毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版
目次
厚労省が「労災隠し」419件を把握、6割は送検せず 1999年~2000年
仕事上の事故で負傷しながら、事業主がその事実を隠蔽する「労災隠し」について、全国の労働局と労働基準監督署が1999~2000年の2年間で、419件の事例を把握していたことが分かった。このうち、6割の254件で、関係者が労働安全衛生法違反(報告義務違反)などの容疑で書類送検されていなかった。送検に至らなかったケースも含め、厚生労働省当局が把握する労災隠しの実態が明らかになったのは初めて。厚労省の甘い対応が労災隠しを助長しているとの批判も出ている。
労災問題に取り組む「関西労働者安全センター」(大阪市)の情報公開請求に、厚労省が一部開示した。資料によると、1990年に把握した数は88件(うち書類送検38件)。これに対し、1999~2000年は419件(同165件)で、内訳は労災報告の未提出が328件、虚偽報告が91件だった。2001年の送検件数は126件と急増傾向を示していた。
6割を送検していないことについて、厚労省労働基準局は「すべてを厳正に対処しているが、意図的とは考えられない場合などには、警告などの行政指導にとどめているケースがある」などと説明。
これに対し、元労働基準監督署長の井上浩さんは「労災発生の報告義務はほとんどの事業所が知っているはずで、労基署が把握した労災隠しは、意図的だったと判断すべきだ。警告にとどめたものも、原則としてすべて書類送検するべきだ」と批判している。
20021221厚労省が「労災隠し」419件を把握、6割は送検せず送検増加傾向、摘発は氷山の一角
一方、厚生労働省は2003年、過去5年間に労働基準監督機関が定期監督などを実施した時に、労働者死傷病報告義務違反を指摘した事業場数を公表した。1998年669件、1999年673件、2000年705件、2001年849件、2002年837件に上ったとしている。同省は「労働者死傷病報告義務違反のすべてが労災隠しというわけではない。現実的には労災を隠す意図を持たない単なる手続き違反が多く、このうち何件が労災隠しに該当するかは不明である」と説明している。
仕事上のけがや病気を労働基準監督署に届けない「労災隠し」で摘発される件数は増加傾向を示し、2001年には初めて100件を超え、126件に達した。10年前の約4倍に当たる。2003年も1月から10月の集計で106件になり、年間を通しては過去最悪のペースになった。摘発は実際の労災隠しの氷山の1角とみられており、労働者が補償を受けられずに泣き寝入りしないよう、実効力のある対策が求められている。
労働安全衛生法は事業者に対し、労災事故の発生状況を労基署に届けることを義務付けている(労働者死傷病報告)。厚生労働省は毎年、同法違反容疑(報告義務違反、虚偽報告)で摘発し検察庁に書類送検した件数を集計している。
10年間特に対策とらず、社保「隠れ労災」指摘で「対策」とるが・・・
厚生労働省によると、全国の労災隠しの送検件数は1991年には29件に過ぎなかった。ところが、「労災隠しが横行している」との情報があり、旧労働省は91年、「労災隠しの排除」を全国の労基署に通達した。これに伴い、積極的な摘発が増えたたため、93年には86件と大きく増えたが、その後、摘発(送検)数が減少する年もあった。通達以降、旧労働省は特別な対策をとっていなかった。しかし、社会保険庁の調査で、労災保険扱いされるべき事故が、健康保険で処理される「隠れ労災」のケースが過去10年間で約58万件になっていることが2000年に発覚し、「意図的な労災隠しではないか」と指摘され、国会でも取り上げられた。2000年の労災隠しの送検数は91件と増えていた。厚労省はその後、「労災隠しは犯罪です」などのポスターを作成し、2003年には「監督、安全衛生を担当する部署と労災補償を担当する部署とが密接な連携を図ることにより、なかなか表に表れない労災隠しの発見に努めている」と説明している。
最悪の総件数を記録した2001年の126件の業種別の内訳は、建設業が102件で最も多く、次いで製造業が15件だった。
「労災隠し」送検公表事例
厚生労働省は2003年11月、労災隠しの送検事例を以下の通り、公表した。
■事例1■建設会社2次下請けと元請けが共謀
労働者が足を骨折して6カ月休業したのに、労基署に報告しなかった。治療では、使用してはいけない健康保険を使わせ、1切の休業補償を行わなかった。労災隠しの動機は、元請けの建設会社が、発注者からの指名停止になることと、労災保険制度上の保険料の還付を受けられなくなることをおそれたためという。
■事例2■建設会社と社会保険労務士が共謀
住宅新築現場の作業床を設けない場所で労働者が作業中に転落死亡した。この床を設けないことは労働安全衛生法に違反していたが、適法な状態での作業であったという虚偽の労働者死傷病報告を労基署に提出した。同報告の作成、提出の依頼を受けた社会保険労務士も共謀していることが判明した。労働安全衛生法違反による刑事責任の追及をおそれたのが動機という。
■事例3■食料品製造会社が3件の労災隠し
約8カ月で、卵焼きを切断する機械で3人が約2~3週間休業したが、労働者死傷病報告を労基 署に提出しなかった。動機は、すでに都道府県労働局から「安全管理に問題があるため、特別に安全指導の対象とする事業場」として2年連続指定を受けており、さらに指定が延長されることをおそれたためという。
●「なくせ労災隠し」記事キャンペーンの2ヵ月後に「一層強化」通達と都道府県労働局アンケート実施。しかし、回答は法規制に反映せず
「関西労働者安全センター」の情報公開請求に対し、厚生労働省は2002年、同省の求めに応じて全都道府県の労働局から提案があった「労災隠し対策について効果的と考えられる手法・措置等」を一部開示した。その中には、「労災隠し」に対するペナルティーや制裁の強化があったが、法規制に反映されることはなかった。
この提案となった元の文書は2001年1月17日、厚生労働省労働基準局の監督課長、労働保険徴収課長、安全衛生部計画課長、労災補償部補償課長が連名で、都道府県労働局総務部(労働保険徴収部)長と都道府県労働局労働基準部長宛てに出した。標題「いわゆる労災かくし事案に対する対処状況の把握等について」の中で、「別紙2 労災かくし対策について効果的と考えられる手法・措置等」と書かれていたもので、「局及び署において、労災かくし事案の把握、措置等労災かくし対策に関して効果的で考えられるものがある場合は、その内容について記載して下さい」という内容だ。
2001年2月までに回答を求めた。厚労省から文書が発せられた時期は、私たち「労災隠し取材班」がキャンペーン記事を書き始めた2ヶ月後にあたる。その上、この年の2月に厚労省は「いわゆる労災隠し排除に係る対策の一層の強化について」と題した次の通達を都道府県労働局長あてに出した。
いわゆる労災かくしの排除に係る対策の一層の強化について(基発第68号
平成13年2月8日)
基発第68号
平成13年2月8日
都道府県労働局長 殿
厚生労働省労働基準局長
いわゆる労災かくしの排除に係る対策の一層の強化について
いわゆる労災かくしの排除については、平成3年12月5日付け基発第687号「いわゆる労災かくしの排除について」(以下「687号通達」という。)に基づき推進してきたところであるが、近年労災かくし事案として労働安全衛生法第100条及び第120条違反で送検した件数が増加しており、このことからも労災かくし事案の増加が懸念されるところである。
一方、第150回臨時国会における労働者災害補償保険法等の改正に係る審議においても労災かくし対策を徹底すべきであると指摘され、また「建設業等の有期事業におけるメリット制の改正にあたっては、いわゆる労災かくしの増加につながることのないように、災害発生率の確実な把握に努めるとともに、建設業の元請けの安全管理体制の強化・徹底等の措置を図るなど、制度運用に万全を尽くすこと。」との附帯決議がなされたところである。
こうした状況を踏まえ、今般、本省において、別添1(編注・別添はすべて省略)のとおり労働災害防止団体等の長に対し、別添2のとおり建設業事業者団体の長に対し、別添3のとおり事業者団体の長に対し、別添4のとおり全国社会保険労務士会連合会会長に対し、及び別添5のとおり社団法人日本医師会長に対し、労災かくしの排除についてそれぞれ文書要請を行ったところであり、これを踏まえ、都道府県労働局においても、管内のこれら団体(各支部)及び都道府県医師会に対して、同旨の文書要請を行われたい。
また、当面、687号通達による対応を引き続き推進するとともに、下記により、労災かくしの排除に係る的確な対応を図られたい。
記
1 事業主、労働者等に対する周知・啓発
本省から別途配布するポスター及びリーフレットを活用し、労働保険の年度更新のほか、集団指導、監督指導、個別指導、労働保険料の算定基礎調査・滞納整理時等あらゆる機会を通じて、労災かくしの排除に係る周知・啓発を行うこと。
また、労働災害防止団体や事業者団体が実施する安全パトロールに、都道府県労働局又は労働基準監督署の職員が同行する場合においても、同リーフレットを活用し、事業主等に対し、労災かくしの排除に係る周知・啓発を行うこと。
さらに、ポスターについては、都道府県労働局・労働基準監督署・公共職業安定所に掲示することはもとより、医師会、関係機関等に対しても、その掲示の依頼を行うとともに、労災かくしの排除に係る周知・啓発の協力を得るよう要請を行うこと。
2 企業トップへの啓発
本省においては、中央労働災害防止協会が行う「安全衛生トップセミナー」において、労働基準局幹部が、労災かくしの排除について企業のトップに対して直接要請を行うこととしているところであり、各局においても、局長等局幹部が出席する同旨の会合等において、労災かくしの排除について企業トップに対して直接要請を行うこと。
●都道府県労働局「労災かくし対策について効果的と考えられる主手法・措置等」提案(アンケート回答)の一部
開示された各都道府県労働局からの回答の開示資料の全部は
これら各労働局の提案の一部で、私たちが注目した部分を抜粋しして紹介する。(局により別添資料があるが、これらは、上記開示資料に含まれる)
【北海道局】
- 積極的に司法処理を行う。
- 労災かくしに係る罰則を強化する。当局において、3年間に2回の労災かくしを行って、いずれも送検したが、報告義務違反には罰則しかなく、再犯加重の対象にならなかった事例があった。
【青森局】
- 労災かくし防止用ポスター(カラー)を作成し、指定医療機関等あて送付し、周知を図っている。
- 企業ぐるみでの労災かくしと認められた場合は費用徴収の対象とする。・同上の場合、司法処分まで至らない場合も新聞発表等を実施する。
- 建設業の保険適用は元請が事業主となるが、その為、下請労働者が被災した場合、下請事業主が「元請に迷惑をかけたくない」として、事故を隠そうとする場合がある。従って、元請下請の区別なく、労働者が直接所属する事業主の保険適用とするよう労災保険法を改正。
【岩手局】
- 労災かくしによる司法処分を行った場合の他の事業場等の反響は大きいものがある。労災かくしが得策ではないことを何らかの方法(マスコミ等を利用するなど)にょり周知・広報のうえ、認識・意識改革をもたらす必要があると思う。
【宮城局】
- 建設業の労災かくしについては、新たに発注者に対する通報制度を確立すること。
- 関係医療機関に対し、労働災害と認められる場合には、労災保険の手続きを行うよう指導するとともに、被災 者や事業者がその手続きに応じない場合には、所轄署(若しくは局)に情報を提供させる(労災の指定医療機関にもかかわらず、健康保険や国民健康保険の使用を黙認している例があるため)。
【秋田局】
- 送検後の発表とは別に、労災かくし事業場名を公表する制度をつくること。
【福島局】
- 発注機関に対し、災害発生の事実だけをもって指名停止等を行う現行の手法の見直しとともに、労災かくしを行った業者に対するペナルティーの罰則化を要請する。(会津署)
- 労災かくし事案について、下請が「不利益を被らないように」とか「今後の受注に支障がでないように」とかの配慮をしたり、元請からの指示があって隠すのがほとんどであり、労災を隠すこと以上の不利益を被るので割が合わないという状態(司法処分のほか元請が知らなかった場合でも連座制とし、指名停止処分とする。)にしないとなくならないと思われる。(富岡署)
【茨城局】
- 通報制度の導入も含め、県・地区医師会、指定医協会等と連携することを検討すべきである。
- 労働者死傷病報告の様式の欄外下部に、「虚偽の報告は犯罪になります」(旨)の注意書きを記載する。
- なお、この他に、「労災かくし事案の発生を抑止する為、司法処分に付さない事案であっても事業場名を公表する。」等の意見もあった。
【栃木局】
- 安易な社会保険による診療等がないように医療機関に対する労災保険制度の周知、徹底を図ることが必要である。
【群馬局】
- 期間を定めて全国的に「労災かくし防止キャンペーン」を実施する。
- 労災かくし事案が発生した場合であって、元請業者に問題が認められる場合には、厳重な処分を行うこと。
【埼玉局】
- 特になし。
【千葉局】
- 医師会と連携し、医療機関から情報を受けることなどにより、労災患者の治療を社会保険で行うことを排除する。
【東京局】
- (労災隠し)事案発覚の端緒は、3分の1が事業主からの申し立て、3分の1が被災者からの申し立てであり、労使が双方いったんは労災かくしをもくろんではみたものの、経済的に負担感が強くなり、自らが申し立てる結果となっているものと推認される。その他3分の1の中は第3者からの情報、監督指導等での確認に基づくものである。
- 労災かくしの送検事案を新聞発表すること。
- 療養の給付請求書について、事業主が補償した又は事業主・1人親方であった等の理由により、後日、取下げが行われるケースがあるが、取下げの事由について精査を行う。
- ごく軽微な事案であっても、積極的な司法処分を行い警鐘を鳴らすとともに、発注者に対して災害件数のみによる機械的な施工業者の選別・排除を行わないよう要請を強める。
【神奈川局】
- 労災窓口での労働者からの相談が契機となることが多いため、労災課の窓口業務と監督業務との協力体制が必要となる。この場合、十分な連携のため労災課若手職員への研修も要する。
- 事業主のみならず労働者側にも治療費等の補償さえなされれば良しとする意識がある。補償がなされている場合でも労働者死傷病報告が必要である旨の、より積極的、効果的な広報を要すると思料する。
【新潟局】
- 建設業許可業者の同事案に対する発注機関の処分を、より厳しいものとするよう要請する。また、同事案を司法処分とした場合、その実効行為者のほとんどが末端下請業者であり、元請業者については通報制度の対象とならないことから、元請業者に対しても処分可能な通報制度に改める。
- 各医療機関に対し、診療に当たっては労働災害か否かの確認を十分行うよう要請するとともに、受付窓口に、例えば「労働災害には社会保険は使用できません。災害の内容を偽って社会保険を使用した場合は処罰されることがあります。」などの掲示を依頼する。
- 新規学卒予定者に対し労災保険制度に関する教育を行う。
- 労働者死傷病報告用紙に、「偽りの内容を本報告に記載した場合は、処罰されることがあります。」等の警告文を印字する。
【富山局】
- 新規の労災指定医療機関の指定時に、事業主から労災隠し等の申し出があった場合の対応の仕方、医療機関の刑事責任の発生のおそれ、指定契約の取消しの可能性、患者への迅速適正な補償給付の問題等についても、療養担当規定等に基づき病院経営者等に十分説明、理解を得る等の医療機関への指導が有効と思われる。
【石川局】
・労災かくし防止のための手法(医師に対して報告義務等を課す)と対策
- 医師が労災かくしを知りながらそれに加担した場合は、①司法処分で、加担した医師にも積極的に教唆・需助の適用を考える。②労災指定医の指定の取消を行うという原則を確立し、医師及び医師会に対し①②の内容を記したチラシの配布及びマスコミにPRすることにより抑止する。
- 労災かくしが発覚した場合に、事実関係を明らかにするため労災請求の有無に係わらず医師に対して必要な事項を報告させる義務を課す。
・社会保険労務士に対する指導
- 労災かくしに社会保険労務士が関与する場合があるが、こういう悪徳社会保険労務士にたいしては資格の抹消、資格の停止を行う。
- 社会保険労務士会に対する指導を行う。
・建設業における労災かくし防止のための手法
- 建設業の場合に、建設現場で隠してしまい、支店や本店に事案が上がらない場合が多い。そのため、労災かくしが発覚した場合に、本社から代表取締役(代表権を持った担当の取締役)を呼び出し直接是正勧告書を交付する。
- 建設業における下請の労災かくしの原因は、災害を起こすと元請から今後の受注を受けられないことを恐れ隠す場合がほとんどであるので、有期事業における労働保険関係を下請を含む各事業者毎に成立させる。
・算定基礎調査に際し労災の請求のない長期休業者を把握し、私病なのかどうか確認するとともに会計帳簿で治 療費や休業手当等の支払がないか確認する。
【福井局】
- 広報活動の工夫全国ネットによるテレビ・ラジオ・新聞への広告、司法処分実績数値等の公開により啓発する。
- 医療機関等との連携医療機関が労災かくしに積極的に関与する等については、場合によっては健康保険医・労災指定医の取消も考えては良いのではないか。
- 労災保険料の増額関与を問わず、労災かくしがあった工事の元請事業者について、1定期間労災保険料をUPさせる等のペナルティーを科す。
【長野局】
- 労災かくし防止月間を設ける等、全国1斉に周知、広報を行うとともに、司法処分を行った労災かくし事案については、積極的に広報することとする。
- 現在の費用徴収制度に、故意に労災かくしを行った場合を追加する。また、故意に労災かくしを行った事業場について、メリット制の保険料率をアップさせる。
【岐阜局】
- 建設業の下請事業場が発生させた労働災害に係る死傷病報告の提出に関し、元請に対しても何らかの措置義務を負わせること及び死傷病報告の提出義務違反に対する罰則強化についての法令改正を行う。
- 労災かくしが発覚した場合、現在のメリット制による保険料の増加より大きな増加額となるように当該制度を見直す。(所得隠しの場合の重加算税と同じ趣旨)
- 医療機関から、労働災害であるにもかかわらず労災保険以外で受診していると思われる患者に関する情報提供 及び通報体制を確立するため、本省から日本医師会に対して要請を行うとともに、医療機関に対し労災保険制度についての認識と理解を深めるための周知啓発活動を実施する。
【静岡局】
- マスコミを通じて、労災隠しは犯罪であることを大きく報道してもらうべきであり、そのための努力をすべきである。
【三重局】
- 社会保険事務所との連携を強化することとする。
- 悪質な案件である労災かくしについては、労災保険料の費用徴収の対象とする体制の整備を図ることとする。
【滋賀局】
- 労災担当課との密な連絡体制の確立と、事案に対する処理の連携。
- 建設業におけるペナルティーの拡大と通報制度の創設。
- 公共工事発注に伴う経営審査において、災害発生事業者に対して一定のペナルティーが与えられているが、労災かくしを行った事業者に対して一層のペナルティーを課す。
【京都局】
- 社会保険事務所と監督署との相互通報制度及び定期的協議会を確立する。
- 建設業法第27条の23に基づく公共工事の請負に係る経営事項審査の項目及び基準については、工事の安全成績の点数に、災害発生件数も考慮することとなっているため、これが労災かくしにつながることも考えられることから、災害発生件数を要素とせず、例えば安全衛生管理体制等を要素とするよう建設省に要請してはどうか。
- 無災害表彰制度を見直す。
- 労災かくしを行った事業者に対する指導の強化及び罰則の強化。
【大阪局】
- 労災かくしが発覚した場合、労災のデメリット(料率の大幅アップ等)を受けるような対策を検討する。
- 安全の無災害表彰制度の見直しを行う。(表彰を受けたいために労災かくしを行っていた事例が多いため。)
- ホームページを利用して広報すると同時に、相談及び情報提供等において労災かくしの項目を設ける。
【兵庫局】
- 健康保険適用に係るものについては、社会保険庁との連絡体制を確立し、疑わしいものについては、通報を受けることとする。なお、悪質なものは、送検して新聞発表を実施する。
【奈良局】
- 業務上外の調査等労災主務課が実施する各種調査に、監督官が同席、または同行すること。
- 労災かくしの場合における労働保険事務組合及び委託事業主の責任(刑罰、共犯等)について、同組合に対す る周知及び適正な報告の指導。
- 労災保険法の費用徴収制度を労災かくし事案に対しても適用を拡充し、適用した場合は、広報を行うこと。
【鳥取局】
- 死傷病報告の提出者を元請との連名にし、労災かくしが行われた場合には、元請にも直接責任が及ぶように改正すると共に、給付請求書との整合性等の確認を行う。
- 建設行政機関との通報制度の対象とする。
- 労災かくしを行った事業場及び元請事業場に対して、メリット制のプラス増加を止める、算定基礎調査の対象とする、事業場名を公表する等の制裁を設ける。
【岡山局】
- 建設業にあっては、公共工事の指名停止基準や経営審査における点数が、労災隠しと密接に関連している。まず、指名停止基準が公開されていない自治体が多く、また指名停止基準の運用について、発注機関の裁量に委ねられているという現状下で、建設業者は、軽度の労災であれば隠した方が良いという動機にかられやすくなっている。次に、経営審査において、労災の発生件数が入札参加の資格の点数を大きく左右することがあるため、軽度の労災であれば隠そうという動機にかられやすい。経営審査は、災害の発生原因(使用者責任の有無等)には全く触れない記載方法となっているため、単に労災の件数により減点される仕組みとなっている。指名停止基準ならびに経営審査の現状を把握し、労災隠し防止手法を検討することが、建設業の労災隠し防止を進める上で効果的であると考えられる。
- 労災かどうかは、災害発生直後に治療を受ける医療機関では、明らかであるので、医師会等を通じ、医療機関の協力を得、労災手続を取るよう窓口での説明を強化してもらうことが、入口段階で芽をつむことになり、有効であると思料する。(広島局において実施例あり)
【広島局】
- 当局においては、平成3年12月5日付け基発第687号及び平成3年12月5日付基監発第52号を受け、平成3年12月19日付け広基発第895号「いわゆる労災かくしの排除について」等(別添1及び別添2)をもって厳正な司法処分を中心に対処しているが、平成6年、広島県労災指定病院協会との協議等を踏まえ、11月14日付け事務連絡「いわゆる労災かくし事案処理要領について」(別添3)をもって医療機関からの情報又は被災労働者からの申告等により事案を把握した場合の具体的処理要領を定め、医療機関からの情報等に対し組織的に対応するよう体制の整備等を行った。
さらに、平成12年10月19日、労災保険の適正運用を呼びかけるパンフレット、労災請求書(様式5号、様式16号の3)を労災かくし防止用ポスターとともに労災指定医療機関に送付し、新聞報道においても取上げられている(別添4[2000年12月17日付け毎日新聞大阪本社版])。
なお、労災かくしに関し、平成11年に3件(うち1件は10年に把握した事案)、平成12年に4件を送致し、現在3件を捜査中である。 - さらに、次のような指導、啓発等を行うことが有効であると考える。
- 労災かくし事案の事例及びその措置状況について、集団指導等で周知する。
- 労災保険のメリット制に関し、制度本来の趣旨を誤解し、労働災害を発生させた場合に保険料率が上がるとの認識を示している事業主が散見されることから、制度の正しい理解を得るよう周知・徹底する。
- 建設業及び造船業においては、労働災害を発生させた業者を、一律に排除する傾向にあり、発注機関、元請事業者等に対し、業者の選定を行うに際してその発生原因、法違反の有無等を総合的に斜酌するべきであり、労働災害を発生させたことのみをもって業者を発注の対象から1律に排除しないよう、例えば、建設工事発注機関連絡会議等の場において要請する。
- 製造業において、障害が残る程度の災害であるにもかかわらず、出勤させ、死傷病報告の提出義務を免れる事例が認められることから、死傷病報告に加え、障害補償給付請求書等をも考慮して災害時監督を実施する。
- 《3行分墨塗り》
- 障害補償給付支給請求書(以下「障害請求書」という。)の受理に際し、医師による診断(初診時の自訴、災害発生状況等)との整合性の確認を行う。また、療養及び休業給付の請求がなく障害請求書が提出されたものについては調査を励行する。
【山口局】
- 労災かくしに関するビデオ(内容は、労災かくしは社会的に許されないことであり、被災者はもちろん、事業主にとってもあとで大きな弊害となることがよくわかるもの)を作製し、集団指導の場で活用すること。
【徳島局】
- 企画室の総合労働相談窓口において、「労災かくしに関する情報・相談」を受けているということを窓口に明示するなど労災かくしに関する情報を幅広く収集する。
- 労災かくしを行った事業者に対して、労働保険料を割増にするなどのペナルティーを課す。
【愛媛局】
- 発覚時の厳正処分やマスコミへの発表、罰則強化等が効果的と考えられるが、該当事案が相次いだ場合等には関係業界の集団指導等の際に広報チラシを配布したり、業界紙(誌)等に啓発記事を掲載する等あらゆる機会を通じて注意を喚起する。
(広報チラシは別添1[松山署]、業界紙記事は別添2[建通新聞愛媛版]、行政広報紙記事は別添)
【高知局】
- 第3者からの労災のかくしに係る苦情・相談の把握。
- 労働保険と健康保険の違いの周知等、適正給付に対する指導及び広報。
【福岡局】
- 医療機関との通報制度を確立する。
【佐賀局】
- 当該事案を把握した建設行政機関等事業所管行政機関は、当該企業に対して営業停止、反則金等厳しい措置を課すること。
【長崎局】
・都道府県社会保険事務局等との連携
- 健康保険等の支払いにあたり疑義のある事案について、社会保険事務局において被災者、事業主等に調査を行い、労災かくしが疑われる事案について情報の提供を受ける。
- 上記2.が困難な場合、労災かくしが疑われる事案について情報の提供を受け労働局が調査を行う。
- 支払基金におけるレセプトの審査において疑義の認められる事案について、情報提供を求める。
【熊本局】
- 労災保険未加入(下請のみ)の場合やパート・アルバイトの災害には労災保険制度を利用できないと誤解されている面があることから、事業主が労災保険制度に対する正確な知識を持つことが1つの重要な対策と考えられる。また、下請事業者に対して、請負事業の1括、つまり元請負人のみを事業主とみなす旨の規定を年度更 新等あらゆる機会をとらえて周知すること。
【鹿児島局】
- ・労災保険法を改正して、労災かくしに対しては費用徴収を可能とし、また、保険料率を一定期間高くする。
- ・医療機関より、治療費の支払い状況が明らかに不正なもの及び保険適用の正しくなかったものについて情報提供をしてもらう。
【沖縄局】
- 管轄内の警察、消防との連携を図り、情報交換ができうる環境整備を行う。また、医師会に対しても協力を要請する。
【山梨局】
- 《記載一切なし》