ビジョン・ゼロ-労働災害・職業病をゼロにする-2022.1.27 ソーシャル・ヨーロッパ
欧州連合(EU)では毎日、平均して少なくとも9人が労働災害によって殺され、毎年300万人以上が重大な傷害を負っている。2018年にEU27か国で3,332件の死亡労働災害が発生し、さらに310万件の非致死的傷害が発生した-数字は前年を上回っている。また、毎年約12万人の労働者が仕事の直接の結果としてがんにかかり、8万人が死亡し、さらに数えられない労働者が慢性的な労働に関連した痛みやストレスに耐えている。
こうした統計の背後には、母親や父親、強打獅子舞、娘や息子が仕事に出かけて、家に帰ってこなかったり、長期間の痛みや悩みに苦しんでいる家族がいる。こんなことは起きてはならない。人々は仕事でいのちを危険にさらすべきではないし、労働災害に容認できる発生率はない。それが、欧州労働組合連合(ETUC)が「ビジョン・ゼロ」と労働関連死亡・災害・疾病の撲滅を主張し続ける理由である。
ビジョン・ゼロ
欧州委員会のニコラ・シュミット雇用・社会権担当委員が、労働災害に関するビジョン・ゼロの原則を受け入れたことは心強いことである。ETUCは、昨年6月に発表された欧州委員会新たな2021~2027年労働安全衛生戦略的枠組みのこの側面と、職場安全衛生へのジェンダー側面へのより大きな焦点を歓迎している。
しかし、ビジョンをもつことはよいことだが、それを現実にすることはまったく別のことである。欧州のビジョン・ゼロは、すべての労働関連災害・職業病を対象とし、予防文化を確立する幅広いアプローチを必要としている。労働安全衛生(OSH)は、EUが重要な影響を及ぼすことのできる政策分野であり、EUは、職場に真の変化をもたらす規制を確立し、法律を課す法的権限をもっている。
欧州社会権の柱は、「労働安全衛生の高いレベルでの保護」に対する労働者の権利を保証している。私の、そして今後数年間におけるETUCの使命は、EUが労働関連災害・職業病の撲滅に向けて具体的な進展を遂げることを確実にすることである。
リスクの予防
ビジョン・ゼロは、既存のEUの政策・立法戦略と自然なかたちで連携している。リスク予防の原則はすでに1989年のOSH枠組み指令の柱になっている。すべての加盟国は、EUの規制に沿った国のビジョン・ゼロ計画を策定・実施しなければならない。第一歩は、労働組合との協議を通じて、災害を予防するための体系的OSH計画を策定・実施する使用者の責任を認めることであり-これには強力な社会対話、規制及び執行が伴う。
EUと加盟国は、注意喚起によるリスクの予防・根絶により積極的になり、労働をより安全で健康的なものにするために適切な呼ぶ措置を講じる使用者の義務を強調し、グッドプラクティスを共有すべきである。適切な安全対策の欠如など、労働関連災害の根本的な原因を検証するための報告・分析の改善はよいスタートとなるだろう。
執行が先事項
執行が優先事項でない限り、ビジョン・ゼロに到達することは困難である。ETUCは、欧州委員会が加盟国に執行措置を強化するよう圧力をかけたことは歓迎するが、助言を提供するためのワーキンググループを要求している。
執行は、労働海愛の安全衛生代表と協力した、すべての部門における定期的労働監督にかかっている。EU全体で監督回数が減少しているために、労働監督官にはより多くの資源、訓練及び支援を必要としている。
加盟国は、労働者1万人当たり最低1人の労働監督官という、国際労働機関の基準を満たさなければならない。また、安全対策が不十分であることが判明した場合には、制裁措置が実際に適用される必要がある。
ETUCは、COVID-19への対応、危険物質の使用、筋骨格系障害、ストレス・心理社会的リスクや労働における暴力・ハラスメントなどの分野における具体的行動を要求している。パンデミックは、介護・医療・運輸労働者など多くのカテゴリーの労働者にとって-身体的及び精神的-すでに幅広い多くの健康リスクを増大させている。
労働関連ストレス
調査研究は、「テレワーク」の普及が仕事と家庭生活の間の境界をあいまいにして、とくに女性に余分な圧力を与えている一方で、コロナウイルス危機に伴う雇用不安と収入源が、労働者のなかでももっとも脆弱な部分ン不釣り合いな影響を与えていることを示している。
ヨーロッパではここ数年、労働関連ストレスが増傾向にあるが、ロックダウン後にベルギーで実施された代表的な調査では、全労働者のほぼ半数が不安や抑うつを報告していることがわかった。使用者と労働組合は、枠組み指令が労働関連ストレスやバーンアウトに対抗するには十分でないことに同意しており、ETUCとその加盟組織は以前から心理社会的リスクに関する指令を要求している。
EUでは毎年、業務上死亡の53%ががんによるものである。EUは、労働者保護をコストとして扱うのではなく、リスクに応じたアプローチを採用して、労働関連がんと闘うための立法により野心的である必要がある。
ETUCは、欧州議会とEU理事会で今年初めに投票される予定の、発がん物質及び変異原性物質に関する指令の改訂案を歓迎しており、とりわけ生殖系への損害から労働者を保護すべきである。しかし、25種類の高リスクの発がん物質には限界値が課せられていない。ビジョン・ゼロは、欧州における除草剤グリホサート使用の再許可やアスベストの除去に関する委員会の決定の手引きにもなるべきである。
筋骨格系障害
ヨーロッパでは、何百万もの人々が、腰痛や反復緊張傷害(RSI)などの労働関連筋骨格系障害(MSDs)に罹患している。予防可能であるにもかかわらず、MSDsはもっとも多い労働関連健康問題のままであり、EUにおける労働者の5人に約3人が、個人の瀬克の室や労働能力に深刻な損害を与え、病気休暇や傷害、早期退職につながる可能性のある、MSDの症状を報告している。すべての労働者が保護され、使用者はリスク要因を確認することを求められる必要がある。
しかし、労働者のなかには、年齢、教育や障害も要因となる一方で、女性、移住労働者やLGBT+の人など、身体的か心理社会的かを問わずとりわけリスクにさらされているグループがある。リスクを評価し、予防措置を設計する際には、労働者の多様性と特別のニーズが考慮されなければならず、労働における暴力・ハラスメントに対する2019年のILO条約がEU全体で執行される必要がある。
最後に、委員会は、例えば気候変動、プロットフォーム労働や人工知能・デジタル化から生じる-新たなリスクにも備えなければならない。ETUCは、欧州委員会がCOVID-19を職業病として認めたことを歓迎するが、最近の出来事は、将来のパンデミックに対処するために規制を更新する必要があることを示している。
ビジョン・ゼロ・アプローチは、労働安全衛生に関する今後のEU製作の羅針盤であるべきであり、社会パートナーが、あらゆるレベルでの健全な安全衛生対策の設計と実施に適切に関与すべきである。労働組合は職場をより安全衛生にし、EU規制の改善を促進するうえで組合活動はきわめて重要である。
EUの目的は働く人々の生活を向上させることでなければならず、労働安全衛生はEUが変化をもたらすことのできる分野のひとつである。ETUCを通じて労働組合は、すべての労働者が安全で健康的な労働環境を享受する権利を確保するための具体的な行動を通じて、労働災害・職業病のないヨーロッパの促進に協力している。