腹膜中皮腫とアスベスト:疫学による関連性の明確化/Marty S. Kanarek, et.al., Epidemiology, 2016

ドキュメント:アスベスト禁止をめぐる世界の動き(2020年6月)

抄録:

腹膜中皮腫は半世紀以上にわたって認識されてきたものの、異なる繊維種類のアスベストとの因果関係及びアスベスト曝露量に関連したこの致死的疾病の罹患率はまだ解明が必要である。明解さをもたらすのを助けるために、簡単な歴史、アスベスト曝露との関連性、診断上の問題点及び実験研究を含めた腹膜中皮腫に関するもっとも重要な諸研究を、症例集積、症例対照、職業[コホート]、及び登録疫学研究を含めレビューした。このレビューは、角閃石系とクリソタイルを含めたすべての種類のアスベストが腹膜中皮腫の原因となると結論を下す。異なる疫学研究デザインで示された、職業及び近隣環境におけるアスベスト曝露による多数の事例が男女双方で確認されている。腹膜中皮腫についてすべての量レベルにおけるすべての種類のアスベストとの因果関係があり、安全にみえるアスベスト曝露の閾値はないことは明らかである。

はじめに

われわれは以前、アスベストと関連した中皮腫の疫学をアップデートした[1]。そのレビューはもっとも多い種類の中皮腫である胸膜[中皮腫]を強調していた。われわれがここで是正しようとする腹膜中皮腫に関連した疫学文献では、明確性は相対的に低い。
中皮腫は、身体の内臓器官を並べる中胚葉から生じる細胞の薄い層である中皮のがんである。それはまれながんであり、現在一般的にアスベスト曝露の「監視」または「信号」腫瘍とみなされている。胸膜中皮腫は1870年にまで遡って[2]またより現代的には1931年[3]と1943年[4]に認められた。SacconeとCoblenz[5]は1943年に肺がんの文献レビューを行い、46,000件の剖検中に41件の悪性中皮腫の可能性のあるものをみつけた。さらなる初期の症例報告が1935年[6]と1952年[7]に出版されている。Bonserら[8]は1955年にアスベストが存在した72件のアスベスト労働者の剖検の症例集積を分析し、4件の腹膜腫瘍と2件の胸膜中皮腫の可能性のあるものを確認した。悪性中皮腫とアスベスト曝露との明らかな関連性は、Wagnerらの1960年[9]の南アフリカケープ州北西におけるクロシドライト・アスベストに曝露した33件の胸膜症例によって確立された。Thomson[10]も南アフリカで後に、4件は胸膜、3件は腹膜、すべてが鉱山または工場でのアスベスト曝露があり、7件中6件は石綿肺もある、7件の中皮腫症例を確認した。
腹膜中皮腫は一般的に胸膜中皮腫よりもまれな腫瘍と考えられており、全症例の約5~20%しか占めていない[11]。例えばスウェーデンでは[12]男性の腹膜の発症率は胸膜腫瘍よりも10倍少ない。スウェーデンの男性は1985年以降腹膜中皮腫の増加を示していない。
しかし女性では腹膜中皮腫は着実に増加しており、胸膜中皮腫の率を上回ってきた(0.116/100,000)[12]。他のレビュワーは腹膜中皮腫がすべての種類の悪性中皮腫の10~20%を占めることを確認している[13]。
何人かの著者は、入手可能な証拠をレビューしてクリソタイル・アスベストは腹膜中皮腫を引き起こさないと結論している[14-17]。閾値を主張するものもある[18]。その他は腹膜は胸膜よりもアスベストとの関係が少ない[19]または男性でよりも女性で発生が少ない[20]と結論付けている。それでも相対的に高いアスベスト量は胸膜中比腫よりも腹膜[中皮腫]につながると述べたものもある[21]。
われわれは、腹膜中皮腫の因果関係におけるアスベスト繊維種類と閾値があるかどうかに関して明解さをもたらすことをめざして、実験データを含めて疫学をレビューする。加えて女性での発生と量の問題もレビューする。われわれの目標は、最終的に予防に向けた努力に役立つために、腹膜中皮腫の因果関係におけるアスベストとその役割を明らかにするために疫学を使うことである。

診断における困難

1999年より前は中皮腫についての国際疾病分類(ICD)コードはなかった。そのため死亡の根本原因のための死亡診断の特別のコードもなく、この疾病が組織学的に発見可能であるにもかかわらず、胸膜・腹膜中皮腫双方の死亡率は間違いなく過小評価された[22, 23]。
17,800人の保温工についての画期的なSelikoffら[24]の研究は、最初の175人の中皮腫による死亡のうち64%が腹膜、36%が胸膜によるものであることを確認した。彼らの保温工についての継続的研究のなかでSelikoffとSeidman[25]は、とりわけ腹膜中皮腫について、死亡診断書に書かれた死亡の根本原因とより詳細な臨床的・病理組織学的証拠(いわゆる「最良の証拠」)との間に大きな不一致を見出した。実際、死亡診断書しか入手できなかったとしたら、、胸膜・腹膜中皮腫が合併した458症例の60.5%は見逃されただろう。1967年1月1日から1976年12月31日の間に観察された17,800人の保温工のなかで記録された2,271件の死亡のうち、「最良の証拠」を用いてみつかった112件と比較して、死亡診断書上で腹膜中皮腫として挙げられたものは24件だけだった[26]。
腹膜中皮腫は卵巣、結腸及び他の腹部のがんから病理学的診断において区別するのが難しいことが多い[27]。病理報告は、中皮腫と線がんマーカーについての免疫化学[28]、または染色アプローチのパネル[29, 30]を用いることによって、診断をより決定的に確立することができる。深部組織浸潤を伴なうまたは伴わない低グレード管乳頭状、深部浸潤を伴なう高グレード上皮型及び高グレード肉腫型を含め、様々なサブタイプの腹膜中皮腫がある。大部分の腹膜中皮腫は上皮型で、組織学的に胸膜中皮腫と同様である。腹膜中皮腫は管乳頭状パターンをもち、間質悪性である[27]。Shih CAら[31]によって54歳の高齢男性建設労働者の症例についての記述で特徴づけられたように、「…びまん性悪性腹膜中皮腫は困難な診断、異なる様相、変化する経過、及び予後不良によって特徴づけられるまれな疾病である」。25人の女性患者についてのある研究[32]では、生存予後は1か月から15年までで、1年未満が多かった。腹膜中皮腫のレビューのなかでKindler[33]は、細胞学はめったに役に立たず、それゆえいくつかの免疫組織化学検査の助けとともに病理学者の経験が不可欠であるという、診断の難しさを強調している。Kindler[33]は、上皮型、肉腫型及び二相型という3つの主要な病理学的サブタイプを区分し、女性は腹膜vs胸膜の相対的に高い割合をもち(44%vs19%)、大部分の症例は上皮型であり、また腹膜の患者は胸膜よりも著しく若い(平均年齢63.3歳vs70.8歳)と述べている。腹膜は胸膜よりも平均生存が短く、また女性は男性よりも長く生存する(13か月vs6か月)[33]。

職業コホート

Suzuki[34]は、アメリカとカナダの保温工についてのSelikoffら[24, 35]の疫学研究から1,517件の中皮腫をレビューした。中皮腫の部位は1,517件中1,496件でわかった。腹膜と比較した胸膜の優勢がしばしば職業コホートのレビューで言及されている[19]。しかし、このアスベスト保温労働者コホートではその比率が逆転した。その比率はアスベスト保温労働者においては胸膜と腹膜との間で1:2.6だった[24, 35]。Ribakら[36]はこのコホートにおける1987年までの356件の中皮腫死亡を記述している。これらの症例のうち222件が腹膜であった(60%)。Enticknap[37]、NewhouseとBerry[38]も彼らの症例において胸膜よりも腹膜が多かったことを報告している。
Dementら[39]は、1940年から1975年の間に1か月以上雇用されたサウスキャロライナの1,261人の白人男性クリソタイル・アスベスト紡織労働者の後ろ向きコホート研究を実施した。このコホートにおいて1件の腹膜中皮腫が観察された(剖検で確認された診断)。初回雇用と死亡との間の間隔は34年だった。筆者は、他にもいくつか「腹部のがん」に言及した死亡診断書があったが、剖検その他確認できるデータは入手できなかったと指摘している。このサウスキャロライナのクリソタイル・アスベスト紡織労働者コホートのさらなる記述とフォローアップ[40]は労働者の数を3,072人に拡張し、1件の腹膜症例が女性の症例であったという特定を含め、3件の中皮腫症例を確認した。
Clinら[41]は、フランス・ノルマンディー地方のカルバドス地域に所在するアスベスト加工工場で働いた2,024人の対象者についての後ろ向き罹患率研究を実施した。この工場では摩擦ライニングと織物の生産にアスベストが使用された。1978~2004年の間に少なくとも1年この工場で働いたことのある2004年に生存している全対象者(2,024人)について調査が行われた(1,604人の男性-79.2%とと420人の女性-20.75%)。粉じん蓄積測定から得られた会社独自の職務-曝露データに基づいて曝露マトリックスが作られた。症例の確認にはカルバドス消化器がん登録が利用された。腹膜中皮腫の全症例は専門病理学者によって確認された。男性で3件の腹膜中皮腫、また女性で5件が観察された。筆者らは、この地域の一般人口のコホートにおける率と比較して標準化罹患率(SIR)を計算した。男性の全体コホートについて腹膜SIRは15.93(CI 3.2-46.55)、女性では61.3(CI 19.76-143.06)であった。このアスベスト・コホートの累積アスベスト曝露が80繊維/mL×年以上の男性についてのSIRは97.66(CI 31.47-227.91)、女性については22.63(CI 4.55-66.13)だった。「研究対象における腹膜中皮腫8症例の存在(SIR=25.04(CI 10.78-49.33))は、男女双方における罹患率の著しい上昇を確認した」[41]。この結果は、1973年から1984年までの腹膜中皮腫の全症例を収集して、そのうち女性での症例の割合が男性でよりも高かったあるアメリカの研究[42, 43]と一致した。この知見は、男性と比較して女性においてアスベスト曝露と腹膜中皮腫との因果関係が相対的に低いと主張する他の研究[20]と正反対である。中国[44, 45]、イタリア[46, 47]、オーストラリア[48]及びカナダ[42, 49]を含めた世界中で、クリソタイル・アスベストに曝露した職業グループにおける腹膜中皮腫についての他の報告がある。

症例集積及び症例対照研究

Welchらは、40件の原発性腹膜中皮腫を虫垂がんをもつ対照群と比較する症例対照研究を実施した。症例のうち12件がアスベスト曝露があったのに対して対象では8件、また[症例では]8件がブレーキライニング作業を行ったことがあるのに対して対象では6件だった[50]。
Manziniは、15件の悪性腹膜中皮腫患者について、アスベスト曝露と列挙された死亡原因を含む多数のその他の要因、生存期間その他を検討した。12件の症例が男性で、3件が女性だった。彼らは12件の男性全員にアスベスト曝露歴を確認したが、3件の女性にはなかった。Manziniは、腹膜中皮腫の診断が非常に困難であるという多くの他の研究の知見を繰り返している[51]。
CoccoとDosemeciは、1984~1992年のアメリカの24州の死亡診断書から収集した腹膜中皮腫(657件の死亡)の症例対照研究を実施し、がん以外の疾病で死亡した6,570件の対照群(地域、性別、人種及び5歳年齢区分集団について10対1でマッチ)とそれらを比較した。この研究の目的は職業リスクを評価するとともに、職業疫学研究のための新しい職務-曝露マトリックス技術をテストすることだった。そのマトリックスはアスベスト曝露の高い可能性のカテゴリーに17件の男性対照症例と3件の対照をみいだした。男性については腹膜中皮腫のリスクはアスベスト曝露の強度及び可能性によって著しく増加した。著者らは職業曝露の誤分類の大きな可能性と、とりわけ死亡の根本原因としてこの疾病に対するコードが付けられる前の時代における、腹膜・胸膜中皮腫双方の診断の問題を認めている。女性については、配偶者の職業の欠如が重要なデータの欠損部分であった。男性については、彼らは腹膜中皮腫症例についてアスベスト曝露のオッズ比を1.8(95%CI 1.3-2.4)と計算している[52]。
Spirtasら[53]は、アメリカの2つのがん登録及び39の退役軍人省病院の中皮腫の症例対照研究を実施した。208症例のうち183(男性162、女性21)が胸膜または腹膜、また、25(男性21、女性4)が腹膜のみと分類された。対照群はがん、呼吸器疾患、自殺または暴力を除く他の原因で死亡したものだった。アスベスト曝露の寄与危険度は、腹膜中皮腫をもつ男性について58%(95%CI 20-89%)、胸膜と腹膜両方をもつ女性について23%(95%CI 3-72%)だった。男女間の相違についての著者らの可能性のある説明は、女性における相対的に大きな曝露の誤分類、相対的に低いバックグラウンド置換率、または相対的に低いアスベスト曝露であった。

登録研究

Burdorfら[20]は、アスベストの役割を調査することを目的に、スウェーデンとオランダのがん登録の腹膜中皮腫を検討した。明らかな知見のひとつは、おそらく国際疾病分類(ICD)コードの第10版への変更による、とりわけスウェーデンにおける1999~2000年前後の率の下方シフトであった。2000年より前には多くの女性の腹膜腫瘍が卵巣がんとして誤分類されたり、またその逆であったことが推測されている。オランダは、おそらくはすべての中皮腫を病理学的医レビューする長い期間の伝統のゆえに、そのようなタイムシフトはなかった。著者らは、スウェーデンでの女性における変化を除き、男女ともに腹膜中皮腫に時間的傾向をみいださず、これは女性での腹膜中皮腫の原因におけるアスベストへの職業曝露の役割が相対的に限定的であることの証拠かもしれないと結論づけている。
HemminkiとLi[12]は、1961~1998年のスウェーデン家族データベースの腹膜中皮腫症例を研究した。96件の男性及び113件の女性症例が確認された。男女双方における罹患率は1985年まで増加したが、女性では増加し続けたものの、男性では安定した。男性の29%が典型的なアスベスト関連職務をもち、れんが工と配管工がもっとも多かった。女性の1件だけが典型的なアスベスト職務をもっていた。著者らは、男性の症例は主としてアスベスト含有製品を使用した労働者によるものであるのに対して、女性における増加傾向は家庭や職場における既存アスベストからのアスベスト曝露の結果であるのに違いないと考えた。
イタリアの中皮腫登録上の1993~2001年の奨励についてのある研究[54]には、2,544件のアスベスト曝露歴のある症例が含まれていた[55]。2,165件の男性症例のうち83件(3.8%)が腹膜中皮腫と確認され、360件の女性症例のうち19件(5%)が腹膜だった。全症例がアスベスト曝露歴をもっていたことから、男性についての平均潜伏期間は41.9(+/-9.9)年、女性について36.8(+/-9.9)年だった。潜伏期間は1993~2001年の機関を通じてより短くなり、また職業曝露症例は環境または家庭内アスベスト曝露よりも潜伏期間が短かった。
HassanとAlexander[27]は、アメリカの監視疫学遠隔成績(SEER)[プログラム]データを使って非胸膜中皮腫のレビューを行った。彼らはアメリカの中皮腫の数は年約2,500件で、腹膜が約10~20%であると推計した。全体的中皮腫率は女性よりも男性で高いが、女性は相対的に高い腹膜率をもった。腹膜は女性で中皮腫の17%、男性で7%を占めた[27]。
PriceとWare[18]は、可能性のある将来の傾向を予測するために、1973~2000年のアメリカの含められた領域について同じくSEERデータを使って中皮腫罹患率を研究した。彼らは2034~2054年における約71,000件の中皮腫を予測した。彼らは、女性はアスベストへの職業曝露の可能性から除外されると仮定し、さらにすべての女性の腹膜中皮腫を分析から除外した。それゆえ、女性のアスベスト曝露が曝露の「閾値」より下に落ちるがゆえの将来の女性の中皮腫率が減少する可能性があるという彼らの予測は、この論文のなかで十分に正当化されていない。PriceとWare[18]とは対照的に、Tetaら[56]は、相対的に年齢の高い女性における率の原因を過去の職業曝露に寄している。Tetaら[56]はまた1973~2002年を用いてSEERデータを使っている。6,078件の中皮腫のうち83%(5,073件)が胸膜で11%(647件)が腹膜だった。男性では症例の87%が胸膜だった。女性(22%)は男性(8%)よりも腹膜症例の割合が高かった。
Moolgavkarら[57]は、1973~2005年についてSEERデータベースにおける中皮腫罹患率を分析した。一時的な傾向について調整した後、胸膜・腹膜中皮腫双方の年齢階級別罹患率は男女ともにほぼ同一であるように思われた。男女双方での腹膜中皮腫についての年齢調整率(男性で1.2/10万人-年、女性で0.8/10万人-年)は対象期間にわたっていかなる一時的な傾向も示さなかった。2005~2050年にわたってアメリカで94,000件の胸膜及び15,000件の腹膜中皮腫が生じると推計された。
Henleyら[58]は、2003~2008年についてアメリカSEERプログラム及び全米がん登録プログラムの中皮腫罹患率を研究した。合計19,011件の中皮腫のうち15,615件(82.1%)が胸膜、1,754件(09.2%)が腹膜だった。著者らは部位別位置別の相関分析を実施して男性について0.70、 p<0.0001、女性について0.78、 p<0.0001のピアソン相関を確認したが、それは胸膜・腹膜中皮腫は共通の原因、アスベストへの曝露を共有するという仮説を支持した。この相関は国際的にイタリア[55]その他の場所で報告されたものと同様である。
Delgermaaら[59]は、1994~2008年についてのWHOデータベースを使って世界規模の悪性中皮腫について報告している。彼らは当該期間中に83か国における悪性中皮腫による92,253件の死亡を報告した。Parkら[60]は、報告される4または5件ごとに1件が見逃されていることを示唆している。それゆえ死亡件数は過小評価されている可能性がある。Delgermaaら[59]は、多くの国が一時的な増加を報告し、研究対象期間を通じて男女双方で胸膜・腹膜が増加中であることを報告した。悪性中皮腫による92,253件の死亡のうち72,000件が男性、20,252件が女性であった。38,121件の胸膜死亡のうち男性対女性は3.7対1であり、4,116件の腹膜死亡のうち男性対女性は1.6対1であった。中皮腫の負荷はインドなど最近より多くアスベストを使用した諸国にゆっくりとシフトしつつある[59]。
Boffetta[19]は、腹膜中皮腫について年齢標準罹患率を推計するためにいくつかの欧州がん登録及びSEER登録を使用し、それは男性において人口中10万人当たり0.5から3の範囲内であった。1995年に10万人当たり年齢調整率が5.5のイタリアのジェノヴァなど、過去のアスベスト使用が相対的に高い相対的に小さな地域で相対的に高い率が報告された。しかし、スウェーデンなどいくつかの国では男性と女性の率が同等であった。

クリソタイル・アスベストと腹膜中皮腫

中皮腫の著しい過剰をもつクリソタイルに曝露した人口のコホートで腹膜中皮腫の多数の症例があり、クリソタイルに曝露した人口において腹膜中皮腫は十分に報告されてきた。
Borowら[61]は、あるアスベスト工場近くのニュージャージーのある病院の72件の中皮腫症例を記述した。症例のうちの21件(29%)が腹膜だった。クリソタイルが同工場で使われた主要なアスベストであり、いくつかのプロセスにはいくらかのクロシドライトがあった。紡織部門ではクリソタイルのみが使用され、特定できた限りではすべての症例がクリソタイルにのみ曝露していた。GodwinとJagatic[62]は、クリソタイルでできたブレーキライニングを作った43歳の女性の腹膜中皮腫について記述している。曝露は若年成人期の3年間で、腹膜中皮腫による死亡は43歳のときだった。Hellerら[63]は、透過型電子顕微鏡(TEM)エネルギー分散分光法及び電子回折によって、7件のアスベスト曝露歴の記録されていない女性の腹膜悪性中皮腫の組織を研究した。症例のうち6件でアスベスト繊維負荷が確認された。2件はクロシドライトを示し、2件はクリソタイル、1件はクリソタイルとアモサイトの双方、及び1件はクリソタイルとトレモライトを示した。繊維負荷は広く、グラム質重量組織当たり56,738から1,963,250であった。すべての線維が1から5ミクロンの間だった。
ひとつの重要な症例は「ブラックスワン」腹膜中皮腫である[64]。この症例報告は、アスベスト曝露がトレモライトを含まないクリソタイルだけだった、カナダの鉱山と精製所で長年働いた62歳の腹膜中皮腫の症例についてのものだった。何人か[65]によって、たとえクリソタイルが中皮腫に対する支配的なアスベスト曝露だったとしても、真の原因はトレモライトと言われる角閃石系汚染物質だと主張されてきた。この「ブラックスワン」症例はその理論を解消したはずである[64]。Robinsonら[66]はこの問題を、「クリソタイルの悪性中皮腫との関連性は一度は角閃石系トレモライトによるクリソタイルの汚染によるものと考えられたが、現在の証拠、とりわけ電子顕微鏡研究による証拠はクリソタイル自体が悪性中皮腫を引き起こすという見解を支持している…」[66 p:1592]

実験データ

動物実験データは、アスベストの腹膜注入が中皮腫を引き起こすことを示している。様々な動物、とりわけラットとハムスターへの胸腔内及び腹腔内アスベスト接種が中皮腫誘導の評価のためにもっとも多く使用されているテクニックである。動物実験の詳細はアスベストの発がん性に関する直近の国際がん研究機関(IARC)モノグラフ[67]でレビューされている。腹膜注入はDavisら[68]による一連の研究で用いられた。こうした研究[68]では、様々な種類のアスベスト-アモサイト、(異なる地質ソースからのクリソタイルを含め)クリソタイル、クロシドライト及びゼオライト-の腹腔内注入は、すべてが腹膜中皮腫の高い発生という結果であり、アスベストが腹膜の表面に到達すれば中皮腫を発症させる能力があることを示している。
MaltoniaとMinardi[69]は、Sprague Dawleyラットに様々な種類のアスベスト25mgを腹腔内注入した。腹膜中皮腫は、クロシドライトでは雄ラットの95%と雌の100%でみられ、カナダのクリソタイルでは雄ラットの90%と雌の70%で、他の線維種類も同様の結果を示した。量が増加するほど腹膜腫瘍の増加があった[69]。Frankら[70]は、これらの実験に使用されたUICC標本クリソタイルにはトレモライトが含まれていないことを示している。それゆえクリソタイル・アスベスト自体が原因化学物質であると思われる。
ヒトでは、多くの研究が肺から腹膜へのアスベスト繊維の移動を報告している。Dodsonら[71]は、中皮腫が診断された20人における腸間膜と腹膜でみつかったアスベスト小体について報告した。アスベスト小体は、18人の肺、5人の腸間膜サンプル及び2人の腹膜サンプル中にみつかった。17人はすくなくともひとつの肺外部位に被覆されていないアスベスト繊維をもっていた。Hellerら[63]は、腹膜中皮腫の7人の女性のうちの6人の腫瘍組織中に、グラム質重量組織当たり56,738から1,963,250の範囲のアスベスト繊維負荷を確認した。Kohyamaら[72]は、13人の北アメリカの保温労働者の廃実質、肺がん組織、胸膜プラーク、及び胸膜・腹膜中皮腫組織中のアスベスト繊維と含鉄小体(鉄で被覆されたアスベスト繊維)を検討し、肺外部位で繊維が確認された。クリソタイル繊維が肺内で同等の数みられたのに対して、アモサイト繊維の数は胸膜プラークと胸膜・腹膜中皮腫組織の双方でのほうが肺組織でよりもが少なかった。筆者らはトランスロケーションが繊維の薄さと強く関係していることも報告している[72]。アスベスト繊維は、アスベスト曝露をもつ者の剖検の腸間リンパ節中でみつかっており、リンパドレナージが人体におけるアスベストの重要なトランスロケーション・メカニズムであるという仮説を支持している[73, 74]。Kurimotoら[75]は、検討した腹腔内組織の(小腸を除く)すべてのサンプル中でみつかったアスベスト繊維濃度>10,000繊維/g乾燥組織の腹膜中皮腫の症例で、このことを報告している。
アスベスト曝露と腹膜中皮腫に閾値はあるか?
大部分のアスベストに曝露した人口の死亡率研究が、研究デザインが区別を可能にしていれば、胸膜・腹膜中皮腫の双方を報告してきた。これらの研究はアスベストに曝露したことが知られた人口において異なる比率の胸膜/腹膜比を示してきた。Boffetta[19]によるレビューは閾値に関係した疫学研究を示している。このレビューは具体的に腹膜中皮腫について報告した20のアスベストコホート研究を検討した。Boffetta[19]は、腹膜中皮腫特有の量反応関係に関する情報は限られているものの、胸膜・腹膜死亡との間に強い関連性があると結論づけている。Selikoff[35]はアメリカとカナダのアスベスト保温工の高度に曝露した17,800人のコホートにおいて腹膜中皮腫が全中皮腫のうちの相対的に高い割合として起きたことを見出したとはいうものの、低量曝露もまたこの疾病を引き起こし得る[50, 65]。腹膜中皮腫が相対的に長く相対的に重度の暴露と関連していることを支持するためにしばしば引用されるBrowneとSmitherによる報告[76]は、曝露が6か月以下の6症例と2か月以下の3症例を含んでいる。
諸研究はアスベスト曝露が低量であることが知られている人口において異なる比率の胸膜/腹膜の部位比を示してきた。NewhouseとThompson[77]の研究では、研究されたロンドンの病院の中皮腫が確認された83人のうちの27人が腹膜をもっていた。この研究は、中皮腫の原因として職業アスベスト曝露だけでなく近隣・居住歴の重要性を指摘していることはもちろん、その詳しい職業・居住歴について注目に値する。27件の腹膜中皮腫のうちの15件が女性の症例だった。これら27件の男女の症例のうち、15件(男性5件と女性10件)がアスベスト工場歴をもち、2件の男性はアスベスト断熱工または保温工、2件の女性は家族からのアスベスト曝露をもち、また4件の女性と3件の男性はアスベスト曝露歴をもっていなかった。筆者らは、彼らの研究のなかの中皮腫のかなりの割合(p=0.01)は記録されたアスベスト職業または家族または同居メンバーからの曝露をもたなかったが、アスベスト工場の半マイル内に住み、それゆえ相当の環境アスベスト曝露が推測されることを記録している[77]。ViannaとPolan[78]はアスベストへの非職業曝露によるリスクの増大についての証拠を提供している。加えてある中国の症例集積が、腹膜中皮腫のある女性の80%が非職業曝露を含むアスベスト曝露をもっていたことを確認している[79]。
Strauchen[80]は工業用アスベストの使用が拡大される前1883~1940年に実施されたマウントサイナイでの2,025件の剖検を研究し、1件の中皮腫もみいださなかった。Wojcikら[81]は、死亡の原因を中皮腫とするために適用されるものとしての、方法論の検討及びICDコードの変化について、ニュージャージーがん登録と死亡診断書を研究した。Wojcikら[81]はいかに中皮腫の大きな部分が見逃されてきたかを系統的に示した。あるレビューのなかでHillerdal[82]は、胸膜・腹膜中皮腫双方についてアスベスト曝露の閾値は存在しないと結論を下した。

女性の腹膜中皮腫の原因はアスベストか?

女性が角閃石系及び/またはクリソタイルに曝露し腹膜中皮腫を発症している複数の研究がある[41,43,51-53,57,58,73,79-87]。さらに女性の腹膜中皮腫の研究もある。Keal[88]は、全員が石綿肺をもった、ロンドンの病院の記録・標本の記録の検討による腹膜がんの8件の女性症例(うち4件がおそらく卵巣によるもので4件が腹膜によるもの)を報告した。Keal[88]の研究を拡張するなかでHourihane[89]は、肺組織標本中にアスベスト繊維またはアスベスト小体をもつ、13件の確実な及び4件のおそらく腹膜中皮腫を報告した。13件の確実な症例のうち8件が女性で、不確実な4件のおそらく症例のうち3件が女性だった。11件の確実な症例がアスベスト繊維の検討に利用できる肺組織をもっていた。11件のうちの7件がアスベスト小体をもち、そのうちの2件が女性で、2件がアスベスト小体だけでなく肺内に線維症ももっていた。Enticknap[37]は1948~1953年のイングランドにおける石綿肺症例のなかで11件の腹膜中皮腫の症例を発見した。8件が男性で3件が女性であり、年齢は38歳と78歳の間、潜伏期間は20~40年、またアスベスト曝露は10か月間と32年間の間だった。

その他の要因

Boffetta[19]は、シミアンウイルス40(SV40)と遺伝的特徴を含め、アススベスト以外の他の腹膜中皮腫の潜在的原因をレビューしている。いずれについても、腹膜中皮腫の原因としての信頼できる証拠は存在していない。動物実験研究と疫学研究はすべて、腹膜中皮腫の原因としてすべての種類のアスベスト繊維を指摘している。Camargoら[90]は、アスベストへの職業曝露と卵巣がんをレビューして、因果関係を支持した。彼らは、女性における腹膜中皮腫から卵巣がんを区別することの診断的困難を繰り返している。Camargoら[90]のメタアナリシスはアスベストの卵巣がんに対する因果関係を確認した。アスベストは腹膜中皮腫と卵巣がんの双方を引き起こすことから、因果関係の疫学の絵を描くことは、女性においてこれらの疾病の間の鑑別診断よりも困難ではない。

結論

腹膜中皮腫は半世紀以上にわたって記録されてきた。歴史的にまた現在においてさえ診断は困難である。過去10年間における改善にもかかわらず、長年にわたって多数の見逃された事例があったし、とりわけ女性ではしばしば誤って卵巣がんに分類された。鉱業、アスベストからの製品製造及び既存アスベストを扱う作業を含め、多くの異なる曝露状況における、すべての種類のアスベスト繊維への多くの種類の職業曝露が腹膜中皮腫の原因となってきたことが、疫学研究から明らかである。加えてアスベスト近隣曝露が原因として関連していることが記録されてきた。世界の多くの諸国の角閃石系とクリソタイル・アスベストの双方に曝露した男女双方の人々が腹膜中皮腫によって亡くなっている。登録研究は、過去及び現在の曝露のために少なくとも今後35年間、腹膜中皮腫事例がかなりあるだろうと予測している。アスベストによる腹膜中皮腫についての量-反応[関係]は確立されておらず、それゆえ予防的にあらゆるレベルにおけるすべてのアスベスト曝露が潜在的に原因となるとみなされるべきである。アスベストの使用は、労働者保護がゆるく、それゆえここでレビューした諸問題が将来の腹膜中皮腫予防のための公衆衛生上の重要性をもつ世界の多くの諸国、とりわけインドその他の諸国で続いている。アスベスト曝露につながる作業の将来の被害者におけるがんの早期発見及び治療のために、アスベスト労働者の離職後サーベイランスが必要である。

※原文、参照文献はこちらへ
Peritoneal Mesothelioma and Asbestos: Clarifying the Relationship by Epidemiology https://www.researchgate.net/publication/303040649_Peritoneal_Mesothelioma_and_Asbestos_Clarifying_the_Relationship_by_Epidemiology