国保の「労災隠し」対策で前進:市関係部局が年内の検討を約束/広島
社会保険事務局、労基局に申入れ
広島労働安全衛生センターでは、昨年から重点課題のひとつとして、「労災隠し」の問題に取り組んでいる。
その一環として、「労災隠し」の摘発とその根絶に向けて、申し入れ書を広島社会保険事務局と広島労働局に提出した。
広島社会保険事務局とは、2月、3月、5月と3回交渉を持ち、同局において「業務上・通勤途上のけが等により政管健保の保険給付対象外としたもの」の件数と金額について、昭和55~平成11年度のデータが示された。
同局では、レセプト点検事務センターにおいて、毎月レセプトの点検を行っているが、20年間で33,119件(年平均1,656件)、金額にして合計10億327万円(年平均5,016万円)も、労災保険で取り扱われるべきものが健康保険に請求されていたということである。しかも、レセプト点検の内容は、外傷性のものだけで、腰痛や頸肩腕障害等はチェックの対象になっていない。
産業別データの提供を求めたが、再交渉の場でも「無理」との回答。センターと会合の場を持つことについては、今後も必要に応じて設定するということで合意した。
広島労働局からは、6月29日に、口頭で回答を得たが、全国安全センターとの交渉で厚生労働省労働基準局が答えたような取り組みの一般的説明にとどまっており、さらに交渉を重ねていくことにしている。
一方で、国民健保においても「労災隠し」はあると考えて、6月に広島市にも申し入れをし、要旨、以下のような回答を得た。
- 広島市も社会保険事務所のように、レセプト点検で「労災隠し」の摘発をする考えがあるか。
回答:被保険者が勤務している事業所や労災保険の有無などの状況を把握していないので、費用対効果を含めた慎重な検討が必要であると考えている。 - 被保険者に労災保険について十分な理解をしてもらい、制度を活用してもらうために、事業主・労働者への啓発・指導をどのように考えているか。
回答:国民健康保険の被保険者に対して、「医療費のお知らせ」および「国保のしおり」等の配布文書でPRに努めるとともに、医療機関などにも粘り強く協力をお願いすることで対応したいと考えている。 - 広島市の発注工事において、労災事故発生に対する業者への罰則条項が、労災隠しの一因となっている。罰則の内容について見直す考えはないか。
回答:指名停止制度については、広島市が発注する工事等に係る契約の適正かつ円滑な執行を確保するために、契約の相手方を選定するにあたって、また、「指名停止」という措置を通して、業者に反省を促すために必要な制度であると考え、広島市競争入札参加資格停止措置要綱に基づき設けている。
広島市と話合い
さらに、10月30日に広島市社会局年金課および財政局契約部と約2時間半の話し合いをもった([市]は広島市、[労]は広島労働安全衛生センター)。
[市]「しおり」および「医療費のお知らせ」の今年10月発送分から、「業務上の傷病で労災保険の適用を受けられる場合は、国保の給付が受けられません」との注意事項を新たに付記させた。
[労]「しおり」、「お知らせ」とも表現が不十分。労災保険のメリットを明確に表現するよう再検討されたい。
[市]新規に行ったことでもあり、当面この表現でいき、引き続き検討させてほしい。
[労]レセブ下点検・チェックをして、疑わしいものは突き返すなど、できないか。
[市]検討しているが、具体化できていない。
[労]金額の大きいものについて目を光らすこと、医師会と事前に連携をとり、疑わしいものは徹底的に質す等で、かなり防止できるのではないか。外傷性の高額レセプト(十万点以上)を抜き出して検討してみてはどうか。
[市]年内やってみて、具体的問題を抜き出し、回答したい。
[労]指名停止の根拠はどうなっているのか。
[市]「指名停止措置要綱」に定めがあり、「発注者として社会的批判を受けない業者がどうか」、「技術特性が高い」ことなどが指名業者の選考基準になっている。
現場で事故発生(大小を問わず)の報告書を提出、その報告に基づき、措置要綱に照らし、厳正に措置している。
指名停止は市長の決済事項であり、今年4月1日から閲覧できる。
[労]「労災隠し」の点検はどうするのか。
[市]県や国より市の方が特段に多いということであれば調査するが、ただちに調査はどうですか。「労災隠し」については、技術管理課、社会局等と相談して、「『労災隠し』が発覚した場合は、別表第14を適用して罰を課す」旨の文書を発出する。
[労]誰が読んでも、「労災隠し」は罰になることを明記した文書を発出されたい。事故を未然に防止するためのパトロール強化も求める。
[市]事故の場合、労災保険を使用しているかどうかの追跡は、
社会局と相談してみたい(年内目途)。報告書の中に具体的調査項目を設けて点検する。
以上が交渉内容の要旨であるが、各々の項目について、不十分さはあるものの、年内を目途に、さらに具体的検討を確約させることができたことは前進であり、引き続き取り組みを着実に積み重ねることで、「労災隠し」の根絶に向けての足がかりをつくりたいと考えている。
安全センター情報2001年12号