労働安全衛生法令策定のためサポートキット(2022.1.13 国際労働機関(ILO)から/00 1.-6. OSHに関する労働者代表

目次

1. はじめに

サポートキットのこのセクションは、OSH法がどのように効果的な労働者代表を確保できるかについて取り上げる。代表の取り決め、任務、法的権利及び権限、手続、労働者代表に法律によって与えられるべき保護を含め、OSHに関する効果的な労働者代表を支援する健全な規制枠組みの様々な要素について分析する。このセクションではまた、OSHに関する労働者代表の選出方法及び合同OSH委員会の設立、構成及び任務がOSH法(または実施規則)にどのように規制され得るかを分析する。

1.1 「労働者代表」の定義

【国際労働基準】

- 1971年労働者代表条約(第135号)
- 1971年労働者代表勧告(第143号)
- 1981年労働安全衛生勧告(第164号)

第135号条約及び第143号勧告は、労働者代表に関連した主要なILO文書である。
第135号条約の第3条は、「労働者代表」の定義を以下のように規定している。

「この条約の適用上、労働者代表とは、国内法令または国内慣行の下で労働者代表と認められる者をいい、次のいずれかに該当するかを問わない。
(a) 労働組合代表、すなわち、労働組合または労働組合が指名しまたは選出する代表
(b) 被選出代表、すなわち、企業の労働者が国内法令または労働協約にしたがって自由に選出した代表であって、その任務に当該国において労働組合の専属的特権として認められている活動が含まれていないもの」

同様に、第164号勧告の段落12(2)は、労働者安全代表、労働者安全衛生委員会、合同安全衛生委員会及びその他の労働者代表など、様々な種類の労働者代表に言及している。

1.2 OSHに関する労働者代表の取り決めの有効性とそれを規制する根拠

(ウオルターら(2014)によりレビューされた)文献は、参加型の職場の取り決めはOSHマネジメント慣行の改善と関係しており、その結果OSHパフォーマンスの成果(つまり事故・傷害のレベルの低下)、また最終的には生産性の改善につながることを示している。逆に、非参加型は、傷害の発生率の増加と関連することがわかっている。
ウォルター(1996)によってレビューされた他の研究では、安全衛生マネジメント慣行の改善が、労使間に確立されたチャンネルの活用とともに、合同安全衛生委員会及びよく訓練された委員会メンバーの存在と関連していることがわかった。
労働者代表と、傷病率など、安全衛生パフォーマンスの改善の間のより直接的な関連を確立することを企てた研究によって、労働組合のない職場よりも、労働組合のある職場のほうがよりよい安全衛生水準を達成していることが示されている。合同安全衛生委員会は、休業損害の減少を伴っていた。
さらに、「安全衛生に関する決定への労働者の参加」が請求率減少に関連するひとつの要因であることがわかり、「労働者のエンパワーメント」が一貫して傷害率低下を伴ったこともわかった。カナダのあるレビューは、「労働組合の組織化と内部責任体制の有効性との間の相関性」を示した。
また、オーストラリアの一連の研究でも、職場におけるOSHに関する労働者代表の関与とOSHパフォーマンス向上の間の正の関係がおおむね支持されている。
さらに研究者らは、労働組合やその他の労働者代表が、自らが雇用されていない企業にアクセスして、その企業の労働者を支援することができる国では、彼らが、OSH規制の執行に影響を与えることはもとより、安全衛生の「活性化」を促し、意識を向上させ、また小規模企業におけるよりよいOSH取り決めの確立に貢献することを見出している。このことは、例えばスウェーデン、ノルウェー、イタリアやスペインの経験のレビューに示されている。
EU-OSHA[欧州労働安全衛生機関]の2009年新たな及び現出しつつあるリスクに関する欧州企業調査(ESENER)の2012年分析は、以下を明らかにした。
OSHに関する労働者代表がいる職場は、安全衛生に対する経営陣の関与を示すとともに、OSH一般と心理社会的リスクの双方について、予防措置が実施されている可能性が高い。

▶労働者代表が高いレベルの安全衛生に対する経営陣の関与と結びついている場合にその効果がとりわけ高く、また、労使協議会または労働組合の職場組織があり、労働者代表が適切な訓練と支援を受けている場合にはさらに強くなる。
▶多くの要因が、労働者代表の取り決めの有効性の度合い、及び職場における安全衛生を改善する可能性に影響を与える。

EU-OSHAの研究は、他にも文脈上の要素で、労働者代表の有効性に寄与するものがあり、それは事業所の内部及び外部両方のものであり得ることを明らかにしている。
内部要因には、事業所の規模と業種、使用者、管理者、労働者及び労働者代表がもつ法令の要求事項に関する知識、事業所のリスク・プロファイルとそれに対処するための安全衛生に関する参加型の取り決めの導入・支援に対する管理者の関与、職場におけるOSHに関する労働者代表のための制度的取り決め、事業所の労働協約または使用者と労働者の代表によって結ばれたその他の協定においてOSHが明示的に扱われている程度、及び事業所の組織化された労働者がOSHに関する表明を優先する程度が含まれる。
外部要因には、雇用保障に影響を与えるマクロ経済的な労働市場要因、柔軟性と個々の労働者の労働市場力、予防サービスの存在または不在、労働組合の支援と労働組合の会合へのアクセス、団体交渉の手続に関する業種レベル・国レベルの取り決めとそれらがOSHに対して言及する程度、及び所与のサプライチェーン内の労働市場における、またバイヤー・サプライヤーとの関係における、事業所のポジションが含まれる。
こうした文脈上の要素は、静的なものではなく、政治経済の性質や労使関係によって決定される、変化の対象である。
労働者代表の取り決めと実態の効果に影響を与える様々な側面があるものの、EU-OSHAの研究は、各々の権利と義務を設定するとともに、労働者代表とその使用者や管理者が関係することのできる、要求される構造と合同の取り決めの任務を規定する枠組みを提供する強力な法令による指示がある場合に、労働者代表がより効果的である可能性が高いと主張している。
さらに、OSHに関する国際的労働基準が、労働者代表の権利と保護はもちろん、労働者代表に関する原則を埋め込んでいる事実がこれらの問題を規制する法令に対する、国際的な三者構成による合意と支持を示している。

1.3 労働者代表を義務づけたILS

【国際労働基準】

- 1948年結社の自由及び団結権保護条約(第48号)
- 1981年労働安全衛生条約(第155号)
- 2006年労働安全衛生促進枠組み勧告(第197号)
- 1981年労働安全衛生勧告(第164号)
- 1995年鉱業安全衛生条約(第176号)

結社の自由は、基本的原則のひとつであり、第87号条約の第3条(1)は、「労働者団体及び使用者団体は、その規約及び規則を作成し、完全に自由に自らの代表者を選出し、その管理及び活動について定め、並びにその計画を策定する権利を有する」と述べている。
第176号条約の第13条(1)(f)も、「国内法令に基づいて…労働者は、安全及び健康に関する代表者を共同して選出する…権利を有する」と規定している。
第155号条約は第20条で、使用者と労働者または労働者との間の企業内における協力は、組織的措置及びその他のOSH措置の重要な要素であると強調している。第164号勧告は段落12(1)で、第155号条約第20条に規定する協力を促進するためにとられる措置は、適当かつ必要な場合には、国内慣行に従って以下を含むべきであると述べている。

▶労働者安全代表
▶労働者安全衛生委員会、及び/または
▶合同安全衛生委員会(労働者は、使用者の代表と少なくとも同等の代表性を有すべきである。)

第197号勧告段落5(f)は、「各国の安全衛生に関する危害防止の文化を促進するに当たり…加盟国は、国内法令及び国内慣行に従って、職場の段階において、合同安全衛生委員会…の設置及び労働者労働安全衛生の指定を促進すること」と述べている。

1.4 OSHに関する労働者代表の様式

OSH問題に関する労働者代表について、各国の制度をまたがって統一されたアプローチはない。実際、様々な異なる代表様式がある(以下でさらに説明)。様々な国で採用された様式の性格は、通常、労使関係一般の規制に対するその国のより広いアプローチを反映している。
しかし、様々な規制モデルの存在にもかかわらず、2017年のEU-OSHA報告書は、EUでは、安全代表、安全委員会または労使委員会のいずれに基づいているかなど、それらのモデルにおける違いは、それ自体はそれらの有効性のもっとも重要な決定要因ではないかもしれないことを示している。

代表の様式

大まかに言えば、所与の職場における労働者のOSH代表は、以下のように想定されるかもしれない。

▶OSH問題に関して特別にかつそれ専門的に労働者を代表するために選出された労働者(専門的OSH代表)
▶(OSH問題に関してのみ労働者を代表し、労働者代表と使用者代表で構成される)合同OSH委員会
▶とくにOSHを含む、あらゆる労働に関する問題に関して労働者を代表するために選出された労働者(一般的代表、「労働者代表」とも呼ばれる)
▶すべての問題に関して労働者を代表する、所与の職場に組合員をもつ労働組合(当該労働組合代表が当該職場に雇用されているか否かにかかわらず)
▶(あらゆる問題に関して労働者を代表する)職場の委員会または評議会

可能性のある様々な労働者代表の構造と取り決めの権能の技術的及び地理的範囲については、いくつかのバリエーションがある。事業所レベルで選出された専門的OSH代表は、OSH問題に関してのみ労働者を代表する権能をもつ。事業所レベルで選出された一般的OSH代表は、OSH、柔軟な勤務形態、訓練の機会などを含むかもしれない、より幅広い権能をもつ。OSH委員会や一般的労働者/労使委員会・協議会は、職場、地域、業種や国レベルなど、異なるレベルで設置されるかもしれない。ここでも、OSH委員会はOSH問題に対処する専門的な権能をもつのに対して、一般的な労働者/労使委員会/協議会はOSH及び他の技術的問題を含めたより幅広い権能をもつ。
サポートキットのこのセクションでは、OSHに特化した職場における協議及び参加のための職場の取り決め、すなわちOSHに関する労働者代表及び労働者OSH委員会、を詳しく分析する。サブセクション2及び3では、それらの任務、権利、権限及び保護について分析し、サブセクション4及び5では、そのようなメカニズムの創設について扱う。

【国の事例70】[省略]

いくつかの代表様式の共存

【国際労働基準】

- 1971年労働者代表条約(第135号)

第135号条約の第5条は、「同一企業内に労働組合代表及び被選出代表の双方が存在する場合には、被選出代表の存在が当該労働組合又はその代表の地位を害するために利用されることがないようにし、かつ、被選出代表と当該労働組合及びその代表との間のすべての関係事項に関する協力を奨励するため、必要に応じて適当な措置をとる」と述べている。

2. 労働者代表の任務、権利及び権限

現代的なOSH法令は、労働者代表の任務、権利及び権限の枠組みを確立する。これは、関連するILO基準の本質的な部分である。このサブセクションでは、以下について概説する。

▶労働者代表が果たす主な任務
▶彼らがOSHに関連する任務を効果的に果たすことができるようにする、OSH法が労働者代表に付与する主な権利及び権限

【役に立つツール・リソース】

- ILO「労使関係に関する法令データベース(IRLEX)」
- ETUI「各国比較」

これらの問題は第一に、選出された職場代表または企業・事業所内で労働組合を代表する者との関係で検討される。事業所の外部にいる労働組合代表の地位は、後で検討する。事業所内のOSH委員会の任務、権利及び権限については、以下のサブセクション5.5で別に取り上げる。
大まかに言えば、企業または事業所で選出された労働者代表の役割は、安全で健康的な労働条件をもつことにおいて、関係労働者の利益を代表することである。

2.1 選出されたOSHに関する労働者代表の果たす主な任務

労働における安全と健康を改善するための、OSH法令のもとでのOSHに関する労働者代表の主な任務には以下が含まれるかもしれない。

▶OSHに関連するあらゆる問題において労働者を代表する。
▶使用者またはその他の義務保持者が、彼らのOSH及び労働災害社会保障責任を果たすために講じる措置を監視する。
▶労働者から提起されたOSH問題を調査する。
▶事業所の労働によって生じる労働者の安全と健康に対する潜在的なリスクを調査する。
▶労働者の安全と健康に影響を与える問題について経営陣に建議する。
▶一次的義務保持者が関係する事業所におけるあらゆるリスクに対処するのを協力及び支援する。
▶労働者が職業リスクの予防に関する規制の遵守に協力するのを促進及び奨励する。
▶OSHに関する意思決定に参加及び労働者を代表する。
▶業務上の傷病、ニアミスを調査する。

OSH法のなかには、たんに労働者代表の権利と義務を規定して、それらの規定から労働者代表の全体的任務を推察できるようにしているものもある(法定のものではないガイダンスも利用できるかもしれない)。オーストラリア、ニュージーランドやスペインのものなど、他のOSH法は、安全衛生代表の一般的な任務を明記したうえで、彼らの具体的権限を規定している。

2.2 代表がその任務を果たすのを支援するための法定の権利及び権限

OSH法は、労働者代表が、その任務と義務を果たすのに必要な権利と権限をもつことを確保すべきである。関連するILO文書に規定されている必須の権利と権限を以下に要約する。
CEACR[条約及び勧告の適用に関する専門家委員会]は、労働者代表が、「企業内で何らかの変更がなされる前に適切に知らされるとともに協議を受け、また、その任務を行使している間に解雇から保護されている」ようにする最低限の権限を有するべきであることを認めている。彼らはまた、意思決定過程と交渉に貢献することができ、事業所内のあらゆる部分とすべての労働者に自由にアクセスでき、権限のある当局に自由に連絡でき、有給の労働時間内にその任務を行使するための合理的な時間をもち、必要が生じた場合には外部の専門家に頼ることができるべきである。

【国際労働基準】

- 1971年労働者代表条約(第135号)
- 1981年労働安全衛生条約(第155号)
- 1995年鉱業安全衛生条約(第176号)
- 1947年労働監督勧告(第81号)
- 1971年労働者代表勧告(第143号)
- 1981年労働安全衛生勧告(第164号)

便宜

労働者代表がその任務を迅速かつ効果的に遂行することができるように、企業における適切な便宜が与えられなければならない。(第135号条約第2条、第143号勧告段落9)

休暇

企業における労働者代表は、企業におけるその代表としての任務を遂行するため、賃金または社会的及び及び付加的給付を喪失することなく必要な休暇を与えられるべきである。(第143号勧告段落10(1)、11(1))
労働者代表は、その任務を遂行するため、労働組合の会合、訓練コース、セミナー、会議に参加するのに必要な休暇を与えられるべきである。(第164号勧告段落12(2)(i))

情報

企業における労働者代表が、労働安全衛生を確保するため使用者によりとられる措置に関する十分な情報を提供されること、並びに企業の秘密を漏らさないことを条件として、代表的な労働者団体と当該情報について協議する措置が、企業レベルにおいてとられなければならない。(第155号条約第19条(c)(e))
労働者安全代表、労働者安全衛生委員会及び合同安全衛生委員会または、適当な場合には、その他の労働者代表は、安全衛生問題に関する十分な情報を与えられるべきであり、安全衛生に悪影響を及ぼす要因を検討することを可能にされるべきであり、並びに安全衛生に関する措置を提案することを奨励されるべきである。(第164号勧告段落12(2)(a))
経営者は、労働者代表が…その任務の遂行に必要な限り…そのような…情報を利用することができるようにすべきである。(第143号勧告段落16)

費用負担なしの訓練

労働者及び企業における労働者代表が、労働安全衛生について適当な訓練を受ける措置が、企業レベルにおいてとられなければならない。
労働安全衛生措置は、労働者に費用を負担させてはならない。
(第155号条約第19条(d)、第21条、第164号勧告段落12(2)(i))

企業における労働者代表の職場へのアクセス

企業における労働者代表は、その代表としての任務の遂行を可能にするために必要な場合には、企業内のすべての職場への立ち入りを認められるべきである。(第143号勧告段落12、第14号勧告段落12(2)(f))

企業外部の労働組合代表の職場へのアクセス

当該企業に雇用されていない労働組合代表は、その代表の所属する労働組合がその企業に雇用されている組合員を有する場合には、その企業に立ち入る機会を与えられるべきである。(第143号勧告段落17(1)、第164号勧告段落12(2)(f))

経営者へのアクセス

労働者代表は、その任務の適正な遂行のために必要な場合には、企業の経営者及び決定権限を有する経営者の代表に接近する機会を、不当に遅れることなく与えられるべきである。(第143号勧告段落13)

労働者へのアクセス

労働者安全代表、労働者安全衛生委員会及び合同安全衛生委員会または、適当な場合には、その他の労働者代表は、職場のすべての場所に立ち入ること並びに職場において就業時間中に安全衛生問題について労働者と連絡することができるべきである。(第164号勧告段落12(2)(f))

告知の掲示

労働組合を代表する労働者代表は、職場内において経営者と合意しかつ労働者が容易に接近しうる場所に労働組合の告知を掲示することを認められるべきである。経営者は、労働組合を代表する労働者代表に対して、新聞、パンフレット、出版物及び組合のその他の文書を企業の労働者の間に配布することを許可すべきである。(第143号勧告段落15(1)、(2))

使用者との協力

企業における労働者代表が労働安全衛生の分野で使用者と協力する措置が、企業レベルにおいてとられなければならない。(第155号条約第19条(b)、第20条)
協力を促進するためにとられる措置は、適当かつ必要な場合には、国内慣行に従って安全に関する労働者安全代表、労働者安全衛生委員会及び/または合同安全衛生委員会の設置を含むべきである。合同安全衛生委員会においては、労働者は、使用者の代表と少なくとも同等の代表性を有すべきである。(第164号勧告段落12(1))

労働者代表の協議

労働者または企業における労働者代表及び、場合に応じ、企業における代表的な労働者団体が、国内の法令及び慣行に従って、労働者の作業に関連する労働安全衛生のすべての面について調査することができること並びに使用者から協議を受ける措置が、企業レベルにおいてとられなければならない。(第155号条約第19条(e))
労働者安全代表、労働者安全衛生委員会及び合同安全衛生委員会または、適当な場合には、その他の労働者代表は、安全衛生に係る新しい主要な措置が企画される場合には、当該措置が実施される前に協議を受けるべきであり、当該措置に対する労働者の支持を得るよう努力すべきであり、作業工程、作業内容または作業編成の変更であって労働者の安全または健康に関連するものを計画するに当たって協議を受けるべきである。(第164号勧告段落12(2)(b))

意思決定への参加

労働者安全代表、労働者安全衛生委員会及び合同安全衛生委員会または、適当な場合には、その他の労働者代表は、安全衛生問題に関する企業の段階における意思決定過程に貢献することができるべきであり、労働安全衛生問題に関して企業における交渉に貢献することができるべきである。(第164号勧告段落12(2)(e)(h))

外部の専門家へのアクセス

(労働者代表への情報提供及び労働者代表との協議の目的のため)技術顧問を(使用者と労働者代表との)相互の合意により企業の外部から招くことができる。(第155号条約第19条(e))
労働者安全代表、労働者安全衛生委員会及び合同安全衛生委員会または、適当な場合には、その他の労働者代表は、特定の安全衛生問題について助言を行う専門家を利用すべきである。(第164号勧告段落12(2)(j))

労働監督官へのアクセス

労働者安全代表、労働者安全衛生委員会及び合同安全衛生委員会または、適当な場合には、その他の労働者代表は、労働監督官と自由に接触ができるべきである。(第164号勧告段落12(2)(g))
労働者及び使用者の代表並びにとくに工場安全委員会または類似の機関が存在する場合には、その委員は、調査及びとくに労働災害または職業病についての調査研究を行う場合には、権限ある機関の定める方法及び限度に従い、労働監督機関の職員と直接協力する権限を与えられなければならない。(第81号勧告段落5)
ILSで世界的に合意された権限に加えて、以下を含め、労働者代表の任務の範囲を拡大するその他の権限が、いくつかの国のOSH法のもとで存在している。

▶暫定改善通告を発効する権限(国の事例71参照)
▶危険な作業の中止を命令する権限(国の事例72参照)
▶OSHに関連する使用者の決定を確認または拒否する権限(国の事例73参照)

暫定改善通告を発効する権限

この権限は通常、労働監督官にのみ留保されている。しかし、オーストラリアやニュージーランドなど、一部の国では、労働者代表もそのような文書を発行する権限を与えられている。

【国の事例71】[省略]

危険な作業の中止を命令する権限

一部の国では、この権限が労働者代表に与えられている。

【国の事例72】[省略]

労働者代表によるこの権限の行使は、例えば以下のとおり、OSH法によって制限または規制されるかもしれない。

▶労働者代表は、リスクが非常に深刻かつ緊急または切迫しているために作業を中止する指示を与える前にそうすることが合理的でない場合を除き、この権限を行使する前に使用者と協議しなければならない(オーストラリア、フィンランド、ニュージーランド)。
▶労働者代表は、作業を中止するよう指示した後、ただちに使用者と権限ある機関に通知しなければならない(オーストラリア、ニュージーランド、スペイン)。
▶権限ある機関は、作業の停止を確認または取り消さなければならない(スペイン)。
▶OSHに関する労働者代表は、リスクが理解されているリスクよりも重大に増大した場合を除き、その性質上、本質的にまたは通常、安全衛生に対してもたらすリスクが理解されている作業を中止するよう労働者に指示を与える権限は与えられていない(ニュージーランド)。

OSHに関連する使用者の決定を確認または拒否する権限

少数の国が、OSHに関連する様々な問題について労働者代表が協議を受けるべき範囲を拡大して、一定の事項について使用者と共同の決定を行なう責任を含めている。

【国の事例73】[省略]

2.3 事業所で働いていない労働者代表の権利及び権限

【国際労働基準】

- 1971年労働者代表勧告(第143号)

第143号勧告の段落17は、「当該企業に雇用されていない労働組合代表は、その代表の所属する労働組合がその企業に雇用されている組合員を有する場合には、その企業に立ち入る機会を与えられるべきである」と述べている。また、そのような立ち入りに関する条件の決定は、国内法令、労働協約、仲裁裁定または裁判所の決定、若しくは国内慣行に適合した何らかの他の実施方法によるべきであると指示している。
法律を分析すると、労働者代表が雇用されていない職場にアクセスすることに加えて、法律が、OSH法違反の調査、OSHに関する職場の労働者との協議・助言など、より具体的な権限を与えている場合もある。
事業所に雇用されていない労働者代表の権限を規定している九人関連規定は、国の事例74で簡単に説明している。

【国の事例74・75】[省略]

2.4 起訴を開始及び参加する権利

労働組合担当者が職場でOSH問題の存在、または可能性を確認したが、使用者または職場の管理者との間で解決することができない場合、問題が労働監督官に付託されるかもしれない。監督官は、実際の違反または可能性のある違反について措置を講じることができる。しかし、労働者代表または組合も、OSH違反について法的手続を解すすることができる場合もある。

【国の事例75】[省略]

3. 労働者代表の保護

法律は、労働者代表が、その任務を適切に果たしている場合に、任務の効果的な行使を妨げる報復や不利益取り扱いまたはそのような脅しから保護されることを確保しなければならない。これは、(事業所において選出された者かまたは労働組合代表であるかを問わず)労働者代表がその任務を効果的に行使するために必須のことである。
労働者代表に対して行なわれる可能性のある報復や不利益取り扱いには、不当な解雇、不当な賃金引き下げ、不当な技術的または地理的な異動や、正当な理由のない労働者の不利益になるような労働条件の変更が含まれる。
本サブセクションでは、労働者代表に、使用者による不当な報復や不利益取り扱いからの保護をもたらす規定を取り上げる。
現在、加盟国の法律に組み込まれている労働者代表の保護には以下のようなものがある。

▶違法または差別的な解雇からの保護、これは以下を含むことによって達成されるかもしれない。
▶権限ある機関による解雇のレビューの要件要求事項
▶いかなる解雇も公正であり、かつ合法的及び正当な理由に基づくものでなけれならないとする要件
▶解雇通知が提供されなければならないなどの方法、最低通知期間、戒告通知の内容及び時期、関係する労働者代表への警告及び協議の義務付けや解雇前の調停など、手続上の要件
▶労働者代表に関して使用者により行われるあらゆる懲戒処分は不当とみなす推定を採用することによる、立証責任の労働者から使用者への転換
▶解雇の無効宣言、労働者代表の事業所内の元の地位及び代表としての役割への復職や労働者代表に対する補償など、不当な解雇からの保護
▶善意による代表任務の行使に対する民事及び刑事責任からの免除
労働者代表に与えられる保護は以下にまで拡大されるかもしれない。
▶代表が選出されるまでの選挙人名簿に記載された労働者代表の候補者
▶代表が選出された後、一定期間の落選した候補者
▶任期終了後一定期間の前労働者代表

【国際労働基準】

- 1981年労働安全衛生条約(第155号)
- 1971年労働者代表条約(第135号)
- 1971年労働者代表勧告(第143号)

第155号条約の第5条(e)に基づき、国のOSH方針は、(国の)方針に従って労働者及び労働者代表により適正にとられた措置の結果を理由とする懲戒措置からの彼らの保護…を考慮しなければならない。
第135号条約の第1条に基づき、労働者代表は、現行の法令、労働協約または労使の合意に基づくその他の取り決めに従って行動する限り、あらゆる不利益な措置から効果的に保護されなければならない。これには、労働者代表としての地位若しくは活動、組合員であることまたは組合活動への参加を理由としてとられる解雇等が含まれる。
第143号勧告の段落6(1)は、「一般に労働者について適用される十分な関係保護措置がない場合には、労働者代表の効果的な保護を確保するために、特別な措置をとるべきである」としている。
第143号勧告の段落6(2)は、不適切な不利益措置から労働者代表を保護するために考慮されるかもしれない以下の措置を掲げている。

(a) 労働者代表の雇用の終了を正当とする理由を詳細かつ明確に定義すること。
(b) 労働者代表の解雇が確定する前に、公的若しくは私的な独立の機関若しくは合同の機関と協議しまたはこれらの機関の助言的意見若しくは同意を求めることを要求すること。
(c) 特別な訴えの手続が、雇用を不当に終了させられ、雇用条件が不利に変更されまたは不公平な取り扱いを受けたと考える労働者代表に対して開かれていること。
(d) 労働者代表の不当な雇用の終了については、効果的な救済措置(当該国の法律の基本原則に反する場合を除くほか、不払賃金を支払いかつ既得権を保有させたうえで、その代表を復職させることを含む。)をとること。
(e) 労働者代表が解雇されたことまたはその雇用条件が不利に変更されたことが差別的であると申し立てられている場合には、その措置が正当であることを立証する責任を使用者に負わせることを規定すること。
(f) 労働力を削減する場合に労働者代表がその職に残留することについて与えられる優先権を承認すること。

第143号勧告の段落8(1)は、雇用されていた企業における労働者代表としての任期の終了に際しその企業に復職する者は、それらの者のすべての権利(職務の性質、賃金及び先任権に関連するものを含む)を保持しまたは回復すべきであると言っている。
CEACRは以下のとおり指示している。

▶各国は、もっとも代表的な使用者及び労働者の団体と協議のうえ、保護の範囲と条件を決定すべきである。
▶保護は、国の方針に従って適切にとられた行動に対してのみのものである。

【国の事例76】[省略]

4. 事業所におけるOSHに関する労働者代表

【国際労働基準】

- 1971年労働者代表条約(第135号)

第135号条約の第3条(b)は、OSH責任を有する代表の選出のための手続は、国内法令及び労働協約に従わなければならないとしている。このような手続を規制することは、労働者が彼らの代表をどのように選出し、また透明性と厳密性を確保するかについての基本的なガイドラインを提供する。このサブセクションでは、OSHに関する労働者代表の選出のみに焦点をあてている。労働のあらゆる分野で労働者を代表する、労働組合の代表または事業所レベルにおける(一般的)労働者代表の選出を扱うものではない。
国の法律は、以下の事項を含め、OSHに関する労働者代表の選出に関する規定を儲けることができ、以下でさらに詳しく検討する。

▶選出される資格
▶選出手続
▶OSHに関する労働者代表としての任期
▶OSHに関する労働者代表が解任される条件
▶一次的欠員の補充方法

4.1 事業所におけるOSHに関する労働者代表として選出される資格

OSHに関する労働者代表として選出される労働者の資格基準を向けることは、各国に共通している。そのような基準は通常、労働者の年齢、事業所における彼/彼女の経験及び彼/彼女の技能と関係している。その目的は、代表として選出される労働者が以下であることを確保することである。

▶追加的な責任を確実にする一定程度の成熟を獲得していること(年齢要件)
▶職場及びそこに存在するリスクの種類に通じていること(事業所内経験関連要件)
▶法律で義務づけられた労働者のための訓練を損なうことなく、自らの役割を理解することのできるOSHに関する十分な理解をもっていること(技能・資格関連要件)
▶使用者の親族または代表でないこと
▶例えば犯罪歴がないことで示されるかもしれない、責任ある市民であること

また、法令またはガイダンス文書もが、女性の参加を要求または奨励するかもしれない。
しかし、いかなる資格要件も課さないことを決めている国もある。

国の事例77】[省略]

4.2 事業所におけるOSHに関する労働者代表の選出手続

OSH法令が、個々の労働者代表の選出手続が行なわなければならない方法に関するガイダンスを提供するかもしれない。そのような規制は、組織的な取り決めを固め、手続の透明性と公平性を支援し、またそれによって手続上の無秩序、誤解や個人の利益を追求するための手続上の操作を回避することによって、選出を緩和する。法律は、とりわけ以下の事項を規制するかもしれない。

▶投票券の発行
▶投票の集計
▶選挙手続に必要なリソース

【国の事例78】[省略]

4.3 OSHに関する労働者代表の任期

国の法令は通常、労働者代表の任期を規定する。労働者に一定期間経過後に彼らの代表を変更する機会を与えることは、労働者が彼らの代表のパフォーマンスに満足していないか、または信頼を失っている場合にとくに有効である。各国の法律の分析によると、国が想定している任期は通常2~4年である。

【国の事例79】[省略]

4.4 OSHに関する労働者代表が解任される条件

OSH法は、労働者代表が、任務を続ける資格を奪われるか、または解任され条件を規定するかもしれない。任期を規制する場合と同様に、代表が資格喪失または解任される条件を特定することは、彼らのパフォーマンス及び任務の行使における倫理的行動を管理する仕組みを提供する。

【国の事例80】[省略]

4.5 一時的欠員の補充

転職、体調不良または解任など、様々な理由で労働者代表が任期を全うできない場合がある。そのような状況において、欠員は速やかに補充されるべきである。欠員は通常、労働者代表の代理または交代要員によって補充される。それらは通常、同時に、または労働者代表の選出と同じ方法にしたがって選出される。

【国の事例81】[省略]

5. 事業所におけるOSH委員会

OSH委員会は、労働者と使用者が、職場のOSH問題に協調的なやり方で友に取り組むのための仕組みである。OSH問題は、人間(または人権)の観点からだけではなく、その他の説得力のある理由からも、労働者の安全と健康が双方にとって重要であることから、容易に共通点を見出すことのできる分野であることが多い。労働者は、健康や生命を脅かすような安全でない条件で働くことは望まない。一方、現代の使用者は、災害、傷害または疾病はによる作業プロセスの中断は、モチベーションの側面はもちろん、金銭的にもコストのかかる出来事であることから、生産性の観点からそれを見ている。CEACRは、企業レベルにおけるOSH問題に関する協力が、OSH委員会の設立を通じて行なわれることが多いことを確認している。

5.1 OSH委員会の設立

OSH委員会の設立は、多くの国で義務づけられているが、企業の規模によって異なることが多い。国のOSH法は、名称と構成の多様性を含め、そのような機関の設立についての要件に異なるアプローチをとっている。

【国際労働基準】

-1981年労働安全衛生勧告(第164号)

OSH委員会は、労働者代表のみ、または使用者と労働者双方の代表によって構成されるかもしれない。後者の場合、それは「合同OSH委員会」と呼ばれ、同数の使用者及び労働者の代表によって構成されるべきである(第164号勧告段落12(1))。
一部の国では、法令が、OSH委員会は委員としてOSH実務家を含めることを要求している。一部の国の法律では、建設現場など、一定の種類の労働現場について、多企業合同OSH委員会が義務づけられている。
さらに、国によっては、法律が、OSH委員会の委員に指名される労働者代表は選出されたOSHに関する労働者代表でなければならないと義務づけている。一方、法律が、一般的労働者代表(「労働者代表」とも呼ばれる)をOSH委員会に指定している国もある。
OSH委員会の設立が義務づけられている国では、法律が、OSH委員会の構成(すなわち委員の人数及び種類)を規定している場合もあり、通常、事業所の労働者規模に依存している。以下にいくつかの例を示す。

【国の事例82】[省略]

比較的小規模の企業についてはOSH委員会の設立が義務づけられていない国では、マラウイの例のように、法律が、権限ある機関が必要と判断した場合、権限ある機関が事業所にOSH委員会の設立を要求することを義務づけている場合もある。
一定の労働者規模以上についてOSH委員会の設置を義務付けている国では、法律が、最低規模を下回る職場において、労働者の要求に基づいてそのような委員会の設置を義務づけている場合もある。例えば、ノルウェーでは、労働者50人超の事業所ではOSH委員会が義務づけられ、また労働者20~50人の事業所では、事業所におけるいずれかの当事者の要求により、または労働監督機関の裁量により、設立しなければならない。
OSH委員会の業務に関する手続は、法令や規則または労働協約で規定されるかもしれず、若しくは委員会の判断に委ねられるかもしれない。例えばスペインでは、職業リスク防止法No.31/1995の第38.3条がOSH委員会に、自らの業務規則を採用することを要求している。

5.2 OSH委員会の任務、権利及び権限

OSH委員会の任務、権利及び権限は、国によって異なるかもしれないが、労働者代表と同じかまたは類似していることが多い。法律で規定されるOSH委員会の任務は、ほとんどの場合おそらく委員会は個人よりも人的資源が多く、それゆえ能力も大きいことから、個々の労働者代表に割り当てられた者よりも、数がより多く、またより複雑であるかもしれない。
委員会に割り当てられるかもしれない任務には、ハザード防止のための方針計画、OSHに関する労働者の訓練、OSH記録の維持への貢献、災害、傷害及び疾病に関連するデータの監視が含まれる。
OSH委員会の成功は、委員会メンバーの関与、彼らの任務、委員が代表する者の支持と信頼の強さ、労働者との効果的な双方向コミュニケーション、そのような委員会の意思決定の質と効果など、多くの要因に依存するかもしれない。それらの要因は以下によって支持される。

▶必要なリソースを提供される意味のある権利
▶その任務を果たすために必要な情報、後方支援及び専門家による支援

上記は、少なくとも国際労働基準が設定する基準を満たすレベルまで、国の法令で規制されるべきである。

5.2 OSH委員会のガバナンス

OSH委員会が成功裏に運営されるためには、良好なガバナンスが重要である。一般的には、OSH法令が、OSH委員会のガバナンスと運営に関する最小限のガイダンスを提供する。
良い事例がカナダのオンタリオ州政府が発効した情報であり、同州のOSH法令に基づく合同安全衛生委員会の付託条件に含める可能性のある事項を提案している。

【国の事例83】[省略]

6. OSHに関する労働者協議及び参加のための一般的仕組み

OSHに関する労働者協議及び参加、最終的には代表権のためのその他の仕組みには、労働者の一般的代表、労働組合及び労使協議会が含まれる。それらの選出、設立及び任務は通常一般的な労働法及び労使関係法で規定されることから、このサポートキットでは詳しく説明はしない。
しかし、労使協議会については簡単な説明を行う。労使協議会とOSH委員会との本質的な違いは、労使協議会の任務のほうがより広範であり、OSHを含めた労働者に関連するすべての側面及び課題を対象としていることである。そのような代表の仕組みが存在する国では、通常、労使協議会の範囲内の小委員会としてOSH委員会をもつ。労使協議会が義務づけられているか、または事実上存在している国には、オーストリア、ベルギー、クロアチア、チェコ、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、リトアニア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペインが含まれる。これは、労働者への情報提供と協議のための一般的枠組みの確立に関するEU指令2002/14/ECによって推進されている。独立したOSH委員会の場合と同様に、労使協議会の構成は通常、企業内の労働者数に基づいて決定される。

【国の事例84・85】[省略]

欧州には、多国籍企業の労働者のためのコミュニケーションを確保するために創設された、欧州労使協議会(EWCs)も存在している。労使協議会の歴史をもたない国は、EWCsという欧州の制度から具体的な指針を引き出すことを困難と思うかもしれない。そうであったとしても、その制度を支えている諸原則とその運用の経験は、労働者に情報を提供すること及び労働者と協議することの価値を強化している。

Support Kit for Developing OSH Legislation ダウンロードページ

https://www.ilo.org/publications/support-kit-developing-occupational-safety-and-health-legislation

安全センター情報2023年5月号