太陽の下で働くと3人に1人が非黒色腫皮膚がんで死亡するとWHOとILOが発表/2023年11月8日 世界保健機関/国際労働機関【特集】労働関連疾病負荷推計の進展

世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)が本日発表した共同推計によると、非黒色腫皮膚がんによる死亡の3人に1人近くは、太陽の下で働くことが原因である。Environment International誌に発表された研究[下で抄録を紹介]によると、屋外で働く労働者の非黒色腫皮膚がんの負荷は大きく、増加傾向にあり、この深刻な職場ハザードとそれが引き起こす労働者の生命の損失を防ぐための行動を呼びかけている。
共同推計によると、2019年に、16億人の労働年齢人口(15歳以上)が屋外で仕事中に太陽紫外線に曝露し、これは全労働年齢人口の28%に相当する。2019年だけでも、183か国で19,000人近くが、屋外で太陽の下で働いたことが原因で、非黒肉腫皮膚がんで死亡した。大多数(65%)は男性であった。
「労働で太陽紫外線に無防備に曝露することは、職業性皮膚がんの主な原因である」と、WHO事務局長のテドロス・アダノム・ゲブレイェソス博士は語る。「しかし、太陽の有害な光線から労働者を守り、その致命的な影響を防ぐための効果的な解決策がある」。
今回の推計は、太陽紫外線への職業曝露が、世界的にがん死亡の寄与負荷が3番目に高い労働関連リスク要因であることを立証している。2000年から2019年の間に、日光への職業曝露に起因する皮膚がん死亡はほぼ倍増した(2000年の死亡10,088人から2019年の死亡18,960人へと88%増加)。
「安全で健康的な労働環境は、労働における基本的権利である」と、ILO事務局長のジルベールFウングボは述べた。「労働中に無防備に太陽紫外線に曝露することによって引き起こされる死亡は、費用対効果の高い対策によってほぼ防ぐことができる。政府、使用者、労働者とその代表が、紫外線曝露の職業リスクを軽減するために、明確に定義された権利、責任、義務の枠組みのなかで協力することが急務である。これによって、毎年何千人もの命を救うことができる」。
この研究から、WHOは、日光の下での危険な屋外労働から労働者を守るため、さらなる行動を呼びかけている。皮膚がんは何年も、あるいは何十年も曝露した後に発症するため、労働者は若い年齢から労働において太陽光紫外線から防護されなければならない。政府は、日陰を提供し、労働時間を南中時間からずらし、教育と訓練を提供し、労働者に日焼け止めと個人保護衣(つばの広い帽子、長袖シャツ、長ズボンなど)を着用させることによって、屋外労働者を日光による皮膚がんから守る政策と規制を確立し、実施し、施行すべきである。紫外線指数(皮膚に有害な紫外線の量を評価する尺度)が3以上の場合は、保護対策を実施すべきである。
WHO、ILO、世界気象機関、国連環境計画は最近、屋外労働者が太陽紫外線への曝露を推計するために使用できる「サンスマート・グローバルUVアプリ」を発表している。
※「サンスマート・グローバルUVアプリはあなたを太陽の危険性から守るのに役立つとともに、公衆衛生を促進する」(2022年6月21日)
https://www.who.int/news/item/21-06-2022-sunsmart-global-uv-app-helps-protect-you-from-the-dangers-of-the-sun-and-promotes-public-health
さらに、皮膚がんリスクを低減するための対策として、太陽紫外線への職業曝露がどのような場合に発生し、皮膚がんを引き起こすかについての労働者の意識を高めること、皮膚がんの早期徴候を発見するためのサービスやプログラムを提供することが挙げられる。

編集者のための注記

この推計は、WHOが最近発表した系統的レビューとメタアナリシス[抄録を別掲]に基づくもので、太陽紫外線への職業曝露は、非黒色腫皮膚がんの発症リスクを60%増加させると推計されることを強調している。このリスク推計は、3つのWHO地域にまたがる22か国に住む286,131人の参加者を対象とした25の症例対照研究のプール解析に基づいている。WHOとILOは、1996年1月1日から2021年12月31日の間に収集された、6つのWHO地域すべてをカバーする96か国・地域についての763の研究から得られた1億6,600万件のデータポイントに基づいて、労働において太陽紫外線に曝露する人々の数を推計した。
非黒色腫皮膚がんは、皮膚の上層部に発生するがんの一群を指す。このがんの2つの主な亜型は、基底細胞がんと扁平上皮がんである。「労働年齢」とは、通常、特定の管轄区域で法的に労働が認められる最低年齢を指す。多くの国では、最低労働年齢は15歳である。
※https://www.who.int/news/item/08-11-2023-working-under-the-sun-causes-1-in-3-deaths-from-non-melanoma-skin-cancer–say-who-and-ilo

太陽紫外線への職業曝露の悪性黒色腫及び非黒色腫皮膚がんに対する影響:WHO/ILO傷病の労働関連負荷共同推計による系統的レビューとメタアナリシス(2022年4月24日)

抄録

世界保健機関(WHO)/国際労働機関(ILO)労働関連傷病負荷共同推計(WHO/ILO共同推計)の進展のために、太陽紫外線(UVR)への職業曝露に起因する悪性黒色腫(メラノーマ)及び非黒色腫皮膚がん(NMSC)による死亡数及び障害調整生存年数の推計を可能にすることを目的として、UVRへの職業曝露とメラノーマ及びNMSCとの関連を報告した研究の系統的レビュー及びメタアナリシスが行われた。
可能な場合には系統的レビュー組織化の枠組みとして「ナビゲーションガイド」を適用して、プロトコルが開発及び発表された。関連する可能性のある記録について電子書誌データベースを検索し、また電子灰色文献データベースと組織のウエブサイトも検索し、以前の系統的レビューの参照リストや含まれた研究記録を手作業で検索するとともに、他の専門家とも相談した。太陽UVRへの職業曝露が、太陽UVRへの職業曝露がない場合と比較して、メラノーマ(口唇または眼球のメラノーマ除く)またはNMSCの有病率、発症率または死亡率に及ぼす影響を推計した、ランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究及びその他の非ランダム化研究を含めた。少なくとも2人のレビュアーが独立に、最初の段階で適格基準に対して題名と抄録を、また第2段階で潜在的に適格な記録の全文をスクリーニングした。ランダム効果メタアナリシスを用いて、調整後相対リスクを結合した。2人以上のレビュアーが、バイアスのリスク、証拠の質と強さを評価した。
メラノーマまたはNMSCの発症率または死亡率を報告した、3つのWHO地域(アメリカ地域、ヨーロッパ地域と西太平洋地域)の26か国の457,000人超の参加者を含む63の研究(48の症例-対象、3つの症例-症例と2つのコホート研究)がみつかった。メラノーマまたはNMSCのの有病率に関する研究はみつからなかった。ほとんどの研究において、曝露はインタビュー中のアンケートで自己報告され、健康転帰は生検と病理組織学的確認に基づく医師の診断によって評価されていた。曝露の誤分類バイアス、検出バイアス及び交絡のリスクに関する懸念はあるものの、証拠の本体のバイアスのリスクは概して「おそらく低」と判断された。
関連する症例-対照研究の主要なメタアナリシスは、メラノーマ及びNMSC発症の相対リスク(RR)が各々、1.45(95%信頼区間(CI):1.08-1.94;I2=81%)及び1.60(95% CI:1.21-2.11;I2=91%)であることを明らかにした。WHO地域別にサブグループ分析を行った場合、メラノーマ及びNMSCの発症のリスクに統計的に有意な差は認められず、性別によるサブグループ分析でも、NMSC発症リスクに差は認められなかった。しかし、
NMSCのサブタイプ別によるサブグループ分析では、基底細胞がんのリスクの増加(RR:1.50;95% CI:1.10-2.04;15研究)は、扁平上皮がんのリスクの増加(RR:2.42;95% CI:1.66-3.53;6研究)よりもおそらく低かった。感度分析では、バイアスドメインの何らかのリスクが「低」または「おそらく低」とレート付けされた研究と比較して、「高」または「おそらく高」の研究で、また、疾病及び関連保険問題の国際統計分類(ICD)コードを報告した2研究と比較して、ICDコードによる健康転帰を報告していない研究で、NMSC発症率の効果推計が有意に高かった。メラノーマの発症率と死亡率及びNMSCの死亡率に対する何らかの太陽UVRへの職業曝露の影響についての利用可能な証拠の質は「低」とレート付けされ、NMSCの発症率についての証拠の質は「中」とレート付けされた。
太陽UVRへの職業曝露を報告する既存の証拠の強さは、メラノーマ死亡率及びNMSC死亡率に対しては、「有害性について不十分な証拠」と判定された。メラノーマの発症率という健康転機に対しては、証拠の強さは、偶然性、バイアス及び交絡を合理的な信頼性をもって除外できないが、曝露と結果の間にポジティブな関係が観察される場合である、「有害性について限定的な証拠」と判定された。NMSCの発症率という健康転機に対しては、証拠の強さは、偶然性、バイアス及び交絡が合理的な信頼性をもって除外できて、曝露と結果の間にポジティブな関係が観察される場合である、「有害性について十分な証拠」と判定された。皮膚メラノーマとNMSCを引き起こすグループ1発がん物質とした、2009年の国際がん研究機関の太陽UVRについての分類は、太陽UVRへの職業曝露と皮膚がんの発症率に関する証拠の強さについての説得力のある寄与である。太陽UVRへの職業曝露に起因するNMSCの負荷について推計を作成することは、(証拠群の限界を認めつつも)証拠に基づいていると思われ、プール影響推計は、WHO/ILO共同推計の入力データとして使うことができる。

[訳注] 太陽UVRへの職業曝露あり(または高い)は、「≧0.33SED(標準紅斑紫外線量)/日の曝露または職業、職業グループ、職務若しくはその他の変数の代用による曝露で定義」。
https://www.who.int/publications/i/item/9789240040830

183か国における太陽紫外線への職業曝露に起因する非黒色腫皮膚がんの世界、地域及び国の負荷(2000-2019年):WHO/ILO傷病の労働関連負荷共同推定による系統的分析(2023年11月)

抄録

背景:世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)の系統的レビューは、太陽紫外線(UVR)に職業的に曝露する人々において、非黒色腫皮膚がん(NMSC)のリスクが高いことを示す十分な証拠を報告した。本論文は、2000年、2010年及び2019年の、性別及び年齢集団別の、195か国/地域における世界、地域、国及びサブナショナルなUVRへの職業曝露、並びに183か国におけるNMSCの世界、地域及び国の寄与負荷を示す。

方法:UVRに職業的に曝露する人口の推計から人口寄与割合(PAF)を、また、WHO/ILO系統的レビューからNMSCについてのリスク比を算出した。UVRへの職業曝露は、96か国/地域の763の横断調査による1億6,600万の観察を用いて、屋外労働を伴う職業の代用を通じてモデル化した。寄与NMSC負荷は、WHOのNMSC総負荷の推計にPAFを適用して推計した。不平等の測度を算出した。

結果:2019年に世界で、16億人の労働者(95%不確実性範囲[UR]1.6-1.6)、または労働年齢人口の28.4%(UR 27.9-28.8)が、UVRに職業的に曝露した。PAFは、NMSC死亡について29.0%(UR 24.7-35.0)、障害調整生存年(DALYs)について30.4%(UR 29.0-31.7)であった。寄与NMSC負荷は、18,960人の死亡(UR 18,180-19,740)及び500万DALYs(UR 0.4-0.5)であった。男性と高年齢層の負荷が大きかった。2000年から2019年にかけて、寄与死亡と寄与DALYsはほぼ倍増した。

結論:WHOとILOは、UVRへの職業曝露は一般的であり、NMSCの実質的、不平等かつ増大する寄与NMSC負荷を引き起こしていると推計している。政府は、屋外で働く労働者をUVRへの危険な曝露や寄与NMSC負荷及び不平等から保護しなければならない。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412023004993?via%3Dihub

※日本についての結果:補足データから抽出
2019年に日本で、労働年齢人口の25.5%(UR 24.0-27.1)が、UVRに職業的に曝露した。PAFは、NMSC死亡について30.9%(UR 16.6-104.7)、障害調整生存年(DALYs)について33.0%(UR 27.8-38.7)であった。寄与NMSC負荷は、351人の死亡(UR 292-410)及び4.85万DALYs(UR 4.19-5.52)であった。男性と高年齢層の負荷が大きかった。2000年から2019年にかけて、寄与死亡と寄与DALYsはほぼ1.5倍に増加した。

2021年6月号「WHO/ILO傷病の労働関連負荷:系統的レビュー」に、以下の「抄録」を紹介しているので、参照していただきたい。「白内障に対する影響の系統的レビューとメタアナリシス」はまだ公表されていない。

⑥ 太陽紫外線への職業曝露と太陽紫外線への職業曝露の白内障に対する影響の系統的レビューのためのプロトコル(2019年4月)
⑦ 太陽紫外線への職業曝露と太陽紫外線への職業曝露の黒色腫及び非黒色腫皮膚がんに対する影響の系統的レビューのためのプロトコル(2019年5月)

2021年12月号特集「労働関連死亡WHO/ILO共同推計/41労働関連傷病で200万人死亡、長時間労働、COPD、職業がん等-初のWHO/ILO共同推計と既存推計の比較」も参照。

「WHO/ILO傷病の労働関連負荷共同推計」ウエブサイト
https://www.who.int/teams/environment-climate-change-and-health/monitoring/who-ilo-joint-estimates

安全センター情報2024年4月号