『非正規職ゼロ』宣言した緑色病院長に「『公正』とは ?」 2021年7月16日 韓国の労災・安全衛生
「大したことではなく、ただ療養保護師を正規職化しただけですが、数人から電話がありました。政府機関の人からも連絡が来ました。反対は激しくなかったのか、揉め事はないのか等々。」
緑色病院は今月1日、この間、派遣の形態で雇用していた療養保護師15人を、すべて直接雇用の正規職に転換した。すると病院長に電話が殺到した。すべて病院内での揉め事を心配する電話だった、と任翔赫(イム・サンヒョク)病院長は話した。
15日、緑色病院で彼と会った。イム病院長は「ただ、するべきことをしたまで」だが、あちこちから心配する電話がきて驚いたと話した。
最も低い場所にある病院長室
猛暑でむしむしするこの日、ソウル市中浪区面牧洞の緑色病院を訪ねた。イム・サンヒョク病院長に会うためだ。
四佳亭(サガジョン)駅の古い住宅団地の間にある緑色病院は、少し特別な民間病院だ。
社会的に職業病問題が浮上した80年代の後半、労働界と学生たちが立ち上がって、『源進(ウォンジン)レーヨンの工場で働いた多くの労働者が、二硫化炭素中毒で徐々に死んでいく事実』を世の中に知らせた。この運動のおかげで、源進レーヨンの労働者は会社から補償を受けられることになるが、この補償金で建てられた病院がこの緑色病院だ。誕生から格別だった緑色病院は、職業病に苦しめられたり産業災害に遭った労働者の治療に献身的で専門的な病院として、良く知られている。労働活動家が命を懸けた断食座り込みの後で訪ねる病院が緑色病院である理由だ。
病院の構造を見てもこのような価値を感じることができる。
病院は地下2階から7階まであるが、地下2階の最も低いところに院長室があり、最も展望の良い7階には、リハビリ治療が必要な患者のための120坪余りのリハビリ治療センターがある。普通、最も上層部にVIPのための空間または院長室を置く他の病院とは違うところだ。
院長室が地下にある理由を尋ねると、その趣旨についての答えはなく、冗談口調で「初代の院長が何故か地下に院長室を作ったせいで・・・・」と言ってため息をつく彼だったが、インタビューの間中、病院長には緑色病院と職員に対する自負心が感じられた。
するべきことをしただけ
この日彼を訪ねた理由は、最近『非正規職ゼロ』を宣言した趣旨を聴くためだ。
緑色病院は今月1日に、病棟で働く療養保護師15人を直接雇用の正規職に転換した。また、今後も外注の非正規職である環境美化労働者と食堂の労働者を、すべて正規職に転換すると宣言した。これは常に赤字に悩んでいた緑色病院が最近黒字に転換され、経営事情が少しは良くなったと言うが、病院長の決断が必要なことだった。保健医療労組は「今回の転換は正規職への転換計画を持っていた病院長の意志と、医療機関内の正規職化を続けて要求してきた保健医療労組の政策が触れ合って、成し遂げられた」と明らかにした。
2017年の文在寅大統領の非正規職ゼロ宣言以後、公共病院でもない民間病院での『非正規職ゼロ』宣言は初めての出来事だ。公共病院でも非正規職の正規職転換の過程で、財政負担を感じた経営陣と既存の正規職の反対によって相当な葛藤が発生したことがあって、このような葛藤が極に達したいわゆる『仁川国際空港事態』で、公共機関長でさえ『直雇用正規職転換』を回避する状況で、緑色病院の宣言は格別な意味がある。社会が指向してきた方向と原則を改めて示しているからだ。
彼は大層な説明の代わりに、「するべきことをしただけだ」と答えた。
「財政? どうしても(正規職に転換されれば財政負担が)若干増えて、毎年引き上げられるから負担がないことはありません。しかし、そのためにしないというのはダメです。それが負担になると。(緑色病院の経営事情が苦しかった)過去には、そのように考えることもできなかったでしょう。ただし、財政が少し安定すれば、当然すべきことをしたのです。・・・・労働の両極化、差別がひどいじゃないですか。それをどうにか解消しなければなりません。それは結局、企業がすべきことで。それが社会に対する貢献です。私たちはそれができないのが申し訳なかったんです。」
貴賎はない
彼は病院の労働者それぞれの業務に、尊さや賤しさはないと強調した。
『療養保護師の業務を他の病院よりも一層重要に思うから、正規職に転換したのではないか』という質問に、彼は「ある仕事は重要で、ある仕事はあまり重要でないとは考えない。それぞれの役割が分けられているだけ。」「各自の専門的な役割が有機的に上手く結合できるように助けるのが、病院の役割」と話した。
「療養保護師には療養保護師の役割があり、医師には医師の役割が、看護師には看護師の役割があるだけです。
2021年7月15日、緑色病院7階のリハビリセンターの様子/民衆の声
一緒に生きること
療養保護師を正規職に転換するのに、緑色病院だからといっても職員の心配が全くなかったわけではない。
イム病院長は「憂慮と心配事がないことはなかった」として、これまでは外注業者が処理していたことを、婦長と看護師長が一手に引き受けなければならないので、業務の負担の増加は避けられなかったと話した。
しかし『療養保護師を正規職に転換すれば、既存の正規職のパイが減るしかない』といった反対はなかったと、彼は強調した。
この間、政府の政策による公共部門の非正規職の正規職転換が行われる過程で、このような誤解から始まった反対が、労々葛藤に繋がった。非正規職が正規職に転換されても、処遇の改善には委託業者に渡る純利益などが使われるので、既存の正規職の賃金や席を奪い取るものではない。しかし、それでも非正規職が大挙正規職になれば、パイを奪われるかも知れないという心配が拡がった。また、非正規職が直雇用で転換されても、一般の正規職とは職列自体が違う正規職・無期契約職として管理されるので、頑張ってやっと公社・公団に入社した20・30代の努力を傷つけることはないのに、公正性を破るという主張が横行した。
彼は「病院が指向する基本的な価値を職員が知っている」とし、緑色病院では、歪曲された理屈で非正規職の正規職転換に反対することはなかったと話した。
それと共に、非正規職の雇用不安を解消し、処遇改善の機会を保障するための『非正規職の正規職転換』に反対するために、一角で主張される『公正性の論議』に対して、次のように一言言った。「共に生きることが、公正に生きることです。」
最後に彼は「より良い世の中のためには連帯が必要だ」と強調した。
「今、労働者が連帯しなければ、もう少し良い世の中は作れません。労働者が手を差し出して、互いに抱き合わなければ、答はないと思います。」
2021年7月16日 民衆の声 イ・スンフン記者