日本産業衛生学会が許容濃度等の勧告(2021年度)~新たに溶接ヒューム、溶接に伴う紫外線照射を発がん分類第1群、オルトフタルアルデヒドを感作性物質第1群など提案
2021年度勧告
日本産業衛生学会は毎年「許容濃度等の勧告」(以下、産衛学会勧告)を改訂し、公表している。
許容濃度等の勧告(2021年度)(2021年5月18日付)
産衛学会勧告は冒頭で「目的」について次の通り述べている。
ここに述べる有害物質の許容濃度,生物学的許容値,騒音,衝撃騒音,高温, 寒冷,全身振動,手腕振動,電場・磁場および電磁場,紫外放射の各許容基準は,職場におけるこれらの環境要因による労働者の健康障害を予防するための手 引きに用いられることを目的として,日本産業衛生学会が勧告するものである.
許容濃度等の勧告(2021年度)2021年 5 月18日 日本産業衛生学会
産衛学会勧告は次の13項目から構成されている。
各項目の意義や用語の定義などついては(たとえば、発がん性分類第1群とは何か、といった)それぞれ詳しく解説されているのでそちらを参照されたい。
Ⅰ.化学物質の許容濃度
II.生物学的許容値
III.発がん性分類
IV.感作性物質
V.生殖毒性物質
VI.騒音の許容基準
VIII.高温の許容基準
IX.寒冷の許容基準
X.全身振動の許容基準
XI.手腕振動の許容基準
XII.電場・磁場および電磁場(300 GHz 以下)の許容基準
XIII.紫外放射の許容基準
2021年度暫定提案
その年度の新たな、物質や許容濃度等の提案については「暫定」として提案理由を付して公表され、1年間の公示期間を経て、問題が認められなければ正式な勧告とされることになっている。2021年度の暫定提案理由は次の4項目である。
許容濃度の暫定値(2021)の提案理由(5物質)
生物学的許容値(2021)の提案理由(2物質)
発がん性分類の提案暫定物質(2021)の提案理由(2物質)
感作性物質(2021)の提案理由(3物質)
その内訳は次の通り(2021年度の暫定提案理由から筆者作成)
物質 | 提案 | 勧告の履歴 |
アセトアルデヒド(Acetaldehyde) CH3CHO [CAS No. 75-07-0] | 最大許容濃度 10 ppm(18 mg/m3) 発がん性分類 第2群B | 2021年度(改定案) 最大許容濃度 10 ppm(18 mg/m3) 1991年度 発がん性分類 第2群B 1990年度(新設) 最大許容濃度 50 ppm(90 mg/m3) |
グリホサート C3H8NO5P [CAS No. 1071-83-6] | 許容濃度1.5 mg/m3 発がん物質分類 第2群B 生殖毒性分類 第3群 | なし |
酸化亜鉛ナノ粒子 Zinc oxide nanoparticle CAS番号:1314-13-2 | 許容濃度 0.5 mg/m3 | なし 参考提案値 許容濃度:酸化亜鉛(ミクロンサイズ) 第2種粉塵 吸入性粉塵 1 mg/m3 総粉塵 4 mg/m3 |
2-ブロモプロパン CH3CHBrCH3 [CAS No. 75-26-3 ] | 許容濃度 0.5 ppm(2.5 mg/m3)(皮) 発がん性分類 第2群B 生殖毒性分類 第1群 | 2021年度(改定案) 許容濃度 0.5 ppm(2.5 mg/m3) 2021年度(新設) 発がん性分類 第2群B 2014年度(新設) 生殖毒性分類 第1群 1999年度(新設) 許容濃度 1 ppm(5 mg/m3)(皮) |
マンガンおよびマンガン化合物 (Mnとして,有機マンガン化合物を除く) Mn [CAS No. 【7439-96-5】] | 許容濃度 0.02 mg/m3(吸入性粉塵) 許容濃度 0.1 mg/m3(総粉塵) 生殖毒性分類 第2群 | 2021年度(改定案) 許容濃度 0.02 mg/m3(吸入性粉塵) 許容濃度 0.1 mg/m3(総粉塵) 2014年度(新設) 生殖毒性分類 第2群 2008年度(改定) 許容濃度 0.2 mg/m3 1985年度(新設) 許容濃度 0.3 mg/m3 |
物質 | 提案 | 勧告の履歴 |
エチルベンゼン C6H5C2H5 [CAS No. 100-41-4] | 尿中マンデル酸濃度 150 mg/g・Cr 試料採取時期:作業終了時 尿中マンデル酸濃度と尿中フェニルグリオキシル酸濃度の合計 200mg/g・Cr 試料採取時期:週の後半の作業終了時 尿中エチルベンゼン濃度:15 μg/l 試料採取時期:作業終了時 | なし |
カドミウムおよびカドミウム化合物 Cd (原子量 112.4) [CAS No. 7440-43-9] | 生物学的許容値 尿中カドミウム 5 μg/g・Cr 血中カドミウム 5 μg/l 試料採取時期:随時 | なし |
物質 | 提案 | 勧告の履歴 |
溶接ヒューム | 発がん分類 第1群 溶接のヒュームにおいて,症例対照研究のプール解析や多施設症例対照研究,コホート研究の結果から,溶接ヒュームが肺がんを誘発する十分な発がん性の証拠があると判断した.以上より溶接ヒュームの発がん性分類を第1 群とすることを提案する. | なし |
溶接に伴う紫外放射 | 発がん分類 第1群 溶接に伴う紫外放射において,大規模症例対照研究や多施設症例対照研究などの結果から,紫外放射が眼内黒色腫を誘発する十分な発がん性の証拠があると判断した.以上より溶接に伴う紫外放射の発がん性分類は第1群とすることを提案する. | なし |
物質 | 提案 | 他の機関の感作性物質分類 |
オルトフタルアルデヒド(OPA) C6H4(CHO)2 [CAS No. 643-79-8] | 感作性分類 気道第1群 感作性分類 皮膚第1群 | ACGIH 気道感作 皮膚感作 |
ジメタクリル酸エチレングリコール(EGDMA) (エチレン=ジメタクリラート,エチレングリコールジメタクリレート) CH3(CH2)3OCH2CH2OH [CAS No. 97-90-5] | 感作性分類 皮膚第2群 | DFG 皮膚感作(Sh) |
1,6-ヘキサンジオール ジアクリレート(HDDA) (二アクリル酸ヘキサメチレン) CH2=CHCOO(CH2)6OCOCH=CH2 [CAS No. 13048-33-4] | 感作性分類 皮膚第2群 | DFG 皮膚感作(Sh) |