労働安全衛生で女性を可視化する Making women visible in occupational health and safety 2020年1月17日 国際食品関連産業労働組合連合会(IUF)
目次
なぜ労働安全衛生にジェンダーを統合する必要があるのか
世界中の労働組合が、職場をすべての労働者、女性と男性にとってより安全で健康的にすることを促進しているが、女性の労働安全衛生は十分な注意を払われていないか、またはまったく無視されていることもしばしばあり、労働者を傷害や病気のリスクにさらしている。
(ジェンダーに関連した暴力、妊娠、月経や閉経など)とくに女性に影響を及ぼす安全衛生問題が適切に対処されていないことに多くの女性組合員が懸念を提起していることから、IUFは労働安全衛生へのジェンダーの統合に関する情報を発行することを決定した。すべての者にディーセントワークを確保する闘いのなかで、これに対処するための早急な取り組みが必要である。
この情報ハンドブックには、問題の簡単な概要、IUF加盟組織から提起された懸念や、とることのできる対策に関する提案が含まれている。ボディ/ハザード・マッピングを含め自分でできる調査についての概要の説明と、組合員が労働安全衛生にジェンダーを統合するのに役立ちうると思われる問題点のチェックリストもつけた。
イギリスの「長生き:後のワーキングライフにおける介護」報告書(2019年3月)は、高齢の女性労働者について別の視点を与えている。
イギリスの人口の高齢化につれて、ワーキングライフの終わりに向けて家族のために介護をする労働者の数が増えている。高齢の女性労働者の4人に1人、高齢の男性労働者の8人に1人が介護の責任をかかえている。
いまなお男性よりも女性が介護の役割を引き受けるという社会的期待がある。男性が行う介護のほとんどが配偶者か親に対するものであるのに対して、女性は家族以外を含めたより広い範囲の人々の介護を行う可能性が高い。
職務の分離と誤った仮定
いまや女性は世界の労働力の48.5%、農業労働力の27.6%(低所得諸国では66.5%に上昇)を構成しているにもかかわらず、労働市場は大きく分離されたままである。女性と男性はいまなお異なる作業をしており、また、女性と男性は職場で異なる物理的・心理的ハザードやリスクに曝露しているかもしれない。男性と女性の職務の分離は、誰がリスクにさらされ、誰がさらされていないかについての誤った仮定につながっている可能性があり、また、一定の業種における雇用への障壁を生み出している可能性がある。
ステレオタイプ化を避け違いを認識する必要性
主に社会的期待や「性」によってつくられ、生物学的に決定される特性を含む、女性と男性のそうした特性を言い表わす両方の「ジェンダー」は、いろいろな意味で労働者の安全と健康に影響を及ぼしいている。意識の高まりや労働組合によるキャンペーン、また、ゆるやかな調査研究の改善にもかかわらず、こうした違いは、いまなお無視、誤解または汚名を着せられることが多すぎて、女性の職業病や労働災害の予防における失敗につながっている。
女性が直面する二重の危険
女性は、子供や成人の家族の世話や掃除、料理、水や燃料の運搬などの家庭における(無給)労働の大部分を担っている。国連女性機関による情報は、女性は男性よりも少なくとも2.5倍多く無給の家事・介護労働を行っていることを示している。女性はそのうえ有給の労働も行い、より多くパートタイムで働いている。Women Brain Projectが述べているように、介護者としての責任に起因するストレスは、様々なメンタルヘルス障害やストレス関連疾患のリスクを高める。女性は男性よりも、例えばアルツハイマー病、髄膜腫(脳腫瘍)や多発性硬化症を診断されたり、罹患する可能性が高い。
国連女性機関による情報は女性は男性よりも少なくとも2.5倍多く無給の家事・介護労働を行っていることを示している。
このいわゆる身体的かつストレスフルな労働の「二重の負担」は、女性の余暇時間と有給労働を行う可能性を制限するだけでなく、彼らの健康に打撃を与える。
少ない労働安全衛生調査研究と少ない女性労働者保護
労働安全衛生(OHS)調査研究は、たとえ女性が同じ仕事に就いていたとしても、男性にだけ焦点をあてがちであった。
化学物質への曝露の予防-より多くの女性ベースの調査研究が必要
残留性有機汚染物質(POPs)や農薬などの他の化学物質と女性の健康障害の因果関係に関する最近のある証拠のレビューは、調査研究が主に男性または雄の齧歯動物に焦点をあててきたことを見出した。それは、製造工場でまた農薬散布者として働く女性労働者に関する調査研究の必要性を確認している。
職業曝露限界(OELs)を安全と不安全の間の確かなラインとみなすべきではないのであるが、それはすべての労働者を保護するものと思われている。しかし、それらはたいてい男性についての調査研究や実験室での検査に基づいている。その結果が女性に適用されるかもしれない医学研究でさえも、いつも実験室で飼育された雄のマウスなどの男性被験者に対して行われている。しかし、ジャーナリストのキャロライン・クリアド・ペレスは「男性と女性は異なる免疫システムと異なるホルモンをもっており、そのことが化学物質の吸収のされ方に役割を果たしている可能性がある」と指摘している。女性は男性よりも小さく、皮膚が薄い傾向があり、その双方が彼らが安全に曝露することのできる毒素のレベルを下げている可能性がある。低い許容閾値が女性の体脂肪の相対的に高いパーセンテージと複合され、そのなかでいくつかの化学物質が累積する可能性もある。
ホルモンの影響(月経、閉経、泌乳)も化学物質曝露への反応を修正する可能性がある。例えば「疫学研究は、喘息発作の感受性が月経前期に増加し、アレルゲンや刺激物に対する気道反応が、時とともにまたホルモンによって、変化することを示してきた。こうした違いが、女性を男性よりも職業性喘息に対して敏感にしている可能性があり、月経前期における追加的予防対策(例えばとりわけ個人保護機器[PPE])の必要性を示している」。
ILOは言っている
とりわけ家事も考慮に入れなければならない場合に、有害物質やリプロダクティブヘルスに対する生物学的因子への曝露、重労働の身体的要求、職場の人間工学的設計や労働日の長さの異なる影響に対する懸念が表明されてきた。現在、一定の化学物質、遺伝子組み換え実験室で育成・収穫された遺伝物質、及び新たな遺伝特性をもつ医薬品への曝露の異なるジェンダー関連リスクについての情報は不足しており、それらのすべてが女性と男性に対して異なる長期健康影響をもつかもしれない。潜在的な職業上の原因はいまだ調査されておらず、適切なガイダンスを利用できるようにするために、職業曝露とそれらの結果の間の関連性を評価する調査研究が必要である。
さらに、職務の分離が女性の健康と安全に深刻な影響を与えている可能性がある。例えば、バナナ・プランテーションで働く女性が、安全の見地から作物への農薬の吹き付けを行うことを使用者によって許されていない場合がある。しかし、同じ職場で女性だけしか行っていない「相対的に安全」と言われる職務には、男性の吹き付け作業者が着た汚染された作業着の手洗いが含まれている。これは、健康に対するリスクの認識なしに、また曝露を予防するための情報や保護を提供する措置も講じられることもなしに、彼らを有害な化学物質に曝露させる。清掃・介護労働は女性に偏った労働力によって行われていることが知られている。女性の健康はまた「ラテックス粉じんを含有する保護手袋はもちろん、濡れた手で化学洗浄剤や滅菌剤を扱う労働をするときに罹患する皮膚疾患によっても影響を受ける。(…)介護労働、ケータリング、民間・公共サービス活動や教育部門では、女性は男性よりも感染症により多く曝露する」。
「ひとつのサイズが全員に適合する」という思い込み-と差別的な態度の普及-が女性をリスクにさらしている
「ひとつのサイズが全員に適合する」、また、「男女共用」のユニフォームやPPEを提供すれば十分であるという考え方が、いまだにまん延している。女性は小さな男性ではなく、小さな男性は女性ではない!PPEは労働者を守り、追加のハザーズを生み出さないと思われている。女性は、男性用にデザインされたオーバーロールやサイズの合わない安全靴、手袋や作業用コートを着用するよう求められると報告している-ある女性宇宙飛行士は(中サイズの)適当な宇宙服がないという理由で、最初の全員が女性の宇宙遊泳に参加することができなかった。
同じような思い込みがしばしば作業機器にも当てはまる。あるホテルチェーンは、部屋清掃作業者が使用するために新しいサプライカートを導入した。労働者らはそれを簡単に向きを変えることができず、痛みに悩まされることから使うことを拒否した。清掃労働者の組合に呼ばれた人間工学者が機器を検討し、プッシュバーが高すぎ、またカートが作業環境に適していないことがわかった。例えば、それを厚いパイルカーペット全体に押し動かすことは困難である。また、カートは(身長が相対的に低い主にラテン系の女性労働者よりも)ヨーロッパ出身の男性が使うのにちょうどよいように設計されていた。
労働者の尊厳を傷つけ、彼らの健康と安全をリスクにさらす、露出した衣服やハイヒール靴を着ることを使用者が求めることを含め、職場ドレスコードに関連して、差別的な態度がいきわたり続けている。女性は反撃しつつある-イギリスでは、仕事の報告をしたときにスマートローヒール靴をハイヒール靴に換えるよう言われたある女性受付係が、企業が女性に労働でハイヒールを履くよう要求することを違法にするよう求める請願を議会に行った。これは政府による安全衛生と差別の問題を警告した職場ドレスコードに関する新たなガイダンスの発行につながった。また、より最近では、日本で女性が同じ問題について政府に対して請願した。
女性は小さな男性ではないし、小さな男性は女性ではない
女性労働者の特別な労働安全衛生問題
IUF加盟組織は前述のように、早急に対処される必要のある多数の女性の労働安全衛生問題を確認している。
セクシャルハラスメントなどジェンダーに基づく暴力を含め、労働の世界における暴力の予防。最近採択された労働の世界における暴力・ハラスメントの根絶に関するILO条約(C190)・勧告(R206)はその点における非常に有用なガイダンスを提供している。IUFとその加盟組織はこれら重要かつ進歩的な国際文書の採択につながった交渉に関与してきたし、C190の批准に向けてキャンペーンを行っている。
妊娠とリプロダクティブヘルス、及び、(女性がしばらくの間自らの妊娠に気づかないことも多いことから)出産年齢のすべての女性のための適切な職場安全衛生リスクアセスメントの実施による、妊娠中の労働者と彼らのまだ生まれていない子供を労働における危害から守る必要性。
労働における清潔、安全、堅牢かつ独立したトイレと福利施設へのアクセス。アクセスの欠如は、労働者をセクシャルハラスメントを含めた暴力のリスクにさらすことはもちろん、彼らに健康問題を生み出し、または増悪させる可能性がある。
労働における月経と月経期の尊厳
女性労働者は月経時に労働において支援されるべきである。女性のためのトイレと休憩施設が利用可能、清潔、堅牢かつ女性にとって適切でなければならない。IUF加盟のUnite(イギリス・アイルランド)はPeriod Dignity[生理時の尊厳]キャンペーンを行っている。このキャンペーンの目的は以下のとおりである。
- 月経期に向けた態度の変革-月経期は誰にとってもばつの悪いものであってはならない。
- 使用者に職場で生理用品を提供させる-われわれはこれをすべての職場の規範にしたい。
- 学生や従業員に生理用品を提供する教育の場所-われわれは若い女性の教育が損なわれないようにするためにこれを規範にしたい。
- すべての生理用品を免税にさせる。
- Period Poverty[生理用品を買う余裕のない貧困]キャンペーンを支援する。女性と若い女子はこうした必須の製品へのアクセスをもつべきである。Period Po-vertyに直面する者があってはならない。
閉経
閉経は病気ではなく、高齢の女性のみに影響するものでもないが、女性に有害な身体的・心理的影響をもちうるものであり、個々の症状は大きく異なっている。それは労働衛生問題であり、労働組合が職場でこの問題を取り上げ、使用者に職場の状況が症状を悪化させないようにする責任をわからせることが重要である。閉経を経験しつつある女性は、何らかのかかえている場合の相談窓口があることを知っている必要がある。いくつかの加盟組織は組合代表のためのガイダンスを作成している。
骨粗しょう症
骨粗しょう症は、骨内の網目状の構造を構成する支柱が薄くなって、ささいな衝突や落下でも簡単に壊れたり折れたりしやくすくなったときに生じる。個人の状況によってはこれは雇用に影響を及ぼすかもしれない。女性は閉経期に生じるホルモンの変化が骨密度に直接影響を及ぼすことから、男性よりも骨粗しょう症を発症するリスクが高い。骨粗しょう症は、均等法のもとで障害とみなされるかもしれず、使用者は労働者と協議のうえで適切な支援や合理的な調整を提供すべきである。
筋骨格系障害
労働関連筋骨格系障害(MSDs)には、反復作業や激しい作業に関連した様々な健康問題が含まれる。MSDsは、男性と女性の双方に影響を及ぼすが、上述したような女性の身体に合うように設計されていない道具や機器の使用により、症状の出現率には明らかな違いがある。そうした症状は、不快感、わずかなうずきや痛みから、影響障害につながり得るより深刻な医学的状態にまで及ぶ。毎年何百万もの労働者がMSDsに罹患している。もっともよく知られているMSDsは、腰痛と労働関連上肢障害である。MSDsは、小売、飲食、製造などいくつかの部門でより広範に、また花の包装作業場でも一般的である。下肢障害の場合、女性は(例えば小売部門、飲食部門や清掃作業などで)長時間の立位や歩行に著しく曝露している。MSDsは、家庭での家事労働や月経・ホルモン周期などほかの問題によって増悪させられる可能性がある。
ストレス
女性は男性よりも職業ストレスを報告する可能性が高い。(ホテルやケータリング、家庭内作業を含め)依頼人や顧客などの第三者との接触がかかわるいくつかの職業は、労働者を暴力やハラスメントを含め有害なストレッサーに曝露させる可能性がある。職業ストレス(及び暴力)を予防するための効果的な職場安全衛生方針が実施されているべきであり、また、予防の観点からストレスが効果的に管理されているようにするために、ストレスの報告が支援・奨励されるべきである。ストレスと筋骨格系障害は関連している可能性がある。
女性は男性よりも職業ストレスを報告する可能性が高い
有害物質
化学物質(例えば農薬や清掃用品)への曝露、粉じん(例えば穀物、アスベスト、粉、菌、シリカ)への曝露や生物学的ハザーズ(例えば人や動物の糞尿)への曝露はすべて、接客、農業や家庭内作業を含め多くの業種で女性が直面するハザーズである。
使用者は、すべての有害物質への曝露から労働者を守り、より安全な代替物を探し、また他の手段によっては曝露が防げない場合(の最後の手段として)適切な個人保護機器(すなわち男性用や男女共用ではなく、女性用に設計された機器)が提供されているよう確保しなければならない。
労災補償
女性の労働安全衛生問題の調査研究・認識への失敗は労働者に危害を与えているだけでなく、女性が労働関連傷病について補償されるのを妨げている。例えば:
乳がん
イギリスでは政府の労災補償が可能な唯一の女性の労働関連がんは乳がんで、それも電離放射線への曝露によって生じた場合だけである。
2007年にWHOの国際がん研究機関(IARC)は、概日リズム(「体内時計」)を撹乱させる交代労働は、乳がんを引き起こすかもしれないと結論を下した。にもかかわらず、労災補償を与えている国はこれまでのところデンマークだけである。
2019年にIARCは、さらなる検討を経て、再び乳がんと夜勤の間の潜在的関連性に言及して、夜勤労働はヒトにがんを引き越すかもしれないと結論を下した。
筋骨格系障害と労災補償-女性の補償についての労働組合の勝利
IUFのスペイン加盟組織CC.OOサービス部門FeSMCUGTは、手、手首、肘、前腕や肩に影響を及ぼす筋骨格系障害を含め、ホテルの客室係に影響を与えている職業病の認定をかちとった。これには、手根管症候群、ばね指、テニス肘、ゴルフ肘や慢性滑液包炎(関節の炎症)が含まれている。http://www.iuf.org/w/?q=node/6410
ジェンダーを考慮した安全衛生
ジェンダー・ニュートラルという言葉を使うのが当てはまる状況があるかもしれないが、労働安全衛生へのジェンダー・ニュートラルアプローチは、とりわけ男性についてのOHSデータへの過度の依存があることから、女性にとって危険である。OHSに関する決定は統合的かつジェンダーを考慮したアプローチに基づかなければならない。すなわち、労働における男女の健康と安全に影響を及ぼす意思決定において男女の意見が考慮されるようにするための、男女とも楽しい時間を過ごせるよう確保することはもちろん、適切な証拠を収集し、それらに依拠することである。
欧州連合、ILO及びいくつかの政府はガイダンスやツールを開発し、また、労働監督に狙いを定めてきた(例えばオーストリアでは、職場安全衛生管理や規制活動へのジェンダーの統合を促進するために)。
労働における安全衛生に対する包括的、統合的かつジェンダーを考慮したアプローチは、保護に対する平等な権利とすべての者により安全かつ健康的な職場を確立するための中心である。
政府、使用者及び労働者を対象にしたILOガイドライン「ジェンダーに配慮したOSHプラクティスの10のキーポイント」は、以下の必要性を強調している。
- 不平等に対処する方針の確立
- ジェンダーのメインストリーム化:安全衛生に対するジェンダーの役割の影響の探求
- リスクアセスメントへのジェンダーの包含
- 女性及び男性優位の職業双方におけるリスクの分析
- (政府によるものを含め)OSH調査研究がジェンダーの違いを考慮することの確保
- 性別OSHデータを収集するシステムの開発
- OSH調査研究・データによる知見の職場対策の意思決定への統合
- すべての者にとっての労働衛生サービスへの平等なアクセス
- ジェンダーに配慮した情報、教育、訓練の提供
- 女性及び男性のための職場、作業機器、道具、PPEの設計
- 労働時間編成とワーク・ライフバランスの検討
- すべてのレベルにおける自らの安全と健康に影響を与える決定への女性及び男性の完全な関与
次は何か? 職場での取り組みは以下について使用者と共働することが含まれ得る
- ジェンダー特有の問題の把握に役立てるための労働衛生に関する女性及び男性について別々のデータの収集と予防対策の周知
- 女性の参加が奨励・支援されることによって、安全衛生委員会や協議の場で女性の安全衛生上の懸念が議論されることの確保
- OHSとジェンダー/女性に関する情報、指示及び訓練の提供
- すべての作業行動のリスクアセスメントにおける性・ジェンダーの差の考慮
- 妊娠、授乳及びリプロダクティブヘルスが対象とされ対処されることの確保
- (セクシャルハラスメントなど)ジェンダーに基づく職場暴力が安全衛生問題として扱われることの確保-IUFとその加盟組織による多数の他の活動はもちろん、労働者グループがILOの農業における安全衛生実施基準にセクシャルハラスメントに関するモデル方針が含まれるようにしたことに留意
- 最近採択されたILO第190号条約と第206号勧告で述べられているように、家庭内暴力・虐待の安全衛生問題としての理解及びILO女性労働者を支援するための合意された方針の実施(休暇を提供する最近のニュージーランド、及びカナダの多くの州における決定を参照)
- ユニフォームや保護機器を提供する場合における性・ジェンダーの違いの考慮-ひとつのサイズは全員に適合しない!
- 例えば、閉経、流産、妊娠、月経、骨粗しょう症や他の女性の健康問題に関して、病気休暇方針が差別をしないことの確保
- すべての労働者による職業上の傷害・病気の報告の奨励及び国レベルでの認知のための闘いを含め労働者の懸念に対する効果的な対策を講じること
労働組合によって検討されるべき取り組みの より充実したチェックリストは付録2を参照
女性に関するOSH調査研究にいまなおデータギャップが存在していることから、あなたは、例えば調査やボディ・ハザード/職場マッピングなど、職場で独自の調査研究を行うことができる。
結論
ジェンダーを考慮した安全衛生プラクティスはディーセントワークを確保するものである。それは一般的に、世界中において労働における健康と安全の改善に労働組合が主要な役割を果たすことであると認識されている。
したがって。女性(及び男性)の存在がその労働から危害を受けることを防ぐために彼らが適切に対応するように、労働組合が使用者と共働できるようにするために、労働において彼らに影響を及ぼすすべての決定に、女性労働者が関与していることが不可欠である。これは、作業タスク、仕事、システム、作業機器、個人保護機器(及びユニフォーム)が女性、ワークステーション及び作業スペースにとって適切であり、また、女性-及びもちろん男性-にとって安全かつ健康的な職場であることを確保するのに適していることを(関係する労働組合/労働者との協議のうえで)確保することを意味している。
労働安全衛生調査研究に影響を受ける女性が関与していることを確保することもきわめて重要である。しかし、(交替労働を行うことによる乳がんのリスクの増大など)調査研究の知見が、交替労働から女性を除外したり、特定の職業、業種または仕事への女性の参加を制限する言い訳として使われることがあってはならない。交替制で労働することは、男女双方にとって-様々な健康問題を引き起こす可能性がある。
OHSへのジェンダー・アプローチのために闘うことは、ディーセントワークのための闘いにおいてすべての者にとって利益になるだろう。このアプローチは、すべての労働者を含み、また、すべての者にとって安全と安心を適切に改善するためのOSH対策に焦点をあてることにつながる、OHSに関する徹底的な議論を可能にする。鍵となるのは、予防、職場における安全衛生対策の開発・実施への労働者とその代表の参加である。働く女性に影響を与える安全衛生ハザーズ・リスクは見落とされ、認知されないできたが、ジェンダーに考慮したやり方ですべてのハザーズに対処することには、トランスジェンダーの男性とトランスジェンダーの女性、他のジェンダーアイデンティティーをもつ人々が含められる。
「…ジェンダー配慮とは、男女の疾病・傷害の比率を比較することにとどまらない。それは、男性・女性労働者に関する情報の質を改善するために、お決まりの進め方で変更を課す職場の現実の再検討である。」
付録1:女性労働者のための職場ハザーズのマッピング
なぜマッピングを使うのか?
労働者が労働における安全衛生ハザーズを確認するのを助けるために、世界中の労働組合がマッピング・テクニックを使っている。この集団的アプローチは、自らの懸念について声を上げるのを怖がっている個々の労働者を守るのにも役立つ。
マッピング・テクニックは、職場の安全衛生問題を実証するのに、労働者が自らの経験を利用する方法を提供する。この現実的かつ集団的なアプローチは、問題点を確認して注意を喚起するのに役立つだけでなく、キャンペーンを採用または組織するための鍵でもある。
このテクニックは、それによって労働者が集まり、自らの知識と経験を分析する参加型の手法である。得られた情報をもとに労働者と労働組合は、職場のハザーズを根絶または低減するとともに、現場の安全衛生を改善するための戦略を確立することができる。
マッピングはまた、彼らが何年も前に労働でしたこと(例えばアスベストや化学物質への曝露)によって、いかに労働者が影響を受けているかを示すためにも使うことができる。
マッピングの方法
どんな問題を労働者がかかえているかをマッピング(ボディ・マッピング)することからはじめ、それから原因を検討する(ハザード/職場マッピング)。これは、すべての組合員を参加させる方法である。休憩時間中に行われることも多く、人々がいったんそれをしはじめたら、彼らが一人ではないことを実感することから、それがエンパワーメントするものであると気づくこともしばしばある。
ボディ・マッピング
ボディ・マッピングは参加型であり-楽しい。労働者が異なる言語を話したり、読むのが得意でなくても効果的に使うことができ、また複雑な状況を理解する素早い方法である。マップは、年齢、年功、職務や性別に労働者の異なる経験を示すことができる。
ボディマップは、症状やハザーズの長期的影響のパターンを示すことができ、職場マップは、個々人がもっていない全体像を与えてくれる。新しい視点で職場を見るために、両方の種類のマップを合わせて使うことができる。
最初のステップは、共通の諸問題をみつけることであり-それから、症状の背後にあるハザーズをみつけるための探偵作業をはじめる。
実行する手順
- 大きな紙に身体の前向き及び後ろ向きのアウトラインを書く。
- 質問の内容を決める。うずきや痛みを調べようとしているのか?労働者がいまかかえているすべての症状か?がんや慢性の痛み、ストレスなどの長期的影響か?性、年齢、職務または年功別の影響をみたいのか?
- 参加者を数グループに分ける。例えば、年齢別情報がほしければ、年齢区分に基づいてグループに分ける。ン)。
各グループに、彼らの症状をマークするために、異なる色のペンまたは鉛筆、シールを配る。例えば、赤=うずきや痛み、緑=ストレスを感じる場所、青=労働関連かもしれない他の症状、とする。全体像を得るために、大きなボディマップ上に彼らのマークを配置してもらう。左下のマップは移住家事労働者によってつくられたもので、実際に違う色を使っている。決めるのはあなた次第である。身体の前面と背面の両方をチェックするのを忘れないように。
手法が明確かつ一貫している限り、情報を記録するために好きな手法を使うことができる。
右下の事例は、労働者が健康上の懸念を懸念を記録するのに色の違うスターバーストカードを使ったものである。
ハザード/職場マッピング
ボディマップ上に現われた症状の背後にあるハザーズを確認するために、マッピングを活用することもできる。何らかの種類のマップをつくる前に、労働者のグループに以下のことを議論してもらう。
- 作業がどのように編成されているか(例えば労働者数、シフト、労働時間と休憩)?
- 作業プロセスはどのようなものか(どのように作業がなされるか、タスク、使われる機械や道具)?
- ハザーズはどのようなものか(以下のカテゴリーを使用)?
- 議論のなかでどのような不満や症状が現われたか?
- ハザーズを予防または低減するためにどのような措置がとられているか?
- 他にできること、なすべきことはあるか?
労働者のグループはそれから、職場または作業領域のレイアウトを書く。ドア、窓、事務室、洗面所、机、機械や設備を含めることをお忘れなく。マップが大きいほど、より詳しい情報をもつことができる。乱雑になりすぎないように、マップ上に聴き取った情報を書き込んでみよう。
別掲の図は、この手法を解説したもので、このファクトシートはダウンロードすることができる。
ハザーズは6つのカテゴリーに 分類できることが多い:
- 安全性(負傷の直接的な原因)
- 物理的(放射線、温度、騒音などのエネルギー源)
- 化学的(粉じん、液体、ガス)
- 生物学的または感染性(感染、針刺し、粉)
- 人間工学的(地から、反復、姿勢、コントロールパネルの設計)
- 作業編成/心理社会的リスク(長いまたは不規則な作業工程、仕事に関する議論なし、作業負荷、ワーク/ライフ・バランス)
ハザードの各カテゴリーを示す別の大きな色の違う円または形状を書く。個々の人が働く場所を示すために付箋シールや他のフォーマットを使って、そのハザードに曝露しているかもしれない労働者の数を円のなかにマークすることもできる。
ハザーズ・マガジン誌は、この手法を解説したいくつかのファクトシートを作成している。そのウエブサイト上の情報源へのリンクを付けて以下にリストしている。
マップの使用
何らかのマップをつくった後の最初の質問は「何が見えますか?」である。パターンやそれらのパターンと合わないことを探す。
職場の全体像を得るために作業領域別のマップをまとめる。時間とともに、新しい情報または変化のチェックを記録するためにそれらに戻る。
視覚的情報を収集するための他の手法
伝統的なアンケート調査に加えて、IUF加盟組織はボディマップ調査も活用しており、それは、労働者に一か所に集まってもらうことができない場合にきわめて有用である。
別掲図は、ホテルの客室係のためのひとつの例である。
労働者は、作業が痛みを生じさせる身体の部位とその深刻度を指摘するためにボックスにマークするよう求められる。その後、結果が照合及び分析される。筋骨格系障害に関する情報の照合とその後の分析に、この手法は他の業種でうまく活用されてきた。安全衛生の注意喚起はもちろん、この手法は労働組合にとって、よい組合員勧誘ツールであることが証明されている。
別の事例では、労働監督によって開発されたボディマッピング調査ツールが、ある加盟組織によって、筋骨格系障害が懸念される鉄道ケータリング労働者が携帯電話上で使えるようにうまくよくコンバートされた。結果は即座に示され、その後組合員は、改善の交渉に役立てるために結果を素早く使用者と共有できる。
他の視覚的情報:がんとそれらの作業原因
ITUC[国際労働組合総連合]とハザーズ・マガジン誌は、2019年の国際ワーカーズ・メモリアルデーに向けて、労働におけるがんハザーズの「一目でわかる」ガイドを作成した。DIY[自らやる]調査を支援するためにこれを活用することができる。
職場マッピングとDIY調査の情報源
自分の所属する労働組合
あなたの労働組合のウエブサイトをチェックし、DIY安全衛生調査についてのリソースを情報源をつくっていないか尋ねてみる。
国際労働機関
はだし調査[Barefoot Research]-作業安全を組織するための労働者向けマニュアル。自由にダウンロードできるこの本は労働組合活動家によって書かれ、様々なDIY調査手法を紹介している。https://www.ilo.org/public/english/protection/ses/info/publ/2barefoot.htm
世界保健機関
労働者の健康保護シリーズNo.11-女性及び男性のための健康的で公平な職場の構築:使用者及び労働者代表のための情報源。https://www.who.int/occupational_health/publications/Protecting_Workers_Health_Series_No_11/en/
ハザーズ・マガジン情報源 www.hazards.org
ハザーズ探偵:危害を生じさせる場所を見つけ出すオンライン対話型ツール
http://www.hazards.org/detective/index.htm
ハザーズ・ファクトシート集
証拠の身体:ボディ・マッピング http://www.hazards.org/diyresearch/bodymapping.pdf
労働ハザーズをマッピングする
http://www.hazards.org/diyresearch/riskmapping.pdf
あなたの世界をマップ-職場問題がいかにあなたなの生活全体に影響を及ぼしているか調べてみよう
http://www.hazards.org/workedover/index.htm
マッピングをしよう http://www.hazards.org/diyresearch/getmapping.htm
がんとそれらの作業原因(ITUC/ハザーズ・マガジン)
https://www.ituc-csi.org/IMG/pdf/cancer-work-causes_en.pdf
ファクトシートはA3サイズに印刷するのが、より読みやすくできるベストである。
新たな眼で職場を見ようマニュアル(カナダ)
https://www.mgeu.ca/news-and-multimedia/news/read,article/95/seeing-the-workplace-with-new-eyes#sthash.73iJDQAQ.dpbs
労働組合会議(ロンドン)
安全衛生と組織化-労働組合代表のためのガイド
この情報源のために採用されたマッピングに関する紹介が第4章にある。 https://www.tuc.org.uk/research-analysis/reports/health-and-safety-and-organising-guide-reps
女性とジェンダー安全衛生:厳選された情報と情報源
ジェンダーに配慮したOSHプラクティスのための10のキーポイント-労働安全衛生におけるジェンダーのメインストリーム化のためのガイドライン http://www.ilo.org/safework/info/publications/WCMS_324653/lang–en/index.htm
ILO母性保護情報源
https://www.ituc-csi.org/ilo-information-resources
ILO農業における安全衛生に関する実施基準はセクシャルハラスメント方針の事例と労働監督官にその規制活動のなかでジェンダーをメインストリーム化するよう奨励する文章を含んでいる。
https://www.ilo.org/global/publications/books/WCMS_159457/lang–en/index.htm
欧州労働安全衛生機関
欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)は、女性の安全衛生及びジェンダーのメインストリーム化に関する2つの主要報告書及び他の情報源を含め、労働安全衛生におけるジェンダー、女性及び多様性(高齢の女性を含め)に関する多くの作業を行っている。例えば:
https://osha.europa.eu/en/themes/women-and-health-work
ファクトシート 42-労働安全衛生におけるジェンダー問題 http://osha.europa.eu/en/publications/factsheets/42
ファクトシート 43-リスクアセスメントにおけるジェンダー問題を含む http://osha.europa.eu/en/publications/factsheets/43
国際TUC
国際ワーカーズメモリアリルデー情報源 2019年版-有害物質にNO https://www.ituc-csi.org/IMG/pdf/chemical_reaction_en.pdf
がんとそれらの作業原因
ボディ・インフォグラフィック https://www.ituc-csi.org/IMG/pdf/cancer-work-causes_en.pdf
労働組合会議(ロンドン)
労働安全衛生におけるジェンダーとチェックリスト https://www.tuc.org.uk/resource/gender-occupational-safety-and-health
個人保護機器と女性
https://www.tuc.org.uk/research-analysis/reports/personal-protective-equipment-and-women
閉経期を通じた働く女性の支援
https://www.tuc.org.uk/sites/default/files/TUC_menopause_0.pdf
妊娠、授乳と安全衛生
https://www.tuc.org.uk/resource/pregnancy-breastfeeding-and-health-and-safety
ハザーズ・マガジンとウエブサイト www.hazards.org
女性の安全衛生に関する情報源には以下が含まれる。
より多くのことを期待-妊娠と安全衛生(2019年) http://www.hazards.org/images/h146expectingmore.jpg
女性と作業ハザーズ-及び女性は素晴らしい安全代表をつくる www.hazards.org/women/
女性の労働-チェックしよう!
www.hazards.org/haz101/h101centre.pdf
閉経
www.hazards.org/haz82/menopause.pdf
欧州労働組合研究所
2015年欧州労働組合研究所会議「女性の労働衛生」-報告、発表及びいくつかのビデオへのリンク https://www.etui.org/Events/Women-s-health-and-work.-Sharing-knowledge-and-experiences-to-enhance-women-s-working-conditions-and-gender-equality
2018年欧州労働組合研究所会議「女性、労働及びがん」 https://www.etui.org/Events/Conference-Women-Work-and-Cancer
最近発表された調査研究の例
農薬その他の化学物質への女性の曝露に関する調査研究の不足 https://www.degruyter.com/downloadpdf/j/reveh.2018.33.issue-4/reveh-2018-0018/reveh-2018-0018.pdf
夜間労働と乳がん https://nouvelles.umontreal.ca/en/article/2018/09/13/working-at-night-is-associated-with-a-greater-risk-ofbreast-cancer-in-women/
書籍
カレン・メッシング『痛みと偏見:科学は労働する人々から労働について何を学べるか』(2014年、トロント)
キャロライン・クリアド・ペレス『見えない女性:男性のために設計された世界におけるデータバイアスの暴露』(2019年、ロンドン)。これは広範な文献目録を含んでいる。
職場のハザーズをマッピングする
リスク・マッピングは、職場、地域社会や国レベルで職業・環境汚染リスクを評価するために、アメリカ、メキシコ、カナダ、ブラジル、イタリア等の労働組合、環境団体、その他の組織によって活用されている。
リスク・マップは「専門家」による評価を回避していることで、他のアプローチとは違っている。労働者が、自ら働いている場所、自ら作業していること、そして、仕事をしているときに生じるかもしれない何らかの物理的、化学的、生物学的、または「心理社会的」諸問題を検討する。
カリフォルニア大学労働安全衛生プログラム(LOHP)が作成したアメリカのリスク・マッピングの手引きは、「労働者の知識を利用し、彼らがなす重要な貢献を認めることによって」、このテクニックは、労働衛生専門家による管理を取り払うものであると言っている。リスク・マップは、毎日の仕事上の実体験からつくられる。
それはまた結果が、何が「容認できる」リスクまたは「重要な」問題であるかについての他の誰かの認識ではなく、労働者の本物の関心と症状に基づいたものであることを意味している。
公的な化学物質基準の場合についてLOHPは、「それらの基準設定にあたって労働者の症状は無視されるかもしれず、また他の化学的・物理的状況との相互作用が適切に扱われない」と言っている。
はじめに
基本的なアプローチは、マップを描くこと-職場のラフなスケッチから青写真までの何かであるかもしれない-であり、また、マップされた場所の労働者グループの助けを借りて、ハザーズが確認された場所、仕事がストレスや緊張を引き起こす場所、することが多すぎたり少なすぎたりする場所…を浮き彫りにすることである。マップは小さすぎないようにすること-ふつう書き込むべきことがたくさんある。
リスク・マップは、きわめて非公式に行うことができる。これは、労働者に自信がなかったり、読み書きや言語に困難がある場合に有用である。しかし、努力が多ければ多いほど、マップはより多くのことを明らかにする可能性がある。LOHPによれば、より徹底的なアプローチには7つの主要ステップが含まれる。
ステップ① リスク・マッピング計画委員会を設置する。これには労組安全代表や職場委員が含まれるべきであるが、様々な職務からの現場の労働者の関与も追求すべきである。
ステップ② 職場安全衛生アンケート用紙を選択または作成する。ほとんどの労働組合は提供可能なサンプルをもっている。対象となる現場に雇われている労働者が相対的に少なければ、アンケート用紙は必要ないかもしれない-彼らは自らの懸念を直接伝えることができる。
ステップ③ 適切な場合には、対象職場または作業領域の労働者、同じハザーズに直面しがちな者全員にアンケート用紙を配布する。すべての労働者に影響を与えているあらゆる問題-異なるシフト・パターンの労働者、メンテナンスや納入のような非定常作業、期限に間に合わせるための作業ペースの変化等々-がカバーされるようにする。
ステップ④ アンケート結果をリスク・マップに移行する。移転されなかった回答があれば、労働者を集めて彼らが直接マップ上に問題を書き込めるようにする。
ステップ⑤ マップされた場所の労働者を集めて、リスク・マップを見直し、またマップ上に追加する。
ステップ⑥ 全労働者と一緒に完成したリスク・マップを見直す。
ステップ⑦ 状況を改善するための行動をとり、改善がなされた場所を示すようにリスク・マップを改訂する。
ハザードの種類
例えばカラーやシンボルを使って、ハザーズをコード化すれば、明らかな絵が浮かび上がる。
◆赤:物理的ハザーズ
騒音、暑熱/寒冷、漏洩、滑りやすい床、防護のない機器、放射線、事故。
●青;化学的ハザーズ
粉じん、蒸気、ヒューム、ガス、ミスト。
■茶:人間工学的ハザーズ
速い速度、反復作業、身体ストレスや身体に圧力のかかる作業、長時間不自然な姿勢を要するまたは身体の一部を同じ位置に維持する作業、局所または全身振動への曝露、まずい設計の作業手順。
▲黄:感染症ハザーズ
ウイルス、血液由来疾病、体液、カビ、細菌。
★紫:ストレッサー
不十分なトレーニング、強制残業、スピードアップ、単調、機械のペースに合わせた作業、出来高払い、ハラスメント、差別、暴力の恐れ。
ギャップを埋める
リスクについて知っていること、なされている対策について、リスク・マップに書き加える。
統計:ひとつの職務またはプロセスが多数の苦情や補償請求、傷病休暇と関係しているか?
報告:経営側のリスクアセスメントや健康調査、技術報告で何らかの問題の存在または可能性が確認されているか?
調査:確認された問題領域について労働組合が調査を固なったことがあるか?
協議:経営側は労働者にどのような問題を知らせてきたか?
情報:製品のラベルやデータシート、警告表示はなんらかの手がかりを与えているか?
いったん完成したら、リスク・マップは、以下の詳細を含んでいるべきである。
- 職場で行われている主要な職務
- 主要なハザーズとその重大性
- 曝露している及び/または影響を受けている労働者の数
- 職業ハザーズの発生源
- 労働者の経験と他の情報源からの情報に基づいたハザーズが引き起こし得る健康影響
- 曝露と健康影響の可能性を低減するための可能な対策
結論を導き出す
すべての職場の問題領域の絵が浮かび上がったらただちに、リスク管理に対する一目でわかるガイドで(リスクを)最小化するための「合理的に実行可能」なあらゆることを行うべきである。リスク・マップは労働者に、マップが確認したハザーズを是正するための経営側の対策を追跡できるようにする。
リスク・マッピングは実際に機能している。アメリカでは、土地利用計画や有害物使用量削減目標の設定を含む公共政策に影響を及ぼすため、また、「有害物監視[toxics watch]」調査計画を開始するためにリスク・マップが使われてきた。
リスク・マッピングは別の価値ももっており-しばしば予想外の結果ももたらす。労働者は自らの腰痛や手首の痛み、肌の水ぶくれを個人的な不幸と考えているかもしれない。特定のプロセスや物質に関わる作業をしている全員が同様の問題をかかえていることを発見したとき、彼らは問題は運の悪さではなく、悪い状況であることを知るのである。
がんとその作業要因
鼻腔/副鼻腔及び鼻咽頭がん:
クロム;ニッケル;ベンゼン、反応性化学物質及びホルムアルデヒドについていくつかの証拠;金属加工液;木材粉じんを含む天然繊維;電離放射線。履物製造作業と関連。
喉頭がん:
金属加工液及び金属油;アスベストを含む天然繊維;木材粉じん曝露についていくつかの証拠;硫酸を含む反応性化学物質への曝露。ゴム労働者、ニッケル精製、及び「強酸」処理を用いる化学品製造における過剰。
中皮腫:
アスベスト;エリオナイト。
肺がん:
ヒ素;ベリリウム;カドミウム;クロム;ニッケル;溶剤、とりわけ芳香族(ベンゼン及びトルエン);電離放射線、ウラニウム崩壊によるラドンへのラドン曝露、ヘマタイト[赤鉄鉱]及び他の金属鉱石鉱夫を含む;;反応性化学物質、BCME、CCME、マスタードガス、溶接ヒュームを含む、及び硫酸についていくつかの証拠;環境たばこ煙;石油化学製品及び燃焼生成物;PAHs及びでぃぜる排気ガスを含む;農薬に対していくつかの一貫性のない証拠;DDTを含む;アスベスト;シリカ;木材粉じん;いくつかの人造繊維、セラミック繊維を含む。ゴム産業、塗装工としての作業を含む特定の業種においていくつかの証拠が過剰を支持。
膵臓がん:
アクリルアミド;金属加工液及び金属油。カドミウム、ニッケル、溶剤曝露、反応性化学物質、おそらくホルムアルデヒドについていくつかの証拠。DDT及びDDT誘導体についていくつかの証拠。
肝臓及び胆管がん:
電離放射線;塩化ビニルと肝臓の血管肉腫;PCBs。ヒ素、塩素系溶剤及び反応性化学物質についていくつかの証拠。
膀胱がん:
ヒ素;溶剤、とりわけテトラクロロエチレン;芳香族アミン;石油化学製品及び燃焼生成物、多環式芳香族炭化水素を含む;ディーゼル排気ガス;金属加工液及び金属油;電離放射線;ゴム産業における作業;塗装工としての作業。
尿管:
消防士としての作業。
精巣がん:
内分泌かく乱物質(例えば、フタル酸エステル;PCBs及びポリハロゲン化炭化水素)について証拠。ある文献レビューは農業で働く男性、日焼けサロン及び機械工業におけるリスクの上昇、及び塗装、鉱業、プラスティック、金属加工及び携帯レーダーの職業使用との首尾一貫した関係を見出している。
前立腺がん:
カドミウム、ヒ素及びいくつかの農薬、とりわけ除草剤及び他の内分泌かく乱物質と関連。金属粉じん及び金属加工液、PAHs及び液体燃料燃焼生成物への曝露、農夫及び農薬散布者について過剰リスクがみられている。
白血病:
有機溶剤、とりわけベンゼン、小児白血病と芳香族及び塩素系溶剤について非常に強力な証拠、塗料及び顔料;反応性化学物質;電離放射線;非電離放射について矛盾する証拠;農薬、二硫化炭素、ホスフィン、スチレン及び臭化メチルを含む、及びDDTについて限定的証拠。石油化学産業及びエトレンオキシドに曝露する者におけるリスク上昇のいくつかの証拠。
軟部組織の肉腫:
塩化ビニルモノマー(肝臓の血管肉腫);農薬。農薬に曝露する労働者におけるユーイング肉腫。
脳及び他のCNS(中枢神経系)腫瘍:
鉛;ヒ素;水銀;溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン及び塩化メチレンを含む;農薬;n-ニトロ化合物、ゴム産業での作業。
食道がん:
溶剤曝露、とりわけテトラクロロエチレンについて示唆的証拠。金属加工液;アスベスト;ゴム産業での作業。
甲状腺がん:
電離放射線。
乳がん:
電離放射線;内分泌かく乱物質;環境たばこ煙;PCBs;農薬、DDT/DDE、ヘキサクロロベンゼン、リンデン、ヘプタクロル分解産物及びトリアジン系除草剤を含む;PAHs及びダイオキシンを含む燃焼副産物;エチレンオキシドを含む反応性化学物質;非電離放射線、フタル酸エステルと関係する可能性。及び長期深夜作業。
胃がん:
電離放射線;金属加工液及び金属加工液;アスベスト。溶剤及び農薬についていくつかの証拠。ゴム、石炭、鉄鋼、鉛、亜鉛及び鉱業の労働者に過剰リスクが見出されている。
腎臓がん:
生存率が高いために証拠は中途半端であるが、ヒ素、カドミウム及び鉛といくらかの関係;溶剤曝露、とりわけトリクロロエチレン;石油製品;溶接ヒューム;小児ウィルムス腫瘍、及び機械工または溶接工として雇用された父親の子と関係する農薬。
結腸/結腸直腸がん:
溶剤キシレン。トルエン及び電離放射線について限定的証拠。
卵巣がん:
アスベスト。農薬及び電離放射線について限定的証拠。ヘアドレッサー及び美容師における過剰について限定的証拠。
陰茎がん:
消防士としての作業。
子宮頸がん:
溶剤、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンを含む、との関係について限定的証拠。消防士としての作業。
直腸がん:
金属加工液及び区物油。溶剤、トルエン及びキシレンを含むについていくつかの証拠。
皮膚がん:
紫外線及び太陽光曝露;金属加工液及び金属油;溶接工における眼の黒色腫;ヒ素、クレオソート、PAHs、コールタール及び電離者放射線による非黒色腫皮膚がん。
骨肉腫:
電離放射線。
ホジキン病:
溶剤、トリクロロエチレン、ドライクリーニング溶剤及びベンゼンについてはいくつかの証拠;農薬;木工作業。
多発性骨髄腫:
溶剤、農薬及び染料製品との関係についていくつかの証拠;ベンゼン及び電離放射線について強力な証拠。
非ホジキンリンパ腫:
有機溶剤、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン及びスチレンを含む;農薬、グリサホートを含む及びフェノキシ系除草剤、クロロフェノール、有機リン殺虫剤、二硫化炭素、ホスフィン、臭化メチル、二臭化エチレン及び2-4-Dとの関係が疑われている。DDT及び他の有機塩素系農薬について限定的証拠。PCBs、ダイオキシン及びおそらく染料製品についていくつかの証拠。
消防士としての仕事、製造労働者-とりわけ化学物質を扱う者、建設労働者、鉱夫、農薬に曝露する農業労働者及び受動喫煙に曝露する労働者はとりわけ一定のがんの高いリスクにさらされる職業であるが、清掃からケータリングや看護まで、事実上すべての職業において少なくともいくつかの職業がんリスクが存在している。
付録2:労働安全衛生に関するジェンダー・チェックリスト
このチェックリストは、ジェンダーに関連した特定の諸問題の包括的なリストを意図したものではなく、職場の関連する諸問題がジェンダーに配慮したやり方で確認・対処されているのを確保するために労働組合安全衛生代表が考えるべきことのいくつかの提案である。
第1部-使用者と共働する
協議
- [労使]合同安全委員会または他の協議制度があるか、また、それはパートタイム、請負及び臨時労働者を対象としているか?
- 合同安全委員会または他の協議制度で、女性に対する安全衛生問題及び懸念の優先事項が定期的に議論されているか、また、問題が確認された場合に取り上げられているか?
リスクマネジメント
- 使用者によってリスクアセスメントが実行・実施されているか?
- リスクアセスメントは性・ジェンダーの違いを考慮に入れているか?
- リスクアセスメント及びリスクマネジメントに関わるすべての者が、男性及び女性の労働安全衛生に影響を及ぼす性・ジェンダーの違いを理解しているよう訓練されているか?
- 女性が家庭において化学物質に曝露するより高い可能性を含め、健康に有害な物質に関係したリスクアセスメントにおいて性・ジェンダーの違いが考慮に入れられているか?
- 手作業(マニュアル・ハンドリング)のリスクアセスメント及び長時間の立位及び座位を含め姿勢の問題のアセスメントにおいて性・ジェンダーの違いが考慮に入れられているか?
- すべての関係する種類の作業機器・ワークステーションの使用についてジェンダーの違いが考慮に入れられているか?
- 職場における職員のユニフォーム、公式の作業服または個人保護機器(PPE)を扱う場合に性及びジェンダーの違いが考慮に入れられているか?
- 妊娠中の者、新しい及び授乳中の母親(及びまだ生まれていないまたは授乳中の子供)に関係したリスクアセスメントが適切かつよい時期に実施されているか?
- 使用者は授乳中の母親のために搾乳する適切なプライベートスペースを提供しているか、また、ミルクを保管するための安全かつ衛生的なスペースを提供しているか?
- 受胎、(女性用衛生用品廃棄施設の提供を含め)月経、閉経、乳がんまたは子宮摘出に関係した労働関連問題など、女性及び男性の特別なリプロダクティブヘルス上の何らかの懸念が適切かつ繊細に対処されているか?
- 現場でまたは離れて一人で働くこと、もしくは夜遅くに働くこと、及び安全な駐車または通勤へのアクセスについての懸念を含め、暴力のリスクが評価されているか?
- (セクシャルハラスメントを含め)ハラスメント・いじめが安全衛生問題として扱われているか?
- 家族、医療など、労働の外部から従業員の生活要求に適合するために、労働時間、残業時間及び交替労働などについての柔軟性を使用者が許しているか?
- 使用者はストレスを職場問題として、また、それが異なる人々に異なるやり方で影響を与えるかもしれないということを理解しているか?
- 使用者は家庭内暴力が職場の問題になり得ることを理解しているか、また、この問題を同情的かつ現実的に対処される必要性のある安全衛生・福祉問題として扱っているか?
病気休業管理及び調査
- 使用者は病気休業管理方針または労働組合と交渉した職場協約をもっているか?
- 方針は実際に公正に適用されているか、また、病気休業を減らすためだけに使われずに、何らかの原因となっている問題に適切に対処し、適切な復職を伴う回復を援助するために使われているか?
- 病気休業管理方針または職場協約は公正かつ無差別なものか、また他の病気休業とは区別して取り扱うことによって、月経、妊娠、流産、障害または閉経を理由に女性が不利な立場に置かれないようにしているか?
- 方針または慣行は、必要な場合にはリスクアセスメントの見直しを含めて、何らかの労働関連健康問題が適切に調査されるようにしているか?
- 安全衛生代表はジェンダー別内訳を含め、病気休業に関して経営陣から提起報告を得ているか?
報告及び監視手続
- 使用者は、従業員が報告することで不利益を被ることはないと感じる環境において、傷害、事象、労働関連疾病及び健康問題を報告することの重要性をわかっているよう確保しているか?
- すべての傷害、(ニアミスを含め)事象及び労働関連健康問題が報告されているか?
- 傷害及び疾病に関するデータはジェンダーを含んでいるか、また女男間だけでなく、異なる職務及び職務レベル、もしくは異なるシフト・パターン間を分類しているか?
- 傷害及びニアミスにおける傾向はもちろん、疾病及び病気休業統計における傾向についても分析されているか?
- すべての傷害及び疾病統計は合同安全衛生委員会の会議で系統的にレビューされているか?
- 会議の議論で何らかの懸念事項がみつかった場合、健康上の懸念は安全上の懸念と同じ優先度が与えられているか?
第2部-組合員の参加
あなたの使用者がすべての労働者の安全衛生及び福祉を保護しているよう確保することに加えて、安全衛生代表は、組合員が彼らの懸念が取り上げられ、また、対処されるよう確保するために、いかに彼らを参加させ、また知らせているかをチェックすることができる。
いくつかのアイデア:
- 組合員に尋ねる。あなたは組合員の安全衛生上懸念について秘密の調査を行うことができるが、回答を分析する際には男女間の回答を区別するようにしなければならない。
- あなたがどのように組合員とコミュニケートしているかを見直す。交替労働者、パートタイム及び臨時労働者を含め、すべての部署の労働者が安全衛生代表へのアクセスをもっているか。彼ら全員が自らの安全衛生上の懸念について協議を受けているか?
- 十分な女性の安全衛生代表がいるよう確保する。女性の代表がいて、彼らがいずれかの合同安全委員会に加わっていれば、女性が自分たちの問題が対処されているという信頼が高まるかもしれない。
- 問題について話をする。支部会議または職場会議に女性組合員の現実的な関心事が含めるようにするか、または、女性労働者が直面している問題についての特別な会議をもつ。
- 他の者と協力する。あなたが定期的に支部会議を報告しているよう確保すべきである。また、スチュワード[労働組合職場代表]、平等女性及び教育代表など他の代表と協力することも重要である。職場に複数の労働組合がある場合には協力し合うことが全員にとって利益である。また、成功事例がある場合には、あなたの労働組合及びあなたの組合員がそれを知っているようにすべきである。
出典 https://osha.europa.eu/en/oshnews/making-women-visible-occupational-health-and-safety
安全センター情報2020年8月号