労災隠し「通報せず」:広島県医師会の調査でも3割以上が労災隠し経験あり

安全センター情報1996年4月号で、日本医師会の労災・自賠責委員会答申(1995年12月21日)が次のように指摘していることを紹介した

「労災事故であることを隠し、その診療を健康保険等によって行ういわゆる労災かくしへの対応を求める医療現場からの声が、ここ数年徐々に強くなってきている。そこには、労災かくし事案が増加傾向にあるということばかりではなく、その内容が企業ぐるみで行われている疑いのある事例が増加しているという背景がある」。

1995年4月号では、大阪府医師会の労災部会が行った「労災隠しに関するアンケート調査結果」(調査対象期間1994年1月~12月)を紹介した。広島県医師会でも、1994年7月~1995年6月を対象期間として同様の調査を行っているので、今回は、その結果を紹介する。

30.2%がトラブル経験

「患者・事業主とのトラブル」が、「時々ある」28.7%(病院34.7%、診療所24.9%=「有診」(有床診療所)と「無診」(無床診療所)の合計)と「しばしばある」15%(病院玉.1%、診療所1.7%)を合わせて、30.2%(病院35,8%、診療所26.6%)の医療機関が、明らかに労働災害であるにもかかわらず労災扱いを拒否されるというトラブルを経験している(表1)。
大阪府医師会の同様の設問に対する回答は、「時々ある」35.5%(病院442%、診療所31.3%)、「しばしばある」2.6%(病院19%、診療所2.9%)、合わせて38・1%(病院46.1%、診療所34.2%)であった。

「明らか労災を健保扱い」65.9%

しかし、広島県医師会の調査では.全調査対象医療機関に、明らかに労災と思えるもので「健保扱いにした」、「自費診療扱いにした」等の経験の有無を聞いているが、ここで経験ありと答えた医療機関の全体に対する割合は65.9%(病院58.9%、診療所69.1%)にものぼっている(表2)。

複数回答でないのでデータの取り方に問題があるが、「自費診療扱いにした」が60.2%で、「健保扱いにした」38・4%、「その他」1.4%を大きく上回っている。

大阪府医師会の調査では、先の設問で「トラブルを経験したことがある」と答えた医療機関のみを対象に、複数回答可で同様の設問を行っているが、こちらでは、「健康保険で請求した」74.4%の方が、「自費扱いとし患者または事業主に請求」64.7%、未収として処理」11.3%よりも多くなっている。

労災と思えるものを他の取扱いにした理由は以下のとおりである(複数回答)(表3)。
「患者の立場」とするのが最も多く24.4%、次いで、「事業主の圧力」15.9%、「患者・事業主が労災を理解していない」14.4%の順である。大阪府医師会の調査でも同様の設問をしているが、「患者の判断による(事業主に迷惑をかけたくない等の理由で)」85.8%、「事業主の指示による」84.5%、「患者が労災の適用を知らない」32.4%、である。

表には示さなかったが、患者・事業主が労災扱いを拒否した場合の対応についても聞いており、その結果は次のとおり(複数回答、括弧内は大阪の調査結果)。
「患者・事業主に説明して現認証の提出を求める」53.0%(大阪の調査では、「患者に説明をし用紙の提出を求めた」81.6%、と「事業主に労災の手続をとるよう連絡した」33.7%の両方聞いている)、「患者・事業主の判断に委ねる」25.1%(35.3%)、「労働基準局・監督署に連絡する」3.0%(3.9%)、「県医師会に連絡する」0.5%、「その他」13.2%(1.3%)。

労災隠しは「通報されていない」

広島では、労働基準局・監督署へ提出する「情報提供書」、あるいは広島県医師会へ提出する「労災事故の健保使用状況報告書」という制度があるようだが、現実にこれらの書類を提出したことがあるのは1%前後で(表4)、ほとんど機能していないようだ。
報告がないことは、「労災隠しが存在しない」ことの証明にはならないことがわかる。大阪・広島での経験をもとに、より正確な医療機関に対する実態調査が行われることが求められる。

安全センター情報1996年6月号