胎児被災、生殖毒性物質対策~変わらない産災(労災)保険法、腹を立てる被災労働者 2021年5月11日 韓国の労災・安全衛生

公共輸送労組医療連帯本部と、共に民主党のノ・ウンレ、正義党のカン・ウンミ議員室が主催する「済州医療院産災事件の後続課題と対応」討論会で、公共輸送労組法律院のチョ・イ・ヒョンジュ弁護士が提案している。/チョン・キフン記者

「危険なものだと想像できませんでした。ウェハーが入ったボックス、数多くの装備から臭いがする時も、設備の扉が開いて熱気が感じられる時も、そこで使われた化学物質がどんな影響を与えるのか、全く想像できませんでした。」

Aさんは1995年にある半導体工場に入社した。誰でも名前を聞いただけで分かるところだった。彼女に不幸が近づいたのは、半導体工場でオペレーターとして10年余り働いた後だった。2008年の初め、妊娠7ヶ月目の彼女は、医師から子供に奇形が発じる可能性があるという話を聞いた。産まれた子供は左側の腎臓がなかった。先天的な食道奇形も一緒に持って生まれた。Aさんは「産まれて間もない子供が、冷たい手術室に入らなければならなかった。」「いつも苦しくて、恐ろしくて、ごめんねと、毎日涙を流した」と話した。子供は少しずつ回復してはいるが、同じ年頃よりも少し遅れた子供として育っていると言った。Aさんは現在、産業災害補償申請を準備中だ。

産災認定までにはイバラの道が予想される。大法院は昨年4月に、胎児の健康損傷や出産児の先天性疾患も、母親の労働者の産災と認定できるという趣旨の判決を出したが、法・制度は改善されていない。労働・市民・社会団体は、国会に係留中の産災保険法の改正議論を始めるべきだと声を合わせた。

国会、産災保険法改正案を処理せよ

公共輸送労組と労組・医療連帯本部、「半導体労働者の健康と人権守り」(パノリム)が10日、大法院の済州医療院判決の後続課題を議論する対応討論会を行った。

大法院は昨年4月、済州医療院で働く看護師4名が、勤労福祉公団に提起した療養給付申請返還処分の取り消し訴訟の上告審で、労働者の手を挙げた。母親の労働者の業務による胎児の健康損傷を、産災保険法で保障すべきだという趣旨だ。しかし、立法の空白は相変わらずだ。

公共輸送労組法律院のチョ・イ・ヒョンジュ弁護士は、「業務上の事故や出退勤災害、業務上の負傷が原因になって発生した疾病や、勤労基準法上の職場内いじめ、顧客の暴言など、業務上の精神的なストレスが原因になって発生した疾病が、胎児の健康に損傷を負わせたと解釈できないこともないが、不明だ」と指摘した。「母親の業務に起因して発生した胎児の健康損傷が業務上災害となった場合、どんな保険給付を請求できるのかが明らかでない」として、法・制度の空白を指摘した。産災保険給付の種類は、療養給付・休業給付・障害給付・看病給付・職業リハビリ給付などと多様だが、この内の何を、どのレベルで適用するかを、法改正によって明確にすべきだという意味だ。

立法遅延の中での苦痛は被災者の分担

法・制度の空白で被災者は苦しんでいるが、国会はのんきだ。国会には、妊娠した労働者が危険な環境に曝露して、障害あるいは疾病のある胎児を出産した場合、業務上災害と認めて保険給付を支給するとう内容の産災保険法改正案4件が発議されたが、全て法案審査小委にも上がらなかった。

済州医療院の胎児産災事件を担当したクォン・ドンヒ公認労務士は、「初期には正しい治療を受ける方法がなく、ソウルのある病院を訪ねたが、(済州からの)飛行機に酸素呼吸器が準備されていないため、とても苦労して病院に行かなければならなかった。」「この方が経験した困難は、現在の給付では補償できない状況」と指摘した。「保育園が身体的な欠陥のある子供を引き受けようとしないため、自分で子供の世話するしかなくて仕事を辞めたという」と、被災者の状況を話した。

パノリムのチョ・スンギュ公認労務士は、「パノリムには、今までに2才児の産災に関する情報提供が30件余り入っている。」「ターナー症候群・合指症などの先天性障害から、骨髄異形成症候群・白血病など、災害の種類も様々だ」と言った。災害の種類が様々だということは、業務との因果関係の立証も難しいというのと同じだとして、「本人の病気も因果関係を厳密に立証することは不可能だが、2才児の産災はもっと難しい。」「立証レベルを低くすべきだ」とした。

生殖毒性物質の死角地帯

妊娠している労働者を有害因子から保護するための規定を強化すべきだという主張も提起された。又松大のイ・ヒョンジュ教授(看護学)は、「勤労基準法では、妊娠中の労働者に禁止業務を規定し、これに違反する場合3年以下の懲役または2千万ウォン以下の罰金に処すとしているが、妊娠中の労働者にとって安全な職場を作るために、事業主が何をすべきかの規定がない。」「妊娠中の労働者の保護規定は有名無実な状態」と指摘した。勤労基準法は妊娠労働者の禁止業務として、放射線取り扱い業務、強い騒音作業、異常気圧、有機化合物4種(ベンゼン、2-プロモプロパン、アニリン、フェノール)が記載されているが、本来、産業安全保健法上、妊娠中の労働者の保護規定はない状況だ。

生殖毒性物質に関する調査と規制強化の必要性も提起された。労働環境健康研究所・化学物質センターのチェ・インジャ分析チーム長は、「曝露基準告示によれば、生殖毒性物質は44種だが、この内、作業環境測定制度の適用対象物質は28種、特殊健康診断制度の適用対象物質は27種」で、「制度的に生殖毒性物質に区分しているが、取り扱いと曝露に関する実態把握は28種に過ぎない」と指摘した。

2021年5月11日 毎日労働ニュース カン・イェスル記者

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