毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版
「言」問題あり 労災隠し “常識”に厳しい対処必要
西野方庸(関西労働者安全センター事務局長)
「けがと弁当は自分持ち」
もともと建設現場の職人気質を表す言葉だが、労働災害の話となると、この言葉の現実味が一気に強まる。
仕事中にけがをすると、その治療費や働けないためにもらえなかった貨金について、労災保険が支払われることはだれでも知っている建前になっている。ところが、少々のけがでは労災保険の手続きをとらず、私傷病として健康保険の扱いにしているケースが多いのも、一部業種にあっては暗黙の常識となっている。例えば、現場で誤って高所から転落して骨折、裂傷も負ったが、会社の車で病院へ行き、健康保険で治療を受けるといった具合である。
労災保険の扱いにしないことに会社にとってのメリットはいくつかある。
まず、事故の原因が労働安全衛生法などの法規違反である場合、隠すことにより処分を免れることができる。もし刑事罰など受けようものなら、官庁の指名入札などから除外されることもあり、大損害となるかもしれない。
また、元請けゼネコンの労災保険適用になることから、下請け、孫請けの事業主自らがゼネコンに遠慮し、労災隠しを図るということもある。建設現場には「○○日無災害記録達成」などという垂れ幕が張ってあるものだから、下請けの事業者にとって、仕事をもらうゼネコンに頭を下げて「労災事故が起きました」などとは言えなくなる。個人の意図はどうあれ、労災隠しが助長されることとなる。
このような状況が常識と化してしまうと、今度は「少々のけがで労災なんて言うのは非常識」ということになってしまう。
1~2週間で治るけがなら、我慢すれば済む話かもしれないが、何カ月も治療が必要で障害が残るようなら困ったことになる。労働省が、初めてこの「労災隠し」排除のための通遠を出したのが1991年のことで、労働基準監督署が摘発に努めることとされたが、一向に減少傾向を示す材料が見当たらない。
監督官庁が労災隠しに対してもっと厳しい処分、摘発をしていくことが必要だ。そして何よりも、労働災害の補償はまず労災保険がカバーするものだ、という情報が常識になっていなければならない。91年以降、有効な対策は講じられていない。このままでは、下請け構造の下で働く労働者が、労災隠しの最大の被害者であり続けてしまう。
20001223「言」問題あり 労災隠し 常識に厳しい対処必要 毎日新聞社大阪本社