「委員長一任」を多数決で決定~パブリックコメント手続も実施せず~中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会は改善求め続ける

小委員会開始前

石綿健康被害救済法の見直し作業に関しては、まず、環境省による石綿健康被害救済小委員会の開催が遅れるなかで、待ったなしの課題として中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会を中心とした働きかけによって、2022年5月に請求期限の再々延長を中心とした三度目の法改正が実現したことを2022年7月号で報告した。また、2022年11月号で、見直しを求める様々な声と2022年6月からはじまった小委員会について報告している。
患者と家族の会は今回の見直し作業に向けて、以下の「石綿(アスベスト)健康被害救済法改正への3つの緊急要求」を掲げ(https://www.chuuhishu-family.net/campaign01/)、「確かな声でいまを変えたい 患者と家族、わたしたち121の声」(https://www.chuuhishu-family.net/475/)という32頁のカラーリーフレットも作成して、早くから環境省交渉や国会議員・自治体等、様々な関係者に対して働きかけを行った。

  1. 「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し
  2. 治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用
  3. 待ったなしの時効救済制度の延長

その結果と言ってよいが、今回の見直し作業に向けては、小委員会がはじまる前及びはじまってからすぐに、様々な関係者から救済法見直しを求める声があげられていたことが大きな特徴である。

第1に、石綿健康被害救済制度研究会がつくられて、2021年12月12日に「石綿(アスベスト)被害救済のための『新たな』制度に向けての提言」が公表された(2022年1・2月号)。学際的な専門家らによる初めての本格的な救済制度抜本的見直しに向けた提言である。
第2に、日本石綿・中皮腫学会が2022年4月20日に「悪性中皮腫に対する既存の治療薬の適応拡大と、さらなる診断・治療法の開発研究に対する公的支援を要望します」という声明文を発表した(2022年11月号)。悪性中皮腫に認可されている治療適応上の制約の解除、悪性中皮腫への適応拡大をめざす医師主導臨床試験及び新しい診断・治療法の開発研究等のための公的な基金等の活用を、具体的に要望している。
第3に、参議院環境委員会が2022年6月10日に「石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」を採択した(2022年11月号)。5項目の附帯決議のなかには、「中皮腫に効果のある治療法の研究・開発を促進するための方策について石綿健康被害救済基金の活用等の検討を早期に開始すること」、「療養者の実情に合わせた個別の給付のあり方、療養手当及び給付額のあり方、石綿健康被害救済基金及び原因者負担のあり方等についても検討を行うこと」、指定疾病の追加や医学的判定の考え方の見直し等も含まれている。
第4に、患者と家族の会によって、全都道府県対象「石綿健康被害救済基金を診断・治療研究に活用することについての、貴県のお考えをお聞かせください」という質問アンケート調査が実施され、2022年8月19日に結果が公表された(2022年11月号)。「回答の内容はさまざまですが、全ての都道府県がこの問題に関して関心を寄せていることがわかります。一刻も早く、『命の救済』に議論を加速させていただくことを希望します」としている。
第5に、全国知事会(環境・エネルギー常任委員会)が2022年8月25日に環境省に対して提出した「令和5年度国の施策並びに予算に関する提案・要望(政策要望)【環境関係】」で「6 アスベスト対策の推進について」取り上げた(2022年11月号)。具体的には、「石綿健康被害救済制度の充実を図るとともに、中皮腫などアスベスト関連疾患の診断や治療法確立に向けた研究・開発を推進すること。この際、制度の見直しが生じた場合は地方公共団体に費用負担を求めないこと」等としている。

第1回小委員会

中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会は、石綿対策全国連絡会議を代表して、中皮腫サポートキャラバン隊共同代表の右田孝雄さんが、中央環境審議会では初めての患者代表として委員に加わり、経団連、自治体、医師会の代表各1人と、法学系(浅野直人委員長(福岡大学名誉教授)を含む)及び医学系の専門家委員各3人、計10人の構成ではじまった。石綿対策全国連絡会議は、患者と家族各1人を要求したが受け入れられなかった。会議はすべてオンライン開催ということだった。
なお、会議で配布された資料・議事録等は、https://www.env.go.jp/council/05hoken/yoshi05-14.htmlで入手することができる。
右田委員は、患者と家族の会として第1回及び第2回小委員会に「『命の救済』と『すき間と格差』をなくす石綿健康被害救済に向けて」とその改訂版を提出(2022年11月号)。課題を、①療養手当ほか給付の見直し、②「命の救済」に向けた石綿健康被害救済基金の治療研究等への活用、③肺がんの判定基準、④対象疾病の拡大、⑤周知徹底、⑥民間部門におけるピアサポート活動等の周知と支援、に整理して、各々について具体的な提言を行いつつ、小委員会に臨んだ。
2022年6月6日に開催された第1回小委員会は、「建設アスベスト給付金制度の施行に係る石綿健康被害救済制度の対応[方針]等について」及び「石綿健康被害救済制度の施行状況等について」環境省から説明があった後、言わばフリーディスカッションとして出席した委員「全員から何らかの発言」が求められた。
結果的に図らずも、委員長を除く7人の出席委員のうち5人から、治療研究への基金の活用を支持する発言がなされ、NHKは翌6月7日に、「アスベスト健康被害 国の救済基金 “治療研究などにも活用を”」という見出しで、以下のように報じた。

「委員からは「『中皮腫は治らない病気』と言われ続けてきたが、今は治せる病気にしようと研究が進んでいる」とか「患者の命に関わるので、治療や検査の研究にも基金を使えるよう、法改正も含めて対応を検討すべきだ」といった意見が相次ぎました。こうした意見を踏まえ、委員会では基金を療養だけでなく、治療や検査の研究にも活用できるよう見直せないか議論を進めていくことになりました。」

第2回小委員会

環境省はこの展開に危機感を募らせたようだ。8月26日の第2回小委員会に、「前回頂いた御指摘事項に関する資料(基金関係)」と題した1枚の紙を提出して、直近5年(2017~21年度)の支出額の増加率相乗平均約8%ずつ、2030年度または2034年度のピーク時まで続くと仮定したら、基金の残高は2038年度または2035年度以降赤字に転じる「可能性がある」と説明した。治療研究に基金を使用する余地はないと示唆したのである。
また、「関連するお話し」として、明神大也氏(奈良県立医科大学公衆衛生学講座)から「基金予測に関するヒアリング」が行われ、「環境省が説明された予測に関するコメント」として、「直近の増加率以外の抜けている要素」を5点指摘されたものの、「実際のところ、あまりこれと変わらないものになるんじゃないかなというのが私の感触」、ただし、「きちんと検証しないと分からないですし、検証したところで断言はできないというのが現状になります」という、はっきりいって意味のない内容だった。
しかし、委員長は、右田委員の発言を無視する一方で、3人の委員だけを指名。医学系の岸本卓己委員(独立行政法人労働者健康安全機構アスベスト疾患研究・研修センター所長)「前回(研究に)使わせていただきたいと申し上げたが。基金はやはり患者さんに還元すべきであろうと思う」。前回欠席だった法学系の新美育文委員(明治大学名誉教授)「目的外使用になってしまうので無理筋。後で拡大して金はもっと出せと言われる[誰もこのような発言はしていない]と、制度設計が非常に困難になる」。経団連代表の岩村有広委員(経団連常務理事)「拠出してきた事業者の代表として目的外の支出には反対。今後15年前後で基金が底とをつく可能性が示されており、本来の目的を果たせなくなるとすれば本末転倒」という発言の後、委員長がまとめた内容は、「推計については意見が分かれているが、専門家の先生方、臨床の先生方の話では必ずしも基金が余るという状況であると断言できないようだ。さらに、拠出者としての産業界から、当初の目的とは違う目的外使用は非常に疑問であるという意見や、同様の指摘が法学者からの発言にもあった」。「治療研究を拡大しなきゃいけないということについては、基金を使うこと以外の方向を含めて、今後の検討のなかでは十分に議論していきたい」等というものだった。
茶番のような予測資料・ヒアリング・3人の委員の指名発言と委員長まとめによって、治療研究への基金活用に向けた議論を封じ込めようとしたのである。
この日の基金の予測推計のいい加減さについては2022年11月号で詳しく検討しているが、結果的に、2021年度の救済認定件数1,307件に対して、2022年度は1,057件で、前年度比約20%もの減少という実績であった。もちろん環境省は基金予測をやり直そうとはしていない。
第2回小委員会では、この後、患者2人及び家族3人からのヒアリングが行われた。いずれからも深刻な実態と切実な要望が切々と訴えられた。これに対しても、右田委員から発言者への質問や事務局への要望がなされたが、委員長がその発言を押しとどめようとしていることが議事録からも明らかにうかがえる。
過去の小委員会も含めてそれまでは、環境省事務局は小委員会の運営方法等について石綿対策全国連絡会議代表委員らに事前に説明を行い、要望にも一定配慮してきた。しかし、石綿健康被害対策室長の異動があった後、8月中旬になって右田委員に対してメールで「医学・法学等の専門家のヒアリングは行わないこととした」と一方的に通告。催促してようやく前日にもった事前説明で、突然「前回頂いた御指摘事項に関する資料(基金関係)」を示し、「基金予測に関するヒアリング」も行うとしながら、次の用があるからと一方的に事前説明を打ち切る始末だった。
第2回小委員会当日の委員長の運営も含めて、右田委員には非常に大きなストレスとなり、実際に体調も悪化してしまって、患者と家族の会の小菅千恵子会長と委員を交代せざるを得なくなった。
患者と家族の会は年9月14日に「中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会の運営の在り方に関する見解と声明」を公表した(2022年11月号)。「環境省事務局をはじめとする関係者による委員会運営は公平性を著しく損なっており、活発な議論を妨げています。ここに強く抗議するとともに、次回以降の委員会運営の改善を求めます」としている。
環境省もその後、さすがに強硬路線は一定修正して、事前説明も再開するとともに、患者・家族が推薦する医学・法学等の専門家のヒアリングも実施することにはなった。

第3回小委員会

10月21日の第3回小委員会では、右田委員から代わった小菅委員が、患者と家族の会の「石綿健康被害救済基金の推計における当会の見解」が提出されるとともに、最初に、「前回3人の委員しか発言いただけていないので、全委員の発言をいただきたい」と発言があった。
また、医師会代表の細川秀一委員(日本医師会常任理事)からは、「皆さまのうなずきだとか、顔つきとかも一切見えない。そのうえでしゃべれと言われてもできない」としたうえで、せめて議論するときは委員が顔を見せるようにすることが提案され、事務局から「システムの回線負荷軽減のため音声のみでお願いしており、検証して次回報告とさせてほしい」という発言があったが、委員長のあっせんで試しにということで受け入れられた。これは、第4回以降も継続された。
続いて、以下の医学専門家のヒアリングが行われた。

  • 長谷川誠紀氏(兵庫医科大学呼吸器外科)「悪性中皮腫-根治を目指して-」
  • 中川和彦氏(一般社団法人中皮腫治療推進基金代表理事、近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門教授)「医師主導治験の方法と必要経費」
  • 後藤悌氏(国立がん研究センター中央病院呼吸内科)「希少がんである中皮腫の治療開発」

長谷川氏は日本石綿・中皮腫学会の初代理事長でもあり、中皮腫治療の最前線を担っている方々の話を一度に聞ける豪華ラインナップであった。長谷川氏からは、中皮腫治療の過去と現在、現在の中皮腫治療の問題点が簡潔に紹介されるとともに、国主導の中皮腫登録制度の確立も要望された。中川氏と後藤氏からは、医師主導治験及び希少がんという視点から実状が紹介され、現実的な提言が行われた。医師会代表細川委員からは、感謝と「こんな短時間では皆さんの思いが伝わらない」旨の発言もあった。
患者と家族の会は、この日のヒアリングの内容も含めて、具体的にどのような研究への支援が必要と考えているのかまとめた8頁のカラーリーフレット「中皮腫を治せる病気に!『命の救済』がされる未来へ」(https://www.chuuhishu-family.net/1522/)を作成して、関係者の理解と支持を得るために活用している。
第3回小委員会は、事務局の進行案では、①救済給付、②指定疾病、③基金の使途の拡大、が「議論いただきたい点」とされた。
③についてはさすがに発言があった。法学系の大塚直委員(早稲田大学法学部教授)「第1回目のときに研究開発に充てていただくことは望ましいという話をし、今でもそう思っているが、内容面と手続面で障害があるということが出てきているので、当面難しいのだろうと思っている」(「法改正をすれば研究開発のほうに充てることも不可能ではない」とも)。経団連代表岩村委員「途中で目的を変えることは、認めがたいというスタンスは変わっていない。また、シミュレーションではあるが、基金が底をつく可能性が示されているので、強い懸念を持たざるを得ない。元本と運用益は一体不可分で運用していく必要がある。治療研究の推進は、この制度以外の方法について、費用負担のあり方も含めて別途議論を進める必要がある」。自治体代表中澤よう子委員(神奈川県健康医療局医務監・全国衛生部長会会長)「現行法の枠組の中で使途を一部変更するということもなかなか困難であることは承知している。基金の外で考える方がより研究開発に資するのであれば、そういうことを検討することも必要ではないか」。岸本委員「基金のなかで議論するのは難しいので、新たな研究のための資金を集めるなりなんなりをしていくべきだろうと思う」など、環境省の意向を「忖度」した内容に変わったことが明らかである。
他の点では、①に関連して、当日欠席の新美委員から、「給付項目を追加すべきかどうかは…拠出者の意向を確かめる必要がある。追加項目が石綿健康被害者の医療費等の支援という本救済制度の目的に含まれるならば、拠出者の格別の同意は不要であるが、そうでない場合には、拠出者の同意を得た上で、根拠法である『石綿健康被害救済法』を改正する必要がある」等とした「意見書」が提出されたことと、②に関連して、岸本委員から現行の対象と判定基準を肯定する発言があったほかは、この回も小菅委員以外の発言は活発とは言えなかった。

第4回小委員会

12月20日の第4回小委員会では、最初にヒアリングが行われ、既出の石綿健康被害救済制度研究会の「石綿(アスベスト)被害救済のための『新たな』制度に向けての提言」の内容が、同研究会共同代表の吉村良一氏(立命館大学名誉教授)と森裕之氏(立命館大学教授)から紹介された。
これに対して、法学系の新美委員から数点の質問とやりとりがあり、新美氏は「政策的判断の問題だと言っても法的に強制はできない」内容の提言だという自説を表明した。同じく法学系の大塚委員は、「最高裁判決をきっかけにさらに考えていく提案をしていただいた。立法論として多変大事な点だと思う。これを考えていくとすると、さらに他省庁を巻き込んだり、国会を巻き込んだ、いろんなところとの関係も出てくるかと思うが、環境省として重要な意見として受け止めていただきたい」旨発言した。
患者と家族の会は、この日のヒアリングの内容も含めて、これからの見直しに向けた考え方をまとめた8頁のカラーリーフレット「法改正に待ったなし!アスベスト被害の新たな補償制度を 国と企業は『救済』から『補償』へ」(https://www.chuuhishu-family.net/2007/)を作成して、関係者の理解と支持を得るために活用している。
第4回小委員会は、事務局の進行案では、④制度運用、⑤健康管理、⑥調査研究が、「議論いただきたい点」とされた。また、事務局から、①国内における主な救済・補償制度の概要、②石綿肺・びまん性胸膜肥厚における石綿ばく露歴の取扱い、③建設アスベスト給付金制度における石綿ばく露歴の取扱いに関して、「前回頂いた御指摘事項に関する資料」が配布された。とくに②③は、前回の小菅委員の発言を意識したものだった。
これらについては、④と⑤について岸本委員から発言があったほかは、またしても小菅委員の発言のみだったと言ってよい。小菅委員は、「石綿健康被害救済基金の治療研究支援の活用に関する要望」を提出し、第3回小委員会までの議論を整理して、基金を活用すべきだが、基金以外による方策も排除しないとしたうえで、「言いっぱなし」「厚生労働省に丸投げ」ではなく、具体的な施策の検討を厚生労働省とどのように検討していくのか示していただく必要がある。また、中皮腫登録制度の充実についても、ヒアリングと議論も踏まえて、関係者との協議を早急に始めることを求めた。
小菅委員は最後に、ワーキンググループを設置して専門家ヒアリング内容を深めることを提案、また、患者・家族ヒアリングや参議院附帯決議等の内容に具体的に応じるべきだとして、次回で報告書とりまとめ-終了では早すぎると主張した。

第5回小委員会

2023年3月31日の第5回小委員会では、事務局から報告書案及び①被認定者の介護等の実態調査結果、②環境再生保全機構におけるがん相談支援センター及びがん情報サービスサポートセンターの周知、③救済制度における申請の促進、④神戸市における石綿健康管理支援事業、⑤石綿読影の精度に係る調査事業、⑥中皮腫の治療研究の支援に係る政府の方針に関して、「前回頂いた御指摘事項に関する資料」が配布され、また、今後の進め方として、6月頃にもう一度開催して報告書とりまとめの予定とされた。
小菅委員からは「中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会の運営に関する要望」が提出され、とくに、①「中皮腫を治せる病気にする」ための治療研究、②療養手当・給付の見直しのあり方、③肺がん判定基準へのばく露歴評価の採用と申請促進、④制度及び支援組織の周知のあり方、⑤恒久的な健康管理体制のあり方、について継続した議論をしていくことを提案した。
報告書案に対する小菅委員の総括的な意見は、「1回目では治療研究に前向きな委員が多くおられ、2回目は患者・家族の悲痛な叫びのヒアリングのなか時間ぎりぎりまで必死に訴えた右田委員の姿があった。3回目は医学専門家、4回目は法学専門家らのヒアリングで貴重な意見をいただき、自身もあれだけ意見を述べたにもかかわらず、内容もまったく反映されておらず、どうすれば改善できるのか、知恵を出したものにはなっておらず、あきれると同時に憤りを感じている。了承、同意はできない。本日参加の委員の方々にも、前向きな対応を切に願っている。参議院の附帯決議、全国知事会からの要請内容についてもすべて列挙、記載すべきだと思っている」というものだった。
個別の項目ごとに、報告書案の内容を支持する何人かの発言があるなかでも、小菅委員は果敢に発言を続け、また、第6回はオンラインではなくリアル開催を追求することも提案した。

第6回小委員会

第6回小委員会は6月27日、委員全員が一部であっても出席したものの、オンラインで開催された。
提出された報告書案には、追加、修正箇所が赤字で表記されており、ヒアリングや議論のなかで出された意見の内容(「…という意見があった」等)、また参議院附帯決議の内容も追加されたものの、結論部分は基本的に変更のないものだった。
委員長から促されて今回はすべての委員が何らかの発言をし、小菅委員は、附帯決議内容を追加しながら、どれも「困難である、変える状況にはない、認められなかった」と否定的な結論にあきれ、「これだけ準備をしてきたにもかかわらず、何の改善点もなく取りまとめられようとしていることに唖然とし、落胆して、涙した。とても悔しい」としながらも、数多くの具体的な追記・修正等を提案した。また、右田前委員から託された意見を代読した。

「私は、本委員会の当初委員に選任され、第1回、第2回と委員会に参加させていただきました。6年ぶりの小委員会ですが、私が中皮腫に罹患してからは初めての委員会でした。
結果から申し上げて、患者にとっては、救済制度の引上げ、基金の一部を中皮腫の治療研究に使用することは前に進まず、憤りしかありません。
中皮腫患者に次回はあると思いますか。5年生存率がどれだけ低いか理解されていますか。
石綿健康被害救済制度が制定されてから、患者会は幾度となく療養手当の見直しを求めてきましたが、これまでただの1円も上がることがありませんでした。制度の見直しすら検討されませんでした。
そして、今回の小委員会では、基金の一部を中皮腫の治療に使わせてほしいという切実な思いも、第1回では、委員のほとんどが賛成に回ったにもかかわらず、第2回の小委員会では、数人の委員の方々の反対意見に押し切られるように、こちらもまた、基金の一部を中皮腫の治療研究に使用できなくなりました。
建設アスベスト訴訟では、国が被害者に対し、非を認め、建設業に携わった被害者に対して一定の給付金を支払うことが実現されています。しかし、同じアスベスト関連疾患患者でありながら、ばく露不明の被害者には、僅かな療養手当を支給するにとどまっています。なぜこの事案を正面から受け止めようとしないのか、企業、国の利益だけを考える場では、この小委員会はないはずです。あの附帯決議は形だけのものではないはずです。私たち患者は、次の小委員会まで待っておられません。
これだけ悔しい思いをし、この小委員会で、私自身、体調が悪化したのは、既定の事実です。ここまで何ひとつ変えられなかった悔しさは、この先忘れることはないです。こんな茶番劇のような小委員会、すぐにメンバーを一新し、被害者団体の代表を数人入れることを要望します。」

小菅委員は最後に、「この間の事務局との信頼関係の問題からいっても報告書の最終とりまとめを委員長一任では了解できない」と発言。このため、委員長は他の委員に「一任いただけるか」確認を求め、出席していたい8人が「一任する」と発言して、多数決で委員長一任が決まるという異例の事態となった。前回の小委員会報告について行われたようにパブリックコメント手続を行うよう小菅委員が求めたのに対しても、「大変丁寧に議論を重ねてきたと思っている。政府予算の概算要求の作業等も本格化していて、取りまとめ内容の迅速な実施に努める観点からも、パブリックコメントを行わずに進めたい」という事務局の説明のみで、却下された。

最終報告書公表とその後

さらに、翌6月28日夜に委員に対して、第6回小委員会の議論を踏まえた修正(5箇所)を行った中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会報告書「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」の最終版が送られ、環境省ホームページにも掲載すると告げられた。小菅委員との最終報告書取りまとめに向けた話し合いを回避するためと思われる、「異例の迅速さ」であった。

石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」令和5年6月 中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会(環境省)

患者と家族の会は7月4日に、「取りまとめ報告書の撤回と見直しに関する緊急要求及び抗議声明」を発表した。また、小委員会報告書に対するカウンターレポート「石綿健康被害救済法の抜本改正に向けて」も公表した。

なお、患者と家族の会は、当初から石綿健康被害救済法見直しを、小委員会まかせ、また委員まかせにせずに、全国の動ける会員が一丸となって取り組むという姿勢を堅持してきた。
さらに、第5回と第6回の小委員会の間に当たる2023年5月8日に「中皮腫を治せる病気へ!アスベスト健康被害の格差とすき間のない補償を求める院内集会と関係省庁との意見交換会」も開催(動画:https://www.chuuhishu-family.net/2202/、院内集会会議録:https://www.chuuhishu-family.net/2368/、関係省庁交渉会議録:https://www.chuuhishu-family.net/2434/)。この間働きかけを行ってきた国会議員らとの取り組みも継続しているところであり、引き続きご支援をお願いしたい。

安全センター情報2023年10月号