「被災者遺族の特別採用団体協約は有効」と韓国大法院が判決、 雇用世襲論議に『終止符』 2020年8月28日/韓国の労災・安全衛生

労働者が業務上災害で死亡した場合、遺族を採用するようにした団体協約は社会秩序に違反しない、という大法院の判断が出た。

一・二審判決は、協約上の特別採用条項は使用者の雇用契約の自由を制限し、就職機会提供の平等に反し、社会秩序に背くとして、協約の条項を無効と判断していた。

大法院全員合議体は27日、起亜自動車と現代自動車で働いて、急性骨髄性白血病に罹って亡くなった労働者Aさんの遺族が現代車・起亜車を相手に提起した損害賠償請求訴訟で、原審を破棄して事件をソウル高裁に差し戻した。

使用者が自律的に結んだ協約、災害補償責任の達成手段

被災者の遺族の採用を巡る論議は2013年に遡る。当時、勤労福祉公団は、2010年に49才で急性骨髄性白血病で亡くなったBさんの死を産業災害と認定した。故人は1985年に起亜自動車に入社し、2008年に現代車で転籍した。遺族は現代・起亜車に「業務上災害による死亡と6級以上の障害を負った組合員の直系の家族一人に対して、欠格事由がない限り、要請した日から6ヶ月以内に特別採用する」という協約の履行を要求したが、会社はこれを拒否した。2014年、遺族は会社を相手に損害賠償請求訴訟を提起した。
一・二審は、特別採用条項が民法103条に違反するとして会社の手を挙げた。民法103条は「善良な風俗その他、社会秩序に違反した事項を内容とする法律行為は無効にする」と規定する。

しかし、大法院判事の多数は、特別採用条項は使用者の採用の自由を制限しないと見た。会社が自由意志によって被災者の遺族の採用条項に合意し、数年にわたって持続的に被災者の遺族を採用してきたというのが根拠だ。憲法上の協約自治の原則によって、該当条項は有効だということだ。

キム・ミョンス大法官は「該当条項は、定年退職者、長期勤続者の子女を特別採用したり優先採用する合意とは異なり、死亡した勤労者の犠牲に相応する補償をして、遺族を保護、または配慮するためのもの」とし、「使用者が負担する災害補償の責任を補充したり拡張するもので、遺族保護という目的を達成するのに適合した手段」と判示した。

該当条項が締結された1994年から2016年までの22年間で、被災者の遺族が会社に採用されたケースは16人で、二つの会社の新規採用人数に照らしてみればきわめて微小だという点も決定に影響を及ぼした。最近何年間かの萎縮した採用市場で社会的な議論になった『採用機会の公正性』に関しても、「公開の競争採用手続きの中で優先的に採用されるのではなく、別途の手続きによって採用される」ので、重大な影響を及ぼさないと判断した。

少数意見を出した二人の判事は「被災者の遺族を保護する方式が、求職希望者という第三者の犠牲を基盤としてはならない」とし、「被告(会社)は公正な方式で採用手続きを遂行する社会的責任を負う」と主張した。

現代・起亜車は遺族に謝らなければ

金属労組は大法院の宣告直後に、大法院の正門前で記者会見を行った。
キム・サンウン弁護士は「被災遺族の特別採用条項は、1994年から協約によって保障されてきた」とし、「今回の大法院判決は、この間行われてきた労使間の自治によって締結された条項を、民法103条を理由に無効にしようとした政府と使用者の意図にブレーキをかけた判決」と説明した。「使用者と政府が労使が締結した協約を無力化して、それによって労組を瓦解しようとする試みがあってはならない」と強調した。

2016年、朴槿恵政府の時期に、労働部は企業の協約の内容を点検した後、現代・起亜車など「組合員の子女優先採用条項」がある所には協約の是正命令を出して、労組弾圧論議が起こった。

この日、労組は「労働部は是正命令を直ちに取り消して、協約を遵守しない事業主を厳重に処罰せよ」と要求した。

パク・セミン金属労組労働安全保健室長は、「問題の発端は、労使が締結した協約を否定し、産業災害で死亡した遺族の採用要求を拒否した現代自動車側にある」とし、「この8年間、遺族たちはまるで青年たちの就職機会を剥奪して、青年失業を引き起こした準犯罪者の扱いを受けてきた」と批判し、「現代車は遺族に謝罪して、協約に従って遺族の採用に応じなければならない」と主張した。

2020年8月28日 毎日労働ニュース カン・イェスル記者

http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=166262

日本語訳:中村猛