労働安全衛生を労働者の基本的権利に!2022年のILO総会で議論-世界の労働組合、専門家団体等が要求、多数の政府も支持(2021年3月30日)

労働安全衛生のグローバルガバナンスへの新しいアプローチ-2021.1.20 ITUC(国際労働組合総連合)

「人種、宗教、政治的信念、経済的または社会的状態を区別することなく、達成可能な最高水準の健康を享受することは、人間の基本的人権のひとつである。」-WHO憲章前文
「雇用から生じる疾病、疾患及び負傷に対する労働者の保護…」-ILO憲章前文

労働安全衛生は、COVID-19パンデミックに対処するためにきわめて重要である。
多くの異なるタイプの職場でのこのウイルスの感染の証拠は明らかであり-労働者を守ることは一般の人々を守ることにもなる。

COVID-19のパンデミックは、職場レベルにおける労働安全衛生対策の不十分さ、またとりわけ存在している不足や現在のパンデミック及び将来の健康緊急事態の可能性に緊急に対処する必要性のある、多数のグローバルガバナンスのギャップを明らかにしてきた。労働者の安全と健康はグローバルコミュニティによって十分な優先順位で扱われてきておらず、このキャンペーンは世界の労働組合運動が何を要求しているかを示している。復興と回復のための新たな社会契約の構成要素となるであろうさらなる要求については、ITUCの別の文書で示されている*。
* 「新たな社会契約:危機>復興>回復」(2020.7.31)
https://www.ituc-csi.org/crisis-recovery-resilience?lang=en

要求の全体を通じてわれわれは、仕事における職業曝露の増大、育児に対する不平等な責任及び家庭内暴力の脅威という点で、パンデミックの矢面に立たされてきた女性が直面する特別な諸問題に対処する必要性を繰り返し述べている。またわれわれは、経済的・社会的差別はもちろん、パンデミックのなかでのブラック・ライブズ・マターも認識している。経済的な力がもっとも少ないこうした人々は、パンデミックとの闘いのなかでもっとも多くの支援を必要としているだろう。

1. 労働安全衛生が労働者の基本的権利として認識されなければならない

仕事の未来のためのILO100周年宣言(2019年)は、「安全で健康的な労働条件はディーセントワークにとって基本である」と宣言している。その後採択された[国際労働]会議の決議は理事会に対して、8つのILO基本条約と同じやり方で、「可及的速やかに、ILOの基本原則と仕事における権利の枠組みのなかに安全で健康的な労働条件を含めるための提案を検討」するよう求めた。これらの権利は、労働時間の上限、生活最低賃金や社会的保護ともに、われわれが望む労働保護フロアの基盤を形成するものである。

労働安全衛生を基本的権利にし、この分野におけるILOの既存の主要な条約を活用することは:

a ILO加盟国に、批准の如何にかかわりなく(しかし、それらを批准する推進力も与える)労働安全衛生関連条約の核心にしたがうとともに、国際労働安全衛生基準の適用の強化や国の法令・慣行のなかでのそれらの実施の増大を含め、定期的に報告する義務を課し、

b 不安全な仕事を拒否する権利など条約で設定された諸権利の、順守はもちろん、認識の増大を促進するとともに、国際的及び国内的に労働安全衛生のためのリソース増大に道を開き、また

c 労働安全衛生を、世界銀行や地域開発銀行のルール、WHOのガイダンスのような、貿易協定や多国間協定に組み入れる。それはまた、仕事の世界における健康問題に関するILOのリーダーシップ的役割のシグナルにもなるだろう。

ILO理事会は、この変革を達成するであろうロードマップを確認しているが、使用者といくつかの政府が進展を妨害している。ロードマップは国際労働会議による対応を必要としており、世界の労働組合は、これが2021年になされるよう要求している。

2. 予防・保護に関する労働者との協議が仕事の世界におけるパンデミックへの対処の中心でなければならない。

働く人々が職場における予防と保護について協議を受け、関与すればするほど安全になることを示した、膨大な知見がある。これは、多国間の機関・規則における社会対話、国レベルにおける労働安全衛生の[政労使]三者による管理、業種・職場の労使合同安全衛生委員会、及び労働組合の職場安全代表に及ぶものである。

労働者の労働安全衛生権利は、労働者が労働組合を通じて労働安全衛生について協議を受けている場合にもっとも保護される。労働者は、彼らの代表がそれらの対策の決定・周知に関わっている場合に、予防・保護対策に完全かつ熱心に関与する可能性が高い。また、そのような協議は、一般の人々にもより大きな保護を提供することが明らかになっている。

多国間機関は、働く人々の安全衛生に影響を及ぼす対策、かかる対策についてのガイダンスや労働者・より広い一般の人々への安全衛生メッセージの普及に関する、労働組合との意味のある協議に携わるべきである。とりわけ、さらなるパンデミックに対処するとともに、MERS、SARSや今回のCOVID-19の教訓から学ぶために、ILOは生物学的ハザード条約を採択する必要がある。

3. 職場における健康対策に「管理のヒエラルキー」とリスクアセスメントが適用されなければならない

リスクアセスメントの一般原則はもちろん、ITUCは、アメリカ政府の労働安全衛生研究機関であるNIOSHによる以下の図[省略]にもっともよく示されている、職場ハザーズに対処するためにどの対策がとられるべきかについての順序を示した、よく確立した労働安全衛生「管理のヒエラルキー」がより多く使われるのを見たい。各々の場合、最初にとられる対策-なぜならそれらはもっとも効果的であるから-が、労働者がハザードと接触するのを回避することによって、リスクを完全に排除すべきである。

職場から確実に取り除くことのできない、SARS-CoV-2のような感染症の場合には、それは、作業の率とプロセスの再編成、ILOが勧告しているような最低2メートルの社会的距離置き、換気の増大等のような対策を採用する前に、(リモートで働くこと、職場の閉鎖、職場で働く人数の削減や賃金全額保証での一時帰休などによって)最初に労働者をハザードから取り除くよう、WHOが政府と使用者を促進すべきであることを意味しているだろう。

個人保護機器の提供のような対策は、もっとも効果の少ない予防対策であり、職場曝露を軽減するために追求するうえでの最後の手段でなければならない。それは、それらを必要とする場合には、すべての労働者が費用負担なしに適切なマスク、手袋等を利用できるようにする労働組合のキャンペーンを弱体化するものではなく、それらの対策は最後の手段ということである。

世界の労働組合は、このアプローチが、WHOなどの多国間機関により、また、国際金融機関の貿易・投資方針をカバーする多国間協定のなかで、採用されるハザードに対する標準的アプローチになるべきであると考えている。

4. 労災職業病のよりよい報告、届出及び補償

多くの傷病の職業[起因]性は、医師その他の専門家が決定的な質問である「あなたはどのような仕事をしているのか」と聞いた場合にしか気づかれないことが多い。現在のCOVID-19パンデミックの間に多くの国で示されたように-これが報告・届出の要求事項から取り残されることが非常に多い。結果としてそのような傷病が国や使用者の補償制度にを含められないことが、被災した労働者に効果的な救済がないだけでなく、原因に対処するインセンティブもないことを示してきた。

労働組合のキャンペーンや、そうでなければ説明のつかない「クラスター」について安全衛生雑誌にたまに掲載された報告や個々の保健専門家による先駆的な研究を通じた進展によるのではなく、職業があらゆる保健届出プロセスの標準的な一部となるべきであり、また、COVID-19のような疾病は、職業曝露の可能性が明らかな場合には、ILO第194号勧告などの、届出、報告及び補償規則に速やかに含められるべきである。

5. ユニバーサルな社会的保護は、病欠中の者または、感染症、隔離または検疫の場合の最初の日からの有給休暇を含めるべきである

COVID-19は、感染症に罹患した人々が病気で働き続けるか収入なしでいくかの選択に直面した場合に、彼らが仕事に行き続けて、(とりわけ無症候性疾病の場合)他の者をリスクにさらすであろうことを示した。COVID-19のような病気の場合には、病気に罹患した他者との曝露のゆえに、隔離または検疫されなければならない者にも当てはまる。

それは、病気になった最初の日から、仕事に復帰できるまで、働くことのできない者に対して、使用者が賃金全額を支払い続ける必要があることを意味している。多くの場合、それは政府の資金提供による社会的保護対策を必要とするだろう。また、そうした提供は、パンデミックの被害がもっとも大きかったインフォーマル経済の者はもちろん、自営業者や不安定労働者に拡張されるべきである。

多国間機関は各国政府に対して、開発途上国がそのような提供を確立できるようにする世界的社会的保護基金を含め、ユニバーサルな社会的保護を提供するよう促進すべきである。

6. ワクチンと検査

最後に、ワクチンの迅速な開発はよいニュースではあるが、豊かな諸国によって抱え込まれるのではなく、それらが世界中で共有されるのを確保するための努力を倍加させる必要がある。どこかの病気はあらゆる場所で病気を脅かし得る。

しかし、症状から保護するだけでなく、人々が感染するのを防ぐそれらの有効性と能力がわかるまでにはしばらく時間がかかるだろう。地域社会で、また労働組合との交渉を通じて職場環境で、予防・保護対策の範囲に迅速な抗原検査を追加することは、根絶の必要性に対処するのに役立つだろう。検査やワクチン接種は自主的でなければならず、また、社会的保護、病気または隔離された者への傷病手当、ビジネスと仕事を支援するためのその他の経済的対策によって支援されなければならない。

COVAX[COVID-19ワクチンへの公平なアクセスを目的とした国際的なな取り組み]のようなイニシアティブが国の政府によって支援され、また、職場での感染を根絶するための重要な一部として、迅速な抗原検査が展開されなければならない。

https://www.ituc-csi.org/ituc-campaign-brief-ohs

ILO:世界の指導的専門家が労働安全衛生を基本的権利にすることを要求-2021.3.22 ITUC(国際労働組合総連合)ニュース

国際労働機関(ILO)理事会による3月23日の問題の討議の前日に、労働安全衛生の世界有数の専門家らが国際労働機関(ILO)に対して、労働安全衛生を基本的権利として指定するよう求めた。
労働組合は2021年6月のILO会議が、安全衛生を国際労働基準の最高のレベルに引き上げ、労働において命を救ううえでの政府と使用者の責任を高め、より多くの国に重要な安全衛生条約を批准させるよう求めている。

これは、すべての労働者のために労働安全衛生を確保するという、政府、労働者及び使用者によって2019年に全会一致で採択されたILO100周年宣言の誓約を履行するものである。

労働・環境医学専門家の最高の独立した国際団体であるラマッチーニ協会はILOに対して、緊急の問題として、理想的には2021年の国際労働会議において、2019年の同会議の決定を実行するよう求めた。

ラマッチーニ協会は、「世界で毎年何億もの労働者が労働により危害を受けている。さらに何百万人もが亡くなっている。この大虐殺は予防可能であるが、それは危害からの労働者の保護に高い優先順位が与えられ、労働者の安全と健康が基本的人権として認識された場合にのみである。ILOは、労働安全衛生をILOの労働における基本的権利として認めるために、できる限り早い機会に行動しなければならない」と述べている。

世界的な労働医の専門家団体である、イギリスに本拠を置く労働医学会のCEOニック・ポールは、「労働医学会は、労働安全衛生をILOの労働における基本的権利として指定することを強く支持する。われわれはILO理事会に、労働安全衛生を労働における基本的権利(FRAW)に指定することを2021年の国際労働会議の議題にすることを視野に入れて、2019年のILO100周年会議(第108回)の決定を進めるために迅速に行動するよう求める」と述べた。

ITUCのシャラン・バロウ事務局長は、「政府と使用者はこうした指導的専門家の声を聞くべきである。あまりにも長い間、労働災害職業病から労働者を保護することは、他の労働における基本的権利よりも低い位置におかれてきた。いくらかの使用者といくらかの政府でさえ、ビジネスを行うための費用は労働者の命とトレードオフすることができると考えているようである。安全衛生にそれが値する法的地位を与えることは歴史的な間違いを正すことになり、また、COVID-19パンデミックを制御下に置くための努力を後押しすることにもなる」と述べた。

https://www.ituc-csi.org/experts-call-for-occupational-health-and-safety?lang=en

労働安全衛生:ILOにおける進展-2021.3.30 ITUC(国際労働組合総連合)ニュース

先週の会合で[ILO]理事会の政府代表はプロセスを進めるために労働者代表を圧倒的に支持し、2022年にILO会議で正式に決定がなされることが期待されている。

ITUCのシャラン・バロウ書記長は、「われわれは今年のILO会議で安全衛生が基本的権利のリストに追加されるのをみたかったが、来年それが行われることへの政府代表の支持に感謝する。これは、労働において命を救うための政府とビジネスのより大きな責任を意味するだろう」と述べた。

「COVID-19パンデミックによる大きな犠牲を考えると、それは一層重要である。安全な職場は、労働者はもちろん、一般の人々にとってもより大きな安全を意味する。大部分のCOVIDアウトブレイクが学校を含め、職場で発生しているという明らかな証拠が世界中で現われつつある」。

理事会におけるその他の重要な進展には以下が含まれる。

・ILOが生物学的ハザード条約を策定するという合意

・ILOがガバナンスの課題に対処するために「ギャップ分析」を行うことを含めた、グローバル・サプライチェーンにおけるディーセントワークを確保するうえでの進展

・ITUC世界権利インデックスで労働者にとって最悪の10か国のひとつにランクされているバングラデシュにおいて国際労働基準の尊重を確保するためのロードマップの策定についてなされた進展
理事会はまた、軍による彼らに対する猛攻撃が続いていることから、ミャンマーの人々と労働者に対する支持を圧倒的に表明するとともに、民主的に選出された政府の復元を要求した。

理事会の労働者代表もミャンマー及びワクチンエクイティに関する声明を採択した。

https://www.ituc-csi.org/occupational-health-and-safety-progress?lang=en

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