ILO:労働における有害な化学物質への曝露と結果としての健康影響:グローバルレビュー(2021.5.7) 知見の概要:重金属
▶重金属とは、密度の高い金属のことであり、ヒ素、カドミウム、鉛、水銀や六価クロムなど、多くの場合有害である。
▶重金属とその化合物への職業曝露は、建設業、鉱業、電子産業や繊維業など、幅広い業種で生じる。
▶重金属への曝露に関連したその他の健康影響に加えて、ヒ素、カドミウム、六価クロムはヒトに対して発がん性として分類され、鉛はヒトに対しておそらく発がん性として分類されている。WHO(世界保健機関)は、ヒ素、カドミウム、鉛と水銀を、公衆衛生上懸念される上位10位の化学物質のうちの4つに挙げている。
▶これらの物質の職業曝露限界と制限措置がいくつかの国で行われているが、国際的な調和はまだ不十分である。
▶鉛や水銀などの一部の重金属は、妊娠の結果に影響を与えたり、子どもの発育に影響を及ぼす可能性があり、そのことは職業曝露から女性を守ることをきわめて重要にしている。
主要な曝露業種:鉱業、建設業、農業・プランテーション・その他農村部門、製造業、貴金属生産、海運・港湾・水産・内陸部水運業、公共事業(水道・ガス・電気)、繊維・衣料・皮革・製靴業、機械・電子工業
物質:[重金属]全体
主要な健康影響:様々
職業曝露の世界負荷:2,500万人超
労働関連健康影響:限定的データ
物質:鉛
主要な健康影響:がん(胃)、神経毒性、心血管疾患
職業曝露の世界負荷:180万人超
労働関連健康影響:限定的データ(鉛への環境曝露により90万人超)
物質:水銀
主要な健康影響:神経毒性、腎臓毒性、免疫毒性、生殖毒性
職業曝露の世界負荷:1,900万人超(職人的小規模金鉱についての限定的データ)
労働関連健康影響:限定的データ(慢性金属水銀蒸気中毒により200万DALYs超)
物質:ヒ素
主要な健康影響:がん(肺・皮膚・尿道・膀胱)、皮膚毒性、神経毒性、腎臓毒性
職業曝露の世界負荷:300万人超
労働関連健康影響:限定的データ
物質:カドミウム
主要な健康影響:がん(肺)、腎臓毒性、骨毒性
職業曝露の世界負荷:50万人超
労働関連健康影響:限定的データ
物質:六価クロム
主要な健康影響:がん(肺)、腎臓毒性、肺毒性、皮膚毒性、肝臓毒性
職業曝露の世界負荷:100万人超
労働関連健康影響:限定的データ
目次
曝露
ヒ素は、主に抗真菌性の木材防腐剤、とりわけクロム銅ヒ素系木材保存剤(CCA)を生産する工業プロセスで使用されており、土壌汚染の原因になる可能性がある。CCAの製造・使用は一部の国では禁止されているものの、CCAで処理された木材の存在はいまだにどこにでもある。ヒ素はまた、医薬品業やガラス産業、合金、洗羊液、皮革防腐剤、ヒ素含有顔料、防汚塗料や毒餌の生産、また、減少しつつあるものの農薬(とりわけ果樹園やブドウ園用)の生産にも使用されている。ヒ素化合物は、マイクロエレクトロニクスや工学産業でも少量使用されている。2019年の採掘による三酸化ヒ素の世界生産量は33,000トンであり、中国(24,000トン)とモロッコ(6,000トン)が世界の主要生産国で、推計世界生産量の約90%を占めている。無機ヒ素は、アルゼンチン、バングラデシュ、チリ、中国、インド、メキシコ、アメリカなど、多くの国の地下水に高レベル、自然に存在している。ヒ素への職業曝露の世界的な推計はない。NIOSHは、1981年から1983年に、約16,000人の女性労働者を含む、70,000人の労働者がヒ素及びヒ素化合物に曝露した可能性があると推計している。CAREXデータベースは、1990年から1993年にEUで、147,569人の労働者がヒ素及びヒ素化合物に曝露したと推計している。CAREXカナダは、現在25,000人のカナダ人が職場でヒ素に曝露していると推計している。
カドミウムへの職業曝露が生じる可能性がもっとも高いのは、カドミウムの生産・精錬、ニッケル・カドミウム電池の製造、カドミウム顔料の製造・調合、カドミウム合金の生産、機械的メッキ、亜鉛精錬、銀-カドミウム-銀合金のろう付け、ポリ塩化ビニルの合成である。2019年の精錬所からのカドミウムの世界生産量は25,000トンであり、世界の主要生産国は中国(8,200トン)、韓国(5,000トン)、日本(1,900トン)であった。大気中のカドミウムの主な人為的発生源は、非鉄金属鉱石の精錬、化石燃料の燃焼、鉄金属の生産、都市ごみの焼却、セメント生産である。カドミウムへの職業曝露の世界的推計はない。CAREXデータベースは、1990年から1993年の間にEUで、207,350人の労働者がカドミウム及びカドミウム化合物に曝露したと推計している。CAREXカナダは、35,000人のカナダ人が職場でカドミウムに曝露していると推計している。
六価クロム化合物は、織物染料、塗料、インク、プラスチックなどの顔料、腐食防止剤、木材防腐剤、金属仕上げやクロムメッキ、皮革のなめしを含め、幅広い用途に使用されている。2019年の採掘によるクロムの世界生産量は4,400万トンであり、世界の主要生産国は南アフリカ(1,700万トン)、トルコ(1,000万トン)、カザフスタン(670万トン)であった。クロムへの曝露は、クロム含有金属・合金の製造・使用・溶接、顔料、塗料、触媒、クロム酸、なめし剤や農薬など、クロム含有化合物の生産・使用で生じる。CAREXデータベースは、1990年から1993年の間にEUで、785,692人の労働者が六価クロム化合物に曝露したと推計している。CAREXカナダ(2011年)は、83,000人のカナダ人が六価クロム化合物に職業曝露していると推計している。
鉛は、主に鉛蓄電池、配管材や合金、また、ケーブル被覆、塗料、釉薬や弾薬に使用されている。鉛はまた、一部の国ではいまだに、ポリ塩化ビニル(PVC)の安定剤や、黄色のプラスチックの顔料としてクロム酸鉛が使用されている。2019年の採掘による鉛の世界生産量は450万トンであり、世界の主要生産国は中国(210万トン)であった。これらの鉛を含有する製品の製造は、広範囲の職業曝露につながる可能性がある。職業曝露はまた、鉛含有塗料の塗布・除去時、造船、建設や解体における鉛含有塗料を塗布した材料の研磨・溶接・切断時、PVCその他のプラスチックのリサイクル時、鉛クリスタルガラス製品の製造・彫刻においても生じる。採掘、精錬、電気・電子機器廃棄物のフォーマル及びインフォーマルな処理・リサイクルも、重要な曝露源になり得る。鉛は、ガソリン中のアンチノック剤や潤滑剤として、テトラエチル及びテトラメチル鉛のかたちで広く使用されたので、車輛から無機鉛粒子を放出させる。この使用はほぼすべての国で段階的に禁止され、それは人体への曝露と平均血中鉛濃度の大幅な減少につながった。CAREXデータベースは、1990年から1993年の間にEUで、150万人の労働者が鉛及び無機鉛化合物に曝露したと推計している。CAREXカナダは、現在277,000人のカナダ人が鉛に職業曝露していると推計している。
水銀への職業曝露は、例えば、水銀の採掘、アマルガムに水銀が使用される金の採掘、銅、亜鉛、銀などのその他金属の採掘など、採掘において生じる。2019年の採掘による水銀の世界生産量は4,000トンであり、世界の主要生産国は中国(3,500トン)であった。開発途上国では、約1,500万人が小規模金採掘(ASGM)に従事している。水銀はまた、塩素アルカリ生産、塩化ビニルモノマー生産やその他の製造プロセスで、触媒としても使用されており、職業曝露のリスクを生じさせている。水銀は、地殻の中に自然に生成しており、それは、石炭や原油が水銀によって汚染され、また、石炭火力発電所や石油部門における職業曝露の可能性につながっている。酢酸フェニル水銀は、防カビ剤として製紙プロセスでパルプに添加されることがあり、それは、職業曝露につながる可能性がある。加えて、水銀は歯科用アマルガムの成分であり、歯科医療における職業曝露の原因になる。最後に、水銀は、工芸品や神像の製造で行われる、「水銀メッキ」や「火鍍金」と呼ばれる金メッキに使用される場合がある。これは、金属水銀と金の粒子を混ぜてペースト状にしたものを、神像に塗るものである。その後水銀は焼却されて、金の被膜が残るとともに、労働者が水銀蒸気に曝露する。
健康影響
がん
IARC(2012年)は、ヒ素、カドミウムと六価クロムをヒトに対して発がん性(グループ1)として分類し、そのように結論づける十分な証拠があると指摘している。
▶ヒ素及びヒ素化合物は、肺・皮膚・膀胱がんを引き起こす。また、ヒ素及び無機ヒ素化合物への曝露と前立腺・腎臓・肝臓・胆管がんの間にポジティブな相関関係が観察されている。
▶カドミウム及びカドミウム化合物は肺がんを引き起こし、また、カドミウム及びカドミウム化合物への曝露と前立腺・腎臓がんとの間にポジティブな相関関係が観察されている。
▶六価クロム化合物は、肺がんを引き起こす。六価クロム化合物への曝露と鼻腔・副鼻腔がんとの間にポジティブな相関関係が観察されている。六価クロムに曝露した労働者における胃がんのリスクの増加も観察されている。しかし、IARCによれば、六価クロム化合物が胃がんを引き起こすことの証拠は限定的である。
▶無機鉛化合物は、ヒトに対して恐らく発がん性(グループ2A)として分類されている。このことは、血中鉛レベルの上昇にともなう肺がん・脳腫瘍の増加を示した、過去の血中鉛データのある約3万人の鉛曝露労働者の2つのコホート(フィンランド:n=20,752、イギリス:n=9,122)のデータを分析した最近の研究によって支持されている。
その他の健康影響
高レベルの無機ヒ素への長期曝露は皮膚に影響を及ぼすことが多く、もっとも一般的な皮膚への影響は色素沈着であり、手のひらや足の裏側に両側性の肥厚をともなう角化症が生じる場合もある。高レベルの無機ヒ素への曝露のその他の影響としては、末梢神経障害、胃腸症状、結膜炎、糖尿病、腎臓系への影響、肝臓肥大、骨髄抑制、高血圧や心血管疾患がある。急性ヒ素中毒のほとんどの症例は、殺虫剤や農薬を誤って摂取する職業環境で生じている。最初の臨床的特徴は必ずと言ってよいほど消化器系に関連しており、吐き気、嘔吐、腹痛や下痢が含まれる。
腎臓はカドミウムの主な標的であり、カドミウムは主に腎臓に蓄積され、ヒトでの生物学的半減期は10~35年である。カドミウムに汚染された地域での生活・労働を通じて曝露した者に、骨軟化症(骨が柔らかくなる)や骨粗しょう症が生じる可能性がある。長期にわたる高レベル曝露は、主に慢性閉塞性肺疾患を特徴とする、肺の変化と関連している。
六価クロムへの曝露は、喘息、炎症、腎障害、肺充血・水腫を引き起こす可能性がある。また、一部の労働者は、アレルギー性皮膚炎と呼ばれる、アレルギー性皮膚反応を起こすこともある。六価クロム産業で働く女性を対象とした最近の研究では、曝露が胎児の発育毒性を引き起こすことが示されている。
成人の血中鉛濃度10μg/mLと低い慢性職業曝露は、腎機能障害、高血圧、神経系・神経行動系への影響、後年における認知機能障害、胎児期の曝露に起因する微妙な認知機能への影響と関連している。鉛への職業曝露は、最近、筋萎縮性側索硬化症のリスク増加との関連性が示されている。鉛曝露は、健康に対する長期影響による106万人の死亡と2,440万障害調整生命年(DALYs)の原因となっていると推計されているアメリカでは、鉛への環境曝露が、心血管疾患による年256,000人の死亡と虚血性心疾患による年185,000人の死亡の原因になっていると推計されている。
水銀とメチル水銀は、中枢神経系と末梢神経系に毒性がある。水銀蒸気を吸入すると、神経系、消化器系、免疫系、肺、腎臓に有害な影響を与え、死に至ることもある。水銀の無機塩は、皮膚、目、消化管に対して腐食性があり、口から接種した場合には腎臓毒性も含まれる可能性がある。ある研究では、ブラジルの鉱山労働者において水銀曝露が自己免疫機能障害と全身性炎症を引き起こすことが示された。最近の系統的レビューでは、水銀と高血圧との間の優位な相関関係が報告されている。世界では、1,400~1,900万人の労働者が職人的小規模金鉱夫として従事しており、それら鉱夫の25~33%(世界で330~650万人の鉱夫)が慢性的な金属水銀中毒に罹患している。結果としての世界疾病負荷は、122~239万DALYsの範囲と推計されている。
地域的傾向
低中所得諸国(LMICs)がすべての重金属への曝露の最大の負荷を負っている。ヒ素への職業曝露はLMICsで高いことが多く、インドやバングラデシュのように、すでに無機ヒ素が高レベルで自然に存在している地域では、とくにその影響が懸念される。なめし皮労働者における六価クロム曝露とともに、カドミウム曝露は、LMICsの家内工業で一般的に高く、保護措置が不十分な場合が多い。また、電池製造、解体作業、溶接、自動車のラジエーターを修理する小規模事業など、フォーマルまたはインフォーマルを問わず、多くの職業活動がLMICsにおいて鉛曝露と関連している。ASGM[職人的小規模金鉱]は、主にLIMCsで生じており、水銀への職業曝露による疾病負荷の大部分を占めている。
事例研究:ASGM(小規模金採掘)における水銀曝露
インドネシアでは、27の州で850以上のASGMホットスポットが確認されており、そのほとんどが水銀を使って金を抽出している。これは100万人以上の人々に生活の糧を提供している。2015年に、住民のすべてが金採掘業で働いているか、何らかのかたちで従事している、ある小さな村(パンカル・ジャヤ)で調査が行われた。鉱石の処理は住宅地域内の家の近くで行われていた。水銀蒸気を評価するために、大気中及びこの地域で収集された米から試料を採取した。大気中の水銀蒸気の平均濃度は4.154nanogram/m3で、勧告レベルを上回った。米の試料に含まれる水銀の平均値は143ppbであり、インドネシア政府が勧告する安全レベルの約3倍であった。一部の地域住民と子どもたちに、精神遅滞、脳性麻痺、筋ジストロフィーや痙攣などの水銀中毒の重篤な症状がみられた。
ジェンダーの役割
両方のジェンダーが重金属への職業曝露の対象になるが、作業内容の違いに関連して、ジェンダーが曝露の源とレベルに影響している。塗料に含まれる鉛への職業曝露は、塗料工場、建設・解体、塗装業者や自動車修理工場での作業が原因になる。これらはすべて、とくに非常に伝統的な社会では、一般的に男性中心の職業である。対照的に、女性の方が、劣化した装飾用塗料から発生する鉛に汚染された粉じんにより鉛に曝露する可能性が高い。これは、家庭、幼稚園、小学校や、一般的に女性が多い職業に共通した屋内環境でみられる。水銀は、ASGMでひろく使用されており、推計で、400~500万人の女性と子どもを含む、1,000~1,500万人の鉱夫が含まれている。女性は、しばしば子どもが近くに家庭環境で、アマルガムプロセスに関わることが多い。
本項でとりあげた5つの重金属はすべて、生殖系に影響を与える可能性がある。加えて、一部の金属は人体に蓄積され、多くの重金属が骨に沈着する。これには鉛も含まれる。曝露量が減って血中濃度が下がっても、骨の中の鉛が出てきて、それが血中濃度を上昇したままにすることもある。鉛と水銀はともに妊娠中に、授乳中に子どもに移行して、脳や神経系の発達に悪影響を及ぼす。
ILO第176号条約と水銀条約
第176号条約のハイライトは水銀に関する水銀条約と相乗効果をもっている。採掘、とりわけ金の採掘における水銀の使用は、重要な健康・環境ハザードであり続けている。第176号条約は水銀に直接言及していないものの、第9条の化学物質に関するオープン規定はこの物質を対象としており、それゆえ金採掘で使用される他の有害化学物質はもちろん、水銀に関連したハザーズの根絶または少なくとも最少化を義務づけている。採掘における水銀は水俣条約によっても扱われており、ASGMに関連した危険性に関する規定がある。したがって、第176号条約と水俣条約は相互に補完し合っており、例えば、シアン化合物や有機溶剤など、採掘で使用される他の有害化学物質に関して、第176号条約が化学物質曝露に関するギャップを埋めている。
選択された優先行動:水銀
国の政策措置の例
必要に応じて、以下の条約を参照・批准・実施する。
▶ILO1995年鉱山における安全及び健康条約(第176号)。化学物質に関する第176号条約の主な規定は第9条で、使用者は、労働者に存在するすべての化学的ハザーズとそれらのハザーズに対する関係するあらゆる予防的・保護的措置について知らせ、それらのハザーズを根絶または最小化するために適切な措置を講じ、そうしなければ安全が確保できない場合には無料で保護機器を提供し、化学的ハザーズにより負傷または病気に罹った労働者のための応急措置、医療施設への輸送・適切なアクセスの提供を確保しなければならないことを義務付けている。
▶ILO1964年業務災害給付条約(第121条)。労働者は水銀への曝露に対して治療にアクセスできなければならない(付表1)。
▶ILO第194号勧告付録中のILO職業病リスト(2010年改訂)。職業病一覧表及び労働災害職業病の記録・届出(2002年職業病一覧表勧告)には水銀及びその化合物による疾病が含まれている(1.1.7項)。
▶水俣条約。水銀及びその化合物の排出空健康と環境を守るために採択された、128の署名国をもつ国連の条約。この条約は、大気中への水銀の排出への対処、一定の水銀含有製品の段階的廃止を含め、一定の行動をとることを政府に義務付けている。ASGMからの水銀曝露を低減させることは水俣条約のもっとも重要な目的のひとつである。
政策決定者のための追加的行動
▶金採掘、とりわけ労働者がとくに高度に曝露するASGMで、水銀の使用を根絶する。住宅地域での水銀/金アマルガムの処理を禁止する。
▶職業曝露を予防するために、その他の部門における国際的な水銀使用の段階的禁止も実施されるべきである。
▶水銀の貿易はもちろん、新たな水銀の生成と抽出をやめる。
職業曝露限界(OELs)
▶水銀に対するOELsを更新・実施・施行するとともに、それらOELsの国際的調和を確保する。水銀が汚染物質として存在する部門を含め、あらゆる部門における水銀に対する厳格な職業曝露限界を採用・実施すべきである。
現実的な職場介入の例
▶(アマルガムプロセスで使用される水銀の量を低減するため)より効率的に金を濃縮するために、水銀曝露低減手法を用いる。
▶アマルガムの屋外燃焼を避ける。
▶水銀/金アマルガム燃焼時に発散する水銀蒸気を捕集するために、レトルトやヒュームフードなどの水銀捕集装置を稼働させる。
▶例えば、選鉱、樋流し、遠心分離、スパイラル選鉱機、渦濃縮器や振動台などの動力のみを利用した濃縮方法など、水銀を使わないプロセスをASGMで利用する。その他の濃縮方法には磁石や浮揚法がある。
▶水銀を使用するすべての職業で効果的なPPEを提供する。これは、ジェンダー間の生理的な違いを含め、あらゆる体型の人を効果的に保護するよう設計されるべきである。
事例研究:中国の職人的水銀鉱山の精錬労働者における水銀曝露と症状
中国の武川市にある水銀鉱山の製錬作業者の水銀曝露を、尿中及び毛髪中の水銀濃度で評価した。精錬労働者の平均尿中水銀(U-Hg)、毛髪中総水銀(T-Hg)及び毛髪中メチル水銀(Me-Hg)は、各々1,060μg/g creatinine(μg/g Cr)、69.3μg/g及び2.32μg/gであった。結果は、1.30μg/g Cr、0.78μg/g及び0.65μg/gだった対照群と比較して、有意に高かった。尿中の平均平均β2-ミクログロブリン(β2 MG)が248μg/g Crであったのに対し、対照群では73.5μg/g Crであった。結果は、精錬労働者の腎臓系に対する深刻な悪影響を示した。労働者は水銀蒸気により曝露しており、Me-Hgの曝露経路は汚染された食事の摂取によるものかもしれない。6人の労働者に、指や瞼の震え、歯肉炎、歯茎の典型的な黒ずみなどの臨床症状がみられた。この調査では、烏川市の製錬労働者は、尿中及び毛髪中の水銀レベルが高く、また、β2-MGの増加や臨床症状によって証拠づけられる予備的健康影響のレベルも高いことが明らかになった。
選択された優先行動:鉛
国の政策措置の例
▶鉛含有塗料の廃絶に取り組む国際活動が示す政策行動と事例を参照する。鉛塗料は、SAICMのもとで新たな懸念事項に指定されており、世界的な廃絶を目標にしている。この目標を支援するために2019年に国際活動が設立され、労働者の曝露を予防することも目的としている。
▶ILO1988年建設業の安全衛生条約(第167号)を批准・実施する。諸規定は、建設業における適切な予防措置の実施を通じて、化学的ハザーズから労働者の健康を守るために定められている。鉛曝露は様々な業種で生じる可能性があるが、鉛を含有するヒュームや吸入性粉じんを発生させる職務中に鉛曝露が頻回に生じたり、鉛入り塗料を塗装する、建設業に焦点をあてる必要性がある。
政策決定者のための追加的行動
▶鉛塗料など、いまも残っている曝露源からの鉛の段階的廃絶を促進する。
▶鉛蓄電池の生産・リサイクルなどの産業で、鉛曝露を厳格に管理する。既存塗装の塗装除去を行う労働者に対する訓練及びPPEについての法的要求事項を策定する。
▶鉛及び電池リサイクルに対する厳格なOELsを採用・実施・施行する。
▶とりわけ既存塗装の塗装除去を行う労働者に対する訓練及びPPEについての法的要求事項に関して、鉛を国の労働安全衛生プログラムの検討事項に統合する。
職業曝露限界(OELs)
▶鉛に対するOELsを更新・実施・施行するとともに、それらOELsの国際的調和を確保する。鉛・電池リサイクルに対する専用のOELsがとりわけ必要である。
▶確立されたOELsには以下が含まれる。
・ EU指令98/24/EC:8時間加重平均0.15mg/m3及び血液100ml中70μgの鉛。これらはすべての労働者に適用され、鉛作業の中断が求められる場合を指示している。
・ それよりも低い限界値及び若年者や女性についてはさらに低い限界値、が国レベルで勧告・使用されている場合もある。例えば、ACGIHは30μg/100mlの限界値を勧告しており、これはイギリスで生殖年齢の女性に対して用いられる限界値を同じである。
現実的な職場介入の例
▶可能な場合には、鉛の使用を廃絶する。
▶例えば、鉛を含む被覆ではなく鉛を含まない治療を使用するなど、相対的に有害性の低い物質で鉛を代替する。完全密閉プロセスや処理プロセス、粉じん・ヒューム・蒸気の発生を最小限に維持するプロセスや排気装置など、工学的対策を講じる。
▶労働者の曝露時間・期間を低減するなどの管理的対策を採用する。
▶表面の定期的清掃、鉛・鉛廃棄物の安全な保管、汚染区画での飲食・喫煙の禁止、例えば汚染された衣服の洗濯などの衛生対策など、他の安全な作業慣行を採用する。
▶すべての体型の人々を効果的に保護するよう設計された効果的なPPEを提供する。例えば、皮膚接触のリスクがある場合には、鉛アルカリを扱う作業に、不浸透性の保護衣が不可欠である。
鉛含有塗料の廃絶に取り組む国際活動
鉛含有塗料の廃絶に取り組む国際活動は、鉛含有塗料の段階的廃絶を通じて曝露を予防するための、国産環境計画(UNEP)と世界保健機関(WHO)によって結成された、自主的なパートナーシップである。ILOはこの国際行動に参加し、鉛塗料の段階的廃絶に向けた社会的対話を促進するために、そのユニークな三者構成構造を活用している。
電子廃棄物(e-waste)に関するホットスポット
ハイテク電気・電子製品のライフサイクルにおける有害物質[報告書では5頁の分量]
編注:「電子廃棄物(e-waste)は、使用済みの『適正に動作するために電流または電気に依存する機器』(UNEP)と定義されており、小型及び大型の家庭用電化製品、情報情報技術・通信機器、照明器具、電気・電子工具、玩具、レジャー・スポーツ用品、医療機器、監視・制御機器、自動販売機、電気・電子機器の構成要素や部品(電池、回路基板、プラスチック筐体、活性化ガラス、鉛コンデンサーなど)が含まれる」とされたうえで、曝露、健康影響、地域的傾向、ジェンダーの役割、優先行動、事例研究、について記述されているが、紙幅の関係で省略した。
アルミニウム、ガリウム、ヒ素、鉛、カドミウム、クロム、水銀、銅、マンガン、ニッケル、鉄、亜鉛など、60種類以上の化学元素が確認されているとされ、「e-waste構成要素の化学物質と曝露の源・経路」の一覧表も示されている。