毎日新聞社大阪本社 労災隠し取材班/(2004.11.15)web版
■なくせ労災隠し■保険給付請求書に押印しない理由書 会社に出させて申請-近畿の女性
「泣き寝入りしなければ道は開ける」-本来は労災保険扱いなのに、健康保険で処理される「労災隠し」が問題となる中で、勤務先の会社が労災申請に難色を示しながらも独力で労災認定を勝ち取った女性がいる。仕事で腰を痛めたのに「働くこととは我慢すること」と非協力な会社に、「労災保険の補償給付請求書に判を押さない理由書」を出させて労働基準監督署に提出するという異例の経過を経て、1年8カ月後に補償給付開始にこぎつけた。さまざまな”教訓”を含んだ闘いの軌跡を追った。
近畿地方南部の地方都市に住む小中聡子さん(33歳)=仮名。1996年春、スーパーでパート勤務中、重い商品を移動させる際に腰に激痛が走った。椎間板ヘルニアと診断され、勤務を続けたが、10月にやっと1週間の休みが認められた。
勤務時間内の作業中での事故。小中さんは当然、労災扱いになると信じて会社に届けた。だが会社側は、事故から日数が経過し過ぎている。今まで雇った従業員で、腰痛を労災と認めた例はない-などを理由に「(労災保険補償給付の請求書に)判は押せない」と言い張った。さらに、上司の1言が追い打ちをかけた。「働くということは我慢することだ」。
小中さんは1人で闘おうと決意し、翌年2月、退職した。
病院や労働基準監督署に通い、労災補償給付に向けての方法、手順についてアドバイスを受け、図書館にも通って労災保険の適用について勉強した。同年9月、会社に労災申請する意思を伝え、10月には、病院から請求書に必要な判をもらったが、会社から得ることはできなかった。
この時、相談に行った労働基準監督署から「会社が判を押せない理由を書いた書類があれば申請を受理する」との1言を聞き出した。会社と交渉して、その主張を記した書類を得た小中さんは請求書を労働基準監督署に提出。11月末、初の休業補償の振り込み通知が届いた。事故から1年8カ月たっていた。
小中さんは「会社や病院、労働基準監督署とのやりとりをメモで残しておくことがとても大事であると実感しました」とアドバイスする。
労働省労働基準局補償課は「労災の各種請求書には、事業主が証明する欄があるが、その証明が申請に絶対必要というわけではない。被災者本人が会社にいたことを証明できれば、申請を受理して審査する」と話している。