精肉店30代店員の脳出血-東京●長時間労働原因と労災認定

2020年6月、T病院の医療相談員(MSW)から当会に連絡をいただいた。3月に地元の精肉店の男性店員が職場で倒れ、救急搬送された。右被殻出血で搬送先の病院から転医し、当院で手術後、現在当院でリハビリ治療を行っている。年齢が38歳という若さで、お店の勤務が相当長時間だったようだとのことだった。

さっそく入院先を訪問し、車イスのYさんとご両親、MSWと面会した。

地域の精肉店に就職し、店舗販売員としてお店での精肉加工、小売り、配達、総菜づくりなどの仕事をしてきた。勤続は23年になる。

Yさんの業務は、午前7時にお店こ出勤。2階の休憩室で着替え、午前中は地域の保育園や食堂など約5か所を自転車でまわり、商品を配達する。午後12時30分から1時30分まで昼食休憩。午後は店内で肉のカット、揚げ物づくり、精肉、総菜の販売業務を行う。閉店は午後7時。その後片づけや掃除をし、着替えて午後8時に帰る。勤務は週6日、定休日の日曜だけが休日だった。繁忙期は日曜日も出勤した。

昨年3月、早朝出勤しトイレに入ったあと体がふらつき、嘔吐した。同僚が救急通報し、午前9時頃に病院に救急搬送された。右被殻出血と診断されたが、その病院では手術ができないため、現在の病院に転送され、血種除去手術を受けた。

Yさんは片言だがゆっくり会話ができた。おおよそ当時の働き方をうかがい、またご両親からも事情をきくなかで、毎日午前7時から午後8時までの13時間拘束、12時間実労働の過酷な長時間労働が続き、週1日の休日しかなく、年末の繁忙期には休日返上で働いていた実状がわかった。しかも、いままで一度も有給休暇をとったことがないと言う。

発症前6か月間の労働時間を集計すると、発症前1か月の時間外は140時間、発症前6か月の平均も100時間を超えていた。明らかに過労死ラインを超える長時間労働である。

8月、X労基署に療養補償給付、休業補償給付を請求し、Yさんから聞き取った内容を申立書にまとめ提出した。精肉店を経営する会社は、Yさんの労災請求に協力せず、事業主の証明さえ拒否した。
労災請求を端緒に過重労働がうかがわれる事業場には、労災調査ともに監督官が臨検監督に入る。会社には労基法違反の指導と是正が行われ、時間外労働の割増賃金を含む未払賃金の支払いが命じられた

2021年1月、X労基署はYさんの脳出血を業務上と認定。後日、Yさんが保有個人情報の開示請求をし、入手した復命書をみると、労基署は労働時簡を過小に評価し、始業が午前8時10分、終業を午後7時30分としていた。それでも発症前の時間外は98.2時間、6か月平均で96.3時間となり、長期間にわたり過重な業務に就労したことは明らかだった。また、発症前3か月間にYさんに支払われた賃金が時給換算で、最低賃金を下回っていたため、会社に未払い分の賃金を支払わせて、平均賃金を確定させた。

2020年12月、会社は新型コロナの影響もあってか、精肉店を閉じ、廃業するため、Yさんに退職手続をとるょう求めている。

現在Yさんは自立生活に向けてリハビリと生活訓練に取り組んでいる。今後、会社への対応と社会復帰に向けてご本人、家族と相談を重ねていくことにしている。

文/問合せ先:東京労働安全衛生センター

安全センター情報2021年10月号

現場監督の脳出血、労災認定。コンビニ店舗の内装工事で長時間労働/東京