より安全で健康的な労働環境のための呼びかけ/2023年11月26日 国際労働機関(ILO)【特集】労働関連疾病負荷推計の進展
ILO発表文
ジェネーブ(ILOニュース)-ILOの新たな推計によると、労働関連の災害と疾病が原因で死亡する労働者は毎年300万人近くに上り、2015年と比較して5%以上増加している。この死者数は、労働者の健康と安全を守るうえで、世界的に根強い課題があることを浮き彫りにしている。
合計260万人に上る労働関連死亡は、そのほとんどが労働関連疾病に起因するものである。分析によれば、労働災害はさらに33万人の死亡を占める。循環器系疾患、悪性新生物、呼吸器系疾患が労災死亡原因のトップ3である。これら3つのカテゴリーを合わせると、労働関連死亡全体の4分の3以上に相当する。
この新しいデータは、ILOの新しい報告書「より安全で健康的な労働環境のための呼びかけ(A Call for Safer and Healthier Working Environments)」に含まれており、11月27日から30日までオーストラリア・シドニーで開催される第23回世界労働安全衛生会議で発表される。
報告書は、女性(労働年齢成人10万人当たり17.2人)に比べ、男性の方が労働関連事故による死亡が多い(10万人当たり51.4人)ことを強調している。アジア太平洋地域は労働人口の規模が大きいため、労働関連死亡率がもっとも高い(世界全体の63%)。
農業、建設業、林業、漁業、製造業がもっとも危険な部門であり、年間20万件の死亡災害を占め、これは死亡労働災害全体の63%を占める。とくに、世界の死亡労働災害の3人に1人は農業労働者が占めている、と報告書は述べている。
安全で健康的な労働環境を確保するための世界的な取り組みを強化するため、ILOは新たな計画「2024〜2030年の労働安全衛生に関する世界戦略」を発表した。その目標は、社会正義とディーセントワークの促進というILOの世界的な取り組みに沿って、労働者の福利を優先させることである。
同戦略は、ILO加盟国に対し、3つの柱に基づいて行動するよう促している。
- 第1に、ガバナンスを強化し、信頼できるデータを推進し、能力を高めることによって、各国の労働安全衛生(OSH)の枠組みを改善する。
- 第2に、国及び世界レベルでのOSHにおけるコーディネーション、の投資を強化する。
- 第3に、ILO-OSH2001の原則を促進し、ジェンダー変革ガイダンスを開発し、それを特定のハザーズ、リスク、業種、職種に合わせてあつらえることにより、職場のOSHマネジメントシステムを強化する。
※https://www.ilo.org/global/about-the-ilo/newsroom/news/WCMS_902220/lang–en/index.htm
報告書(抄)われわれはいまどこにいるのか?労働関連傷病の世界負荷
ILOが開発した2019年を対象とする最新の推計*によると、世界中で3億9500万人以上の労働者が非致死的労働災害を被った。さらに、約293万人の労働者が労働に関連する諸要因の結果として死亡し、2000年と比較して12%以上増加した。労働関連死亡者の絶対数の大幅な増加は、いくつかの要因に影響されており、それらの要因は、職業リスクへの無防備な曝露の悪化や、社会人口統計学的変化に関連しているかもしれない。例えば、世界の労働力人口は2000年から2019年の間に26%増加し、27億5000万人から34億6000万人になった。診断ツールも過去20年間に大幅に改善され、発見された事例数の増加に寄与している。検出される事例数の増加に寄与している。
労働関連死亡は不平等に分布しており、男性の死亡率(労働力人口10万人当たり108.3人)は、女性の死亡率(10万人当たり48.4人)を大きく上回っている。地域別分布では、アジア太平洋地域がもっとも高い割合を占め、世界の労働関連死亡のほぼ63%を占めている。これは、この地域が世界でもっとも労働人口が多いことを反映している。
相対的にみると、労働関連死亡は全世界の死亡の6.71%を占めている。アフリカ(7.39%)がもっとも高く、次いでアジア太平洋(7.13%)、オセアニア(6.52%)である。
その大部分、260万人が労働関連疾病による死亡であり、労働災害による死亡は33万人であった。もっとも多くの労働関連死亡の原因となった疾病は、循環器疾患、悪性新生物及び呼吸器疾患であった。これら3つのカテゴリーを合わせると、労働関連死亡全体のほぼ4分の3を占めている。
もっとも一般的な職業リスク要因を詳細に検討し、世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)は、WHO/ILO労働関連傷病負荷共同推計を開発した。現在までに、42組の職業リスク要因と関連する健康転帰(すなわち特定の疾病や傷害)のペアが研究されている。これらの推計は、特定の危険因子への職業的曝露と、それに続く健康への悪影響との関係についての証拠を提供している。これらの推計は、特定のリスク要因への職業曝露と、その結果としての負の健康転帰との関係についての証拠を提供するものである。[訳注:詳しくは2021年12月号を参照されたい。]
検討された20の職業リスク要因のうち、2016年にもっとも寄与死亡が多かったのは長時間労働(週55時間以上)への曝露で、ほぼ745,000の人々を殺し、次いで職業性粒子状物質・ガス・ヒュームへの曝露で45万人以上、3番目に労働災害で363,000人以上であった。
WHOとILOは、42の特定の職業リスク要因と健康転帰のペアに起因する障害調整生存年(DAL
Ys)が合計9,022万DALYsであるとも推計している。もっとも多くのDALYs喪失数は労働災害(2,644万)で、次いで長時間労働(2,326万)、職業性人間工学要因(1,227万人)であった。
前述のILO世界推計と同様に、WHO/ILO共同推計によって考慮された特定の職業リスク要因の負荷は、時間の経過とともに変化している。例えば、気管・気管支・肺がんのうちクロムへの職業曝露に起因するものの割合は、2000年から2016年にかけて倍増した。アスベスト曝露に起因する中皮腫は40%増加した。非黒色腫皮膚がんの割合は、2000年から2020年の間に37%以上増加した。他方、喘息原因物質や粒子状物質・ガス・ヒュームへの曝露による死亡は20%以上減少した。
ILOはまた、他の機関と提携して、劣悪なOSH条件の影響を受けている労働者の数も推計している。例えば、ILOと国際失明予防機関(IAEA)は共同で報告書を作成した。ILOと国際失明予防協会は共同で、健康な視力は労働における安全と生産性に不可欠であるとして、注意を喚起する報告書を作成した。この報告書によると、世界中で1,300万人以上が労働と関連した視力障害を抱えており、毎年推定350万人が職場で職場で眼を負傷していると推計されている。これは、死亡労働災害の1%に相当し、視力障害の第3の危険因子となっている。
近日発表のJukka Takalaらによる論文「2019年の疾病・災害による労働関連負荷の世界、地域及び国レベルの推計」に基づいた「ILO労働災害・労働関連疾病世界推計」とされている。
※https://www.ilo.org/global/topics/safety-and-health-at-work/resources-library/publications/WCMS_903140/lang–en/index.htm
安全センター情報2024年4月号