ILO 2025年労働環境における生物学的ハザーズ条約(第192号)・勧告(第209号)
2025年6月13日に第113回国際労働会議で採択された国際労働機関(ILO)の労働環境における生物学的ハザーズに対する予防及び保護に関する条約(第192号)及び勧告(第209号)(略称「2025年労働環境における生物学的ハザーズ条約・勧告」)「安全センター情報」による本文の仮訳
目次
労働環境における生物学的ハザーズに対する予防及び保護に関する条約(第192号)
[前文 省略]
第1部 定義及び適用範囲
第1条 この条約の適用上、
(a) 「生物学的ハザーズ」とは、曝露が労働に関連する場合に、人の健康に危害を及ぼすおそれのある、微生物、細胞または細胞培養物、内部寄生物、若しくは遺伝子組み換えされたものを含めた非細胞性微生物学的物質、並びにそれらに関連したアレルゲン及び毒素、並びに植物または動物由来のアレルゲン、毒素及び刺激物質をいう。労働環境における生物学的ハザーズへの曝露により人体に引き起こされる危害には、疾病及び傷害が含まれる。
(b) 「作労働境における生物学的ハザーズへの曝露」とは、労働者が労働環境において生物学的ハザーズに接触し、またはその近傍にいる事象をいう。この曝露には、労働に関連した活動及び公衆衛生上の状況が含まれる。感染または危害が生じる可能性は、感染の様式及び曝露の経路と本質的に関連しており、適切な予防戦略及び措置を立案する際には、これらの点を考慮することが重要である。
(c) 「生物学的リスク」とは、生物学的ハザーズへの曝露により引き起こされる有害な事象の発生の可能性及び当該事象により引き起こされる人々の傷害または健康に対する被害の重大性の組み合わせをいう。
(d) 「権限のある機関による生物学的リスクの評価」とは、実施される労働に伴う生物学的リスクに関する適切なかつ適当なリスク管理措置のための規制枠組みまたはガイドラインの策定を支援するための、権限のある機関による、生物学的ハザーズの確認及びリスクの評価のための体系的プロセスをいう。この評価では以下を考慮する。
(i) 人の健康危害を引き起こす可能性及び当該危害の重大性を含めたハザーズの特徴
(ii) 効果的な診断、予防及び治療の可用性
(iii) 人口及び環境への拡散に関する公衆衛生上のリスク
(e) 「労働者」には、公務員を含め、すべての被雇用者が含まれる。
第2条
1 この条約は、経済活動のすべての部門におけるすべての労働者に適用される。
2 この条約を批准する加盟国は、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、及び、関係する生物学的リスク並びに適用されるべき予防的及び保護措的置についての権限のある機関による評価に基づいて、安全かつ健康的な労働環境が維持されることを条件として、その適用が重要性を有する特殊な問題が生ずる特定の経済活動部門または限定された範疇の労働者を、一部または全部について、その適用から除外することができる。
3 前項の規定による可能性を援用する各加盟国は、国際労働機関憲章第22条の規定に基づくこの条約の適用に関する最初の報告において、かかる除外の理由を提供し、除外された労働者に適切な保護を提供するために講じられた措置を既述して、除外された経済活動の特定の部門または労働者の範疇を列挙するとともに、その後の報告において、適用範囲の拡大に向けた進展状況を報告する。加盟国は、除外を可能な限り早期に廃止するため、最大限の努力を払う。
第2部 国の政策
第3条 各加盟国は、国内法及び慣行に適合し、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、権限のある機関による生物学的リスクの評価に基づいて、生物学的ハザーズへの曝露からの保護を労働安全衛生に関する国の政策に統合するとともに、当該政策を定期的に検討する。
第4条 労働環境における生物学的ハザーズに関して、国の政策は次のこと考慮する。
(a) 公衆衛生及び環境に関するものを含め、当該政策が労働安全衛生の規定と一致し、補完し、または改善する場合に、その他の関連する政策
(b) 労働環境における生物学的ハザーズに関する労働安全衛生の管理に関する最良の入手可能な情報
(c) 労働者の身体的及び精神的健康及び福祉、並びに適当な場合には使用者のための支援メカニズムの必要性も考慮して、新興のまたは再興のハザーズ及びリスク、予防、これらのハザーズに関連した事故及び緊急事態に対処するための計画及び手続などの、準備及び対応措置を含め、生物学的ハザーズ及びリスクへの曝露の効果的な管理のための措置を策定する必要性
(d) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に対する気候及び環境リスクの影響、及び確認されたリスクを防止及び対処するために適切な措置を講じる必要性
(e) 1981年労働安全衛生条約(第155号)、2006労働業安全衛生促進枠組み条約(第187号)の関連規定、及び適当な場合にはその他の関連する国際労働基準
(f) 適当な場合には、女性と男性が直面する異なるレベルの曝露及びリスクを含め、すべての労働者を考慮した視点を確保する重要性
第5条 労働環境における生物学的ハザーズに関する最良の入手可能な情報を得るために、各加盟国は、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、適当な場合には、国内法及び慣行に従って、以下のための措置を講じる。
(a) 公衆衛生及び労働安全衛生機関を含め関連する国の機関及び科学的機関並びに関連する国際機関との間で、国内及び国際的に情報を交換するとともに、行動を調整する。
(b) 入手可能な情報が不十分な場合には新たな研究を促進する。
第6条 各加盟国は、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、以下のための特別の規定を定める。
(a) それにより労働者の安全及び健康が損なわれない場合に限り、及び国内法及び慣行に従って、競合者に対するその開示が使用者の事業に危害を与えるおそれのある秘密の情報を保護する。
(b) 労働環境における生物学ハザーズへの曝露に関連した国内法及び規制の違反に対処するために、労働者及びその代表に、適切かつ効果的な報告メカニズムへの容易かつ秘密のアクセスを確保する。
(c) そのような違反を報告した者が報復から保護されることを確保する。
第3部 予防的及び保護的措置
第7条
1 各加盟国は、国内法及び慣行に従い、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、権限のある機関による生物学的リスクの評価の結果に基づいて、労働環境における生物学的ハザーズ及びリスクの管理のための予防的及び保護的、並びに適当な場合には警戒的措置に関する国の措置及びガイドラインを策定、公表、定期的に検討及び更新する。
2 これらの措置及びガイドラインは
(a) 曝露労働者の保護の継続的改善を促進する。
(b) 新興及び再興のハザーズ及びリスクを考慮する。
(c) 以下について具体的な規定を定める。
(i) 生物学的ハザーズへの曝露により、労働者が認識されている危害のリスクが高い業種及び職種
(ii) 当該措置が差別につながる、または職業的分離に寄与しないことを確保する必要性を考慮しつつ、特別な保護を必要とする労働者
(d) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に関連した事故及び緊急事態に対処するための計画及び手続など、準備及び対応措置を含める。
第8条
1 各加盟国は、権限のある機関による生物学的リスクの評価に基づいて、労働環境における生物学的ハザーズ及びリスクの管理に関する予防的及び保護的、並びに適当な場合には警戒的措置について、使用者、労働者及びその代表に対して、適時の情報及び支援を提供する。
2 当該情報は、アクセス可能な形式及び理解可能な言語で提供され、定期的に検討され、必要に応じて最新の科学的及び技術的知見を反映するように更新される。
第4部 労働衛生及び労働衛生サービス
第9条 国内法及び慣行に従って、労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に関する予防的及び保護措置を講じるにあたって、各加盟国は以下を追求する。
(a) 生物学的ハザーズへの曝露のリスクが高い業種及び職業並びに特別な保護を必要とする可能性のある労働者を優先しつつ、経済活動のすべての部門におけるすべての労働者に対して労働衛生サービスを着実に拡大する。
(b) 労働者に対する労働衛生サービスの提供のため、国の衛生及び労働インフラ、専門技能及び資源の調整及び効率的な活用を促進する。
第5部 労働災害及び職業病の報告、記録及び届出並びにデータの収集
第10条 各加盟国は、国内事情及び慣行に従い、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、以下についての手続を確立、実施及び定期的に検討する。
(a) 国内法及び慣行に従って、使用者またはその他の責任ある者による、労働環境における生物学的ハザーズへの曝露により引き起こされる労働災害、職業病及び、適当な場合には危険事象の報告、記録、届出及び調査
(b) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露により引き起こされる労働災害、職業病及び、適当な場合には危険事象に関する、性別に集計された、年次統計の作成及び公表
(c) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露により引き起こされる労働災害、職業病またはその他の健康に対する傷害の重大な事例についての、権限のある機関による、調査の実施
(d) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に対処する国の労働安全衛生政策に基づき講じられる措置に関する情報の年次公表
(e) そのような疾病の潜伏期間を考慮しつつ、労働環境における生物学的ハザーズへの曝露により引き起こされる職業病及び傷害に関する記録についての適切な保存期間の決定
第11条 各加盟国は、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、並びに国内法及び慣行、関連する国際基準及び科学的進展に従い
(a) 予防、記録、届出及び、適当な場合には補償の目的のために、職業病の国のリストを定期的に検討する。
(b) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露と当該疾病との間の直接的関連が科学的に確立された場合、または国内の事情及び慣行に適切な方法により決定された、疾病を含めるよう、これらのリストを必要に応じて更新する。
第6部 雇用災害給付
第12条 各加盟国は、労働環境における生物学的ハザーズへの職業曝露による疾病、負傷、障害または死亡に、国内法及び慣行に従い、雇用災害給付または補償を受ける権利が生じることを確保する。
第7部 法規の遵守
第13条
1 各加盟国は、適切かつ適当な監督システム、適当な場合には、使用者、労働者及びその代表に対する技術的情報及び助言の提供を含め、その他の遵守確保のための措置を通じて、労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に関する国内法及び規制の遵守を確保するとともに、これらの機能のために必要な十分な資源及び支援を配分する。
2 各加盟国は、労働監督官及び、抵当な場合には労働環境における生物学的ハザーズ及びリスクに関する義務を有するその他の職員について以下を確保する。
(a) これらのハザーズ及びリスクについて訓練を受けている。
(b) 関連する国内法及び規制の遵守を評価する際、労働安全衛生に対する体系的なアプローチを促進する。
(c) その義務を遂行中に個人の安全を確保するための明確かつ堅固な安全プロトコルをもっている。
(d) 使用者から適切な保護機器を提供されている。
第14条 各加盟国は、国内法及び慣行に従い、労働環境における生物学的ハザーズに関する法及び規制の違反に対して適切な罰則及び是正措置を提供するとともに、それらの効果的な実施を確保する。
第8部 使用者の義務及び責任
第15条 使用者は、適切かつ必要な予防的及び保護的措置を講じることにより、合理的に実行可能である限り、その管理下にある労働環境が、生物学的ハザーズへの曝露による安全衛生リスクがないことを確保する。
第16条 使用者は、国内法及び慣行並びに適用される団体協定に適合し、適切な場合には、女性及び男性が直面するものを含め、異なるレベルの曝露及びリスクの考慮を確保しつつ、合理的に実行可能な限り、労働環境における生物学的リスクの評価の結果としての予防的及び保護的措置を講じる。とりわけ、それらは
(a) 特別な保護を必要とする可能性のある労働者を十分考慮しつつ、労働者及びその代表と協議のうえ、生物学的ハザーズから生じる労働者の安全及び健康へのリスクの評価を実施、検討及び、必要な場合には更新するための適切かつ適当なシステムを確立する。
(b) 管理のヒエラルキーを十分考慮しつつ、労働環境における生物学的ハザーズを根絶し、またはそれが可能でない場合には、それらのハザーズによるリスクを管理及び最小化するためのあらゆる合理的かつ実行可能な措置を講じる。
(c) 生物学的ハザーズの特徴及び、入手可能な場合には権限のある機関による生物学的リスクの評価を考慮しつつ、効果的な予防的及び保護的措置を実施する。
(d) 必要な場合には、労働者に費用を負担させることなしに、管理のヒエラルキーに従って、その使用のための訓練とともに、適切な個人用保護具を提供、維持及び交換する。
(e) 生物学的リスク及びそれらの潜在的影響の早期発見を確保するため、職業リスクにとって適切かつ適当な、労働環境及び労働者の健康の定期的な監視を実施する。
(f) 労働プロセスを監督し、適切な個人用保護具の入手可能性を含め、予防的、保護的及び管理措置の有効性を定期的に検討する。
(g) リスクを適切に評価するために入手可能な情報が不十分である場合には、警戒的措置を講じる。
(h) 労働環境における生物学的ハザーズ及び適用される予防的及び保護的措置に関する情報、指示及び訓練を、有給の労働時間中に及び、可能な場合には通常の労働時間内に、管理者、監督者及び労働者並びに労働者代表に対して、適切かつ定期的な間隔で提供する。
(i) すべての労働者が、そのようなリスクに関わる作業を開始する前に、労働方法、材料または新たな情報に基づくリスク評価に変更がある場合及び、必要に応じて定期的な間隔で、アクセス可能な形式及び理解可能な言語で、生物学的ハザーズへの曝露によるリスク及び適用される予防的及び保護的措置について、適切に知らされることを確保する。
(j) 生物学的ハザーズが関わる事件に関連したデータを保存するとともに、それらの原因を確認し、同様の出来事の再発を防止するために、労働安全衛生委員会または労働者代表と協力して、労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に関連した労働災害、職業病及び、適当な場合には危険事象を調査する。
第17条 二以上の使用者が同一の作業場において同時に活動に従事する場合には、それらの使用者は、各使用者のその労働者に対する責任を損なうことなく、労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に関連した労働者の安全及び健康を確保する方法について、協力する。
第18条 使用者は、感染症のアウトブレークを考慮しつつ、その規模及び性質に応じて、労働環境における生物学的ハザーズに関連した事故、事象及び緊急事態に対処するための準備及び対応計画を策定する。これらの計画及び手続は、権限のある機関により提供される手引きと一致するものとする。
第9部 労働者及びその代表の権利及び義務
第19条 労働環境における生物学的ハザーズに関して、労働者及び、適当な場合にはその代表は、以下に対する権利を有する。
(a) 使用者または権限のある機関により実施される生物学的ハザーズの確認及びリスク評価に関して協議を受ける。
(b) 労働環境における生物学的ハザーズ及びリスク並びに適切な予防的及び保護的措置とそれらの実施に関適用に関する情報及び訓練を受ける。
(c) 自ら及びその他の労働者を保護するための予防的及び保護的措置に関して協議を受けるとともに、それらの実施に関与する。
(d) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露に関し、使用者により調査及び協議を受ける。
(e) 労働災害、職業病及び、適当な場合には危険事象の調査に参加するとともに、これらの調査の結論について協議を受ける。
(f) 個人データ及び医療データに関する秘密保持規則に従うことを条件に、労働者の健康の監視に関する報告を受ける。
(g) 採用された措置及び使用された措置が適切な予防及び保護を確保するために十分に効果的でないとみなす場合に、国内法及び慣行に従い、権限のある機関に申し立てる。
(h) そのような労働が入手可能であり、当該業務に必要な資格を有するか、または必要な訓練を受けることができることを条件に、国内法及び慣行に従い、労働衛生サービスの勧告に基づき、特定の職務における継続的な雇用が健康上の理由により禁忌とされた場合に、代替労働に転換される。
(i) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露により引き起こされ、または増悪される病状、疾病または傷害の場合に、国内法及び慣行に従い、医療及びリハビリテーションを受ける。
(j) 生物学的ハザーズへの曝露により引き起こされる疾病に罹患または感染したことによるいかなる差別からも保護される。
(k) 生物学的ハザーズ及びリスクに関連した労働安全衛生問題を報告するために、権限のある機関との有効な連絡手段を提供される。
第20条 労働環境における生物学的ハザーズに関して、そのもとで労働者が以下を含めた義務を負う、事業所のレベルにおける措置があるべきである。
(a) 使用者より受けた指示並びに提供された訓練及び手段に従い、この目的のために入手可能になされた適切な個人用保護具、設備及びその他の機器の適切な取扱及び使用を含め、定められた労働安全衛生措置に従う。
(b) 生物学的ハザーズへの曝露を生じさせる、若しくは自らの安全または健康若しくは他者の安全または健康にリスクを生じさせると信じる労働状況を、直属の監督者に迅速に報告する。
(c) 生物学的ハザーズに対処するための労働安全衛生措置を適切に確認及び実施するために、使用者及びその他の労働者と協力する。
第21条 上記で設定される権利及び義務に加えて、労働環境における生物学的ハザーズに関して、労働者は
(a) 自らの生命または健康に急迫した重大な危険があると信じる合理的な理由がある場合に、不当な不利益を被ることなく、労働状況から自らを退避させる権利を有する。
(b) 自らの生命または健康に急迫した重大な危険をもたらすと信じる合理的な理由のある労働状況を、直属の監督者に遅滞なく報告する。
(c) 必要な場合には、使用者が効果的な是正措置を講じるまで、生命または健康に急迫した重大な危険が継続している労働状況に戻ることを、使用者から要求されない。
第10部 適用方法
第22条 各加盟国は、もっとも代表的な使用者団体及び労働者団体と協議のうえ、法令を通じて及び国内の事情及び慣行に適合した団体協定またはその他の措置を通じて、この条約の規定を実施する。
第11部 規範的言語
第23条 この条約の目的のために、一般的な男性形の使用は、文脈から明らかに別段の定めがない限り、排他的ではなく、女性を含むものと解釈される。
第12部 最終規程
[第24条~第31条 省略]
[安全センター情報による仮訳]
※https://www.ilo.org/resource/record-decisions/convention-concerning-prevention-and-protection-against-biological-hazards
労働環境における生物学的ハザーズに対する予防及び保護に関する勧告(第209号)
[前文-省略]
1 この勧告の規定は、2025年労働業環境における生物学的ハザーズ条約(「条約」)の規定を補完するものであり、これらと併せて考慮されるべきものである。
I 定義及び適用範囲
2 条約第1条(a)に含まれる定義に関連して、生物学的ハザーズには以下が含まれる。
(a) 一定の原生動物、細菌、真菌、オオミ菌類及び藻類を含め、病原性微生物及びそれらに関連した毒素及びアレルゲン
(b) 他の生物学的危険物に汚染されている可能性があり、または腫瘍誘発可能性、毒素またはアレルゲンなどの内在的なリスクを伴う可能性のある、一次培養物及び不死化細胞株の双方を含めた、細胞及び細胞培養物
(c) 内部寄生物、すなわち原生動物及び線虫
(d) ウイルス、プリオン及び組み換え、遺伝子組み換えまたは合成DNA及びRNA材料を含めた、非細胞性微生物学的物質
(e) 咬傷、刺傷またはこれらの物質の放出または存在を伴うその他の事象経由で、刺激、アレルギー反応または全身性毒性を引き起こす可能性のある、動物または植物により生成される毒及びアレルゲン含有分泌物を含め、花粉を除いた、刺激物質、アレルゲン及び動物または植物由来の毒素
3 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露により引き起こされる人の健康に対する危害には以下が含まれる。
(a) ウイルス性肝炎に続発する肝疾患及びその後遺症などの急性または慢性感染に続発する健康影響を含めた、ブルセラ症、ウイルス性肝炎、ヒト免疫不全ウイルス感染症、破傷風、結核、炭疽病及びレプトスピラ症などの感染性疾患
(b) 細菌または真菌アレルゲン若しくは毒素に関連した毒性または炎症性症候群などの非感染性疾患
(c) 労働環境における生物学的ハザーズへの曝露が関わる労働災害による死亡または人身傷害若しくは疾病
4 健康は、病気または虚弱がない状態を指すだけでなく、労働における安全及び健康に直接関連した身体的及び精神的な要素を含む。
5 条約第1条(b)で言及される感染の様式には以下が含まれる。
(a) 空気中を移動し、または空気中に浮遊する生物学的ハザーズが関わる、空気を通じた感染
(b) 直接接触を通じて生物学的ハザーズを感染する、人及び動物を含め、生物が関わる、直接感染
(c) 水、食品、有機物、体液または汚染物などの媒介生物及びその他の感染媒体経由で生じる、間接感染
6 条約第1条(b)で言及される曝露の経路には、吸入、経口摂取、皮膚透過性損傷並びに眼、皮膚及び粘膜吸収または吸着が含まれる。これらの経路は、通常、生物学的ハザーズの特性及び労働環境によって異なる。
7 条約及びこの勧告の規定は、可能な限り、経済活動のすべての部門及びすべての範疇の労働者に適用されるべきである。必要かつ実行可能な措置を講じることで、自営業者に対して、条約及びこの勧告で規定された保護に準ずる保護を付与するための措置を講じることができる。
II 予防的及び保護的措置
8 加盟国は、国内法及び慣行に従い、労働者がその労働を遂行中に曝露する可能性のある生物学的物質、因子または製品を設計、製造、輸入、提供または移転する者が以下であるよう確保することを目的として、措置を講ずべきである。
(a) 合理的に実行可能な限り、当該物質、因子または製品が、それらを適切に使用する者の安全及び健康に危険を及ぼさないことを納得する。
(b) それが入手可能な場合には安全衛生情報シートの形式によることを含め、当該物質、因子または製品の適切な使用及び危険性に関する情報、並びに既知のリスクの予防に関する指示を入手可能にする。
(c) (a)及び(b)の規定に適合するために必要な科学的及び技術的な知識を調査及び研究を実施するか、または常に最新のものに保つ。
(d) 危険物輸送に関する国連の勧告、有害廃棄物の国境を越えた移動及びその排気に関するバーゼル条約、生物多様性条約の生物安全に関するカルタヘナ議定書、生物兵器及び毒素兵器の開発、 製造及び貯蔵の禁止並びにその破壊に関する条約、国際保健規則、若しくはその他の関連する適用可能な条約または協定を考慮する。
9 条約第7条(1)で言及される国の措置及びガイドラインは
(a) 以下に関する規定を含むべきである。
(i) リスク評価の実施及びその定期的な検討
(ii) 管理のヒエラルキーに従った予防的及び保護的措置
(iii) 衛生
(iv) 労働者の情報及び訓練
(v)(i)から(iv)に掲げる事項に関する労働者及びその代表の協議及び参加
(b) 適当な場合には、実験室における封じ込めのレベル、換気、ベクター管理、除染及び消毒手続などを含め、感染予防及び管理措置、リスクに基づいた生物安全保障及び生物安全管理措置、並びに有害廃棄物の取り扱い及び処分のためのリスクに基づいた続を講じるべきである。
(c) 生物、ベクターまたはその他の潜在的な感染媒体における生物学的ハザーズの存在に関する不確実性を考慮すべきである。
(d) 各業種または職腫における曝露のリスクのレベル、並びに権限のある機関により確認されたハザーズ及び評価されたリスクに対して適切かつ比例したものであるべきである。
10 条約第7条(2)(c)(i)で言及されるリスク評価の対象に含まれるべき業種及び職業には、以下が含まれるが、これらに限定されるものではない。
(a) 医療部門
(b) 食品生産及び動物、植物及び穀物部門を含め、農業労働
(c) 水及び廃棄物管理部門
(d) 清掃及びメンテナンス労働
(e) 人道支援労働
(f) 実験室労働
(g) バイオテクノロジー及び製薬部門
(h) 葬儀サービス及び遺体処理労働
(i) 建設部門
(j) 林業部門
(k) 運輸部門
(l) 権限のある機関による生物学的リスクの評価に基づいて定められた、公衆衛生上の緊急事態における社会機能の維持及び福祉に不可欠な職業
11 条約第7条(2)(c)(ii)で言及される労働者には、以下を含むべきである。
(a) 妊娠中及び授乳中の女性
(b) 若年労働者
(c) 高齢労働者
(d) 障害を有する労働者
(e) 免疫不全の労働者を含め、感染症またはアレルギーに医学的に罹患しやすい労働者
(f) 社会的状況や複数の不利な状況により保護を必要とする労働者
(g) 移住労働者
12 条約第7条(2)(d)に基づき策定されるべき、計画及び手続などの準備及び対応措置は、以下を含むべきである。
(a) 災害及び緊急事態の管理のための規則の準備または更新
(b) 検知及び早期警戒システム
(c) 隔離及び検疫命令の場合の労働者及び使用者への支援を含め、アウトブレーク、エピデミックまたはパンデミックの場合に労働環境において講ずるべき措置
(d) 公衆衛生機関との調整及び情報メカニズム
(e) 研究に関する国内及び国際的な協力
(f) 緊急時対応能力の強化及び柔軟な資源配分を含め、適切な緊急時の人材確保
(g) 医療施設及び必須のサービスの効果的な運営
(h) 物資の備蓄
(i) 関連する国内及び国際的な公衆衛生、水及び廃棄物管理、環境衛生、労働衛生及び獣医衛生機関、労働監督機関並びにその他の関連する専門家及びパートナーとの協力
(j) アウトブレークに備え、管理するための、迅速な公衆衛生対応システム及び専門家の助言のリアルタイムの共有
(k) 臨床的または実験室に基づく監視により支援された、潜在的な生物学的ハザーズに関する労働衛生サービス提供者の訓練
13 労働環境における生物学的ハザーズの管理のための措置及びガイドラインを策定する際、加盟国は、国際労働機関及びその他の権限のある機関により策定された関連する国際的に合意された技術的及び実践的な手引きを適切に考慮するとともに、労働安全衛生マネジメントシステムに関するガイドライン(ILO-OSH 2001)で設定されたアプローチなど、労働安全衛生に対するマネジメントシステム・アプローチを促進すべきである。
14 加盟国は、適切かつ釣り合ったリスク管理措置を特定するための、様々なアプローチを検討することができ、それには、特定の種類の生物学的ハザーズが関わる労働のための規則、政策またはガイドライン、並びに特性及び疫学的プロファイルに基づいたリスクまたはハザードグループへの分類が含まれる場合がある。
15 多くの生物学的ハザーズが国境を越えたリスクを生み出すことを認識し、加盟国は、国内の使用者及び多国籍の使用者の双方に対し、適切な労働安全衛生条件を提供し、ハザーズを根絶またはリスクを最小化するための予防的な文化に貢献するよう促すべきである。
III 社会及び雇用保護
16 条約第12条を適用するに当たっては、加盟国は、適当な場合には、1952年社会保険(最低基準)条約(第102号)、1964年雇用災害給付条約[1980年に改正された別表I](第121号)、1964年雇用災害給付勧告(第121号)、2002年職業病リスト勧告(第194号)、その他関連する条約及びその後の改正及び改訂に、適切に配慮すべきである。
17 加盟国は、国内の事情に応じて、隔離または検疫期間中に、基本所得保障へのアクセス、及び事業継続のための措置を提供するよう努めるべきである。
18 加盟国は、適当な場合には、監視、移動制限、検疫または隔離命令に従う間、または関連する予防的または治療的処置を受けるために、労働者が勤務を欠勤しなければならない場合に、解雇からの保護を提供するよう努めるべきである。
IV 法令の遵守
18 条約第13条で規定する監督システムは、それらの文書を批准している加盟国の当該条約に基づく義務を妨げることなく、1947年労働監督条約(第81号)及び1969年労働監督(農業)条約(第129号)の規定に準拠すべきである。
V 使用者の義務及び責任
20 条約第15条に従って、その責任である予防的及び保護的措置講じる際に、使用者は、1981年労働安全衛生勧告(第164号)、2006年労働安全衛生促進枠組み勧告(第197号)、労働安全衛生マネジメントシステムに関するガイドライン(ILO-OSH 2001)、労働環境における生物学的ハザーズに関する技術的ガイドライン及び国際労働機関により採択されたその他の関連するその後の手引きを含め、関連する条約、実施準則及びガイドラインを適切に考慮すべきである。
21 条約第16条(b)で言及される管理のヒエラルキーを適合する際に、使用者は、労働環境における生物学的ハザーズに関する技術的ガイドライン及び国際労働機関により採択されたその他の関連するその後の手引きを考慮すべきである。
22 条約第18条で言及される準備及び対応計画及び手続は、以下を含むべきである。
(a) 可能性のある公衆衛生への影響を考慮しつつ、生物学的ハザーズに関連した緊急事態の管理に関する職場政策及びガイドラインの準備または更新
(b) 国内法及び慣行に従い、リスク評価に基づいた、適切かつ適当な予防的措置の提供。これには、すべての労働者に対する、無料かつ自主的な判断に基づいた、ワクチン接種、免疫接種、化学的予防措置及び検査の促進が含まれる場合がある。
VI 以前の勧告に対する影響
23 この勧告は、1919年炭疽病予防に関する勧告(第3号)を廃止する。
[安全センター情報による仮訳]
※https://www.ilo.org/resource/record-decisions/recommendation-concerning-prevention-and-protection-against-biological
安全センター情報2025年12月号


