安全保健管理体系の構築、どこまで来たか 2021年11月01日 韓国の労災・安全衛生

資料写真/チョン・キフン記者

「重大災害処罰などに関する法律」(重大災害処罰法)の施行が3ヶ月後に迫った。雇用労働部によれば、勤労監督官が重大災害の捜査権を確保する方向に決まって、『重大災害捜査実務コンテンツ』の開発に着手した。検察も刑事実務的な対応方案を作るために『重大災害処罰法対応PT』を構成して、重大災害処理基準を具体化する作業の最中だ。しかし、重大災害処罰の刃物を研ぐよりも重要なことは、重大災害を予防することだ。

来年1月27日から施行される重大災害処罰法は、一人以上が死亡する重大災害が発生した場合、安全保健確保義務を疎かにした事業主または経営責任者を、1年以上の懲役、10億ウォン以下の罰金に処すと規定している。換言すれば、重大災害が発生したとしても、安全保健確保義務を正しくしていれば処罰を受けないという意味だ。労働部が重大災害処罰法施行ガイドラインとして『安全保健管理体系ガイドブック』を出した理由でもある。

「一体、安全保健管理体系とは何なの?」曖昧な定義、曖昧な規定

安全保健管理体系は、重大災害処罰法で初めて登場した用語だ。重大産業災害と重大市民災害での『事業主と経営責任者などの安全および保健確保義務』をそれぞれ規定した4条と9条に、「災害予防に必要な人材および予算(点検)等、安全保健管理体系の構築と履行に関する措置」が出てくる。施行令は安全保健管理体系の具体的な事項を再度8つの項目で規定している。

産業安全保健法には安全保健管理体系という用語はない。安全管理者や保健管理者などを規定した『安全保健管理体制』とだけ叙述している。しかし既に一線の現場では、安全保健経営認証制度などを利用して『安全保健管理体系の構築』という用語を日常普通に使ってきた。

労働部はガイドブックで、「安全保健管理体系の構築・履行のような、仕事をする人の安全と健康を保護するために、企業自らが危険要因を把握し、除去・代替および統制の方案を準備・履行し、これを持続的に改善する一連の活動」と規定した。それと共に、安全保健管理体系の七つの核心要素として、△経営者のリーダーシップ、△労働者の参加、△危険要因の把握、△危険要因の除去・代替および統制、△非常措置計画の樹立、△請負サービス委託時の安全保健確保、△評価と改善、を提示している。

労働部が挙げた7つの核心要素は、安全保健経営システムに関する国際基準のILO-OSH2001とISO45001と関連がある。2001年に国際労働機構(ILO)が制定した『産業安全保健経営システム構築に関する指針』のILO-OSH2001は、△安全保健経営方針と労働者の参加保障、△安全保健目標と有害・危険に対する対策、△評価と改善措置といった事業場の安全保健ガイドラインを内容としている。国際標準化機構(ISO)が認証する国際標準であるISO45001もやはり、最高経営者をはじめとする全職員と利害関係者が参加して、事業場で発生し得る危険を事前に予防・管理するシステム的な管理方法だ。

重大災害処罰法上の安全保健管理体系は、既に国際的に広く使われている安全保健管理システムを法の中に持ってきたと見ることができる。政府が安全保健管理体系の概念を明確にすることができず、重大災害処罰法が施行されても安全保健管理体系構築が形式に終わるのではないかと憂慮される。

ソウル科学技術大のチョン・ジンウ教授(安全工学)は、「この間、政府次元で企業の安全保健管理体系の活性化に特別な努力をせず、むしろ産業安全保健法令が全面改正されて、安全保健管理システム構築の法的根拠になりそうな条項を削除することもした」と批判した。チョン教授は「そのため一線では、安全保健管理システムの構築が即ち『認証』という誤った等式としての位置を確立し、安全保健管理システムが官公庁提出用・マーケティング用に転落して実質的な安全保健管理に役に立たない装飾物になった」と批判した。

危険作業二人一組人材の拡充よりも、安全部で管理者だけが増えて

実際の重大災害処罰法施行を前に、企業が先を争ってISO45001の認証に向かうようだ。金属労連のチョン・テギョ法規安全局長は「労働者のための安全施設を拡充し、足りない人材を補充しなければ重大災害は防げないのに、重大災害処罰法の施行を前に、企業が安全保健予算をISO45001認証を受けたり、コンサルティングを受けるために集中的に使っている。」「極端には、サムソンの事業場がある天安では、安全管理者を一気に集めたせいで、他の企業は関連の資格証を持っている人材を求められないという話しまで出てくるほどだ」と話した。

公共輸送労組のチョ・ソンエ労働安全保健局長も「公共機関は、2019年のキム・ヨンギュン労働者の事故を契機に、2年前から安全保健管理体系の構築に取り組んだが、企画財政部が人材と予算を握っている状況で、危険な作業現場の二人一組の人数よりも、安全部の管理者を増やすやり方で対応してきた」と指摘した。

産業安全保健委員会で実質的な安全保健管理体系を構築しよう

労働界は安全保健管理体系の構築は書類の作業ではなく、実質的な災害予防を果たすためには労働者の参加が重要だと口を揃える。

重大災害処罰法施行令は4条(安全保健管理体系の構築および履行措置)で、事業場で従事者の意見を聞く手続きを用意し、改善法案の履行の有無を半期に一回以上点検した後に必要な措置をすることを規定している。産業安全保健法上の産業安全保健委員会で代替できる。

民主労総のチェ・ミョンソン労働安全保健室長は、「事業場の産業安全保健の議題を審議・議決できる産業安全保健委員会で、安全保健管理体系の構築に関する実質的な議論がされるべきだ」と強調した。特に、重大災害処罰法が、経営責任者に、第三者請負・サービス・委託時にも安全保健確保の義務を付している以上、産業安全保健委員会の門を元・下請けの労使すべてに開放すべきだという声も大きくなっている。

今年既に4人の労働者が産災死亡事故で亡くなった現代重工業でも、このような要求が出ている。金属労組現代重工業支部は今年の団体協約の別途の要求案として、元・下請けの安全保健協議体の運営を要求した。現代重工業支部のキム・ヒョンギュン政策企画室長は「来年の下半期からは受注量が大幅に増えると予想されるのに、今ですら人材が不足している状況で、未熟練下請け労働者が投入される可能性が大きい。」「元・下請けの労使がすべて一緒に参加し、安全問題を議論しなければ重大災害は防げない」と強調した。

現代重工業は昨年の安全診断以後、産災事故が多発している多段階の物量チームを養成する方法で、現代重工業と直接契約を締結する『短期契約業者』を増やしてきた。しかし、作業期間が1~3ヶ月と非常に短いために、安全保健教育や安全点検がキチンとされ難い。今年発生した4件の産災死亡事故の内の2件が、短期契約業者に発生したことは偶然ではない。

蔚山産災追放運動連合のヒョン・ミヒャン事務局長は、「短期契約業者は、ただ契約方式が変わっただけで、労働者の安全問題が正しく解決される構造ではない。」「元・下請けの労使が参加する産業安全保健委員会や安全保健協議体でこの問題を深く議論すべきだ」と指摘した。

産業安全保健法は産業安全保健委員会を『事業場』の労働者委員と使用者委員の同数で構成するように規定している。下請け労働者の参加が保障されにくい構造だ。ただし建設業の場合は特例で、元・下請け労使が協議体を構成するようにしている。重大災害処罰法の実効性を確保するためには、産業安全保健法の労働者参加制度に急いで手を加えなければならないという要求が高まる理由だ。

2021年11月1日 毎日労働ニュース キム・ミヨン記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=205675