「その作業はするな」韓国・民主労総、「4月労働安全の月」核心は「作業中止権の獲得」/韓国の労災・安全衛生2024年04月22日
『最高の治療は予防』という言葉は予防の重要性を強調する時に一般的に使われる。労働現場の労働災害にこの言葉を当てはめれば、『予防』は『作業中止権』に置き換えられる。労働災害を減らす最も根本的で速い道は、労働者の作業中止権が『実質的に保障』されることだと民主労総は主張する。労働者と労働組合が権利行使の主体となり、中止権を行使した時に不利益を受けない「完全な作業中止権」の実現を闘いの目標とする。
作業中止権は、災害が発生する危険があると判断した労働者が、その危険から待避したり該当の作業を拒否することで、自身の生命と安全を守るための誰も侵すことができない『自然法的権利』だ。民主労総が四月の『労働安全保健の月』を迎えて、作業中止権の問題点を知らせ、争点化させようとする理由は「労働者が有害・危険について知る権利、有害・危険作業を拒否する権利、災害予防に参加する権利は基本権であり、生命と安全に直結する権利」であるからだ。
民主労総の要求は、▲労働組合による作業中止権の保障、▲作業を中止した下請け労働者の休業手当てと損失の補償、▲作業中止に対する懲戒・訴訟など、不利益取り扱いの禁止、▲猛暑・寒波など、気候の危機に伴う作業中止権の保障、▲完全に改善措置をした後、労使が全てに同意した場合に作業を再開することの法制化だ。
粘り強い労働界の要求で1995年に労働者の作業中止権が導入され、1996年には、作業を中止して待避した労働者に対する不利益処遇禁止条項が導入されたが、処罰条項の導入は国会を通過できずに廃棄された。2018年には、感情労働者保護立法の改正で、業務の中断や配置転換の要求などに対する不利益取り扱いの禁止を導入するという成果も挙げた。しかし労働者の作業中止権は、個別労働者の「作業待避権」のレベルに留まっている。韓国の作業中止権を保障する法律は不充分だが、それさえもきちんと執行されていないということだ。
産業安全保健法第51条「事業主の作業中止」と、第52条「勤労者の作業中止」は、急迫した危険がある時は直ちに作業を中止させ、事業主は適切な措置を、労働者は待避しなければならないと定めている。しかし「急迫した危険」が何で、「作業再開のための適切な措置」とは何なのかが明示されておらず、実質的な規制が難しい状況だ。
また、産安法第52条4項には「作業中止・待避労働者に対し、解雇や不合理な処遇をしてはならない」と定められているが、事業主が作業を中止した労働者に対して不利益を加えたとしても、これを処罰できる条項はないという状態だ。事実上「作業を中止した労働者に対する不利益禁止」には、強制力と拘束力がないと指摘される。
一例として、2016年に世宗市のある事業場で化学物質漏出事故が発生した時、近くの事業場の金属労組の幹部が作業中止権を発動したことに対して、会社が懲戒を行った事件がある。8年経って最高裁は「幹部に対する懲戒は不当だ」とする判決を出したが、この事件は、作業中止権がどれほど『高嶺の花』」であるかを確認する事例として残った。
猛暑時の災害予防の根本対策として、作業中止権が継続して提起されてきたが、十数年間放置されているのが実情だ。建設現場を始めとする屋外作業、移動労働者に対する猛暑、暴雨、大雪、寒波など、気候の変動によって更に危険の頻度と強度が高まる状況で、強い作業中止権が必要だという主張が提起されている。
現在の個別労働者にだけ作業中止権を付与するという方式は、事実上機能しにくいだけでなく、労働災害を防ぐという趣旨に反する「付け焼き刃」に過ぎないというのが民主労総の説明だ。現場の有害・危険は個別労働者の個別作業だけで発生するものではなく、同一業務、同一工程、前後工程と危険が連続するからだ。
生命と安全に直結する作業中止権が実質的に作動するためには、労働組合に作業中止権が与えられるべきだという論理だ。事業場全体の有害危険な作業環境から労働者の健康と生命を保護する責任を持っており、組合員が委員として属している産業安全保健委員会や、名誉産業安全監督官に作業中止権が与えられるべきだということだ。
また、民主労総は完全な改善措置がなされた後でなければ、作業は再開されてはならないと主張する。作業中止の後、完全な改善措置がされる前に事業主の作業再開を許容することは、作業中止権の保障ではなく、韓国政府が批准しているILO協約に違反することにもなる。
現 行 | 改 正 案 |
第52条(勤労者の作業中止) ③ 管理監督者などは、第2項による報告を受ければ、安全と保険に関して必要な措置を執らなければならない。 ④ 事業主は産業災害が発生する緊急な危険があると勤労者が信じるに足る合理的な理由があるときには、第1項によって作業を中止して待避した勤労者に対して、解雇やその他の不利な処遇をしてはならない。 | 第52条(勤労者の作業中止) ③ 事業主と管理監督者などは、第2項による報告を受ければ、安全と保険に関して必要な措置を執らなければならない。 ④ 事業主は安全措置、保険措置が不備であったり産業災害が発生する緊急な危険があると勤労者が信じるに足る合理的な理由があるときには、作業を中止した勤労者に作業の再開を要求することはできない。第1項によって作業を中止して待避した勤労者、勤労者代表、名誉産業安全監督官に対して、解雇やその他の不利な処遇をしてはならない。(刑事処罰条項の導入/2年以下の懲役または五千万ウォン以下の罰金) ⑤ 事業主、発注者は、勤労者の作業中止期間中の賃金、請負人の作業遅延による費用と期間の損失を補填しなければならず、共同して連帯責任を負担する(処罰条項の導入) |
民主労総が拡大すべきだと主張する作業中止権の範囲をみると、産安法を改正し、危険作業が改善されなかった場合には作業の再開を禁止する内容、緊迫した状況が発生した以後だけでなく、作業の前でも安全措置が不備だと判断される場合には作業を中止できるという内容を含んでいる。感情労働、訪問労働による暴行、暴言など、作業中止権の行使の範囲は、事故性の災害だけではないということが明確に明示されるべきだということも含まれた。
韓国政府も批准しているILO協約には、「改善措置がされる前に、労働者に作業再開を強要することはできない」と明示されている。しかし、韓国の産業安全保健法には規定がなく、この協約に違反しているということだ。作業中止以後の改善措置に対しては、労働者が判断基準でなければならず、労働者、労働組合の同意を得ずに作業を再開をした事業主に対する処罰が明示されなければならないという内容だ。
また、作業を中止したとき、下請け労働者に対する賃金、工事期間、損失の補填は、元請けに連帯責任があることを規定する項目を入れ、非正規・下請け労働者も実質的に作業中止権を発動できるようにしようということも主張する。作業中止期間の下請け労働者の賃金と下請け業者の損失を、元請けが責任を負うよう法制化されなければ、低価格落札と低賃金によって苦しむ下請け労働者の作業中止権は現実化されないためだ。
「その鉄を使うな」は、2010年に青年労働者のキムさんが、危険作業をしていて溶鉱炉に落ちて亡くなった労働災害を追悼するために作られた詩の題だ。その後に、歌手のハリムさんが曲を作り、大衆に再び知られた。2010年にも作業中止権は産安法に含まれていたが、実質化されないまま文章だけで残っていたので、キムさんは命を失う他なかった。まだ一年に874人が仕事中の事故で死亡する社会で(2022年基準)、民主労総は作業中止権の実質化闘争を通してこのように叫ぶ。「その作業をするな」。
2024年4月22日 労働と世界 チョ・ヨンジュ記者
https://worknworld.kctu.org/news/articleView.html?idxno=504426