毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版
■なくせ労災隠し■パートの皆様、あきらめず申請を「直接労働基準監督署へ」
労災保険扱いすべき事故が健康保険で処理される「労災隠し」の問題で、パートやアルバイト、派遣労働者から「私に労災は適用されないのか」という相談が、労災認定を支援する市民団体に相次いでいる。
答えは「適用される」だ。
終身雇用制度が揺らぎ、パート労働者などは今後も増えるとみられるが、多くは労災保険について十分な知識を得る機会がない。市民団体は「このままでは不安定な立場で働く人たちが泣き寝入りする」と訴えている。
「娘が1999年末、大阪市内のガソリンスタンドでアルバイト中、滑って転倒し頭に重傷を負った。労災にならないのでしょうか」。
今月初め、関西労働者安全センター(06-6943-1527)に男性から電話があった。娘さんはすでに働けるようになったが、現在も薬を服用。会社に相談したが「労災は難しい」と言われたという。
アルバイトやパート、フリーターでも労災保険は正社員と区別なく適用され、治療費負担はゼロ。休業などに対しても同様に補償される。会社側も特別な手続きは必要ない。人件費の届け出(賃金台帳)の提出とともに自動的に労災保険料を支払う仕組みだからだ。
労災にあった後に退職した人も同様に、労災保険が適用される。労災にあうと、休業中と30日間は解雇が禁止されているが、仮に何らかの理由で退職しても、時効の範囲で労災が適用される。同センターの担当者は「今からでも労働基準監督署で労災申請をしてください」と助言した。
派遣労働者と名乗る男性は、「通勤中に交通事故にあった。労災は無理でしょうね」とあきらめ気味に別の市民団体に相談してきた。派遣先の労働に関して業務災害や通勤災害を被った場合は、派遣元の労災保険が適用される。派遣元が労災申請に協力しなかったとしても、自分で直接、労働基準監督署に出向けばよい。
厚労省によると、パートや派遣社員などの「非正社員」が雇用者全体に占める割合は、1994年の約212%から99年には約27・5%(1335万人)に拡大するなど、企業の雇用形態の多様化が進んでいる。
脇田滋・龍谷大教授(社会保障法)は「アルバイトをしている大学生が、けがをして相談してくることがしばしばある。実態としては、パートや派遣労働者らに労災保険の情報が全く伝えられていない。制度の周知徹底や手続きの簡素化などに行政が取り組むべきだ。派遣元は労災保険の適用となるが、派遣先は職場の労働安全衛生の責任を持つ。役割がばらばらになっていて災害防止で支障が出かねない。労災の連帯責任を負う仕組みも必要だ」と指摘している。
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