反で摘発する、刑事罰で摘発するわけですから、なかなかこれは難しいということもございます。
ただ、先生が御指摘の数字で、私どもちょっと御注意を申し上げたいのは、確かに、健保の方で給付を行ったものの中で労災扱いをすべしというものが毎年5、6万件あるということでございますが、この中には、いわゆる労災隠しではなくて、請求人の方が単に申請先、請求先を間違えて健保の方に行ってしまったといったようなこともあるのではないかというふうに考えております。

●五島正規委員

そのように錯誤によってそうなった例というのは、それは当然幾つかあるわけですが、あるいは、一たん皆さん方が労災の認定を拒絶されて、そして争いの結果労災の認定に復帰したという場合に、差しかえによっての数というのは入ってまいります。しかし、年間に6万7000件という数は余りにも大きい。そういうふうな例外的な問題じゃないはずです。

それからもう1点、話を進めますが、これは労働省が今回の改正に対して出されたデータで、非常に私も奇異に感じて、これで何も感じ取られないのかなと思ったわけですが、全産業と建設業の災害率、その度数率と強度率を出しておられます。例えば昨年度、全産業の度数率は1.80であります。度数率(中略)が全産業で1.8である。強度率(中略)は0.14である。
ところが、建設業を見てみますと、度数率は1.44である。強度率は0.30である。その前年をとってみましても、1.72に対して0.14が全産業、建設業は1.32の度数率に対して強度率が0.39。強度率からいえば全産業の倍あります。度数率から見ますと全産業より少ない。

建設業というのは、けがをすればすべて4日以上の重傷になる率が高いというふうな職種が多い、そういう仕事が多いということを配慮しても、度数率と強度率のこの割合というものは、他の産業に対して突出し過ぎている。そのことを気がついていないはずがない。それは、すなわち、軽傷の労働災害に対しては、ほとんど労災に上がってこずに、一般医療の中で処置させていっている。だけれども、重度災害、死亡とか重傷とか隠しようのないものは結果的に労災に出てくるから、強度率は高いけれども災害の発生率は低いというばかげた結果になっているわけです。

そういう点から考えても、大臣が答えられないなら基準局長、全国土木やその他の国保、あるいは市町村国保の中におけるこの労災隠しの状況をどういうふうに点検されるのか。それから、そのことによってペナルティーをどう科すか。摘発の数が1000分の1やそこらの数しかできないというふうな状態であるとするなら、このメリット制、すなわち、労災隠しすればするほど逆に事業主は労災保険料が少なくて済む、そういう状況を仮につくるとするなら、労災隠しをした時にはどのようないわゆる懲罰的な意味でもって事業主に対してその責任を問うていくのか。そうしたことをやはりきちっと入れるべきじゃないですか。

今、労災の発生に対して、建設業では指名入札の要件になっている、それが多い。ますます、ちょっとしたけがであれば事業主は労災を隠すというところに走っていく。
そして、この全国土木の保険というのは、これはこの労働委員会で言っても仕方ないのです。国保であって、公費から16%以上の金をほうり込みながら、保険料率は1000分の77、全国の医療保険の中で1番安い。しかも、事業主が45%持っている。だから、労働者の保険料率は全国で1番少ない。ここが全部引き受けてしまえば、労災隠しは建設業ではやり放題ですよ。
そういうふうな状況をどのように是正されるお気持ちがあるか。それをしない限りは、重度傷害が発生しない限り建設業界における労災の発生を押さえることはできない、労災隠しは1般化してしまうということになりませんか。お伺いします。

●政府参考人(野寺康幸君)

労災隠しの対策ということは、(中略)基本的には、私どもの労働基準監督機関を通じまして、臨検監督あるいは指導等を通じまして事業主に対します御理解を十分図りながら、労災隠しの存在が仮に明らかになった場合には、司法処分も含めまして厳正に対応するということであるわけでございます。
ただ、先生御指摘のペナルティーの問題でございますが、労災保険という仕組みそのものが、労働災害が多くなれば保険料がふえる、つまり、労働災害というのは事業主の責任で起こるわけですから、責任の度合いで保険料がふえる、したがって、労働災害を防止する努力をして結果として災害が減れば保険料が減る、こういった基本的なインセンティブの構造にあるわけでございます。これがメリット制のいわば基本的な哲学でございまして、この点については基本的に御理解いただいていると思います。
一方で、このインセンティブをもし悪用するという意思で考えますと、確かに、保険料が上がらないように労災があった場合に隠すということをする事業主がいるわけでございまして、これが労災隠しであるわけでございます。ただ一方で、だからといって、いい面、労災を減らす努力を積極的にするまじめな事業主に対するインセンティブは、基本的に継続していく必要があるわけでございます。
さらに、今の限度以上に、現在やっておりますインセンティブ以上に労災隠しに対しますペナルティーを設けるべきかどうか、これはなかなか難しい問題であろうと思います。つまり、具体的に安全衛生法といったような罰則を伴います法律に違反する場合には、それが明らかになれば現在の制度の中でこれは処罰が十分なされるわけでございますが、その中間領域的なことについてさらに罰則的なものを強化すべきかどうか、これは必ずしもコンセンサスが得られないのではないかというふうに思っております。

●五島正規委員

現在のメリット制が持っている1つの目標、安全対策を十分にし、労災事故を減らすことによって保険料率も軽減していく、そのことの本来の目的を私は全く問題にしておりません。そのことはそのことでいい。
ただ、今局長が言ったように、それが悪用された場合どうするのか。それが場合ではなくて現実に起こっているじゃないか。しかも、労災がどんどん起こってきているところに対して、それを公共の指名や入札条件に加えていく、そのペナルティーというのも一定了解できる。しかし、そうしたところのペナルティーが高くなればなるほど、必死になって労災隠しをしようというインセンティブもまた働くわけでございまして、それだけに、労災隠しということが明らかになった事業主に対して、ペナルティーというものを同時にきちっと考えるべき時に来ているんじゃないか。余りにも労災隠しの数が多いじゃないか。これを容認しているとすれば、保険の公正さというのは失われますよ。これは一体どうするつもりか。
その点に限って、労災隠しをしている事業主に対して、それを摘発して告発するということのほかに、それに対するペナルティーとしての何らかの対応を考えるお気持ちはあるかないか、そこだけをお伺いします。

●政府参考人(野寺康幸君)

司法処分を行うことはもとよりでございますが、それ以上という意味では、メリット制の適用を受けている事業場に対しましては、メリット収支率の計算を再度厳密に行いまして、必要があれば、還付金の回収等、そういった金銭面での制裁もあるわけでございますが、こういった点を厳正に対処していくという方針にいたしております。

●五島正規委員

労災隠しという事態が起こっていること、労災保険上は保険財政にはプラスとお考えなのか知りませんが、どうも余りすっきりした御答弁が得られません。また改めてこの問題は議論したいというふうに思います。

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