【参考】新型コロナ感染症後の精神障害事案の取扱い

1 基本的な考え方

本感染症への罹患と精神疾患との関連性については、いまだ確立した知見は得られていないが、精神症状の発現機序について、ウイルス性肺炎を伴う炎症および免疫反応により、全身のさまざまな臓器や組織に異常をきたし、その結果、血液脳関門における能動輸送障害や血管透過性亢進、サイトカインストームなどの免疫応答異常などといったメカニズムが想定されている(※1)。また、本感染症罹患後に遷延、出現する精神・神経症候として主なものは表6-1のとおりである(※2)。このため、本感染症罹患後に発病した精神障害がすべて心理的負荷により発病したものとは限らない。このことから、本感染症罹患後の精神障害については、表6-1に示す症状にとどまるものなのか、上記メカニズムによる精神疾患なのか、それとも精神・心理活動を原因とする(心理的負荷による)精神障害なのかを区別して検討する必要があり、一律に精神障害の認定基準に基づき判断することは適切ではない。この考え方は、診療の手引き別冊で示された医学的知見を踏まえ従来の考え方を整理したものであり、新たに基準を定めたものではない。
(※1) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント・「精神症状へのアプローチ」参照
(※2)(※1)の手引き「表6-1 COVID-19罹患後に遷延する症状」参照
表6-1 COVID-19罹患後に遷延する(あるいはCOVID-19改善後に出現する)症状
一般的な症状-呼吸困難、息切れ/疲れやすい、疲労感・倦怠感/活動後の症状の悪化/発熱/咳嗽/胸痛、胃痛/皮疹/動悸/生理周期の障害/脱毛/関節痛
精神・神経症候-思考の低下、集中力低下(brain fog)/頭痛/刺されるような痛み/睡眠障害/立位時のめまい(POTS)/気分変調/臭覚・味覚障害/筋痛/疲労感・倦怠感/運動緩慢/感覚障害

2 具体的な取扱い(稿末フロー図参照)

(1) 本感染症後に遷延する症状の取扱い

本感染症後に出現した症状が表6-1に示す症状にとどまるものである場合は、令和4年5月12日付け基補発0512第1号「新型コロナウイルス感染症による罹患後症状の労災補償における取扱い等について」(以下「本通達」という。)の2の(1)のアに該当し、本感染症に係る疾病(労働基準法施行規則別表第1の2(以下「別表」という。)第6号事案)と解し、適切に給付を行うこと。

(2) 免疫応答異常等による精神障害の取扱い

上記1のとおり、免疫応答異常等を一要因として精神障害が発病することもあるため、本感染症罹患後に出現した精神障害について、本感染症による免疫応答異常等が関与していることが医師により認められれば、精神科によりF3やF4などの精神障害が診断されている場合であっても、本通達の2の(1)のイに該当し、本感染症(別表第6号事案)に係る疾病と解し、適切に給付を行うこと。
なお、医師により免疫応答異常等が関与しているとは認められない場合は、本感染症に係る精神障害事案(別表第9号事案)として扱い、精神障害の労災認定実務要領に従い調査を進めること。

(3) 一時的な精神症状の取扱い

業務上の傷病により療養中の者について、当初の傷病に伴う一時的なうつ状態、不眠、不定愁訴等に対して行われる投薬等の請求については、当初の傷病に併発するものとして取り扱うとされていることから、精神科により診断された精神障害の場合であっても、一時的な精神症状であれば上記(2)によることなく、本感染症の治療の一環として取り扱うこと。
ここでいう一時的とは、「当初の傷病で休業が必要である状態が前提」となるが、新型コロナウイルス感染症にかかわらず以下の期間と解す。
① 費用請求であるかレセプトの審査依頼であるかを問わず、調査開始時点において、既に精神症状が消失しており、これに対する治療が終了している状況であれば、当該治療終了までの全期間
② 精神症状に対する治療がおおむね6か月を超えない程度で終了見込みであれば、その期間
③ 精神症状に対する治療がおおむね6か月を超える終了見込みであれば、6か月までの期間
なお、②と③のおおむね6か月の起点となるのは調査開始時である。また、当初の傷病が軽快し、その傷病での休業の必要性がなくなった場合にあっては、上記①~③の期間にかかわらず、精神障害により休業が必要となった時点から一時的との取扱いはできないことに留意すること。

3 監督署における調査

上記1及び2を踏まえ、18頁4(2)ウに示した調査[編注:以下に掲載]を適切に行うこと。

→労災認定実務要領18頁4(2)ウ 「精神障害に関する調査事項」
本感染症への罹患と精神疾患との関連性については、いまだ確立した知見は得られていないが、精神症状の発現機序についても一定のメカニズムが想定されている。また、本感染症罹患後に精神・神経症候が遷延、出現することが認められている。このため、本感染症罹患後に発病した精神障害がすべて心理的負荷により発病したものとは限らない(23頁の「本感染症後の精神障害事案の取扱い」[編注:上に掲載]を参照)。
したがって、本感染症罹患後に精神障害を発病したとして請求があった場合には、精神障害の労災認定実務要領による初動調査を行う前に、本感染症の罹患後症状として認められるか否かを主治医に意見書依頼(様式5参照)するなどして、以下の調査を適切に行うこと。
(ア) 初動調査
以下の事項を確認すること。
① 本感染症の諸症状(罹患後症状も含む)の出現日、その程度及び経過
② 本感染症(罹患後症状も含む)による休業期間
③ 精神症状の出現日、その程度及び経過、治療終了の見込み時期
④ 精神科の診断による精神障害か否か
⑤ 一時的な精神症状か否か
⑥ 一時的でない場合は、精神障害に本感染症による免疫応答異常等が関与しているか否か(一要因としての可能性の有無)
(イ) 労災専門医への意見聴取
主治医意見では免疫応答異常等の関与を否定又は不明としている場合には、労災専門医(精神科、脳神経内科等の医師)に意見を求めること。その際、意見を求める趣旨(上記の考え方等)、本感染症の罹患後症状など必要事項を簡潔に説明し理解を得ること。なお、心理的負荷を受けたとする具体的な出来事があったとしても、このことだけで免疫応答異常等が関与していることを否定されることのないよう、上記(ア)①~③の説明を適切に行うこと。

安全センター情報2023年10月号

参考情報(手引き等pdf)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)医療関係者向け情報(東京都感染症情報センターサイト)
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/medical/covid-19/

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