主治医の一言で、動きが困難でも『就労可能』通院日のみ休業補償 2020年12月29日 韓国の労災・安全衛生
サムソン電子の半導体工場で、生産職オペレーターとして働いたKさん(46)は、免疫系の異常で全身に炎症ができる病気のループスで、昨年3月に業務上災害が認められた。ループスと診断されて14年目、産業災害の給付を申請したのは4年4ヶ月目だ。職業病として認められたという喜びは少しの間だけだった。勤労福祉公団の休業給付支給制限判定のせいだ。公団は産災認定期間、2741日(2011年10月29日~2019年4月30日)のうち、通院治療した76日だけを休業給付の支給日と認定した。
Kさんを看てきた姉は、「2011年以後、入・退院を繰り返し、度々倒れて挙動も上手くできなかった。」「療養院に入所させようと療養申請もしたが、76日しか休業給付を支給されていないので話にもならない」と鬱憤を話し、「昨年8月に筋電図検査に関する主治医の所見だけで、就労可能と決定したのは不当だ」と主張した。
Kさんのように、やっと産災を認められても、休業給付の申請過程で別の壁にぶつかる被災者に会うのは簡単だ。産災の承認と療養期間延長、休業給付の支給決定の過程で、主治医の所見書や診療計画書が重大な影響力を持つが、これを客観化するための制度や教育が足りないからだ。
専門家たちは「被災患者に対する医師の知識と認識が低い状況」で、「産災制度を教育し、社会保険としての産災の認識レベルを高める必要がある」と口をそろえた。
「助けがなければトイレにも行けないのに・・・・」
チョ・スンギュ公認労務士(パノリム)は「Kさんは療養期間の初期の2011年10月頃は入院治療が多く、2012年8月には脳梗塞になった。」「国民健康保険公団が日常生活と社会生活への制限を認め、療養等級3等級とした点を考慮すれば、該当期間に就労しながら治療するのは難しい」と主張した。当時、Kさん一人では顔を洗ったりトイレの使用も難しく、周りの助けが必要な状況だった。Kさんは症状が酷くなった2006年から就労できず、家族の世話を受けてきた。現在は生活保護を受けて生計を立てている。
それでもKさんの主治医は、現在の症状を中心に「しびれ症と皮膚発疹の所見で、これらの症状は、不便だとはいえ、日常的な活動や業務に支障を与える程度ではないと判断される」という意見を出し、勤労福祉公団・富川支社は、主治医の所見を根拠に、通院治療をした76日に対してだけ、休業給付の支給を決めた。Kさんと家族は公団の決定に従わず、産業災害補償保険審査委員会に審査を請求したが、結果は変わらなかった。Kさんは今年8月に再審査を請求し、再審査委員会に主治医の所見を再度申請した状態だ。
京畿道医療院坡州病院のイ・ジンウ労働者健康増進センター長は「(Kさんの場合)病状回復の後の日常生活ができるのと、就労治療ができるのとでは意味が違うのに、主治医が就労治療可能を余りにも広く解釈したことで起こった問題」と説明した。
診療計画書の作成拒否に心痛、「もの乞いでもするようで、病院に行きたくない」
産災保険制度の理解レベルが低いために、医師が所見書・診療計画書といった書類の作成に拒否感を示したり、不誠実に作成するケースも起こっている。
2017年に非ホジキンリンパ腫4期の診断を受けたJ(33)さんは、翌年に産災を認められた。しかし主治医の非協力で、産業災害給付申請の過程で困りはてた。
2018年8月の産災認定の前に、血液腫瘍内科の主治医のK医師は、産災保険の所見書を「一度も書いたことがない」という理由で遅れて提出し、就労治療ができるかどうかと、入・通院の予想期間など、一部の項目は記載すらしなかった。主治医がAさんに変わった後も、Jさんの心痛は続いている。10月に非ホジキンリンパ腫が再発し、療養期間延長のために治療計画書の作成を要請すると、直ぐに『就労治療可能の有無』欄ではなく『原職復帰の有無』欄に、「現状で原職服帰が可能」と表記した。その書類には「原職復帰に対する災害者の意志」を表記する欄もあったが、この欄には記載しなかった。
Jさんは2005年にサムソンディスプレイの蕩情工場に入社したが、生理不順・下血などの健康異常によって2008年に退社した。Jさんは、12年前に退社したサムソンディスプレイには帰ることもできず、帰りたくもないところだ。
Jさんは「初めて診療した教授もそうで、現在の診療教授も、産災関連の書類自体を知らない上に、自分がなぜ書かなければならないのかも解らない状態だった。」「診療計画書の作成を拒否した時は、書類を書いて欲しいともの乞いでもするようで、病院に行きたくないほどだった」と証言した。
チョ・スンギュ労務士は「最近まで坑癌治療を受けていた患者を、交代勤務をしているサムソンディスプレイに復帰させようという、産災制度の意味を正しく理解できていないという以外には説明する方法がない」と批判した。
職場・産災制度の理解度が低い主治医
韓国労働安全保健研究所のリュ・ヒョンチョル所長(職業環境医学専門医)は、「原職復帰は、被災者の意志が最も重要だ。」「当事者が原職復帰を希望することを前提に、主治医が可能か不可能かを判断することが適切だ」と指摘した。リュ所長は「臨床的な意見だけで、断片的に該当事案を判断してはいけない。」「産災の療養が承認された被災者に、就労治療が可能かどうかと、原職復帰が可能かどうかの判断は、治療に必要とされる医療へのアクセシビリティを含む多様な社会的な資源へのアクセシビリティ、治療・リハビリ、再発防止のための会社内での便宜・補助施設の装備、会社内の支持などが考慮されるべきだ」と強調した。
イ・ジンウ・センター長は「ほとんどの医師は、個別の勤労者の『職場』の状況をよく解っていない。」「これに対する基礎教育が、医大の教育過程で補強されるべきだ」と主張した。彼は「産災患者に対する医者たちの知識と認識が低い」とし、「医師の研修教育の必須項目に追加して、産災制度の教育や社会保険としての産災保険の認識レベルを高める努力が必要だ」と付け加えた。
勤労福祉公団の関係者は「休業給付は、産災保険法上、就労できない時に支給するが、原職服職だけでなく、他の事業場への就労、自営業・生業などを含む概念で見ている。」「ある程度、労務を提供できる状態なら就労が可能だと見るので、日常生活をする時の不便さはあっても、単純な業務でも働くことができる状態なら、就労治療が可能な状態と見る」と説明した。
2020年12月29日 毎日労働ニュース カン・イェスル記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=200567