毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版

労災保険財政「情報開示が不十分」 公表方法を見直しへ 総務庁行政監察局が勧告

労災保険の財政をめぐり総務庁行政監察局は1999年、「情報開示が不十分で国民に分かりにくい」として、労働省に公表の方法を改善するよう求める勧告を行っていた。業務上の事故を健康保険などで処理する「労災隠し」の横行が問題になっているが、労災財政に関する情報の少なさが、労災保険に対する関心の低さの1因という指摘もあり、労働省は財政の公表方法を見直した。

労災保険の財政は、事業主から総給与に応じた1定の保険料率で得る保険料を収入とし、保険金補償給付や各労働福祉事業などに充てている。保険料収入は、毎年1兆5000億円前後で推移しているが、保険金補償給付などの支出を差し引いた数千億円が毎年、将来の年金補償給付に充てるために積み立てられている。

労災財政について労働省は、年1回発刊の「労災保険事業年報」で損益計算書と貸借対照表を公表している。しかし、損益計算書では、支出にあたる「損失」の欄に保険補償給付費・業務取扱費・施設整備経費-など、内容が分かりにくい科目と金額が並んでいるだけで、労働基準監督署署員の給与となる事務執行費、財政状況の推移や将来見通しなどは把握できなかった。毎日新聞にも「保険料がどう使われているか分からない」との不満の声が寄せられた。

行政監察局は勧告の中で、厚生省が厚生白書で厚生年金や国民年金の積立金の年度別累積状況、財政や保険料率の60年先までの見通しなどをグラフをまじえて公表しているのと比較した。「基本的事項が公表されてない。保険料率の妥当性について国民の理解を得るとともに、労災財政の今後の見通しを明らかにすることが重要」と指摘している。

当時、保険財政に詳しい日大商学部の真屋尚生教授(社会保障論)は「厚生省所管の年金財政と単純比較はできないが、労災保険財政の情報開示が十分でないのは明らかで、そのため労災についての必要最低限の知識さえ持っていない人が多く、社会的関心が薄くなりがちだ。労災財政の情報開示を分かりやすく行うことはもちろんだが、もっと労災事業全般の社会的認知度を高めて行くべきだ」と話した。

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行政管理局の勧告を受けて、厚生労働省は平成12年版の労災保険事業年報から、ページ数が倍以上になった。行政管理局が指摘した「労災保険率の設定根拠、保険財政の将来見通し」では「労災保険財政の概況」という項目が追加された。そこでは「労災保険率設定の基本的考え方」が書かれたうえで、労災保険財政の長期の見通しについて解説された。このほか、長期療養者の実態などについても触れている。

しかし、1件当たりの療養費については、短期で終了する負傷と長期的な病気が区別されておらず、関心を持つ人からは批判が出た。例えば、1週間程度のけがの補償と、職業上発生したがんの治療や休業の補償ではかなりの差が出る。疾病別の療養費がどれくらいなのかは、その疾病の重要度をみるうえでも重要だが、公開の対象から外れている。

具体例でいえば、腰痛や頸肩腕の障害でどれくらいの治療費が払われているかについて情報が公開されていない。ところが、米国では公表されており、米国の研究者から問い合わせがあった国内の労災相談機関の関係者は「公表されていないので分からない」と答えざるをえなかったという。疾病別の詳しい補償額が分かれば、予防対策の費用対効果の分析にも役立つと指摘される。

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