パワハラ・セクハラに対する私たちの取り組み

私たち全国労働安全衛生センター連絡会議は、職場のパワーハラスメント(パワハラ)の問題について、労働者の立場に立ち長年にわたり相談や支援にあたってきた団体や個人の全国ネットワークです。

今回、厚労省による『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)に係る意見募集』について、下記の通り、意見を提出いたします。

1、指針案2(7)前半のカッコ内の記述について

この項の前半部分のカッコ内で、「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」との記述がある。指針案の2(1)においてすでに同じ記述があり、この項で再度繰り返す必要性は皆無である。この記述を削除すること。

2、指針案2(7)の「パワハラに該当しないと考えられる例」について

「指針素案」から修正された後も、その多くが抽象的な定義のため、労働現場で拡大解釈され、パワハラの正当化に使われる恐れがある。また、パワハラ被害者が、自分の相談がこの例によって門前払いされるのでは、と相談をためらわせる危険もある。

そもそも、労働安全衛生に関する指針は、その対象とする問題を広範かつ包括的に規定しなければ、労働者の安全と健康を守るための予防指針としてまったく実効性を保てない。今回の指針は、民法上の不法行為とされないレベルのパワハラも対象として、その防止を図るものである。裁判例に基づいて検討された事例をそのまま指針に盛り込むことは、指針の対象となるパワハラの範囲を不当に狭めるものであり、盛り込む必要性もまったくない。

こうした観点から、「パワハラに該当しないと考えられる例」は、一つ残らず削除すること。

3、指針案4(1)について

指針案4(1)では、事業主に対して、パワハラの内容およびその禁止の方針を明確化することを求めている。

職場において実効的なパワハラ禁止の方針を明確化させるためには、実際にパワハラ被害の訴えがあった事例も踏まえて、各職場で起こりうるパワハラの実態に即した方針の策定が必要である。指針案4(1)において、各職場での実態調査を行った上で4(1)のイおよびロの措置を取るよう明記すること。

また、「いじめ・いやがらせ」による精神障害の労災請求事案や労災認定事例、また労働局に寄せられている相談事例などは、様々な職場から寄せられるパワハラ相談の実態を示すものであり、最も参考にすべき情報である。それらの事例について、(個人情報保護の措置を行った上で)パワハラ防止の観点から事例情報の活用を進めるべきである。指針案4において、それらの事例の活用を明記すること。

4、指針案4(2)および(4)について

指針案4(2)では、事業主に対して、パワハラの相談窓口の設置を求めている。しかし、私達のもとには、社内の相談窓口に相談したが機能していない、との被害相談が多く寄せられている。パワハラの訴えへの実行的な対応を実現するためには、調査や事後対応に関わる可能性のある専門委員会などに関する規定も必要である。

指針案4(2)において、相談窓口だけでなく、相談対応に関連する専門委員会なども含めた包括的な体制作りを各事業場が行うよう、明記すること。

また、4(4)について、相談窓口や専門委員会の構成員から、パワハラの行為者や利害関係者を外すことを明記すること。それが困難な場合(例えば、組織トップや組織全体によるパワハラ)には、外部機関・第三者委員会の活用を図ることを明記すること。

5、指針案5(2)について

この項に、「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当せず、労働者が、こうした適正な業務指示や指導を踏まえて真摯に業務を遂行する意識を持つことも重要である」との記述がある。

そもそも業務指示や指導を適切に行う責任は、経営者や管理職にある。適正な業務指示や指導を理解しない労働者の意識が悪いと言わんばかりの、この文章自体がすでにパワハラそのものであり、労働者がパワハラを相談することを委縮させるものである。この文言を削除すること。

6、指針案5(2)ロについて

労働者の尊厳と権利を無視した経営が広がり、過剰なノルマ設定や現場の実情を無視した人員削減などが横行していることが職場のハラスメント問題の最大の原因であり、職場環境の改善こそが、パワハラ予防において最も重要な点である。この項について、より詳しく分析して労働現場の好事例を紹介するなど、記載を充実化すること。

また、「労働者に過度に肉体的・精神的負荷を強いる」とあるが、「指針素案」では「過度に」との文言は無かった。職場環境の改善を進める上では、広く労働者の負荷の軽減を図るべきであり、「過度の」と限定してはならない。労働者の視点に立ち、「過度の」との文言を削除すること。

7、指針案の全体について

厚労省が2019年に改訂した「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」について一言も言及がない。これは、厚労省がこれまで進めてきたパワハラ防止対策の包括的なマニュアルであり、指針の中で言及し、その活用を図ること。