誰が知ってる?WHOの労働ウイルスリスクに対する無関心は世界規模の災害-ハザーズ・マガジン第150号、2020年4-6月(新型コロナウイルスと職場の安全衛生最新情報)
われわれが世界保健機関に対して健康上の警告を出さなければならないなどと、誰か考えたことがあっただろうか?ハザーズ・マガジンの編集者ロリー・オニールが、WHOの職場COVID-19リスクに関する「信じられないほど有害」なアドバイスが労働者を致命的な危険にさらしていることを暴露する。
2020年6月26日に世界保健機関(WHO)によって発行された「Q&A:COVID-19に関連した職場の安全衛生のための助言」は、この対応の遅い国連機関がいかに労働問題に対する知識も、助言する能力もないかを明らかにしている。
しかし、それは一瞬もそれを止めていない。その手引きで抜けていること-とりわけ、労働監督と執行に関する言及がないこと、他の職場ハザーズとの相互作用の可能性やより広い雇用保障の必要性に対する意識の欠如-は、なぜ職場と関係のない国連組織が職場の問題をリードすべきではないかという理由をあらわにしている。
WHOの手引きは、2020年5月に国連の職場の専門機関である国際労働機関(ILO)によって発行されたはるかに保護的な手引きと矛盾している。
このWHOのQ&Aは、2020年5月10日のその暫定手引き「COVID-19と関連した職場における公衆衛生及び社会的対策の検討」のなかで詳細に述べられた政策的立場を繰り返している。この文書は大きな反対を受け、国際労働組合総連合(ITUC)やグローバル・ユニオン評議会から「危険」と表現された。
見当違いのリスク
WHOの最初の大間違いは、「COVID-19は主に飛沫の吸入または汚染された表面との接触によって拡散する」という主張を繰り返していることである。しかし、飛沫・接触リスクだけがこのコロナウイルスによって引き起こされる脅威ではないという懸念は、パンデミックの当初から提起されていた。
2020年3月17日にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載された論文は、「このウイルスはエアロゾル中で数時間、表面上で数日まで、生存可能で感染性を維持することができることから」はるかに広範囲に拡散する可能性を指摘した。
より多くの職務、より多くの状況、より長い距離で労働者をリスクにさらすことになるより幅広い空気/エアロゾル感染リスクの証拠は急速に蓄積された。
医療従事者による保護マスクのより広い利用を勧告したことを含め、主要な要素にWHOの勧告と矛盾するWHOが委託したあるレビューに添付された2020年6月1日のランセットのコメンタリーは、「実証・病院研究の双方がSARSCoV2のエアロゾル感染の証拠を示している」と指摘した。
それはWHOの唯一の盲点ではなかった。感染者について次々と報告されたが、一度も症状を示さない(無症状)またはまだ症状を示していない(症状出現前)者が重大な感染源だった。
WHOはにもかかわらず、この様式の感染は「非常にまれ」であると主張し続けた。WHOは、 証拠の裏付けなしに、COVID-19はそのいとこである重症急性呼吸器症候群(SARS)や他のコロナウイルスと同じようにふるまうと想定した。
WHOは混乱していた。ランセット・インフェクション・ジャーナルに2020年6月17日に掲載された論文は、SARS-CoV-2としても知られる、COVID-19を引き起こすコロナウイルスは、潜伏期間中に「大きな感染力」をもち、SARSまたは中東呼吸器症候群(MERS)のどちらよりも容易に拡散すると指摘した。リンクが貼られたコメントのなかで、イェール公衆衛生大学院のバージニア・ピッツァー博士は、「知見は、症状出現前感染の重要視を確認している」と指摘した。
正しい個人保護具(PPE)の使用なしには、一見健康な者も、幅広くまた歯止めなく、職場でコロナウイルスに感染する可能性がある。エアロゾル感染は、ウイルスが部屋を詰めつくしたり、または微風でも動きまわることから、起きる。それはまさにWHOが見ることができないだけである。
感染不可能
WHOの過ちと否認は、その職場手引きに伝えられ続けている。
「職場におけるCOVID-19への曝露リスクは、COVID-19に感染しているかもしれない人々と頻繁に物理的接触をもつなかで、他の者と1メートル以内に来る可能性、及び、汚染された表面や者との接触による」と、WHOは6月26日のQ&Aで主張している。
証拠が示しているのはそれだけではない。2020年6月23日に公表されたイギリス政府のためのある専門家のレビューは、「感染のリスクは1メートルの場合2メートルと比較して2~10倍増加し、1メートルの距離でのより高い占有の可能性も、軽減策がない場合にはリスクを増加させるという証拠がある」と指摘した。
WHOとは違って、専門の職場安全ユニットをもち、また当然のこととして使用者・労働組合と連絡を取り合っている、国連の職場専門組織であるILOは、2メートルを勧告している。
2020年6月22日の物理的距離置きに関するスターリング大学コメンタリーは、1メートル・ルールの主張は「つじつまが合わない」と指摘し、「2メートルの距離を縮めようとする科学は…ないのでないとしたら限られているようだ」と付け加えた。
WHOが空気感染を問題かもしれないと認めたのは、WHOに空気感染を認めるよう促した、世界中の200人を超す科学者によって署名された公開書簡がクリニカル・インフェクション・ディジーズ誌に発表された後の2020年7月7日だった。にもかかわらず、その職場手引きは変えられていないままである。
低く狙う
WHOは、「一般の人々や他の同僚労働者との接触が最小」の労働者を「リスクが低い」カテゴリーに定義している「そのような職務の例には、リモート労働者(すなわち在宅労働)、他者との頻繁な接触のない事務労働者やテレサービスを提供する労働者が含まれるかもしれない」。
コール/コンタクトセンターのクラスターは、ホワイトカラー労働者についてのWHOの思い込みに対するリアリティ・チェックを提供している。イギリスのコールセンター労働者についてのストラスクライド大学のある調査は、曝露リスクに対する懸念が高いことを見出した。47.2%が「強く同意」及び30.7%が「自分がCOVID-19に感染する可能性があると思う」という意見付きで「同意」した。
彼らの恐れは根拠があったようだ。7月20日保健当局は、スコットランドのある国民保健サービス(NHS)検査・追跡コールセンターにおけるコロナウイルスのアウトブレイクを調査していると発表した。NHSのために接触者の追跡を行ったサイテルは、そのマザーウェルのサイトにおける「ローカル・アウトブレイク」に気が付いていたと述べた。7月21日までに15人の感染労働者を確認した。スコットランドの全国労働組合連合STUCデーブ・モクサム副事務局長は、コールセンターや同様のオフィス環境が高いCOVID安全衛生リスクを示すことは何か月も指摘されていたと述べた。「社会的距離置きを提案したサイテル労働者の声明は、休憩時間中は維持されておらず、共有空間の中が明らかにとりわけ懸念された」と彼は言う。
韓国のある大コールセンターは1フロアの216人の労働者のうち94人感染させた(43.5%)。イマージング・インフェクション・ディジーズ誌の2020年4月のある報告は、「驚くほど」アウトブレイクは「事務所職場の人々の間に大規模アウトブレイクを引き起こす可能性とともに、SARS-CoV-2によって引き起こされる脅威を実証している」と指摘した。
リスクについての誤り
「一般の人々または他者との密接、頻繁な接触をもつ仕事または職務」は、「少なくとも1メートルの物理的距離置きを観察することが困難な場合、また、同僚労働者との密接かつ頻繁な接触を必要とする仕事」は、WHOによって中等度のリスクにランク付けされている。例には「小売業の第一線の労働者、宅配、宿泊、建設、警官と保安、公共輸送、及び水と衛生が含まれるかもしれない」。
しかし、イギリス国家統計局は2020年6月26日に、2020年5月25日までのイングランドとウェールズにおける職業別のCOVID-19死亡を分析した数字を発表し、タクシー運転手とお抱え運転手(135人の死亡)、警備員(107人の死亡)、バス・コーチ運転手(54人の死亡)を含めた、17の職業の男性で率が高いことを明らかにした。
これらはWHOのランキングでは「中等度リスク」である。国家統計局によれば、COVID-19関連死亡の率が同様に高い2つの主要職業グループがみつかった。第1は単純労働者で、男性10万人当たり39.7人の死亡(421人の死亡)。
「このグループの職業には、建設労働者清掃員など、大部分ルーティンの職務をこなす者が含まれる」。第2は介護、レジャー、その他サービス職業(男性10万人当たり39.6人の死亡、または160人の死亡)であり、看護助手、介護労働者や救急車の運転手などの職業が含まれる。
女性については、「介護、レジャー、その他サービス職業」で統計的に有意な過剰がみられ、264人の死亡に相当する、女性10万人当たり15.4人の死亡であった。
職場が再開され、クラスターが発展するにつれて、新たなものも含め一定の職業カテゴリーで同様の事例の集中がみられている。とりわけ、食肉加工である。
2020年5月19日にオンライン発行された、ハーバード大学公衆衛生学部の専門家によって書かれた「アジアにおける労働関連COVID-19の感染パターンの研究」は、医療労働者、運転手・輸送労働者、サービス・販売労働者、清掃・家事労働者と公共安全労働者を、感染リスクについてトップ5職業にランクした。
ハイリスク戦略
WHOのランキングでは、ハイリスクは「ウイルスに汚染された可能性のある物や表面との接触はもちろん、COVID-19をもつ可能性が高いかもしれない人々と密接な接触をもつ職業または職務」に限られている。
実生活が語るのは別の物語である。低賃金、雇用の不安定さと急いだ労働への復帰-労働組合が通常の職業における「恐るべき」COVID-19死亡率と呼んだことを国家統計局が初めて確認した日の前日、2020年5月10日にイギリスの首相ボリス・ジョンソンによって発表された-が多くの多様な職場を主要なコロナウイルスの最前線にしている。
混雑した通勤で仕事に行き、また仕事から戻り、同僚が腕を伸ばすだけの距離にいる職場を移動するプロセスが、多数の人々に長時間曝露の可能性を生み出している-トップ2の感染リスクファクターである。
ドイツ、イギリス、アメリカ、その他多くの国で何万もの人々に影響を与えている、食肉加工工場で発生した感染は、介護その他の状況で感染していると知られた者と接触することを労働者に求める職業または職務の結果ではなく、労働者が-解雇されたり貧困への恐れから-知らずにまたはやむを得ず労働にウイルスを持ち込んだ結果である。隠された症状若しくは無症状または症状出現前の者が職場に入っている証拠は、WHOによって軽く見られ、または退けられた。
WHO, what, how, why?
WHOは、コロナウイルス・リスクの社会階級による大きなゆがみ-大まかにいえば、あなたの社会階級が低いほど、あなたのリスクは高い。
差別と職業分離の結果としての潜在的にリスクにさらされている職場の全体-非正規・不安定・女性労働者、黒人・少数民族労働者や移住労働者を含め-はWHOのリスクアセスメントのなかではインビジブルである。
アメリカの全国雇用法プロジェクトによって2020年6月10日に発表された研究は、「われわれの結果は、職場におけるウイルス感染は使用者の抑圧によって悪化させられているかもしれず、また、黒人社会に対するCOVID-19の不均等な影響は、黒人労動者の抑圧的職場環境へのより大きな曝露と関連しているかもしれない」と結論付けた。
6月26日に国家統計局のアップデートは、死亡率の高かったイングランドの17の職業のうち11業種では黒人・少数民族労働者の割合が高かったことを指摘した。労働組合会議(TUC)の2020年6月11日の調査は、イギリスの妊娠中の女性の4分の1がコロナウイルス・アウトブレイクの間に職場における差別に直面したことを見出した。
世界の労働組合やILOが関心をもち、ITUCが「デューデリジェンス」を要求しているにもかかわらず、WHOのアプローチからは、サプライチェーンを通じてリスクを評価する使用者の責任も抜け落ちている。いくつかの重大な労働関連アウトブレイクにおいて主要な影響を受けるグループである、移住労働者も、リスクアセスメントの検討のなかで見落とされている。
しかし、WHOによってリスクが高いと認められている職業についても、この国連機関は不十分である。そのQ&Aは、リスクの高い労働に対して、他の個人保護具(PPE)とともに「医療マスク」を勧告している。しかし、医療マスクは適切な保護を提供せず、最低でもFEP3/N95標準の保護マスクが提供されるべきである。
2020年6月29日に出版されたアナルズ・オブ・インターナル・メディシンのある論文は、「医療労働者を保護するためのN95保護マスクの使用は、たんに好みや入手可能性に基づく勧告であってはならない。データは、それが全入院患者のCOVID-19管理の標準でなければならないことを示している」と指摘した。
アメリカの全国労働組合連合AFL-CIOのアドバイザー、ペグ・セミナリオは、このWHO手引きを「信じられないほど有害」であり、既存の職場の保護を弱体化させる可能性があると評している。
われわれはWHOのやっていることを知っており、WHOがどのようにやっているかを知っているが、WHOがなぜ、健康に基づくものでも、科学に基づくものでもない政策を擁護し続けているのかは謎のままである。
しかし、結果として誰(who)が死んでいるのかはますます明らかになっている。