EPAはアスベスト評価を終えたが、認めたのは狭い-Inside EPA, USA, 2020.12.31

[アメリカ]環境保護庁(EPA)は、大きな変更をすることなく長く待ち望まれていたアスベストの有害物質規制法(TSCA)評価を終え、公式に評価されたクリソタイル繊維種のみに焦点をあてるように用語を狭めることに同機関が助言者らと合意したことをもっとも明白な変更として、ひろく批判された草案と同じ不合理なリスクの結論に達した。

年末12月30日に発表された「最終クリソタイル・アスベスト評価」は、[現在認められている]クリソタイル・アスベストの32の用途のうちの16は労働者、消費者または傍観者に不合理なリスクを生じさせるものと判定し、改正TSCAのもとでそうしたリスクを緩和するためのリスク管理規制を提案するための1年の期限の引き金をひいた。
しかし、同機関は、クリソタイル以外の繊維種を含むであろう、アスベストの遺産用途の補足評価を2021年に予定していることから-たとえ同機関関係者が終わったばかりの評価の狭く判定された不合理なリスクに対処するためのリスク管理規制を作成しようが-バイデン[政権の]EPAに、この有毒物質をいかに評価及び対処しようとするか再考する機会を設定している。

そのため、後継政権は、科学的助言者や環境・公衆衛生活動家らがEPAにそうするよう求めてきたより総体的なやり方で、評価をやり直すことを選ぶこともできる。

また、それを促進するための推進力もあり、TSCA評価における遺産用途を評価することに関する2019年11月の上訴裁判所の判決後に、EPAが遺産アスベスト使用について別の「第2部」補足評価[を実施すること]に同意したことを踏まえて、このアプローチを採用すべきである。

この評価は、トランプ政権の末期にTSCAのもとで同機関が急いで完了させようとしている、第1次分10の化学物質の8番目である。

EPAの「非技術的要約」によれば、完了したばかりの評価は、「塩素アルカリ産業における隔膜の加工及び工業/商業使用、化学品生産において用いられるシートガスケット、石油産業におけるブレーキブロックの工業/商業使用及び廃棄、アフターマーケット自動車ブレーキ/ライニングの商業/消費者使用及び廃棄、その他の車両用摩擦材の商業利用及び廃棄並びにその他のガスケットの商業/消費者使用及び廃棄」を含め、16のクリソタイル・アスベストの用途は労働者、消費者及び傍観者に不合理なリスクを生じさせると判定した。

こうした不合理なリスクは、「中皮腫、肺がん、及び慢性曝露によるその他のがん」を含めた健康上の懸念をもたらす。

EPAには、公表から1年以内に不合理なリスクという判定に対するリスク管理規制を提案するとともに、2年以内にそうした対策を成立させる、TSCAのもとでデッドラインが法定されている。

EPAはまた、リスク評価の対象だった他の16の用途、「原料アスベストの輸入、評価されたクリソタイル・アスベスト含有製品の輸入及び流通、特殊なNASA輸送機用のブレーキの使用及び廃棄、並びに工業施設で加工及び/または使用されたシートガスケットの廃棄」は、規制されるべき不合理なリスクは生じさせないと結論づけた。

連邦官報で公表されれば、これらの不合理なリスクはないとする判定はEPAの最終決定となるが、他の化学物質の以前の評価にともなう同様の判定に対してすでになされたように、連邦政府に提訴されることはほぼ確実だろう。
(一部省略)「EPAの最終リスク評価は、そうした不足は今後の第2部評価で扱われるだろうと言って、自らの科学的助言者や他の独立的専門家の膨大な勧告を無視している」と、アスベスト疾患アウエアネス・オーガニゼーション(ADAO)の共同創設者で会長のリンダ・レインスタインは12月30日の声明のなかで述べた。「この小手先のごまかしに基づいてEPAは、アスベスト曝露・リスクの膨大な発生源に目をつぶるとともに、アスベストが原因の病気・死亡の膨大な犠牲者を軽視する、寄せ集めの危険なほど不完全な評価を発表した」。

SACCの批判

関連する用途についてのEPAの不合理なリスクという判定は、EPAの化学物質に関する科学的助言委員会(SACC)が、昨年6月の評価草案のピアレビューを踏まえて公表した、衝撃を与えたいまいましい報告書-EPAの2020年4月の評価草案から変わっていない。

彼らの最終報告書の中で、助言者らは、評価の草案を不適切かつ不十分といい、完了させる前に様々な種類のアスベストのより多くの用途を検討するよう評価をひろげるよう事務局に求めた。

「全体的に、アスベストについてのEPAの環境及び健康リスク評価は適切とは思われれず、結論において信用をなくしている」と、SACCの8月28日の報告書は言っている。

とりわけSACCはEPAに対して、もはや製造はされていないものの、多くの古い建物の保温材、配管、屋根や床など、合衆国中でアスベストが使用され続けている用途はもちろん、他のアスベスト繊維種やいわゆる「遺産用途」を考慮するよう求めた。

「委員会はEPAに対して、評価された6つの使用状況をこえて、クリソタイル曝露に加えて、他のアスベストやアスベスト様繊維を評価に組み入れるよう求める。一定の曝露源(飲料水、タルク、アスベスト含有建材、バーミキュライト等)がこの評価に含まれていないことから、アスベストへの総体曝露の推計は不十分である」と、報告書は述べている。

しかし、SACC報告書は、その懸念を完全にとらえることに失敗していた。EPAに草案を捨てさせて、アスベスト曝露にともなうリスクのより完全な姿をもたらすために、新たな、他のアスベスト繊維種や遺産用途を含めたよりはばひろい評価をやり直すことを勧告することが可能かどうか、議論した委員も何人かいた。

しかし、アメリカがん協会を引退した生物統計学者である、SACC議長のケン・ポルティエはパネルに対して、SACCによる変更は科学的なものであって政治的なものではないから、そのような勧告はSACCができる勧告「方針の境界上にある」と話した。

SACCの主張にもかかわらず、EPAは、昨年6月のInside TSCAとのインタビューで抗弁されたトランプ[政権の]EPA有毒物質責任者アレックス・ダンの決定である、アスベストについての2つの別々の評価を実施する計画に固執した。

「EPAは、これがもっとも健康を保護する前進する道だと考えている」と、補足リスクレビューは「遺産用途と関連する廃棄についての質の高い評価を保証」し、法的検討を含めるためにリスク評価草案をペンディングにするという「ぐずな仕事」は「最終リスク評価に示される不合理なリスクに対処するために必要なリスク管理規制を遅らせることになるだろう」と主張する前に、彼女は言った。

コメントへの対応

その「コメント文書への対応」のなかでEPAは、「アスベストについてのリスク評価の第2部で、遺産用途とそうした用途に関連した廃棄について評価する」だろうと言って、ダンのメッセージに同調した。

「(使用と関連した廃棄だけしか存在しない)遺産用途もひょかするために文書を拡張することによって、クリソタイル・アスベストについてのリスク評価(アスベストについてのリスク評価の第1部)の完成を長引かせることは、クリソタイル・アスベストについて不合理なリスクが存在している使用状況に対処するのに必要なリスク管理を著しく遅らせることになるだろう。」

代わりにEPAは、評価を拡張しないのであれば、もともとの表題は、いくつかの種類のアスベストによるリスクについての包括的な研究を暗示していることから、誤解を招くので、改めるというSACCの勧告に同意した。「EPAはSACCと合意して、アスベストについてのリスク評価第1部:クリソタイル・アスベスト…に名称を変更した。」

EPAの12月30日の発表は、「アスベストについてのリスク評価第2部」とよぶものの「計画を開始」しており、「第2部と関連のある追加の合理的に入手可能な情報を確認する対象範囲文書の草案策定の一部として、及びそれを踏まえて、関係者と協力していくだろう。対象範囲文書草案は2021年中頃にはパブリックコメントにかけられるだろう」と、EPAは言っている。

EPAはまた、同機関にアスベスト遺産用途を評価することを求める、Safer Chemicals Healthy Families[環境団体]対EPA事件の第9巡回連邦上訴裁判所の決定が、補足評価を作成することについての理由であると指摘している。同機関は、補足評価は「アスベストの遺産用途及び関連する廃棄」に焦点をおくだろうと言う。

同機関は、第2次評価は、「クリソタイル、及び、TSCAタイトルⅡ定義で規定された他の5繊維種のアスベスト:クロシドライト(リ-ベック角閃石)、アモサイト(カミングトン角閃石-グリュネル角閃石)、アンソフィライト、トレモライトまたはアクチノライト」を扱うだろうと言う。

ポリティエは昨年6月のSACC会議で、遺産評価の対象範囲で考慮すべき重要な問題のひとつは、汚染物質または副産物としてのアスベストへの曝露を含めるかどうかだろうと指摘した。

EPA有毒物質事務所のリスクアセスメント部門副部長のスタン・バローネはポルティエに、同機関は、遺産評価において汚染物質使用によるリスクを評価するかどうかはまだ決定していないと話した。

「検討はしている。製品への意図的含有か非意図的含有かにかかわらず、遺産用途である使用の状況はどのようなものか決めようと試みている」と、彼はSACCの委員に話した。「それは、われわれが内部で議論しなければならないであろう…やや難しい話し合いだ。われわれは、対象範囲をパブリックコメントにかけるし、それにはどのような曝露レベルか及びそうした曝露の結果はどのようなものかが含まれるだろう。」

https://insideepa.com/daily-news/epa-finalizes-criticized-asbestos-evaluation-agrees-narrow-focus

※アスベスト禁止をめぐる世界の動き