発がん物質「インジウム」、スマートフォン・テレビディスプレイ労働者に『危険』 2022年9月15日 韓国の労災・安全衛生
私たちが使うスマートフォンやテレビ、タッチスクリーンの液晶ディスプレイには、希少金属である「インジウム」が入っている。インジウムは液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機発光ダイオード(OLED)といった、ディスプレイと太陽電池の核心源泉素材に挙げられる。しかし、国際がん研究所(IARC)は、インジウムを肺がん・副腎がんを誘発する可能性があるか、疑わしい「2群発がん物質」に分類している。溶融点が低いインジウムは、数回の精製作業を経て『粉』に変わるが、2000年以後、日本とアメリカ、台湾で、インジウムにばく露した労働者が、気胸、間質性肺疾患、肺繊維化といった肺疾患に罹ったという事例が報告されている。『ディスプレイ強国』韓国でも、「インジウム職業病」の警告灯が灯った。
三ヵ月働いて、血清インジウムの数値が10倍を超過
パノリムによれば、最近、大田のインジウムスズ酸化物(ITO)のターゲット生産業者のA社の労働者の相当数が、血清中のインジウム数値が正常範囲(1.2)よりも3~10倍以上高く出て、退職後にも数値が下がらないなど、健康異常症状を示していることが確認された。特殊健康診断で血清インジウムの数値が1.2を超えたり、咳のような呼吸器障害症状を示すと、「職業病要観察者」や「職業病有所見者」と判定する。
イ・ジョンラン公認労務士は、「工場の大部分の労働者の血清インジウムの数値が1.2を超え、わずか三ヶ月働いただけで数値が18~19まで出て、インジウムを扱わない事務職労働者の平均よりも3~4倍も高い血清インジウムの数値が出てきた」と説明した。A社の労働者たちが会社に精密検診を要求したが、会社の管理者が「三ヶ月後には、インジウムが体から抜ける」と言って黙殺したとして、パノリムを訪ねた。インジウムの半減期が3ヵ月だという会社の説明は事実ではない。国内で実施した「難溶性インジウム化学物による肺疾患疫学調査」の結果によると、インジウムの半減期は15年程度と推定される。
インジウムをやかんに入れて、200度を超える筒に入れる『画像』
パノリムと労働健康政策フォーラムは、A社の労働者三人に対して、肺機能検査と高解像度胸部、電算化単層撮影(HRCT)などを実施し、国会・環境労働委員会のイ・スジン民主党議員と一緒に、政府からインジウムの取扱事業場に対する作業環境測定結果報告書と特殊健康検診の現況資料などを提供させて、分析した。
その結果、A社の労働者三人は血清インジウムの数値が正常より2.5~5倍以上高く、軽微な閉鎖性肺機能低下の所見を示すなど、健康異常症状が確認された。
A社の労働者たちは、粉末状態のインジウムとスズを溶かして、インジウムスズ酸化物の塊にした後、ごつごつした表面を研磨したり、インジウムを溶かしたものを接着剤にしてパネルに着ける作業をしている。労働者の証言によると、作業工程が変わる前までは、インジウムをやかんに入れてインダクションやガスレンジで沸かし、摂氏200度を超える筒に注ぐが、インジウムが全身に懸かって、頻繁に火傷を負った。また、インジウムの滓を集めて二番煎じ、三番煎じをする作業もしたが、その度に、胸がむかつくような臭いが激しかったと言う。研磨の過程では、直接ペーパーをかけたり、インジウムの粉塵が靴に積もるほど無防備にばく露したが、防塵マスクなどは十分には支給されていなかった。
インジウムの血清数値の高い労働者を追い出して
1年契約職の労働者で埋めて
イ・ジョンラン労務士は、「一番深刻な問題は、会社が労働者を追い出すやり方で問題を隠そうとしたこと」と指摘した。血清インジウムの数値が高い労働者たちを、大田工場からの通勤が難しい世宗工場に発令し、辞める労働者が大幅に増えたということだ。会社はインジウムへのばく露を減らすための設備投資の代わりに、退職する労働者の空席を契約職労働者で埋めた。2020年まで、A社の大田工場は全員が正規職だったが、インジウムの特殊健康診断が義務化された昨年以降は、8割が契約職に変わった。以前にはなかった社内下請け会社まで登場した。
チェ・ミン職業環境医学科の専門医とイ・セミ職業環境医学科の専攻医によると、昨年インジウムの特殊健康検診を受けた労働者は6796人だ。このうち、血清インジウム数値の正常範囲を超過した労働者は234人(3.4%)にもなる。既に2017年に、インジウムによる間質性肺疾患が業務上疾病と認定された事例がある。昨年になってインジウムに対する作業環境測定と特殊健康診断が義務付けられたことを考慮すると、インジウムによる職業病はさらに増える可能性がある。
この日、イ・スジン議員と労働健康政策フォーラムは、「インジウム取り扱い事業場の事例から見た職業病予防制度の改善課題」討論会を行い、政府の対策を追求した。
2022年9月15日 毎日労働ニュース キム・ミヨン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=210942