令和2(2020)年に事業者が届け出たコロナ労災6,041人、労災請求は2分の1未満、労災認定は4分の1-対策の一層の改善が必要
読売新聞オンラインは5月9日付けで「【独自】コロナ労災、昨年1年間で6,041人…医療・福祉関係者らが計75%」と報じた。
これは、厚生労働省が4月30日に公表した「令和2年の労働災害発生状況~死亡者数は3年連続過去最少、休業4日以上の死傷者数は増加~」の内容を紹介したものである。
厚生労働省発表によると、令和2(2020)年1月から12月までの労働災害による休業4日以上の死傷者数は131,156人(前年比5,545人・4.4%増、平成29年比10,696人・8.9%増)と平成14年以降で最多となった。
このうち新型コロナウイルス感染症のり患による労働災害は6,041人となり、これを除くと125,115人(前年比496人・0.4%減)となる。
海外では、ロックダウン等による経済活動の減少による新型コロナウイルス感染症以外の労働災害の減少が報告されているところだが、日本ではそれほどの影響を与えなかったように思われる。
厚生労働省発表では、別添のような、新型コロナウイルス感染症のり患による労働災害発生状況の業種別内訳も示されている。
新型コロナウイルス感染症による死亡者数は示されていないが、事故の型別死亡者数で「その他」が41件であり、ここに含まれていることになる。
一方、厚生労働省は別途、新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数等の公表・更新を続けている。
労災請求件数等は最新情報しか掲載されていないが、新型コロナウイルス感染症に係る月別労災請求・決定件数もあり、これによると、令和2(2020)年1月から12月までの労災請求件数は2,657件、労災認定件数は1,545件である。なお、12月28日現在の業種別の労災請求件数等は別の記事で確認できる。
これと4月30日公表の新型コロナウイルス感染症り患による労働災害6,041人との差はどこから来るのだろうか。
実は4月30日公表の労働災害件数は、事業者が提出した労働者死傷病報告によるものなのである。
厚生労働省は「労働者が就業中に新型コロナウイルス感染症に感染・発症し、休業した場合には、労働者死傷病報告の提出が必要となります」というリーフレットを作成している。
これは、私たちや国会議員等からの要請も踏まえたもので、厚生労働省は、報道等でクラスターの発生が確認された職場の事業者に対しては、労働者死傷病報告の提出と労働者に対する労災保険請求の勧奨を指導しているとしてきた。
私たちは昨年末に重ねて厚生労働省に直接、「『粘り強く説得している』というクラスター発生事業所(での労災保険請求勧奨)対策については、労働基準監督署レベルでの労働者死傷病報告の提出状況のチェック、提出促進との連携を活用できるのではないかと提起したところ、検討してみたいとのことだった」。
今回明らかになったのは、昨年末時点までに、事業者からの労働者死傷病報告の提出は6,041人分あったにもかかわらず、労働者から労災保険請求が行われたのはその2分の1にも満たない2,657件、労災認定されたものはほぼ4分の1の1,545件にとどまったということである。
すでに労災請求が1万件、認定が5千件を突破している現状のなかで、この関係に変化はあるのだろうか。
労働者死傷病報告が提出されないまま、労災請求・認定がなされたものもあるだろうし、いずれもなされていない事例がどれだけ膨大であるかはわかっていない。
労働災害(職業病)としての新型コロナウイルス感染症対策の、一層の改善が必要なことは明らかである。