危機に対する予測、準備及び対応-回復力のあるOSHシステムに、いま投資を。2021年4月28日国際労働機関(ILO)2021年仕事における安全と健康のための世界の日報告書
【報告書の目次】
▶ はじめに
▶ COVID-19パンデミック:労働安全衛生にとっての世界的課題
COVID-19危機への対応における国際労働基準の重要な役割
国のOSH[労働安全衛生]システムの強化
社会的対話の強化
▶1. 国のOSH方針と規制枠組み
1.1 危機・緊急事態によりうまく対応するための効果的な国のOSH方針・規制枠組みの強化
1.2 OSHに対するマネジメントシステムアプローチの促進
1.3 職場におけるウイルスの拡大を予防するための新たな法的要求事項
1.4 関連するOSHリスクを管理するための規定の採用
1.5 監督のシステムを含めた国の法令の遵守を確保するための仕組み
▶2. 国のOSHの制度的枠組み
2.1 OSHに責任を有する機関または組織
2.2 OSH問題とCOVID-19の影響に対処する国の三者構成助言組織
2.3 業務上傷病をカバーする関係保険や社会保障制度との強力
▶3. 労働衛生サービス
3.1 COVID-19危機における労働衛生サービスの対象と役割
3.2 労働環境の監視とリスクアセスメント
3.3 労働者の健康の調査と応急措置サービスの提供
3.4 労働の労働者への適合と影響を受けやすい集団の保護
3.5 助言的役割
3.6 一般的な予防的・治療的衛生サービスの提供
3.7 外部サービスとの強力
▶4. OSHに関する情報、助言サービスと訓練
4.1 OSHに関する情報と助言サービス
4.2 注意喚起キャンペーン
4.3 OSHに関する訓練の提供
▶5. OSHに関するデータ収集と調査研究
5.1 世界的健康危機の時におけるOSHデータ・情報の収集
5.2 業務上傷病に関するデータの収集と分析
5.3 OSHとCOVID-19に関する調査研究
5.4 国際協力
▶6. 企業レベルにおけるOSHマネジメントシステムの強化
6.1 経営者、労働者と職場代表との間の強力の促進
6.2 包括的リスクアセスメントの実施
6.3 MSMEsとインフォーマル経済におけるOSH状況の進歩的な改善のための支援の仕組み
▶展望:次の危機に立ち向かうための回復力のあるOSH[以下に紹介]
▶参考文献一覧
▶付録
COVID-19と仕事の世界に関するリソース
職場におけるCOVID-19予防に関するツールとリソース
COVID-19危機の中での(暴力・ハラスメントを含めた)心理社会的リスクに関するツールとリソース
COVID-19に関する業種別ツール
医療・緊急対応
農業・林業
教育
宿泊、飲食店及び旅行業
運輸業
その他
インフォーマル労働者に関するツールとリソース
展望: 次の危機に立ち向かうための回復力のあるOSH
COVID-19パンデミックは仕事の世界に大きな影響を与えた。労働者は、職場でウイルス感染のリスクを冒さなければならなかっただけでなく、移動の制限の対象にもされなければならなかった。在宅勤務が増加し、また、多くの商業・製造活動が閉鎖された。危機の波及効果は次々に、労働市場、労働条件及び賃金-そして多くの場合、病気休暇や社会的便益などの保護へのアクセス、に影響を与えた。パンデミックは、回復力のあるOSH[労働安全衛生]システムを強化・創設することの重要性を明確に示したのであり、われわれは、この教訓をともに将来につなげなければなければならない。危機は、より広範な緊急時対応・公衆衛生システムのなかの主要なアクターのひとつしてのOSHの重要性を実証した。国の緊急事態への準備と対応は、各国の緊急時計画のなかにOSHの準備を積極的に統合すべきである。OSHシステムへの投資は、現在のパンデミックへの対応と将来の感染の回避による迅速な回復に資するだけでなく、待ち受けているかもしれない何らかの将来の危機に立ち向かう回復力を生み出すだろう。
国際労働基準(ILS)は、危機対応の文脈においてディーセントワークを保護するための重要な参考の役目を果たす。労働安全衛生の領域をカバーする基準は、COVID-19パンデミックに関わる状況に対して適用することができる。雇用、社会的保護、賃金保護、MSME[中小零細企業]振興及び職場協力に関する一連のILSも、パンデミックの社会経済的影響に対処するためのガイダンスを提供している。ILO加盟国は、これらの基準の批准と実施が、彼らにあらゆる危機によりうまく立ち向かうために備えさせることになるということを認識すべきである。まさにILSの尊重が、危機の間と後の両方において、雇用と労働条件の下降スパイラルの回復と予防にとって鍵となり得る、社会的対話と職場協力の文化に寄与するのである。
2017年のILO平和及び強靱性のための雇用及び適切な仕事勧告(第205号)は、危機対応への戦略的アプローチを概述し、危機状況への対応における社会的対話の重要性を強調している。それはまた、危機対応が安全でディーセントな労働条件を促進する必要があることを強調している。
危機対応のすべての領域における、社会的対話の重要性は、パンデミックを通じてはっきりした。労働者、使用者と社会全体のニーズを考慮して対応を生み出すためには、労働者とその代表と協議及びコミュニケーションをとることが不可欠である。効果的な社会的対話は、行きわたっている状況にもっともよく適応するとともに、地震と信頼を構築する解決策を生み出すのに役立つ。複数のレベルの社会的対話アプローチは、COVID-19危機に対するILOの方針対応の第4の柱に対応している。
OSHの領域では、2006年の職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約(第187号)と付随する勧告(第197号)が、OSHに関する既存の条約の重要性を理解しつつ、国の予防的な安全衛生文化を促進するための一貫性のある系統的枠組みを提供している。この枠組みは、危機への対応を含め、常に労働者の安全と健康を維持するうえで非常に重要な、OSHシステムの要素の概要を示している。1981年の労働安全衛生条約(第155号)は、OSHに関する使用者、労働者と国の機関の役割と責任の枠組みを提供している。
強力な国のOSH方針と規制枠組みは、国内の回復力のある健康・労働システムに貢献し、事業の回復または継続と労働者の安全衛生の保護の機会を高めることによって、彼らが危機によりうまく対応できるよう備えさせる。第1章で述べられているように、多くの国で、しばしば職場におけるCOVID-19症例の予防・対処のための詳しい手順と手続をつけて、様々な部門の具体的状況に対処するために、規則、技術基準及び/または労働協約が採用されてきた。他の緊急事態に対応し、OSH対策の適切な採用に義務を有する者を手引きするための処方箋を導入するためにも、社会パートナーとの協議を通じた迅速な法的対応が必要だろう。
この状況はまた、ウイルスの拡散を減速するために実施されるものなどの確立された諸対策が、すべての種類の企業に首尾一貫して適用されるようにするために、大規模に介入することのできる、確固とした労働監督システムが実施されている必要性を強調した。労働監督官が常に職場と対話しているという事実が、彼らを、使用者と労働者に定期的に適用される新しい法的規定に関する信頼できる情報を提供するために、労働監督官を特権的な立場に置くのである。これは、遵守に影響を与える可能性がある。
COVID-19危機はまた、国レベルの協議に積極的に関与するOSHに関する権限のある機関をともなった、強力な国のOSHの制度的枠組みの必要性を示している。リーダーシップを発揮し、危機のなかで信頼できる機関として機能する国のOSH機関は、より高いレベルで人々に信頼された、より調整のとれた迅速な対応を生み出すより強いチャンスをもっている。これはまわりまわって、提供されたガイダンスをより遵守する姿勢に影響を及ぼすかもしれない。
労働者、使用者と政府の複雑なニーズを考慮し、適切かつ持続可能な解決策を開発する適切なOSH対策を決定するためには、社会的対話が不可欠であり、この対話のための制度的枠組みは、ふつう国のOSH三者構成助言機関である。
COVID-19パンデミックは、公衆衛生システムと職場の橋渡しをする労働衛生サービスの必要性に光を当てた。提供されるサービスは様々であり、助言、教育と訓練、ケースモニタリング、保健・社会保障当局への通知が含まれる。また、職場における適切なOSH対策の遵守とそれに続く採用を促進するために、効果的かつ調整のとれたコミュニケーションと情報について強いニーズがある。これには、注意喚起、情報、OSHに関する助言サービス・訓練が含まれるかもしれない。情報を素早く広めるためには迅速なコミュニケーションのシステムが必要であり、それはパンデミックの傾向とそれを食い止めるために政府レベルでとられる対策に密接に従わなければならない。
とりわけ公的当局が定期的に状況を評価して、知らせる必要のある緊急事態においては、通知されるOSHに関する方針、法令、戦略及び対策を開発するためには、OSHデータが不可欠である。COVID-19パンデミックの間、データ収集とOSH調査研究は、ウイルスその他関連するリスク(例えば心理社会的リスクや暴力への曝露)への主要な曝露源はもちろん、(対象を絞った対策をとるための)もっともリスクにさらされる集団の確認を助けることができる。調査研究の領域では、データを比較し、分析を迅速に進め、他の国の経験からインスピレーションを得るためには、国際的交流・協力が前提条件である。
職場レベルでは、OSHの実施に労働者を関与させる仕組みをともなった、効率的なOSHマネジメントシステムをもっていることが、解決策が持続可能かつ適切であることを確保するために不可欠である。COVID-19パンデミックの間、職場は、感染を防ぎ、勤務形態の変化によるものを含め、生じている他のリスクを軽減するために、新たな手続と対策を採用する必要があった。こうした新たな課題に立ち向かうために、企業は、管理のヒエラルキーにしたがって-予防対策を確認・実施できるようにするために、労働環境、手を使う職務、脅威とすでに行われている対策を考慮した、包括的なリスクアセスメントを実施する必要なノウハウをもつ必要がある。また、暴力やハラスメントに関連したものを含め、心理社会的リスクにも注意が払われるべきである。企業が、健康危機・パンデミックに対処するために策定された、包括的な職場緊急事態準備計画をもっている場合には-COVID-19のような危機を含め、予期しない状況に立ち向かうときに-迅速で調整のとれた効果的な対応を組織するうえでよりよい立場にあるだろう。
結論として、公衆衛生システムが、COVID-19ウイルスの拡大や人口全体に対する他の公衆衛生脅威を予防する責任を負っているとはいうものの、労働者のいのちと健康を守るためには強力で効果的な国のOSHシステムが不可欠であり、また、このためにそれらは適切な人的、物的及び財政的リソースを備えていなければならない、最近の危機-2020年のベイルートでの硝酸アンモニウム爆発、数多くの自然災害、エボラの流行や福島原子力災害を含めた公衆衛生脅威など-はすべて、危機対応システムを試験し、労働者の安全と健康に強い影響をもった。COVID-19に対応してOSHシステムを強化することは、政府、使用者と労働者が職場で健康を守り、こうした回復力のあるシステムを構築することは、将来起こるかもしれない他の予測できない出来事や危機に対応する基盤も提供するだろう。
※原文:ttps://www.ilo.org/global/topics/safety-and-health-at-work/resources-library/publications/WCMS_780927/lang–en/index.htm
前月号に、この報告書の公表に当たってのILOの発表記事を紹介しているので、参照していただきたい。
※報告書本文で紹介されているが、ILOは、COVID-19に職業病または労働災害としての資格を与えている加盟国のデータベースを作成している。
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—ed_emp/—emp_ent/documents/publication/wcms_741360.pdf
COVID-19パンデミック中の労働安全衛生統計
調査した企業の「65%」が在宅勤務中に労働者の士気を維持するのが困難だったと報告した(ILOw, 2020)
閉鎖環境(屋内または最低限の換気しかない労働環境)は開放環境と比較して「18.7」感染の高い確率をもたらす(Nishiura et al., 2020)
世界的に職場でCOVID-19にかかる深刻なリスクにさらされている医療・社会事業で働く労働者が「13億6千万」いる(ILO, 2020h)
世界で「7,000人」の医療労働者の死亡がCOVID-19によるものかもしれない(Amnesty International, 2020)
アメリカ諸国でCOVID-19は「570,000人」を超す医療労働者に感染し、2,500人を殺した(PAHO, 2020)
欧州諸国で「症例の25%」が医療労働者の間で生じた(ECDC, 2020)
アフリカ諸国で医療労働者は「症例の5%」超を構成し、数か国では10%超に達している(WHO AFRO, 2020)
世界の感染の「14%」が医療労働者で生じた(WHO, 2020d)
世界で医療労働者の「5人に1人」がパンデミック中にうつと不安を報告した(Pappa S., et al., 2020)
安全センター情報2021年7月号