「むち打ちで脳が傷つく〜MRIに映らない脳損傷MTBI(軽度外傷性脳損傷)」の本をクラウドファンディングで出版、販売開始。

宇土博(友和クリニック

楽天市場で販売開始

https://item.rakuten.co.jp/drcut/udobook04/

1 はじめに

本書は、まだ多くの整形外科医にも知られてい ない「軽度外傷性脳損傷 (mild traumatic brain injury (MTBI)」 で苦しむ患者を救済するために活動する広島の弁護士と医師が共同で執筆出版します。

「MTBI」は、追突などの交通事故や高所からの落下、転倒などで頭を打つ、乳児の頭を強く揺さぶることなどで起こる脳器質の損傷で起こる病気です。発生頻度が非常に高いにも関わらず、交通事故などでは、「むち打ち症」で片付けられ、適切な治療を受けられず、様々な後遺症で苦しむ患者が、 多数存在します。また、交通事故の自賠責の等級が低く抑えられ、損害賠償訴訟を起こしても 「MTBI」と認められないケースが大半です。

本書では、原因となる交通事故や転倒などから数日から数週間を経て症状が出現することなど、実際にMTBIの患者の治療にあったっている医師が、脳の仕組みや「MTBI」の特徴を できるだけわかりやすく解説し、また、「MTBI広島弁護団」メンバーが、自賠責保険や労災保険の申請時に原因となった交通事故や、労災事故との因果関係が認められ難い現状などに触れ、MTBIへの理解を多くの方に深めていただくことを願い出版するものです。

本書が、MTBIを広く市民の皆様の間に知らせること、そして、各地の整形外科医や同様の訴訟に取り組む弁護士の皆様の手引きになることを望んでいます。

クラウドファンディングは、READYFORという会社のクラウドを使用して出版資金を募ります。 2023年12月12日に立ち上げました。皆様の協力をよろしく願います。

2 MTBIに取り組んだきっかけ

11年前の2012年に、大型車に追突され、むち打ちの後遺症に苦しんでいる女性患者を知り合いの方から紹介されました。女性は、これまで診てきたむち打ちの患者さんとは異なり、むち打ちによる脳神経の損傷(味覚、嗅覚障害、視力障害、口角から水がこぼれるなどの顔面筋 の運動麻痺、回転性のめまい、外傷性頭痛など)や高次脳機能障害(記憶、集中力などの障害)が加わっていました。                                                                      (

事故後、集中力がなくなり、人と長く話すことができなくなりました。文字や映像、数字などを見ることが難しくなる。帳票を見る事や読書ができなくなったのです。人の名前や人との会話など、 簡単なことが覚えられなくなる。物事の段取りや順序を整理したり、思い出したりできなくなる。 焦りやすくなり、冷静に落ち着いて考え行動できなくなりました。人の話など目や耳に入った情報を頭の中で整理できなくなり、簡単な話をされているのに、意図や意味が理解できなくなる。自分の考えを相手に端的に伝えることができなくなるなど、脳の障害を示す症状が多いことに驚かされました。

これまで、働いてきた仕事が困難になり、休業に至っていました。また、日常動作も困難になり、寝たきりの状態になっていました。

この患者さんがきっかけとなり、これまでの「むち打ちと脳損傷の関係の研究」を調べると、交通事故な どの頭部外傷によって起こる脳の損傷は、MTBI(軽度外傷性脳損傷)と呼ばれ、米国や世界保健機構の WHOで定義されている新しい考え方であることが分かりました。

日本では石橋徹医師(軽度外傷性脳損傷、金原出版、2009)が提唱していましたが、まだ定着していないものでした。そして、その症状の客観的な証明には複数の医科での診察や検査が必要なことや、従来の MRI(核磁気共鳴画像)やCT(コンピューター断層撮影)の画像では、脳の損傷を捉えられないという問題 がありました。

海外の文献を取り寄せて研究すると同時に、高次脳機能障害の専門医療機関や大学病院の耳鼻科、 眼科などに紹介し、精密検査を受けてもらいました。そして、脳の神経線維の損傷を映すことができるファイ バー・トラクトグラフィーという画像検査があることを知り、これを受けてもらいました。これにより、記憶に関係する脳の神経線維-脳弓や物の認知に関連する脳梁という箇所が損傷していることを突き止めました。この患者さんに出会ったことが、むち打ちで起こる脳損傷という深刻な問題へ取り組むきっかけになりました。精神的な病気と誤診され、家族や職場からも理解されず放置されてきた、多くのMTBIの患者さんの診察を行うようになり、深刻な状況が分かってきました。その根本には、医療機関でMTBIが理解されず、救済の道が閉ざされていることです。そのため、今日まで、患者さんの窮状を救済しようと取り組んできました。

本書では、むち打ちで脳の神経線維が傷つくMTBIを引き起すこと。この傷が記憶障害などの高次脳機能障害を引き起こすこと。従来のMRIやCTでは、むち打ちで起こる脳の傷-軸索という神経線維の傷を映すことができないこと。この軸索線維の傷を映す画像技術としてファイバー・トラクトグラフィー及びこの傷による脳の血流低下を映す画像技術のSPECT検査が有用なこと。この2つの検査を正当に評価することで、高次脳機能障害を伴う多くのMTBIの患者の方の救済の道が開けることを明らかにします。

3 クラウドファンディングについて

今回挑戦するクラウドファンディング「READYFOR」は、公開から9時間で1億円を集め最終的に10億円弱を達成した国立科学博物館のクラウドファンディングをサポートしたことでも注目されています。

それに比べて、この出版プロジェクトは、100万円を目標にした小規模な挑戦です。

しかし、ご支援が目標額に達しない場合は、支援金は1円も受け取れません。

目標達成できますように、ご支援をよろしくお願いします。

このプロジェクトの公開日は、12月12日(火)午前6時です。公開後は、パソコンンなどで「READYFOR」のサイトを検索してご支援いただけます。「READYFOR」に掲載されるこの出版プロジェクトの名前は、「MRIに映らない脳損傷を知ってほしい書籍出版プロジェクト」です。

検索すると上の画面が出てきます。記事を読んでいただき、右手の「プロジェクトを支援する」のバーをクリックすると、支援受付のページに進むことができます。ご支援いただいた金額に応じた様々なリターンを用意しています。ぜひ、お知り合いとも情報を共有していただき、支援の輪を広げていただき、目標を達成できますようにご支援をよろしくお願いします。


このプロジェクトで支援いただいたお金は、全てこの本の出版に充てます。

4 ファイバートラクトグラフィーについて

今回の出版の目的は、

  1. 1)むち打ちには、頚部の損傷だけでなく、MTBIという脳損傷が併発することがあること。
  2. 2)その脳損傷は、従来のMRI画像には映らないこと。
  3. 3)これを映すことができる新しい画像技術として、脳の神経線維を映すファイバートラクトグラフィーや脳血流を映すSPECTという技術があること。
  4. 4)この新しい画像技術で、MTBIを画像的に明らかにできることを患者、医師、弁護士に対して知らせ、患者の方の救済に結び付けることです。

この本では、この画像技術について詳しく触れています。

最初にMTBIの診断に使われるファイバートラクトグラフィーの画像を示します。

図1は、2007年に東北大学のリハビリ科の杉山謙医師らが、交通事故で脳損傷を起こした被災者(画像右側の列)と正常な人(画像左側の列)の脳のファイバートラクトグラフィーの画像を示したものです。上の2段の画像は、脳梁という脳の左右の半球の真ん中を通る神経線維の集合体です。左右の脳を結
合する交連線維を示しています。3段目の画像は、脳弓という海馬という記憶の装置と大脳皮質への経路を結ぶ「記憶の通路」を形成する神経線維の束を示しています。

図1の上杉らの画像で、脳損傷の患者では、神経線維が大きく損壊されているのが一目瞭然にわかります。特に脳弓は、損傷が激しいことが分かります。これによる、MTBIの患者の方の記憶障害が裏付けられます。

しかし、従来のMRIでは、この神経線維の損傷を画像化できないので正常と判定され、正当な補償や治療が受けられないという現実があります。

それでは、こうした優れた画像が、なぜ認められないのでしょうか?

それは、この技術が、手術に携わる脳外科に知られているだけで、一般市民、患者、整形外科の医師などには、ほとんど知られていないことが挙げられます。われわれは、MTBIの患者の方全員にファイバートラクトグラフィーを撮影していますが、患者の方は初めてこの画像技術を聞いたと話されます。医師の間でもほとんど知られていません。

したがって、MTBIがこの画像技術で見える化できることを周知させることから始めなければいけません。この本は、MTBIの実態を目に見える形で画像化できることを広く知らせるという大切な目標があります。

5 ファイバートラクトグラフィーの原理などの説明

図1 健常者と頭部外傷によるびまん性軸索損傷の患者のFiber. tractographyによる脳梁及び脳弓の画像の比較:健常者に比して、頭部外傷患者では、脳梁部及び脳弓部の軸索線維の欠損が著明であることが分かる。(杉山謙ら、2007)

ファイバートラクトグラフィーは、2002年ころから、普及した新しい画像技術で、2006年ころから、脳腫瘍などの手術前の診断に一般的に使用されている方法です。通常のMRIの装置を使って、脳の水分子に磁場をかけて、その水分子の動きをコンピュータで画像化する方法です。この画像技術では、通常顕微鏡でしか見ることができない数ミクロン(1ミクロンは1㎜の1000分の1の長さを示します。)の直径の脳の神経線維の束を、磁場をかけた水分子の動きを画像に利用することで、描出することができます。まさに生きたままで脳の神経線維を顕微鏡でのぞけるという革命的な画像技術です。

これにより、脳外科医は、それまで手探りで行っていた脳の腫瘍やてんかんなどの手術前にこの画像を入手し、脳の神経線維の走行と腫瘍などの立体的な位置関係を把握することで、正常脳神経を傷つけることがない手術方法を検討することが可能になりました。
この画像を利用する脳外科の医師の言葉を借りると、「この画像技術が使える前は、手探りで手術してきたが、この画像技術による正確に正常な神経線維を避ける手術方法を確認できる。」と述べられています。まさに、手術の方法を変える画像技術であります。

このように、現役の脳外科の医師が高く評価する画像画像技術を、MTBIの脳損傷の画像化に活用するものです。

ファイバートラクトグラフィーは、英語のfiber. tractographyのことで、軸索線維経路の画像という意味です。fiberは、神経の長い線維の軸索線維を意味します。tractoは、経路の意味で、graphyは、画像の意味です。まず最初に、脳のファイバートラクトグラフィーの画像の原理を説明します。生体の脳の軸索線維の走行の画像化は、脳の軸索線維の損傷などの疾患の診断に不可欠のものです。しかし、従来のMRIでは、脳挫傷などの肉眼レベルの大きな損傷しか画像化できず、ミクロン単位の微細な軸索線維は、死後脳を解剖して軸索線維を顕微鏡で見る方法しかありませんでした。そのため長い間、生体での脳の軸索線維の走行の画像化が望まれていました。これが可能になると、生体脳での疾患の診断精度が驚異的に高まるからです。

ファイバートラクトグラフィーは、生体脳での軸索線維を画像化できる画期的な方法です。これが開発され、商用化された2002年頃から、これを使用した研究論文が見られるようになりました。私の母校の広島大学医学部でも、2006年には、脳腫瘍やてんかんの脳外科の術前診断にファイバートラクトグラフィーが使用されはじめ、現在では、脳外科の術前診断に不可欠な画像として日常的に使用されています。

そして、先に述べたMTBIの診断にも、2007年の杉山謙らの論文で、これが使用され、有用であることが報告されています。

この画像技術は、生体内の水分子の動き-これを拡散運動と言います-を追跡して、軸索線維の走行を画像化する方法です。その場合、軸索線維の中と線維の間の水分子の動きは、軸索が正常ならば、軸索の壁が障壁となって、軸索に平行な方向に拡散運動します。これを画像化すると、軸索線維に沿ったラインが描かれます。ファイバートラクトグラフィーは、この水分子の動きを画像化したものです。

図2 脳神経の内部や隙間での水分子の動きを示した。Bは、脳の神経線維が健在な場合の神経線維の壁で水分子の動きが神経線維の壁に沿う方向に制限されていることを示す。Aは、神経線維が損壊し、神経線維の壁で水分子の動きが制限されていないことを示します。

一方、軸索線維が損傷している場合は、水分子が障壁のない状態で、自由に拡散運動するために、水分子の拡散運動を使ったラインが描出できなくなり、軸索の欠損として描出されます。これにより、MTBIにおける軸索線維の損傷を画像化できるわけです。

図2には、ファイバートラクトグラフィーの原理を示したものです。神経線維は健在の場合は、神経線維内や隙間の水分子の動きは、神経線維の壁で制限され、神経線維の壁に沿って、一方向に動きます。この水分子の動きを水分子に磁場をかけて、画像化すると神経線維束の流れが描出できます。一方、脳損傷で神経線維壁が損傷した部位では、水分子は神経線維の壁に邪魔されずに自由に動けるために、一定方向の画像を生成できなくなり、図1のような神経線維の欠損として描出されます。これが、画像化の原理です。

もともとMRIは、水分子(水素原子)に磁場を与えて、水分子の分布をつかみ、コンピューターで映像を合成したものです。ファイバートラクトグラフィーは、MRI装置を使って水分子の軌跡を合成したものになります。

今回の出版は、むち打ちに脳損傷MTBIが生じること及びMTBIの神経損傷にこの新しい画像技術を適用することを認めさせ、その救済を進めるためのものです。皆様のご協力をよろしく願います

安全センター情報2024年1・2月号