「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」報告書 2020年5月/パワーハラスメント対策に対応し労災認定基準改正
パワーハラスメント対策の法制化を踏まえ、 業務による心理的負荷評価表を見直し
目次
6月1日からパワハラ防止法が施行されるのに合わせて、パワハラ対応による「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」の改正を図るため、専門検討会が開かれてきたが、その報告書が5月にまとめられた。同報告書に依拠する形で労災認定基準が改定された。6月1日からの業務上外判断は、改正労災認定基準によるものとなる。
今次改正の根拠とされた報告書を以下に掲載するので、それぞれの立場で参考にしていただきたい。
<厚生労働省のリリース>
「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」の報告書を公表します(厚生労働省2020年5月15日)
報告書のポイント(厚生労働省リリースから抜粋)
■具体的出来事等への「パワーハラスメント」の追加
・「出来事の類型」として「パワーハラスメント」を追加
・具体的出来事として「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を追加
■具体的出来事の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正
・パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等を評価する項目として位置づける
精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書 2020年5月
精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会参集者名簿(五十音順、敬称略)
氏 名 | 所属等 |
阿部 未央 | 山形大学人文社会科学部准教授 |
荒井 稔 | 日本私立学校振興・共済事業団東京臨海病院統括産業医、特任精神科医 |
(座長) 黒木 宣夫 | 東邦大学名誉教授 勝田台メディカルクリニック院長 |
小山 善子 | 石川産業保健総合支援センター所長 金城大学客員教授 |
品田 充儀 | 前労働保険審査会会長 |
田中 克俊 | 北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学教授 |
西村 健一郎 | 京都大学名誉教授 |
丸山 総一郎 | 神戸親和女子大学名誉教授 |
三柴 丈典 | 近畿大学法学部教授 |
山口 浩一郎 | 上智大学名誉教授 |
吉川 徹 | 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター統括研究員 |
1 はじめに
(1)検討会開催の背景等
業務による心理的負荷を原因とする精神障害については、平成23年12月に策定した「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下「認定基準」という。)に基づき労災認定を行っているところであるが、精神障害に係る労災請求件数は、平成30年度には1,820件にのぼり、6年連続で過去最多を更新しており、今後も増加が見込まれる状況にある。
また、認定基準の策定以降、働き方の多様化が進み、労働者を取り巻く職場環境が変化するなど社会情勢の変化も生じている。
こうした中、令和元年5月の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」という。)の改正により、令和2年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されること等を踏まえ、本検討会は、厚生労働省の依頼により、認定基準別表1「業務による心理的負荷評価表」(以下「心理的負荷評価表」という。)の見直しについて検討を行った。
(2)検討状況
上記(1)の背景等を踏まえ、令和元年12月17日の第1回から5回にわたって検討会を開催し、パワーハラスメントに係る出来事についての心理的負荷評価表への追記及びこれに伴う心理的負荷評価表の整理について検討を行い、今般、その検討結果を取りまとめたものである。
2 検討の視点
(1)パワーハラスメント防止対策の法制化等を踏まえた検討
現行の認定基準では、「パワーハラスメント」の用語は用いていないものの、パワーハラスメントに該当する事案については、これまでも、主として心理的負荷評価表の「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の具体的出来事として評価してきた。
したがって、今般の見直しは、新たな医学的知見等に基づきパワーハラスメントに係る出来事を新しく評価対象とするものではなく、パワーハラスメント防止対策の法制化等に伴い職場における「パワーハラスメント」の用語の定義が法律上規定されたことを踏まえ、同出来事を心理的負荷評価表に明記するとともに、これに伴って整理を要すると考えられる心理的負荷評価表の項目について必要な改定を行うものである。
なお、「パワーハラスメント」の用語を心理的負荷評価表に用いるか否かは、平成22年度から平成23年度にかけて開催された精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会における将来的な検討課題となっていたものである。
(2)今後の検討
上記1のとおり、認定基準の策定以降、働き方の多様化が進み、労働者を取り巻く職場環境が変容するなど社会情勢は急速に変化していることから、職場の今の現実を基礎とした労働者のストレスを評価することが重要である。厚生労働省においては、令和2年度にストレス評価に関する調査研究を委託事業によって実施することとしていることから、その結果を踏まえ、今後、心理的負荷評価表への新たな出来事の追加の必要性や各出来事の心理的負荷の強度等について再度検討を行う必要がある。
3 業務による心理的負荷評価表に係る具体的出来事等への追加
(1)具体的出来事等へのパワーハラスメントの追加
パワーハラスメントを受けたことによる心理的負荷の強度等については、現行では、対人関係の類型の一つである、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の具体的出来事に当てはめて評価しているが、今般、職場におけるパワーハラスメントの定義が法律上規定されたことを踏まえ、心理的負荷評価表の具体的出来事として、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を追加することが適当である。
ここでのパワーハラスメントとは、労働施策総合推進法及び「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の定義(※)を踏まえ、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害される」ことをいう。
なお、パワーハラスメントは、職場における対人関係の中で生ずるものであり「対人関係」の類型に置くことも考えられるが、優越的な関係を背景とする上司等による一方的な被害であり、「対人関係」という類型から想定される、対人関係の相互性の中で生ずるものに限らない特異性があること、また、過去の支給決定事例をみると、当事者の立場や加害行為の態様には多様性があることから、「対人関係」の類型から独立させ、「パワーハラスメント」を新たな類型として設定することが妥当である。
その際には、心理的負荷評価表の中で「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の具体例と、「対人関係」に分類されている各項目の具体例との対比が容易となるよう、パワーハラスメントの類型は対人関係の類型の前に位置付けるのが適当である。
※パワーハラスメントの定義
労働施策総合推進法及び同法に基づく指針により、職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる以下の3つの要素をすべて満たす言動とされている。
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ 就業環境が害されるもの
根拠規定(労働施策総合推進法第30条の2第1項)
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
(2)平均的な心理的負荷の強度
現行の認定基準においては、厚生労働省が平成22年度に行った「ストレス評価に関する調査研究」(日本産業精神保健学会が実施。以下「ストレス調査」という。)の結果に基づき、心理的負荷評価表に示す各出来事の平均的な心理的負荷の強度を定めている。
今般の見直しは、上記2のとおり、パワーハラスメントの定義が法律上規定されたことを踏まえ、現行の認定基準を前提として、心理的負荷評価表の具体的出来事への追加等を検討するものであることから、現行の認定基準における平均的な心理的負荷の強度を定めた際の医学的な知見であるストレス調査を踏まえる必要がある。
現行の認定基準において、パワーハラスメントに係る出来事を評価する項目は、具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」になるものと考えられるが、同出来事は、ストレス調査によると、全63項目の中で最も高いストレス点数(7.1点)であることを踏まえ、平均的な心理的負荷の強度は「Ⅲ」とされている。
新設する「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」は、これまで、具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」において評価されていたことに加え、過去の支給決定事例からみても、同出来事における平均的な心理的負荷の強度と同様に評価することが妥当であると考えられることから、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の具体的な出来事に係る平均的な心理的負荷の強度は、「Ⅲ」とすることが相当である。
(3)心理的負荷の強度を判断する具体例
現行の認定基準においては、心理的負荷評価表に示された「具体的出来事」は、「出来事」と「出来事後の状況」の両者を評価している。また、いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、繰り返される出来事を一体のものとして評価し、かつ、状況が継続していると評価される場合には、心理的負荷が強まるものとしている。
今般、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の具体的出来事を追加するに当たっても、この考え方に従い、心理的負荷の強度を判断する具体例を示すべきである。
「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の具体的出来事については、上記(2)のとおり、平均的な心理的負荷の強度を「Ⅲ」とした上で、具体例を示すこととなるが、過去の支給決定事例をみると、治療を要する程度の身体的な暴行等が行われた場合や、暴行等による身体的な攻撃が執拗に行われた場合に、強い心理的負荷を生じるものと評価されている。
また、人格や人間性を否定するような精神的な攻撃が執拗に行われた場合や、精神的な攻撃が一定期間、反復・継続していた場合にも、強い心理的負荷を生じるものと評価されている。
こうしたことを勘案すると、心理的負荷の強度が「強」となる具体例については、次のように示すことが適当である。
なお、下記の具体例における「上司等」には、職務上の地位が上位の者のほか、同僚又は部下であっても、業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力が得られなければ業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合、同僚又は部下からの集団による行為でこれに抵抗又は拒絶することが困難である場合を含むことを明記しておく必要がある。
〇心理的負荷が「強」である具体例
・ 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
・ 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
・ 上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
●人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
●必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合
また、行為の態様等を要素として、心理的負荷の強度が、「中」又は「弱」となる具体例を、次のように示すことが適当である。
〇心理的負荷が「中」になる具体例(修正するものの例)
・ 上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃が行われ、行為が反復・継続していない場合
●治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃
●人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃
●必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
〇心理的負荷が「弱」になる具体例(修正するものの例)
・ 上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた場合
(4)心理的負荷の総合評価の視点
「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の具体的出来事に係る「心理的負荷の総合評価の視点」については、指導・叱責等の言動に至る経緯や状況、身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度等、その反復・継続など執拗性の状況、就業環境を害する程度に加えて、出来事後の状況として、被害者が会社に当該事実やその改善を相談したにもかかわらず会社が適切に対応しなかったという事実や、状況が改善されなかったという事実がある場合には、心理的負荷を強める要素になることを記載すべきである。
また、新設する具体的出来事「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の評価対象とならないものは、従来の「対人関係」の各出来事へ当てはめて評価を行うこととなるため、これが統一的に行われるよう、以下の注釈を付しておくことが適当である。
当該出来事の評価対象とならない対人関係のトラブルは、出来事の類型「対人関係」の各出来事で評価する。
4 業務による心理的負荷評価表に係る具体的出来事等の修正
(1)「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」
ア 具体的出来事の修正
パワーハラスメントを受けることによる心理的負荷の強度等については、現行では、主として「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の具体的出来事に当てはめて評価しているが、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の具体的出来事を新設した場合であっても、例えば、優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめなどは、「パワーハラスメント」に該当しないことになるため、これらについては、引き続き、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の具体的出来事で評価する必要がある。
このため、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」は、引き続き、心理的負荷評価表の具体的出来事として掲記しておくことが適当である。ただし、過去の支給決定事例では、優越性のない同僚間の暴行のほか、嫌がらせ、いじめなど様々な行為態様が認められるところ、このうち、「パワーハラスメント」に該当するものを除けば、同僚等からの「暴行」によるものが最も多く、次いで、人格や人間性を否定するような「いじめ」が多いことから、当該具体的出来事の名称は、「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」とすることが適当である。
イ 平均的な心理的負荷の強度
上記3の(2)のとおり、具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」については、ストレス調査によれば、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」は全63項目の中で、最も高いストレス点数(7.1点)であることを踏まえ、平均的な心理的負荷の強度は「Ⅲ」となっている。
上記アのとおり、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」の新設に伴って、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けた」の具体的出来事の評価対象を修正したとしても、過去の支給決定事例からみて、修正後の「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」の平均的な心理的負荷の強度は、「Ⅲ」とすることが適当である。
ウ 心理的負荷の強度を判断する具体例
「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」の具体的出来事については、上記イのとおり、平均的な心理的負荷の強度を「Ⅲ」とした上で、具体例を示すこととなるが、過去の支給決定事例をみると、治療を要する程度の暴行等が行われた場合や、暴行等が繰り返し行われた場合には、強い心理的負荷として評価されている。
また、人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた場合や、当該言動が一定期間反復・継続していた場合にも、強い心理的負荷として評価されている。
これを踏まえ、心理的負荷の強度が、「強」となる具体例については、次のように示すことが適当である。
○心理的負荷が「強」である具体例
・ 同僚等から、治療を要する程度の暴行等を受けた場合
・ 同僚等から、暴行等を執拗に受けた場合
・ 同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を執拗に受けた場合
・ 心理的負荷としては「中」程度の暴行又はいじめ・嫌がらせを受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合
また、行為の態様等を要素として、心理的負荷の強度が、「中」又は「弱」になる具体例を、次のように示すことが適当である。
○心理的負荷が「中」になる具体例(修正するものの例)
・ 同僚等から、治療を要さない程度の暴行を受け、行為が反復・継続していない場合
・ 同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を受け、行為が反復・継続していない場合
○心理的負荷が「弱」になる具体例(修正するものの例)
・ 同僚等から、「中」に至らない程度の言動を受けた場合
エ 心理的負荷の総合評価の視点
「暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」の具体的出来事に係る「心理的負荷の総合評価の視点」については、暴行又はいじめ・嫌がらせの内容や程度等、その反復・継続など執拗性の状況に加えて、出来事後の状況として、被害者が会社に当該事実やその改善を相談したにもかかわらず、会社が適切に対応しなかったという事実や、状況が改善されなかったという事実がある場合には、心理的負荷を強める要素になることを記載すべきである。
(2)その他の対人関係の出来事
今般の見直しは、現行の認定基準を前提として、パワーハラスメントに係る出来事を新たに追加し、これに伴い、従前、パワーハラスメントを評価対象としていた出来事についてのみ修正を行うものである。
このため、現行の心理的負荷評価表における対人関係の類型の具体的出来事として示されている「上司とのトラブルがあった」、「同僚とのトラブルがあった」、「部下とのトラブルがあった」等の出来事については、パワーハラスメントの定義が法律上規定されたことに伴う見直しの対象とは異なる出来事であることから、現行のとおり取り扱うことが適当である。
5 業務による心理的負荷評価表の修正
上記3及び4を踏まえ、心理的負荷評価表の具体的出来事等については、別紙1のとおり追加・修正することが適当である。
また、追加・修正された項目29及び項目30に係る心理的負荷評価表については、別紙2のとおり定めることが適当である。
6 業務起因性の評価の範囲
業務起因性の評価の範囲に関し、現行の認定基準においては、「いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為を評価の対象とすること」とされている。パワーハラスメントについても、当該行為が反復・継続しつつ長期間にわたって行われるという事情があり、過去の支給決定事例においても、発病の6か月より前に開始され、発病前6か月以内の期間まで継続しているものが多くみられることから、この考え方を踏襲するのが適当である。
7 まとめ
本検討会では、職場におけるパワーハラスメントの定義が法律上規定されたことを踏まえ、パワーハラスメントに係る出来事について心理的負荷評価表へ追記し、これに伴い、従前、パワーハラスメントを評価対象としていた出来事である「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」について修正を行うことにより、心理的負荷評価表の整理を行ったものである。
これにより、心理的負荷評価表に係る出来事の一部の見直しであっても、比較的請求が多いと思われる出来事に係る基準の具体化、明確化が図られることにより、請求の容易化や審査の迅速化が図られることを期待する。
これに加え、行政に対しては、新たな基準の内容の関係者に対する周知、相談・問い合わせに対する懇切・丁寧な説明の徹底に努めるとともに、パワーハラスメント事案に関する聴取担当者等の必要な人員の確保と育成にも最大限の努力を願うものである。
最後に、今回の検討は、パワーハラスメントに係る出来事に関して、現行の認定基準を前提として、心理的負荷評価表の出来事の追加・修正等を検討したものであるが、精神医療の分野の研究も日々進んでおり、また、社会・経済状況の変化が著しい昨今においては、労災認定の基準等に関して今後も適宜検討していくことが重要であると考える。
別紙1,別紙2
20200515seishinkijunhoukokusho_beshi1_2パワハラに取り組むときの大切な視点
(被災)労働者、労働組合がパワハラに取り組むとき、今回の報告書、それにもとづく改正労災認定基準、これらに先立って2015年1月15日付で決定された「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(通称「パワハラ対策指針」)がある。
これらはは最低限のものであるとの視点が重要だ。
パワハラ対策指針の決定過程においては、パワハラの定義を限定しようとする使用者側と労働組合側で激論が行われるなどしており、常に、労働者の権利のための闘い、取り組みの渦中にあるという認識をもちたい。
したがって、(被災)労働者や労働組合としては、パワハラ対策指針など公になっている文書の内容とともに、批判的視点をもって、パワハラ問題に取り組んで行くことが必要で、その意味で、次の解説を参考にしていただきたい。
パワハラ対策指針の施行日は、パワハラ防止法の施行日や改正認定基準施行日と同じ、2020年6月1日である。
精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書2020年5月(PDF)
安全センター情報2022年7月号