石綿による疾病の認定基準に基づく本省協議に係る留意点について/事務連絡 令和7(2025)年3月14日

事務連絡
令和7年3月14日

都道府県労働局
労働基準部労災補償課長殿

厚生労働省労働基準局補償課
職業病認定対策室長

石綿による疾病の認定基準に基づく本省協議に係る留意点について

石綿ばく露により疾病を発症したものとして労災保険給付又は特別遺族給付金の請求がなされた事案のうち、業務上外の判断に当たって本省への協議を要するものについては、平成24年3月29日付け基発0329第2号「石綿による疾病の認定基準について」最終改正:令和5年3月1日付け基発0301第1号。以下「認定基準」という。)の記の第3の5により指示し、本省協議に係る留意点については、平成28年7月29日付け職業病認定対策室長事務連絡「石綿による疾病の認定基準に基づく本省協議に係る留意点について」で示しているところである。
今般、本省協議の留意点の明確化等の観点から下記のとおりポイントを整理したので、事務処理の参考とされたい。
なお、本事務連絡の施行に伴い平成28年7月29日付け職業病認定対策室長事務連絡「石綿による疾病の認定基準に基づく本省協議に係る留意点について」は廃止する。

1 肺がん、中皮腫及びびまん性胸膜肥厚について

肺がん、中皮腫及びびまん性胸膜肥厚については、石綿ばく露作業への従事期間が一定の年数に満たないことを本省協議の要件としている(認定基準の記の第3の5(1)イ及びエ並びに(2)ウ並びに(4))が、本省協議のポイントは次のとおりであること。

(1) 石綿ばく露作業への従事期間がわずかでも認められる場合

石綿ばく露作業への従事期間の算定は作業の回数・頻度を考慮せず行い、その結果、認定要件の年数に満たない場合は、本省協議を行うこと。

(本省協議を要する例)

石綿肺の所見(じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上であるものに限る。)が得られていない中皮腫事案について、わずかな日数であっても石綿ばく露作業への従事が認められる場合。

(2) 石綿ばく露作業への従事期間が明確に判断できない場合

請求人が申し立てる石綿ばく露作業への従事を裏付ける客観的な資料(事業主や同僚労働者の証言のほか、平成17年7月27日付け基労補発第0727001号に基づき転々労働者等の事実認定を行うに当たっての厚生年金保険等の被保険者記録や雇用保険記録等)が 得られないために、認定基準に定める石綿ばく露作業への従事期間の要件を満たすものか否かを明確に判断できないものについては、本省協議を行うこと。
なお、厚生年金保険等の被保険者記録や雇用保険記録等から請求人が事業場に雇用されていた事実が認められる期間について、請求人の申し立てる石綿ばく露作業の従事期間と齟齬がなく、事業主や同僚労働者の証言等から、請求人が当該期間に石綿ばく露作業に従事していたと判断できる場合は、本省協議を行うことなく、当該期間について石綿ばく露作業に従事したものと事実認定して差し支えない。
また、調査の結果、請求人に労働者性が認められず、労災保険の特別加入も行われていない期間にのみ、石綿ばく露作業に従事していた事実が認められ、その他の期間について石綿ばく露作業への従事がないと判断できる場合は、請求人に労働者等としての石綿ばく露作業従事期間が認められないこととなることから本省協議を要しない。
ただし、請求人等が石綿ばく露作業に従事したと申し立てる期間のみならず、他の期間における石綿ばく露作業の従事歴の有無等、必要な調査を実施したうえで判断する必要があることに留意すること。その際、調査結果復命書や作業歴情報には、「石綿ばく露作業への従事期間は認められるが、労働者性が認められない」等、調査において把握した事実を適切に記載すること。

(参照通達)

平成24年9月20日付け基労補発0920第1号「石綿による疾病の業務上外の認定のための調査実施要領について」の別添「石綿による疾病の業務上外の認定のための調査実施要領」の3の(7)
イ 平成24年9月20日付け基労補発0920第2号「石綿による疾病の業務上外の認定のための調査実施要領(特別遺族給付金関係)について」の別添「石綿による疾病の業務上外の認定のための調査実施要領(特別遺族給付金関係)」の3の(8)

2 良性石綿胸水について

良性石綿胸水については、全件本省協議の対象としている(認定基準の記の第3の5(3))が、本省協議のポイントは次のとおりであること。

(1) 良性石綿胸水以外の傷病名により請求がなされた場合

びまん性胸膜肥厚等の良性石綿胸水以外の傷病名により請求がなされた事案であっても、調査の過程で良性石綿胸水の発症が疑われる場合は、良性石綿胸水に係る療養等の要否を判断する必要があることから、良性石綿胸水に係る石綿確定診断委員会への確定診断の依頼を行い、その意見書を添えて本省協議を行うこと。
なお、良性石綿胸水の発症が疑われる場合とは、主治医等が「良性石綿胸水」と判断している場合のほか、診療録等の医学的資料において「良性石綿胸水」とは記載されていないものの、胸水の発生が認められ、当該胸水の発生原因について鑑別診断が行われていない場合も含むものであること。
この場合は主治医等に当該胸水の発生原因に関し意見を求める等、必要な調査を行い、胸水の発生原因が不明の場合や良性石綿胸水が疑われる場合は石綿確定診断委員会へ依頼する等必要な処理を行うこと。

(2) 石綿確定診断委員会から「良性石綿胸水と判断できない」と意見された場合

石綿確定診断委員会から、胸水に関する検査が行われていない等の理由で、労働基準監督署長から提出された医学的資料からは良性石綿胸水との診断が出来ない旨の意見書が送付された場合についても、関係資料を添えて本省協議を実施すること。
なおこの場合は、石綿確定診断委員会に資料を送付した後、胸水に関する検査が実施されているか、胸水に関する検査を実施する予定があるかを医療機関に確認し、確認結果を本省に送付すること。

(3) 良性石綿胸水に係る療養を行っていた者が死亡した場合

労災保険により良性石綿胸水に係る療養を行っていた者が死亡し、良性石綿胸水の傷病名により遺族補償給付の請求がなされた場合は、死亡原因が良性石綿胸水であるかについて、本省協議を行うこと。

3 認定基準に定めのない疾病について

認定基準に定めのない疾病については、石綿により発症したものとして請求があったものについて本省協議の対象としている(認定基準の記の第3の5(5))が、本省協議のポイントは次のとおりであること。

(1) 認定基準に定めのない疾病に係る請求がなされた場合

認定基準において石綿との関連が明らかな疾病として掲げられている肺がん等5つの疾病(以下「対象疾病」という。)以外の疾病(以下「対象外疾病」という。)を石綿により発症したものとして請求がなされた場合は、石綿ばく露作業への従事期間が一切ないものを除き、本省協議を行うこと。
なお、対象外疾病に係る遺族補償給付等については、原則、本省協議を要するものであるが、死亡診断書(死体検案書)の「死亡の原因」欄のI欄の(ア)直接死因に対象外疾病が記載されているものの、当該被災労働者が認定基準を満たす肺がん又は中皮腫(以下「肺がん等」という。)を発症している事実が認められ、かつ、地方労災医員等が当該死亡と肺がん等との間に相当因果関係を認める医学的意見を示している場合は、本省協議を行わず、当該死亡と石綿関連疾患の間に相当因果関係が認められるものとして、業務上として決定して差し支えない。
このとき、当該肺がん等が認定基準に定める要件を満たさず、認定基準記の第3の5(1)又は(2)の本省協議を要するものである場合や地方労災医員等が死亡と石綿関連疾患との間に相当因果関係が認められないとの医学的意見を示している場合は、本省協議を要することに留意すること。
対象外疾病に係る請求について、本省協議を要するもの等については別紙で例示するため、参照されたい。

(2) 疾病名の確定がなされていない場合等

主治医において疾病名の確定がなされておらず、「肺がん(疑い)」、「中皮腫(疑い)」等により請求がなされた事案について、地方労災医員等の意見書において疑義が示された場合は、当該疾病に係る石綿確定診断委員会への確定診断の依頼を行い、その意見書を添えて、本省協議を行うこと。
また、石綿確定診断委員会から、確定診断できない旨や、対象外疾病である旨の意見書が提出された場合も、本省協議を行うこと。
ただし、石綿確定診断委員会から、対象疾病の発症が認められる旨の意見書が提出され、当該疾病が認定基準に定める要件を満たすときは本省協議を要さず、業務上として決定して差し支えない。

(別紙)

対象外疾病に係る請求の本省協議の要否に関する例

1 本省協議を要する例

(1) 療養補償給付又は休業補償給付の請求で、請求書(レセプトを含む。)に対象疾病以外の傷病名のみが記載されているもの。
(2) 遺族補償給付及び葬祭料並びに特別遺族給付金の請求で、死亡診断書(死体検案書)の「死亡の原因」欄のⅠ欄の(ア)から(エ)までに、対象疾病以外の傷病名のみが記載されているもの。
(3) 死亡診断書の直接死因が「肺炎」、その原因が「肺がん」とされているところ、主治医及び地方労災医員が「肺がんに対する手術等の一連の治療の経過で肺炎を発症し、死亡に至ったものと認められる」等、死亡と肺がんの相当因果関係を認める意見を示しているが、当該被災労働者に広範囲に該当しない胸膜プラーク所見は認められるものの、石綿ばく露作業従事歴が10年に満たず、その他の認定基準の要件も満たしていない場合。
(4) 業務による石綿ばく露により「肺がん」を発症したとして、労災認定を受けていた労働者が死亡し、遺族補償給付の請求が行われ、当該被災労働者の死亡診断書の直接死因が「肺炎」、その原因が「肺がん」とされているところ、地方労災医員が「死因の肺炎は石綿関連疾患とは関係のない誤嚥性肺炎であり、死亡と石綿関連疾患との間に相当因果関係が認められない」等、死亡と石綿関連疾患(肺がん)との間の相当因果関係を否定する意見書を提出している場合。

2 本省協議を要さない例

(1) 業務による石綿ばく露により「肺がん」を発症したとして、労災認定を受けていた労働者が死亡し、遺族補償給付の請求が行われ、当該被災労働者の死亡診断書の直接死因が「肺炎」、その原因が「肺がん」とされているところ、主治医及び地方労災医員が「労災傷病である肺がんに対する化学療法の影響により、間質性肺炎が増悪し死亡に至ったものと認められる」等、死亡と石綿関連疾患(肺がん)との間に相当因果関係を認める意見書を提出している場合。
(2) 「中皮腫」で療養していた労働者が死亡し、遺族補償給付の請求が行われ、当該被災労働者の死亡診断書の直接死因が「慢性呼吸不全」とされているところ、主治医及び地方労災医員が「被災労働者に発症した疾病は胸膜中皮腫と認められ、当該胸膜中皮腫の進行によって死亡したものと認められる」等、死亡と石綿関連疾患(中皮腫)との間に相当因果関係を認める意見書を提出しており、当該労働者に1年以上の石綿ばく露作業への従事が認められる場合。

安全センター情報2025年12月号