放射線被ばくによる白血病認定/福島●東電福島第一原発事故後作業者

原子力発電所(原発)などでの被ばくを原因とする疾病の労災請求を受け、業務上疾病として認めるかどうかは、労災認定基準である「電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準」(昭和51年11月8日付け基発第810号)によるとされている。
認定結果は、職業病リスト(労基則別表第1の2)上の

  • 「物理的因子による」「電離放射線にさらされる業務による急性放射線症、皮膚潰瘍等の放射線皮膚障害、白内障等の放射線眼疾患、放射線肺炎、再生不良性貧血等の造血器障害、骨壊死その他の放射線障害」(第二号5)

または、

  • 「がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による」「電離放射線にさらされる業務による白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫、甲状腺がん、多発性骨髄腫又は非ホジキンリンパ腫(第七号15)

に該当する疾病として分類されて記録される。

上記の労災認定基準に、
「なお、以下に認定基準を定めていない電離放射線障害、認定基準を定めている疾病のうち白血病及び認定基準により判断し難い電離放射線障害に係る事案の業務上外の認定については、別添「電離放射線に係る疾病の業務起因性判断のための調査実施要領」により調査して得た関係資料を添えて本省にりん伺されたい。」
と記述されており、「白血病及び認定基準により判断し難い電離放射線障害に係る事案の業務上外」については「本省りん伺」により判断される。
この判断を行うのが厚生労働省の「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」である。

厚生労働省のHP上に記載されている開催リストの最も古い同検討会は、2003年10月23日第1回検討会である。血液がんの一種である多発性骨髄腫にかかる労災請求があったことを受けての設置、開催となったものだった。このときの「多発性骨髄腫にかかる労災請求」は、福島第1原発などで作業歴のあった長尾光明さんのケースである。検討会は「本省りん伺」があったとき、その都度開催されていた。

  • 2006年5月22日第1回検討会(平成18年度その1)「急性リンパ性白血病を発症したとして、原子力発電施設で放射線管理業務等に従事していた労働者から労災請求された事案」。
  • 2006年12月14日第1回検討会(平成18年その2)「急性リンパ性白血病を発症したとして、原子力発電施設で電気計装関係の検査・点検工事等に従事していた労働者から労災請求された事案」。
  • 2007年11月22日第1回検討会「電離放射線業務に従事する労働者に発症した造血器の腫瘍の事案」。このときの検討会は、悪性リンパ腫で死亡した喜友名正さんのご遺族が大阪・淀川労基署に労災請求した事案の検討を行った。検討会では、悪性リンパ腫が労災認定基準上の疾病ではなかったために、疫学文献レビューなどを行い報告書をまとめ、業務上疾病として労災認定した。

これ以降は、2009年9月9日に第1回検討会が開かれ、直近は2023年3月14日の第82回検討会である。これまでに、以下の認定事例及び疾病と放射線被ばくに関する医学的知見報告書(疾病のみ記載)の公表があった。

  • 2015年10月20日公表-白血病(福島第1原発事故後の作業従事者1名)を認定
  • 2016年12月16日公表-甲状腺がん医学的知見報告書
  • 2016年8月19日公表-白血病(福島第1原発事故後の作業従事者1名)を認定
  • 2017年10月27日公表-肝がん医学的知見報告書
  • 2018年6月27日公表-膵がん医学的知見報告書
  • 2020年3月19日公表-脳腫瘍
  • 2021年9月8日公表-咽頭がん・悪性黒色腫医学的知見報告書
  • 2021年9月8日公表-咽頭がん(福島第1原発事故後作業労働者2名)認定
  • 2022年12月23日公表-腎臓がん医学的知見報告書
  • 2022年12月23日公表-真性多血症及び白血病(福島第1原発事故後作業労働者2名)認定

今回、2023年3月14日に、さらに新たに白血病の認定事例が公表された。以下のとおりである。

○「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」(座長:東京医療保健大学教授明石真言)では、東京電力電福島第一原発における事故後の作業従事者から、白血病を発症したとして労災請求がなされたことを受け、当該疾病が業務によるものかどうか、検討を行った。

検討会の検討結果について

○東京電力福島第一原発における事故後の作業従事者に発症した白血病について、業務上との結論。(令和5年3月6日開催)

労災認定された事案について

○労働者は40歳代に白血病を発症した男性。
○平成10年5月~令和3年12月のうち約23年、放射線業務に従事。(東京電力福島第一原発事故後は、同原発構内での作業にも従事)
○総被ばく線量約124mSv[うち事故後の東京電力福島第一原発での作業:約95mSv]
○全国の原子力発電所において原子力発電所の運転操作業務等に従事し、東京電力福島第一原発事故後は、主に、同原発における原子炉への給水操作、水処理設備の運転操作等の業務に従事した。
○事故後の東京電力福島第一原発での業務では防護服・全面マスク等を着用。
東京電力福島第一原発における事故後の作業従事者の労災認定状況
○これまでに労災認定された東京電力福島第一原発における事故後の作業従事者に発症した疾病は、白血病4件、真性赤血球増加症1件、咽頭がん2件、甲状腺がん2件、肺がん1件。
緊急作業従事者への労災補償制度の周知について
○緊急作業従事者(約2万人)に対し、平成24年度から電離放射線被ばくによる疾病の労災補償に関するリーフレットを計10回、直接送付している。

※本件は、緊急作業従事者を含む東京電力福島第一原発における事故後の作業従事者に労災認定要件を満たせば労災補償が受けられること等を周知する観点から、請求人の同意を得て公表するもの。

(参考)白血病の認定基準

① 被ばく線量:5mSv×従事年数以上
② 潜伏期間:被ばく開始後1年を超えた後に発症
③ 対象疾病:骨髄性白血病又はリンパ性白血病

「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」の検討結果及び労災認定した事案について公表します(厚生労働省/2023年3月14日)

安全センター情報2024年5月号