新型コロナ労災補償支給停止ー厚生労働記者会で記者会見/愛知

新型コロナウイルス感染症により労災認定され、継続する症状に苦しみ、療養している女性患者2名の労災保険の休業補償給付が、労働基準監督署により、継続症状の調査のためとして、それぞれ5か月から6か月間停止されるという問題が愛知県で発生した。

筆者が運営委員を務める全国労働安全衛生センタ一連絡会議は、新型コ口ナの継続症状の調査のための休業補償給付の長期支給停止が全国で起こっている可能性があることを危慎し、問題提起のため、4月27日に厚生労働省内にある厚生労働記者会で記者会見を行った。記者会見は東京労働安全衛生センターの天野理さんと筆者が行い、ZOOMで愛知県の当事者女性に参加していだだいた。

《病院事務員の事例》

記者会見では、休業補償給付の支給が停止された愛知県内の40代の女性の患者のケースについて報告した。大きな病院で契約社員の事務職として働いていた女性は、昨年7月下旬に新型コロナウイルスに感染し、肺炎の症状で入院し、退院後も、全身倦怠感、微熱、胸痛、首から腰にかけての痛み(背部痛、腰痛)、生理痛のような重い腹痛、頭に膿が溜まっている感じ、円形脱毛症、顔の皮疹などのため、9月下旬まで療養しながら休業した。頭に膿が溜まっている感じはその後、のどが詰まっている感じになり、よくたんがからむ症状に変化した。一度職揚復帰したものの、倦怠感を初めとする新型コロナの継続症状のため就労が困難になり、10月初旬、復職してから1か月ほどで再び休業した。

昨年9月下旬に労基署に労災保険の休業補償の請求を行い、今年2月初旬に労災認定されたものの、最初に復職した昨年9月下旬までの休業補償のみが支給され、その後の支給は調査のため、停止されている。この女性の休業補償給付は、記者会見実施段階で、昨年9月末から今年4月まで、すでに190日間停止されていた。

シングルマザーで小学校6年生の娘を育てている女性はZOOMで記者会見に参加し、「ずっと収入がない状態が続いているので(社協から)借り入れをしたり、貯金を取り崩したりしてなんとかやっている状況で非常に困っている」と現在の状況について話した。女性は休職中の今年3月に雇い止めに遭い、現在、弁護士に依頼し、労働審判の準備を行っている。

《介護職員の事例》

いまも療養を続けている70代の介護職員のケースについても報告した。この介護職員は昨年7月中旬に新型コロナウイルスに感染し、肺炎の症状のため入院した後も現在まで療養を続けている。労災は8月中旬に労基署に請求し、9月下旬に認定された。主な症状は倦憩感や頭皮のかゆみや体の湿疹、微熱や胸痛、患苦しさ、手のしびれなど。

精神的な落ち込みが酷かったことから昨年10月から11月にかけて2回、呼吸器内科で通っている病院の心療内科を受診したところ、心療内科受診の必要性や皮膚症状の治療の必要性の調査のため、休業補償の支給が昨年11月中旬から停止された。この方の休業補償は4月下旬に支給再開されたが、昨年11月から2月初旬までの分の休業補償が156日間停止されていた。

《会見で訴えたかったこと》

別途、今年3月25日に行った厚生労働省交渉で担当者は、長期にわたり継続する症状について、それが新型コロナウイルス感染症によるもので、療養の必要性があれば、労災保険給付の対象になるとしたものの、療養状況に変化があれば、支給を止めて調査するという見解を述べた。新型コロナウイルス感染症の長期にわたり継続する症状については究明中である現状を踏まえると、会見を行った筆者らは、「治癒」、「症状国定」に関する調査のため休業補償を停止する判断はきわめて慎重に行うべきであると考えている。また、全国のコロナ患者たちが継続する症状を訴えている状況のなか、退院後、数か月のうちに休業補償給付の支給の停止をするようなことは、労災保険制度に対する国民の信頼を著しく損なうものであり、許されるものではないと考えており、そのことを記者会見で訴えた。

今回の厚生労働省記者会見のちょうど1年前、昨年4月27日時点での新型コロナウイルス感染症の労災請求件数は全国で4件とNHK二ユースが報じていたが、会見直前の令和3年4月16日時点での厚生労働省が公表したコロナ労災請求件数は9,661件だった。このうち決定件数が5,059件、うち支給決定件数が4,857件で、コロナ労災の請求を受け付けている労基署や労働局のマンパワー不足も今回の問題の原因の一端になっているのではと推察する。厚生労働事務官または労災保険給付業務を担う嘱託職員の増員が求められるところである。

《福島みすぼさんによる厚生労働委員会での質問》

5月14日、筆者らの記者会見についてのNHKニュースを見た参議院議員の福島みずほさんの事務所から、新型コロナ労災の休業補償長期支給停止問題について参議院厚生労働委員会で質問をしたいとの連絡を東京の天野さんが受け、情報提供を行った。

5月20日の参議院厚生労働委員会で福島さんは、「新型コロナウイルス感染症が労災と認められた人がその療養中に症状などを確認するだめの労働基準監欝署の調査の間、休業補償を受けられずに生活に困窮するケースがある。これは問題ではないか」と質問し、政府参考人として出席した厚生労働省の吉永和夫労働基準局長は、「新型コロナの労災について、例えば療養の中で診療科が変わる等のケースで、一定程度、調査・確認をする必要がある」、「医学的知見の兼ね合いで、調査に一定の時間を要することがある」、「支給を止められて生活困窮するというお話ですが、司能なかぎり迅速な対応に努めたし」という回答をした。

《感染後に精神・神経疾患が増えるとの英医学誌の報告》

新型コロナウイルス感染後、倦怠感や頭痛、胸痛、関節痛、息苦しさ、気分の落ち込みや思考力の低下、味覚・嘆覚障害、目の充血、脱毛や多様な皮膚症状、食欲不振など様々な症状が、急性期を過ぎた患者に継続することがわかってきている。これらの症状を、長期症状、急性期症状の遷延、後遺症などと呼ぶ専門家もおり、用語について統一を見ていない。

先ごろ、4月6日の英医学誌ランセット・サイカイアトリーに興味深い論文が発表された。オックスフォード大学のTaquetらが、新型コロナウイルス感染症と診断された23万6379人のTriNetXの電子カルテを分析したところ、新型コロナウイルスに感染後、6か月以内に精神・神経疾患発症の診断をされた患者の推定発生率は33.62%に上るというのである。ちなみに、ICU(集中治療室)で治療した患者の精神・神経疾患発症の推定発生率は46.42%で、最初の診断の揚合は25.79%ということである。

この研究でもっとも多く見られたのは新型コロナ感染後の不安障害(anxiety disorder)の発症で、推定発生率17.39%である。そして、次に多かったのは気分障害(mood disorder)の発症で、推定発生率13.66%だった。ICUで治療を受けた患者の精神障害の推定発生率は上がるようで、不安障害が19.15%、気分障害が15.43%上る。Taquetらは、新型コロナウイルスと精神・神経疾患発症の因果関係は不明としている。

ICU入院のグループの頭蓋内出血や脳卒中の推定発生率も上がるようで、頭蓋内出血で2.66%、脳卒中で6.92%の患者が6か月以内に診断を受けていると報告している。

新型コロナウイルスに感染した人が気分の落ち込みを訴えるケースが多数報告されているが、今回発表されたランセット論文でもそのことが確認された。

コロナで労災認定も休業補償受けられず 支援団体が改善求める


新型コロナウイルスに感染し、労災と認められた人が症状などを確認する労働基準監督署の調査の間、休業補償を受けられず生活に困窮するケースが出ているとして支援団体が改善を訴えました。
都内で会見したのは、新型コロナウイルスに感染した人の労災申請などを支援している団体です。
仕事の業務に関連して病気などになったとして、休業補償の申請を行った場合、労働基準監督署は業務によるものかや、休業が必要かなどを調査して、支給を決定します。
支援団体によりますと、医療機関の事務員として働いていた契約社員の40代女性は、去年8月に新型コロナウイルスの感染が確認され、ことし2月に労災と認定されました。
女性は微熱やけん怠感などの症状が続いていましたが、薬を服用するなどして去年9月、職場に復帰しました。
しかし、症状が悪化したため10月から休業を余儀なくされて、先月雇い止めで仕事を失いました。
女性は、休業補償の申請をことし1月と2月に行いましたが、いずれも労働基準監督署からは調査中だと回答があり、認められていないということです。
女性は、小学校6年生の娘をひとりで育てていて、「貯金を取り崩したり、国の貸し付け金を利用したりして、なんとか生活していますが、今後の生活が不安です」と話していました。

支援団体の「全国労働安全衛生センター連絡会議」によりますと、新型コロナウイルスに感染し、労災認定を受けたあと労働基準監督署の調査で休業補償を受け取ることができないケースは、ほかにも出ているということです。
厚生労働省は「症状に大きな変化があった場合などには調査に時間がかかるケースがあるが、一概に言えない。個別の事案に応じて必要な調査を行っている」としています。

2021年4月27日 17時53分 NHK NEWSWEB

文・問合せ先:名古屋労災職業病研究会事務局長 成田博厚

安全センター情報2021年8月号

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