アスベスト問題に対する私たちの取り組み

2017年7月に中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会は、20人の代表団をイギリスに派遣しました。アスベスト被害が顕在化している国ならどこにでも患者・家族団体が存在しているものの全国ネットワークが形成され機能しているところは少ないなか、イギリスではアスベスト被害者新団体フォーラム UK(AVSGF-UK)があり、毎年同じ日に各地でアクション・メゾテリオーマ・デー(AMD)の取り組みが行われているということで、地域による違いと共通性、地域自立と全国連携の経験に学ぶことを目的としたものでした。同年3月末ベルギーにおける歴史的 なアスベスト訴訟の高裁判決に集まった各国の患者・家族団体代表にこの計画が伝えられたことから(日本からも代表派遣)、フランス、ベルギー、スペイン等からも代表が集まって7月4日にマンチェスター で国際交流会がもたれるとともに、日本代表団は4 人ずつ5グループに分かれて、7月7日にマンチェスター、リバプール、バーミンガム、シェフィールド、ダービーの5都市で取り組まれたAMD行事に参加する「歴史的ミッション」となりました。

7月15日には東京で石綿対策全国連絡会議結成30周年記念 アジア・世界のアスベスト禁止をめざす国際会議が開催されました。この場における 中皮腫患者同士の出会いもきっかけのひとつとなって、中皮腫患者自身による中皮腫患者のピアサポート活動が、患者と家族の会の「中皮腫サポートキャ ラバン隊」活動として取り組まれることになりました。 同年9月から2018年5月までに全国18か所以上で講演会・交流会が開催されたほか、個別訪問や病院まわり等も通じて、100人以上の患者を励まし患者同士の絆をつくりだしただけでなく、患者と家族の会にとっても会員の拡大や支部活動の活性化、新たな支部の結成等にも貢献したことは間違いありません。中皮腫患者に「希望」を与える闘病記・ 患者の聞き書きをまとめた『もはやこれまで』も2018年6月に出版されました。キャラバン隊の中心メンバー2人が日本肺癌学会のガイドライン検討会中皮 腫小委員会の委員を委嘱されたり、他のがん患者 支援団体とのパイプ役になったり、また、メディアがキャラバン隊の活動を取り上げることを通じて中皮腫・アスベスト問題に対する認識を広める効果も果たしてきました。

そして、患者と家族の会が開催してきた省庁交渉が2018年6月1日「中皮腫患者100人集会省庁 交渉だよ!全員集合」プロジェクトとして取り組まれました。院内集会も含めて、全国から患者約50名 (中皮腫患者35名)、家族・遺族、支援者ら200人以上が集まり、参加できなかった患者10数名のビデオレターや患者さんの放射線治療の痕を示したパネルも紹介され、またYouTubeによる生中継を通じて参加された方々もいました。準備・運営も患者さんを中心としたプロジェクトチームが担い、内容も含めて例年をはるかに上回る迫力になりました。

翌6月2日午前中の石綿全国連新宿駅西口駅前情宣活動には、患者と家族の会と建設アスベスト訴訟原告の患者・家族を中心に200人以上が参加して、宣伝カーの上に4人の女性中皮腫患者が立って人生初めての訴えをされたときには、通行 中の多くの方が足を止めて聞き入っていました。同日午後の石綿全国連第30回総会でも「中皮腫サポートキャラバン隊活動報告~明るく 元気に行こうぜ~」が行われ、大きな感銘を与えました。最後の活動報告では、キャラバン隊活動と会の支部活動の一層緊密な連携、ピアサポート研修と中皮腫ピアサポートネットワークの構築、中皮腫サロンの開催等の展望が語られています。 キャラバン隊の登場は2017年7月のイギリス訪問には間に合いませんでしたが、2018年7月はじめソウルでの韓国石綿追放運動ネットワーク(BANKO) 結成10周年行動(7月2日韓国・日本・インドネシア国 際会議と7月3日ロシア・カザフスタン・中国大使館 前)には、インドネシアからの3名とともに、4名の中皮腫患者、6名の患者家族、その他5名が参加し、3 名の中皮腫患者がその後7月8日までソウルから忠南、釜山をまわる韓国キャラバン隊が行われました。

日本のアスベスト問題の歴史では、2002年5月に 石綿全国連の呼びかけで初めて、全国から中皮腫・石綿肺がんで夫を亡くした10名の遺族と石綿 肺患者数名も加わって厚生労働省担当者に直接思いをぶつけたことが、翌月の坂口力厚生労働大 臣(当時)の「石綿の原則禁止導入の意向表明」につながりました。石綿全国連はそれから準備に2年かけた2004年2月患者と家族の会結成を応援し、同年11月の世界アスベスト東京会議は日本の患者・家族が世界の仲間と出会う最初の機会になりました。2005年夏のクボタショックは、労災被害者 を中心に結成された患者と家族の会が尼崎の環境被害者を支えるかたちで展開、その後現在までに全国に20の支部ができるまでになったわけです。全国安全センターと多くの地域センターはこの間、全国・地域で患者と家族の会を支えてきました。

患者と家族の会の会員約900名のうち患者が1 割にとどまり、家族・遺族が動ける当事者の主力を担わざるを得ない面があることは、中皮腫を筆頭にアスベスト関連疾患の予後がきわめて悪いことを反映したものでもあります。しかし、いま「元気のいい患者」さんたちが自分たち自身でできることを次々と提起・実行するようになったことは、患者さんご本人のニーズに対する対応能力を大いに高めるとともに、患者・家族・遺族・支援者らが各々に、また一丸となって活動を飛躍させる画期的な機会を提供しています。これを生かしていけるかどうかはすべての関係者にとって大きなチャレンジです。