「石炭曝露で肺が固まって」鉄鋼製造業も政府が疫学調査 2021年4月25日 韓国の労災・安全衛生
ポスコで29年働いたAさんは、2019年に病院を訪れて、右側の肺が固まって機能しない『肺線維化症』に罹っている事実を知った。Aさんはポスコ浦項製鉄所の選炭系輸送班で働いた当時、石炭粉塵やコークスオーブン・ガスなどに日常的に曝露していた。Aさんは昨年12月、市民団体『職業性・環境性癌患者検索119』と一緒に勤労福祉公団に産業災害を申請し、3ケ月目の先月『疾病と作業環境の間に相当因果関係が認められ』、業務上疾病として承認する、という勤労福祉公団からの回答を受け取った。
このように、鉄鋼業者の労働者が個別的に争わなければならなかった職業性癌と作業環境の因果関係について、政府が公式に調査を始めることにした。準政府機関の韓国産業安全保健公団は、協力業者を含むポスコ製鉄所所属の労働者と一次鉄鋼製造業に従事する労働者を対象に、職業性癌に関連する集団疫学調査を実施すると明らかにした。公団産業安全保健研究院所属の職業環境医学専門医と予防医学専門医、産業衛生専門家など、博士級の研究員17人が、2021年から2023年まで調査を行う。公団が半導体製造工程やタイヤ製造工程でなく、鉄鋼製造業に集団疫学調査を実施するのは今回が初めてだ。
公団が疫学調査に着手することになったのは、職業性癌119と金属労組ポスコ支会などが、昨年12月にポスコの労働者8人の産業災害を一度に申請し、安全保健診断も同時に要求したためだ。Aさんの他にも、肺癌とルーゲリック病、細胞リンパ腫などに罹ったポスコの労働者が産業災害を申請した。当時ポスコ支会は「製鉄所の職員が製銑、製鋼、圧延、ステンレススチール工程で様々な発癌物質に曝露する。」「肺癌と白血病、血液癌などは製鉄所で発生する最もありふれた職業性癌」と指摘した。
ポスコは自主的に測定した結果、作業環境の石炭粉塵は基準値より低く、喫煙など申請者の個人の習慣も発病に影響を与えるという点を挙げて、疾病と作業環境の関連性を否認してきた。しかし、公団が公式に調査に着手すると直ぐに、「誠実に協力し、疫学調査の結果、問題点が確認されれば改善する」と、一歩後退した。
調査を要求した職業性癌119は調査自体を歓迎しながら、期間が3年と永いという点に憂慮を表明した。職業性癌119のヒョン・ジュスン企画局長は、「勤労福祉公団がポスコの労働者の肺線維化症を60日で認めた理由は、『因果関係が明確だ』として疫学調査を省略したからなのに、3年間、何を、どれくらい調査するというのか、その間、(労働者は)どうしろというのかを訊ねたい。」「調査に年度別、段階別の計画でもあるべきだ」と話した。
かつて浦項製鉄に在職し、職場の環境要因を評価した労働環境健康研究所のイ・ユングン所長は、「産保研が疫学調査を行ったサムソン半導体事件などを見ると、専門性はあったが、現場で問題を見る視角が欠けていた。」「単純に現場の意見を聴取するのと、現場で実際に問題になる要素を一つひとつ見るのとではまったく違うので、現場の労働者や外部の専門家の参加が必ず必要だ」と話した。産保研は2007年~2008年にサムソン電子の労働者の白血病の疫学調査を実施したが、新しく造られた作業環境を土台にするなどの調査の限界によって、疾病と作業環境の因果関係を明らかにできなかったが、後日、裁判所がこれを業務上災害と認定した。
イ所長はまた「作業環境が最も劣悪なプラント労働者と下請け業者の職員が含まれなければならず、必ず退職者も調査対象になるべきだ。」「癌は退職後に発症する可能性が大きいので、現職者だけに調査対象を限定すると、他の事業場よりむしろ癌発生率が低く出るため」と話した。
2021年4月25日 ハンギョレ新聞 シン・ダウン記者