【COVID-19と安全衛生・労災補償⑰】2022年9月請求2万、認定1万/認定率99.3%、処理率71.5%-上半期だけで前年度の2倍
目次
労災請求件数等の公表は179回目
新型コロナウイルス感染症に関する労災請求は、2020年3月に最初の1件の請求があったという。2020年5月15日に厚生労働大臣が、初めての支給決定2件があったことを公表した。厚生労働省は以降、平日ほとんど毎日、労災請求件数等の情報更新を続けた後、2020年12月4日現在分以降は毎週、2021年10月31日現在分以降は毎月に切り替えて、情報更新を続けている。2022年10月17日に、同年9月30日現在の状況が公表された。2020年4月30日現在分の公表以来、179回目となる。
新型コロナウイルス感染症は最大の職業病
表1は、月別及び年度の状況である(この数字は新しい公表時に遡って訂正されているものがあることがあるので注意されたい)。
2019(令和元)年度は請求が1件のみ。
2020(令和2)年度は、請求8,476件、認定(支給決定)4,556件、不支給決定193件という状況だった。認定率(支給/(決定=支給+不支給))は95.9%、処理率((決定=支給+不支給)/請求)は56.0%だった。ちなみに、2020年度業務上疾病労災補償状況調査結果によると、職業病認定件数の合計は13,920件で、うち新型コロナウイルス感染症が4,545件(上記数字と微妙に異なっている)で32.7%を占めていた。
2021(令和3)年度は、請求は22,928件で前年度の2.7倍、認定は19,517件で4.3倍、不支給決定は166件で前年度より少なかった。認定率は99.2%、処理率は85.8%である。新型コロナウイルス感染症以外の職業病の認定数に変化がなかったとしたら、2021年度の職業病認定件数の合計は20,892件で、うち新型コロナウイルス感染症が67.6%を占めることになるだろう(前年度32.7%の2倍以上)。
2022(令和4)年度は、上半期半年間だけで、請求は57,641件で前年度の2.5倍、認定は39,636件で2.0倍、不支給決定は77件で前年度よりさらに少ない。認定率は99.8%、処理率は68.9%である。
累計では、新型コロナウイルス感染症の労災請求89,046件、認定63,709件、不支給436件。認定率は99.3%、処理率は72.0%という状況である。なおお、請求件数のうち遺族請求(死亡)に係る件数は197件で請求全体の0.2%、認定件数では165件で認定全体の0.3%となっている。
職業病でもっとも多い業務上の負傷による腰痛(災害性腰痛)でも年間認定件数は3千件前後であり、また、非災害性職業病でもっとも多いじん肺及び合併症の1979~2020年度の累計認定件数が46,695件であるから、新型コロナウイルス感染症がかつない最大の職業病として猛威を振るっていることは間違いない。
2022年9月の請求急増で処理率低下
図1に推移を示しているが、請求件数は、2021年4月23日現在で1万件を突破した後、同年10月末に2万件、2022年3月末に3万件、5月末に4万件、6月末に5万件、7月末に6万件、9月末に一気に8万件を突破した。
認定件数は、20201年7月9日現在で1万件を突破した後、2022年1月末に2万件、5月末に3万件、7月末に4万件、8月末に5万件、9月末に6万件を突破した。
認定率は、2021年3月12日現在の94.6%が最低で、以降一貫して増加し、2022年9月末現在99.3%。
処理率は、2022年1月末現在の89.2%が最高であったが、請求件数の増加に追い付けずに4月末現在の67.0%まで減少した後、盛り返して8月末には79.8%にまでなったものの、9月末現在では72.0%に低下した。これには、とりわけ2022年9月が、請求件数21,249件と、1か月だけで前年度の合計件数22,928件に迫る数字であったことが大きい。このため、認定件数も1か月だけで9,671件と過去最高だったものの、処理が請求件数の増加に追いつかずに処理率が低下したものである。
医療従事者等の増加が著しい
表2は、2022年9月30日現在の累計で、医療従事者等、医療従事者等以外、海外出張者の別に業種別の労災請求件数等を示している。2022年6月号に示した半年前の2022年3月31日現在の累計と比較しながらみてみよう。
全体では、労災請求が31,324件から89,046件へ2.8倍の増加。認定は23,817件から63,709件へ2.7倍の増加。不支給は353件から436件へ1.2倍の増加。認定率は98.5%から99.3%へ増加し、処理率は77.2%から72.0%へ低下している。遺族請求は、請求では166件から197件に増加し、認定では139件から165件へ増加している。
医療従事者等については、労災請求が20,443件(全体の65.3%、以下同じ)から62,953件(70.6%)へ3.1倍の増加(割合も増加)。認定は15,601件(65.5%)から44,967件(70.6%)へ2.9倍の増加(同前)。不支給は225件(63.7%)件から266件(63.7%)へ1.2倍の増加。ただし、医療従事者等の不支給認定は、新型コロナウイルス感染症として労災請求されたものの実はそうではなく業務上でもなかった事例だとされている。認定率は98.6%から99.4%へ増加し、処理率は77.4%から72.0%へ低下している。遺族請求は、請求では26件から36件に増加し、認定では26件のまま変わらない。
業種別では、医療業が、請求で全体の41.9%から45.1%へ、認定で42.1%から44.8%へ。また、社会保険・社会福祉・介護事業も、請求で全体の21.7%から24.3%へ、認定で21.7%から24.6%へ増加している。その他業種は、請求で全体の1.7%から1.1%へ、認定で1.7%から1.3%へ減少している。
医療従事者等以外については、労災請求が10,831件(34.6%)から26,136件(29.4%)へ2.4倍の増加(割合では減少)。認定は8,176件(34.3%)から18,693件(29.3%)へ2.3倍の増加(同前)。不支給は128件(36.3%)から170件(39.0%)へ1.3倍の増加。認定率は98.5%から99.1%へ増加し、処理率は76.7%から72.2%に減少した。遺族請求は、請求では131件から152件に、認定では108件から131件に増加した。
業種別では、社会保険・社会福祉・介護事業と医療業がもっとも多く、建設業、製造業、サービス業(他に分類されないもの)が言わば第二集団、運輸業・郵便業、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業がそれに次いでいる。認定率はもっとも低い農業・林業でも97.8%である。
海外出張者については、労災請求が50件(0.2%)から57件(0.1%)へ、認定が40件(0.2%)から49件(0.1%)へ増加。認定率は100%で変わらず、処理率は80.0%から86.0%へ増加している。遺族請求は、請求では9件で変わらず、認定では5件から8件に増加した。
請求全体に占める遺族請求の割合が、医療従事者等と比較して、医療従事者等以外及び海外出張者ではるかに多い。死亡事案以外の請求が相対的に少ないことを示しているのかもしれない。
地方公務員の災害補償状況
地方公務員災害補償基金も「新型コロナウイルス感染症に関する認定請求件数、認定件数について」毎月公表していたが、2022年に入ってから隔月公表に切り替えたようだ。10月5日に2022年9月30日現在の状況を公表している。2020年6月1日に同年5月29日現在の情報を提供して以来、42回目の情報更新ということになる。
推移を図2に示しているが、公務災害請求件数は、2021年4月末現在で500件を超え、2022年3月末に1,000件、9月末には1,500件を超えて1,551件になった。
公務上認定件数は、2022年1月末現在で500件を超え、2022年9月末には1,000件を超えて1,073件になった。
2022年3月末現在で初めて公務外認定1件(警察官)が出るまでは認定率は100%で、9月末でも公務外認定は増えておらず、認定率は99.8%である。
処理率は、2022年1月末現在の89.0%までおおむね増加し続けた後、横ばい状態にあるようだ。
表3は、2022年、月30日現在の累計で、職種別の公務災害災請求件数等を示している。2022年7月号に示した半年前の2022年3月31日現在の累計と比較しながらみてみよう。
全体では、公務災害請求が1,051件から1,073件へ1.5倍の増加。公務上認定は914件から1,371件へ1.5倍の増加。認定率は99.9%のまま変わらず、処理率は87.1%から88.5%へ増加している。
医療従事者等(医師・歯科医師、看護師、保健師・助産師、その他の医療技術者の合計)については、公務災害請求が627件(全体の59.7%、以下同じ)から1,073件(69.2%)へ1.7倍の増加。公務上認定も553件(60.5%)から932件(68.0%)へ1.7倍の増加。認定率は100%のまま変わらず、処理率は88.2%から86.9%へ低下している。
医療従事者等以外については、公務災害請求が424(40.3%)から478件(30.8%)へ1.1倍の増加。公務上認定は361件(39.5%)から439件(32.0%)へ1.2倍の増加。認定率は99.7%から99.8%へ増加し、処理率は85.4%から92.1%に増加した。
保健師・助産師、義務教育学校教員、義務教育学校以外の教員の処理率が60%台、次いで清掃職員の処理率が78.6%にとどまっていることが気がかりである。初めて請求件数1件が現われた調理員に対する決定はまだなされていない。
いずれにしろ、労災保険の場合と比較して、地方公務員の型コロナウイルス感染症に関する公務災害補償請求は低いレベルにとどまっているものと考えられる。
国家地方公務員は情報更新なし
なお、人事院もウエブサイトの「新型コロナウイルス感染症」ページで、「一般職の国家公務員に係る新型コロナウイルス感染症に関する(公務)災害補償の報告件数及び認定件数」を公表しているが、2022年3月31日現在の状況を4月19日に公表して以来、更新がなされていない。
全国安全センター・ウエブサイト
全国安全センターのウエブサイトでも関連情報を提供しているが、https://joshrc.net/archives/1225及び掲載カテゴリーの「新型コロナウイルス感染症」から全情報にアクセスできるほか、4本の関連動画も公開している。
安全センター情報2022年12月号