4年ぶりのサマーフィールドワーク~東京●関東大震災100年という節目も加味

2019年以来、新型コロナウイルスのためできなかったサマーフィールドワーク。今年は8月25日~26日の2日間、開催した。4年ぶりの開催ということで参加者は7名と少なかったが、いつもながら「ものづくり現場の安全、移住労働者との共生、アスベスト被害を学ぶ」と欲張ったテーマに、関東大震災から100年という節目も加味したプログラムを提供した。

サマーフィールドワークの最初のセッションは定番の工場見学。今回は埼玉県八潮市にある(有)ケーティーシーを訪問した。同社は倒産後、労働組合が自主再建した企業で、化粧品の容器を製造している。様々な困難を乗り越え、一昨年に現在の場所に新工場を建設して事業を続けている。まず代表の武田和治さんから工場再建の経緯と事業概要をお聞きし、早速、構内を案内していただいた。工場1階は新旧のプレス機械や工作機械がうごき、小さな容器のキャップをプレス加工する音が響く。参加者はアクション・チェックリストを片手に現場の良い点をチェックしていく。

工場見学を終えて会場に戻ると、2つのグループに分かれ、チェックリストをもとに感想を述べあい、安全面と健康面から良いと思う点とこうすればもっと良くなる提案をそれぞれ3点ずつまとめて発表した。

午後は、「移住労働者との共生をめざして」のセッション。今年は関東大震災から100年を迎える。今回は特別セッションとして、1923年9月の関東大震災時に当センター事務所のある江東区の大島で起きた中国人虐殺事件について、長年、この問題に地域で取り組んできている川見一仁さん(関東大震災中国人受難者を追悼する会)を迎え、お話しをうかがった。当時、この地域でくらす中国人約800名が軍隊や自警団によって殺された。とくに同胞のために活動していた僑日共済会のリーダー王希天は、9月12日、事務所近くの逆井橋のたもとで軍隊により虐殺された。移住者との共生を考えるうえで、関東大震時の朝鮮人、中国人虐殺の歴史を忘却することなく、現在もまた民族差別やヘイトによる排外主義の高まりに対して、過去の負の歴史を繰り返してはならないことをお話しいただいた。

セッションの後半は、全統一労働組合のピードア分会の2人のフィリピン人女性、長谷川ロエナさんと小川ローズマリーさんに登場していただいた。長年ホテル清掃の仕事をしていた2人は、新型コロナ感染によるホテルの経営状況の悪化を理由に会社から解雇された。仲間を募って労働組合に加入し、会社の責任を追及する闘いをしている。不当解雇と賃金支払いを求めた裁判にも勝利したが、経営者は逃亡し、解決を引き延ばしている。セッションではロエナさん、ローズマリーさんの来日からのライフヒストリーを聞き、参加者からの質問にも答えていただきながら、楽しく交流することができた。

2日目のセッションは、「アスベスト(石綿)、その現状と課題」。まず参加者に小瓶に入ったクリソタイル(白石綿)の原石を見てもらい、中皮腫・じん肺・アスベストセンターの永倉冬史さんに「身近に潜むアスベストの危険」と題して講義をしていただいた。看護師・保健姉をめざす学生にとって、アスベスト(石綿)という言葉は授業で聞いたことがあるかもしれないが、リアリティーを感じることはできない。永倉さんには、アスベストとは何かから始めて、発がん物質アスベストが引き起こす深刻な健康被害、日本における歴史的なアスベストの消費と中皮腫死亡者の相関関係、アスベスト被害者の存在と運動についてお話ししていただいた。

そのあと、全員で外に出て、事務所周辺を歩きながら、マンションのベランダ、民家の屋根、倉庫や工場の波形スレートのアスベスト含有建材を地図にマッピングしてみた。街中にアスベスト建材があふれていることを体感してもらった。

再び事務所に戻り、胸膜中皮腫を発症した夫を看取った湊万里子さん(中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会関東支部世話人)にお話をうかがった。中皮腫と診断されてからの夫がどう生きたか、そして終末期についての参加者からの質問に対して、ご本人の希望で自宅に戻り、最後を看取ったことも話していただいた。

2日間、盛りだくさんのプログラムだったが、最後に参加者に記入していただいた評価シートから、おおむね参加者から好評価を得ることができた。

次年度にはさらにプログラムを充実させ、より多くの学生や社会人に皆さんにフィールドワークを体験してもらいたいと思う。

(文・お問合せ)NPO法人東京労働安全衛生センター