労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の施行について/基発0830第1号令和5(2023)年8月30日【新たな化学物質規制関連の新通達等】
令和5年8月30日
都道府県労働局長殿
厚生労働省労働基準局長
労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の施行について
労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(令和5年政令第265号。以下「改正政令」という。)及び労働安全衛生規則及び労働安全衛生規則及び特定化学物質障害予防規則の一部を改正する省令の一部を改正する省令(令和5年厚生労働省令第108号。以下「改正省令」という。)については、令和5年8月30日に公布され、公布日から施行(一部については、令和7年4月1日から施行)することとされたところである。その改正の趣旨、内容等については、下記のとおりであるので、関係者への周知徹底を図るとともに、その運用に遺漏のなきを期されたい。
記
第1 改正の趣旨
労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第57条第1項の規定に基づき、労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「令」という。)第18条に定める化学物質については、譲渡又は提供に当たって容器等に名称等を表示(以下「ラベル表示」という。)しなければならないとされている。また、法第57条の2第1項の規定に基づき、令第18条の2に定める化学物質については、譲渡又は提供に当たって名称等を文書の交付等(以下「SDS交付等」という。)により相手方に通知しなければならないとされている。
今般、化学物質による危険性・有害性に関する情報伝達の仕組みの整備・拡充を図るため、ラベル・SDS対象物質(ラベル表示をしなければならない化学物質及びSDS交付等をしなければならない化学物質をいう。以下同じ。)の範囲について、国が行うGHS分類(日本産業規格Z 7252(GHSに基づく化学品の分類方法)に定める方法による化学物質の危険性及び有害性の分類をいう。以下同じ。)の結果、危険性又は有害性があると区分された全ての化学物質とする考え方に転換する。
これに伴い、ラベル・SDS対象物質の規定方法を令第18条及び第18条の2の規定に基づき令別表第9に個々の物質名を列挙する方法から、令において性質や基準を包括的に示し、規制対象の外枠を規定した上で、厚生労働省令において当該性質や基準に基づき個々の物質名を列挙する方法へ改正を行うとともに、ラベル・SDS対象物質の追加等を行うため、令及び労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)について、所要の改正を行ったものである。
第2 改正の要点
1 改正政令関係
(1) ラベル・SDS対象物質に係る規定方法の変更(令第18条、第18条の2及び別表第9関係)
ラベル・SDS対象物質を、国が行うGHS分類の結果、危険性又は有害性があるものと令和3年3月31日までに区分された物のうち厚生労働省令で定めるものとし、元素及び当該元素から構成される化合物であって包括的にラベル・SDS対象物質とすべきものについては、改正政令による改正後の令別表第9で定めたこと。
(2) ラベル・SDS対象物質の削除(令別表第9関係)
(1)の規定方法の変更により、ラベル・SDS対象物質から除外される7物質について、(1)の施行に先立ってラベル・SDS対象物質から削除したこと。
(3) その他
ラベル・SDS対象物質を含有する製剤その他の物に関する裾切値を安衛則別表第2で規定していたところ、告示で定めること、その他所要の改正を行ったものであること。
(4) 施行期日(改正政令附則第1条関係)
改正政令は、公布日((1)については令和7年4月1日)から施行すること。
(5) 経過措置(改正政令附則第2条及び第3条関係)
ア 改正政令により新たにラベル・SDS対象物質に追加される物質のうち、国が行うGHS分類の結果、有害性の区分が区分1以外と区分されたものについては、令和8年3月31日までの間は、法第57条及び第57条の2の規定を適用しないこと。
イ 改正政令により新たにラベル・SDS対象物質に追加される物質のうち、令和7年4月1日に施行される物質であって施行の日において現に存するものについては令和8年3月31日までの間、アの経過措置の対象となる物質であって令和8年4月1日において現に存するものについては令和9年3月31日までの間は、ラベル表示に係る法第57条第1項の規定を適用しないこと。
2 改正省令関係
(1) ラベル・SDS対象物質の削除に伴う裾切値の規定の削除(安衛則別表第2関係)
改正政令の施行に伴い、ラベル・SDS対象物質から除外される7物質について、安衛則別表第2より削除したこと。
(2) その他
その他所要の改正を行ったこと。
(3) 施行期日(改正省令附則関係)
改正省令は、公布日から施行すること。
第3 細部事項
1 改正政令関係
(1) ラベル・SDS対象物質に係る規定方法の変更(令第18条、第18条の2及び別表第9関係)
ア 令第18条第1号及び第18条の2第1号で規定する令別表第9に掲げる物は、特定の元素から構成される化合物について米国産業衛生専門家会議(ACGIH)等の諸機関において職業ばく露限界値が包括的に設定されていることから、元素及び当該元素から構成される化合物を包括的にラベル・SDS対象物質として規定したものであること。
イ 令第18条第1号括弧書きで規定する化学物質のうち、改正政令による改正前の令第18条第1号においてラベル表示の適用対象から除外されていた白金、フェロバナジウム、モリブデンについては、国が行うGHS分類の結果、皮膚刺激性の区分に該当するものと区分されているため、ラベル表示の適用の対象としたこと。
ウ 令第18条第2号の「危険性又は有害性があるものと令和3年3月31日までに区分された物」とは、令和2年度までに実施された国が行うGHS分類の結果、物理化学的危険性又は健康に対する有害性のいずれかの区分に該当すると区分された物をいうこと。なお、国が行うGHS分類の結果については、独立行政法人製品評価技術基盤機構のホームページにおいて公表されていること。
エ 令第18条第2号ハ及び第18条の2第2号ハについては、国が行うGHS分類の結果、特定標的臓器毒性(単回ばく露)又は特定標的臓器毒性(反復ばく露)の呼吸器又は気道刺激性のいずれかの区分に該当し、かつ、危険性又はその他の有害性の区分に該当すると区分されていないものをいうこと。なお、当該物質は、粉じんとしての有害性のみを有する物質であり、従来、じん肺法(昭和35年法律第30号)や粉じん障害防止規則(昭和54年労働省令第18号。以下「粉じん則」という。)において粉じんとしての物理的な作用による健康障害を防止するために必要な規制を行っていることから、ラベル・SDS対象物質から除外した趣旨であること。
オ 令第18条第2号及び第18条の2第2号の「厚生労働省令で定めるもの」については、別途厚生労働省令で示される予定であること。
カ 令第18条第3号及び第18条の2第3号で定める厚生労働大臣の定める基準(裾切値)については、改正前は安衛則別表第2で規定していたところ、規定方法の見直しを踏まえ、改正後は、告示で定める予定であること。
キ 令別表第9に掲げる物の範囲についての留意事項は以下のとおりであること。
(ア)令別表第9第1号の「アリル水銀化合物」とは、芳香族環を有する有機水銀化合物をいうこと。
(イ) 令別表第9第4号のアルミニウムについては、アルミニウム単体又はアルミニウムを含有する製剤その他の物(以下「アルミニウム等」という。)であって、サッシ等の最終の用途が限定される製品であり、かつ当該製品の労働者による組立て、取付施工等の際の作業によってアルミニウム等が固体以外のものにならずかつ粉状(インハラブル粒子)にならないものは、一般消費者の生活の用に供するものとしてラベル表示・SDS交付等及び危険性又は有害性等の調査等の対象にならないものとして取り扱って差し支えないこと。
(ウ) 令別表第9第4号の「水溶性」とは、当該物質1グラムを溶かすのに必要な水の量が100ミリリットル未満であるものをいうこと(別表第9第10号、第17号、第18号、第20号、第25号、第27号、第29号において同じ。)。
(エ) 令別表第9第8号の「ウラン及びその化合物」には、改正政令による改正前の令別表第9第59号の2「ウラン」、第413号の2「二酢酸ジオキシドウラン(Ⅵ)及びその二水和物」及び第416号の2「二硝酸ジオキシドウラン(Ⅵ)六水和物」を含むものであること。
(オ) 令別表第9第15号の「すず及びその化合物」には、改正政令による改正前の令別表第9第396号「トリシクロヘキシルすず=ヒドロキシド」を含むものであること。
(カ) 令別表第9第32号の「沃よう素及びその化合物」のうち、「その化合物」とは、沃化物をいうものであること。なお、沃化物とは、沃素とそれより陽性な原子又は基との化合物をいうこと。
(2) ラベル・SDS対象物質の削除(令別表第9関係)
ア 令別表第9から削除された7物質のうち、酸化アルミニウム及びポルトランドセメント(以下「酸化アルミニウム等」という。)については令第18条第2号ハ及び令第18条の2第2号ハに該当することから、ラベル・SDS対象物質から削除したものであること。酸化アルミニウム等以外の5物質については、国が行うGHS分類の結果、危険性又は有害性があるものと区分されていないことから、ラベル・SDS対象物質から削除したものであること。
ただし、酸化アルミニウム等の取扱い作業については、じん肺法や粉じん則に規定する措置を適切に講じる必要があること。また、酸化アルミニウム等以外の5物質については、GHS分類を行うための十分な情報が得られなかったため、危険性又は有害性があるものと区分されていない場合も含まれていることから、令別表第9から削除された7物質は危険性又は有害性がないことを理由に令別表第9から削除されたものではないことに留意すること。
なお、ポルトランドセメントについては、その粉じんが皮膚や眼に付着した場合に水と反応して水酸化カルシウム等が生成され、当該物質により皮膚や眼に障害を与えることが報告されていることから、ポルトランドセメントを皮膚や眼に触れる状態で譲渡又は提供する場合には、安衛則第24条の14及び第24条の15の規定によるラベル表示及びSDS交付等において、水酸化カルシウムの皮膚や眼に触れた場合の有害性について記載することが望ましいこと。
イ 令別表第9から削除された7物質を含有する製剤その他の物であって他のラベル・SDS対象物質を裾切値以上含有するものについては、令第18条第3号及び第18条の2第3号の規定に基づき、引き続きラベル表示・SDS交付等の義務対象であること。
※8月号で「政省令案を立案し直してパブリックコメント手続やり直し」と報じた「ラベル表示・SDS交付等の義務対象物質に係る規定方法の変更等」が2023年8月30日に施行されたことに伴う解説通達である。
なお、4月に公表された「皮膚等障害化学物質の選定のための検討会報告書」を踏まえて、別掲記事の2023年7月4日付け基発0704第1号「皮膚等障害化学物質等に該当する化学物質について」も示されている。
Q&Aや化学物質管理者テキスト等の変更は行われていない。関係資料は以下で入手できる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html