過労認定基準改正から3年 産災(労災)認定率、初年度『瞬間的に上昇』2年は『逆走』2020年1月25日 韓国の労災・安全衛生
現代重工業の下請け業者で溶接・取り付けの作業をしていたA(63)さんは、2018年6月に作業中に突然倒れた。病院で脳梗塞と診断されて手術を受けた。その後、脳梗塞は業務上疾病として産業災害を申請したが、釜山業務上疾病判定委員会で不承認とされ、治療費の支援を受けられなかった。釜山疾病判定委は「発病前12週間の1週平均業務時間は45時間15分で、慢性的な過労が確認されない」とし、「発病原因は申請人の既存疾患、飲酒・喫煙によって発生した可能性が高いため、傷病と業務に相当因果関係を認め難い」と判断した。
Aさんは産業災害補償保険再審査委員会に再審査を請求した。『業務負担加重要因』を総合的に考慮していないという趣旨だった。2018年1月に施行された雇用労働部告示『脳血管疾病または心臓疾病と筋骨系疾患の業務上疾病認定可否の決定に必要な事項』(脳心血管疾患産災認定基準)によれば、『7大業務負担加重要因』に複合的に曝露した場合、発病前12週間の業務時間が1週平均52時間を超過していなくても、疾病と業務の関連性が高いものと判断する。業務強度や作業環境など、疾病に及ぼす色々な要因を十分に考慮するということだ。
Aさんは発病の二日前に管理者から退社勧告をされた。当時、現代重工業の受注量の減少によって、高齢の下請け業者の作業者が優先順位に解雇される雰囲気だった。不安な雇用状況がなくても、彼の業務は緊張の連続だった。作業の特性上、重量物を持って移動することが多く、常時騒音にも曝露していた。
造船所の取り付け作業は、勤労福祉公団の『脳血管疾病・心臓疾病の業務上疾病調査および判定指針』で、職業に伴う肉体的業務強度評価表の5段階中4段階(heavy)に該当する。Aさんは2017年の健康診断で騒音性難聴の判定も受けていた。これを根拠に、業務負担加重要因のうち△肉体的強度が高い業務、△有害な作業環境(騒音・温度変化)、△精神的な緊張が大きい業務の三つに曝露したと主張したが、結局、棄却の決定を受けた。Aさんは後遺症で職場に戻れないまま自宅で療養中だ。
24日<毎日労働ニュース>の取材の結果、Aさんのように三つ以上の加重要因が複合的に存在するにも拘わらず、産災が認められない事例が少なくないことが分かった。業務時間だけでなく、業務強度と精神的ストレスなどを総合的に判断するように労働部告示が改正されて3年が過ぎたが、現実には正しく適用されていないと指摘される。依然として業務時間を中心に判断する傾向が変わっていないからだ。
三つ以上の加重要因があっても産災を『不承認』
『複合的』な基準がなく、疾病判定委員の裁量に期待する構造
現代自動車・蔚山工場で働いて、2019年6月に急性心筋梗塞で亡くなったB(死亡当時54)さんのケースでも、過労死を主張して遺族が遺族給付と葬祭料を請求したが、不承認とされた。1991年に入社した故人は、2013年までの22年間、昼夜交代で働き、同年3月から死亡するまで連続二交代で働いた。自動車の作動検査業務を担当した故人は、100種類を越える検査項目に伴うストレスと、不良を見逃してはいけないという緊張感に苦しめられ、『有害な作業環境(騒音)』基準の80デシベルを超える環境で働いた。これについて△交代制業務、△有害な作業環境(騒音)に曝露する業務、△精神的緊張が大きい業務などに露出したと主張したが、釜山疾病判定委は業務と傷病の間の因果関係を認めなかった。Bさんの遺族は昨年10月、再審査を請求した状態だ。
労働部が2017年12月に慢性過労産災の認定基準を改編し、週当り平均業務時間が52時間に達していなくても、疲労を加重する業務を複合的に行った場合、産災と認められるようになった。業務負担加重要因は、△勤務日程の予測が難しい業務、△交代制の業務、△休日が足りない業務、△有害な作業環境(寒冷・温度変化・騒音)に曝露する業務、△肉体的な強度が高い業務、△時差の大きい出張が頻繁な業務、△精神的な緊張が大きい業務の全部で七つだ。問題は『複合的に行った場合』に関する基準がないという点だ。公団の判定指針には類型別の認定事例が整理されているが、基準が明確でないため、疾病判定委員の裁量に依拠せざるを得ない構造だ。クォン・ドンヒ公認労務士は「加重要因の一つ一つに対する細かい判断がされるべきなのに、(慣性によって)業務時間だけで判断する傾向が強い」とし、「特に、精神的な緊張が大きい業務が明確な加重要因として新設されたが、ストレスに対しては消極的に判断する傾向が強い」と指摘した。
産災承認率は2018年に8.7%反騰した後に停滞
加重要因に対する具体的な判定基準を立てなければ
公団が昨年10月に発表した『疾病判定委2020年第3四半期審議現況分析』によれば、脳心血管疾患の産災承認率は、改正告示が施行された2018年に反騰した後は停滞している。2018年には前年比8.7%増加した。しかし、2018年に41.3%、2019年に41.1%、2020年(第3四半期) 38.9%で、40%内外に留まっている。全体の業務上質病産災承認率がそれぞれ63%、64.6%、63.4%であることを勘案した時、顕著に低い数値だ。
蔚山産災追放連合のヒョン・ミヒャン事務局長は「脳心血関係疾患は、他の業務上疾病に比べて重症疾患に繫がる可能性が大きいだけに、長期の治療を受けなければならないケースが多い」「産災承認を受けられなかった時、長期治療に伴う経済的な負担と生計問題による苦痛も大きくならざるを得ない」とし、「制度を改善する前に、告示通りに、業務時間に比べて十分に考慮されていない様々な要因の総合的な評価が反映されれば、低い産災承認率の問題も改善できる」と話した。
蔚山産災追放連合は15日、釜山疾病判定委の委員長と面談し、脳心血関係疾患の業務上疾病認定に関連する要求事項として、△2018年に改正された告示基準をキチンと適用、△業務負担加重要因の総合的な検討、△脳心血関係疾患の低い産災承認率問題の改善、△疾病判定委員に対する教育の強化を挙げた。
韓国労働安全保健研究所のリュ・ヒョンチョル所長(職業環境医学専門医)は「細部的な基準自体が用意されておらず、疾病判定委の人的構成によって結果が変わる可能性が大きい以上、加重要因を具体的、明確に判定できる基準を立てるべきだ。」「合わせて、消防公務員など特定職種に発生した脳心血関係疾患は産災と認定するといった、職種による推定の原則の導入についても考えることが必要だ」と提案した。
2021年1月25日 毎日労働ニュース オ・コウン記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=201002